呪術の子 作:メインクーン
ルビー&あかね「五条悟……最低な男だ」
五条「酷いなぁ、泣いちゃうよ?」
クリス「いやいや、五条先生は優しいよ?」
五条悟が実の妹を地獄の様な業界に引き入れた事実を知り、ルビーが激昂して殴りかかった後。
何やかんやあって、ルビーが定期的に呪術高専に来ると言い放った。クリスの身が心配だからという理由で。
そんなルビーの姉らしい一面を見たクリスは、どこか嬉しそうな顔をしていた。
こうしてようやく話が落ち着いた後の事。
「じゃあ2人にはこれ渡しておくから、絶対に無くさないでね」
「ありがとうクリスちゃん」
「これは……御守り?」
クリスがポケットから取り出し2人に渡した物は小さな御守りだった。
以前、片寄ゆらにも作って渡した呪霊除けの特性御守りを、2人のために新たに作っていた。
「そう、僕の呪力を込めた呪符が入ってる御守り。これを持っていれば1級以下の呪霊は近寄れないから重宝してね。後はこれもあげる」
呪霊除けとは別で作ったもう1つの御守りもそれぞれに渡す。
「こっちの御守りは?」
「こっちは僕の呪力と術式が刻まれた呪符を入れてる。何か不測の事態があった時、即座に呪術高専まで避難できる優れ物。
色々な縛りを課して術式の持続効果を底上げしてるんだ。もって1年程度だから時期が来たら交換する事。2つとも所持する事を推奨するよ」
もう1つの御守りは言わば緊急避難用アイテム。
1つ目の御守りで追い払えない存在──つまり特級呪霊に遭遇した場合、御守りが反応して瞬間移動で呪術高専に避難できる。
術式対象は所持者と所持者に触れている者全員であり、その利便性は数ある呪具の中でもトップクラスの性能を誇るだろう。
量産が無理なので作成数は限られるが。
「という事は、私達もヤバい時は瞬間移動で安全な場所に避難できるって事?」
「すっご、マジで漫画じゃん」
「だからこそ絶対に無くさないでね。今渡した御守り、売ったら多分5億円は下らないから」
「へっ? ご、5億円……?」
「……ッ!?」
中々聞かない飛び抜けた金額に、ルビーは目が点になった。心なしか御守りを持つ手は震えているように見える。
あかねも値段を聞いて静かに目を見開いて驚いており、恐る恐る鞄の中に仕舞った。
2人にはタダで与えているので、ここで値段の話はどうでもいいが。
「そういう事だから大切に扱ってね、2人とも」
「う、うん……すっごく大切にするよ」
「そうだね、無くすなんて以ての外だよこれ……」
再度クリスに圧を掛けられ、2人は声を震わせながら頷いた。
そんな彼女達の背後では、五条がクスクス笑って一連のやり取りを見届けている。
「いやー、2人の反応見てると新鮮な気分になるね。そういうリアクションしてくれる人ってあんまいないからさ。あはははー」
「「あんたは黙ってろクズ」」
「ひっど」
「当然の結果だろ。諦めな」
「五条先生すっかり嫌われちゃったねー」
一般市民2人にシンプルにクズ呼ばわりされ、家入とクリスにも笑って見過ごされる始末。
五条が可哀想に思えてくるが、やはり当然の結果と言わざるを得ないだろう。
「じゃあ時間も良いところだし今日は帰ろっか。とりあえず渋谷まで送るけど、どうする? この後皆で遊びに行くとか」
「うーん、私は映画の撮影が控えてて稽古したいから遠慮するよ」
「私も今夜動画撮影あるし、早く帰って準備を済ませたいかな」
現在の時刻は夕方。もうじき日が暮れる頃合い。
家に帰る前に遊びに誘うクリスだったが、2人とも予定があるためあっさり断られてしまう。
こうもはっきり断られると何も言えない。
「えー、ノリ悪いなぁ……でもしょうがないか。そこまで強制は出来ないし。だったら五条先生、2人を送った後でカラオケデートに行きましょう!」
「おっ、良いねそれ。よーし、なら朝までぶっ通しで歌おっか!」
「「なっ!?」」
しかし、クリスと五条のカラオケデートと聞いて、2人の態度が一変する。
必死の形相でクリスを止めに掛かった。
「クリス! こんな胡散臭い変態と朝までデートなんて、それだけはお姉ちゃん認めないから!」
「クリスちゃん、悪い事は言わないから止めた方が良いよ。一旦冷静になろ? 遊び相手なら私が一緒に居るから、ね?」
「でも姉さん達はこの後予定あるでしょ。それに僕が誰とデートに行こうが僕の勝手じゃんか」
「それはそれ、これはこれです!」
「えー……」
是が非でも2人きりになる状況を阻止しようと、ルビー達は躍起になる。
クリスにとって、五条は信頼も信用も尊敬もしている師匠であり恩人である。だが、家族にとってはたとえどれだけ長い付き合いだろうと、五条の素性を知った今ではどうしても心配だった。
実際、ルビー達の反応は常識的な価値観を持つ者としては至極当然の反応である。クリスもそこは理解していた。
それはそれとして面倒臭いとも思っているが。
「じゃあどうするの? 言っとくけどカラオケデートは決定事項だからね」
「ぐっ、これは何を言っても止まりそうにない……なら私もカラオケに参加する! クリス1人だけで行かせない!」
「えっ、大丈夫なの姉さん? さっき撮影があるから帰るって……」
何を言っても引き下がらない事を察したルビーは、急遽カラオケに参加すると言い出した。本日予定の撮影を休み、五条を監視するために。
「ルビーちゃんが行くなら私も行くよ。この男が変な事しないかしっかり見張っておかないと」
「あかねちゃんまで!? まぁ、カラオケは人数多い方が楽しいから別に良いけど、ちょっと心配性すぎない?」
「ううん、全然そんな事は無いと思うよ」
それに釣られてあかねも、2人が心配だからという理由で一緒に行く事を決意。こちらも五条の監視が目的である。
そんな3人のやり取りを間近で見ていた五条は楽しそうに笑う。
「うんうん、賑やかで良いね。それじゃあ皆でカラオケに行こうか。いやー、これも青春だね!」
青春の1ページとも言える彼女達の姿を、どこか懐かしそうな目で見つめる五条だった。
──それから数時間後。
「それでは次、五条悟歌いまーす! あ・な・たのアイドル~♪」
「「「サインはB~♪」」」
「クリスちゃんは良いとして、ルビーちゃんもいつの間にかノリノリになってる……」
本当に朝まで歌い続けた。
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それから数日後。
「いやー、今年もいよいよ終わりかー。長かったような短かったような……でも高専に入ってから色んな事があったなぁ」
「そうだね。クリスにも共に戦える友人が出来たし、何だかんだ充実した学校生活を送れてるようで安心したよ」
12月末、今年も残すところ数日となった今日、クリスは自宅ではなく高専にいた。
昨日まで自宅に戻って過ごしていたのだが、自宅でゴロゴロするのも飽きたためだった。
今は五条と一緒に高専内にあるこたつで寛ぎながら、今年の日々を振り返っている。
「あっ、そう言えばこの前恵にあげた誕プレどうなったんだろ? 喜んでくれたかな?」
「ああ、五条先生が用意したデスソース入り餃子なら『こんなもの人の誕生日に渡すな』ってキレてましたよ。津美紀ちゃんは『恵のために毎年ありがとう』って笑ってましたけどね」
「まったく、恵は分かってないね。ああいうのはノリで楽しむ物なのに」
「ですよねぇ」
人の誕生日にとんでもない物を渡しておきながら、呆れたように肩を竦める2人。
渡された当の本人が見たら更に怒りが爆発する事請け合いの反応だった。
「僕が冗談で言った『プレゼントは僕だよ!』にもブチ切れてましたし……あれだといつか力尽きちゃいますよ、恵君」
「うーん、それは深刻だ。よし、今度恵にはボケとツッコみの極意を伝授しようじゃないか」
「あっ、それ良いですね五条先生。僕もお供しますよ。恵君に手取り足取り教え込んでいきましょう」
火に油を注ぐような結果しか生まない2人の計画はどんどんエスカレートしていく。
仮に七海が近くにいれば2人の暴走も何とか止められていたが、それも無いため内容は碌でもない事のオンパレードだった。
──それから10分程度話し合った後、2人はこたつに包まって丸くなった。
そのタイミングで突如クリスの携帯から着信音が鳴った。電話の相手は片寄ゆらだった。
「あー、もしもしゆらちゃん? どうしたの?」
『もしもしクリスちゃん? あのね、すっごく急なんだけど、もし良かったら今度私ん家で飲み会しない? どう?』
「全然OKだよ! 飲み会やろやろ!」
定期的に連絡を取り合う仲となった友人からいきなり飲みに誘われた。
どう考えても未成年を飲み会に誘うのは駄目だが、共に朝まで酒を飲み交わした事がある以上、お互いにそこら辺のタガがすっかり外れていた。
「で、いつやるかは決めてるの?」
『明日の夜とかどうかなって思ってるけど、大丈夫かな?』
「分かった、明日ね。それじゃあ19時くらいにゆらちゃん家に行くよ。ついでに聞くけど他の人は来ないの?」
『他にはミキさんが来る予定だよ。飲みに誘ったら快く頷いてくれたんだー!』
「えっ、ミキさんも来てくれるの!? マジか、これは盛り上がってきたね!」
『でしょでしょ!』
いつかの時のように、片寄の自宅で3人だけの飲み会を開く事が決まった。
反応が面白いカミキヒカルも参加すると知って、クリスのテンションが急激に上がる。彼女はすっかりカミキの事を気に入っていた。
『じゃあまた明日ねー!』
「うん、またねゆらちゃん! ミキさんにもよろしく言っといてー!」
『はーい!』
飲み会の予定が決まり、通話が終わる。1カ月ぶりにカミキと片寄の3人で集まれるので、明日が待ち遠しいと思った。
そうして明日への期待が高まっているクリスに、五条が興味深そうに口を開いた。
「へぇ、明日飲み会か。良いね、楽しんでおいで」
「ええ、朝まで飲み明かそうと思います」
楽しんでおいでと言って送り出す五条に、クリスも笑顔で返事を返す。
「にしてもさっきの電話の相手って、もしかして片寄ゆら?」
「そうですよ。やっぱ分かります?」
「そりゃあね。だってこの前高専に来てたし」
片寄ゆらが高専で家入の看病を受けていた時、五条悟とも多少の面識があった。
それ故に五条もすぐに電話の相手が分かった。
「じゃあさ、もう1人の”ミキさん”も片寄ゆらと同じ芸能人? どんな人なの?」
「ミキさんは芸能事務所の社長ですよ。元役者らしくて、ゆらちゃん経由で知り合ったんです。リアクションが面白くて弄り甲斐があるんですよ」
「ふーん。ちなみにミキさんってあだ名?」
「そりゃそうですよ。本名は”カミキヒカル”って言うんですけどね」
「ああ、それで端折ってミキさん……ん? ちょっと待って。カミキヒカル……?」
嬉々としてカミキの事を語っていると、彼の本名を聞いた五条の様子が急変した。
その変化にクリスも一早く気付き、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんですか五条先生? ひょっとしてミキさんと面識あったりします?」
「いや、面識は無いけど、その名をどこかで聞いた事があるような…………あっ!」
まるでカミキの事を知っているかの様な口ぶり。
面識は無いとはっきり否定した五条だったが、しばらく考え込んだ末に声を張り上げた。
──そして、彼の口から発せられた情報にクリスは驚愕する事となる。
「思い出した。そいつさ、クリスの実の父親だよ。うん、DNA検査して確かめたから間違いないね」
「えっ……?」
その情報を聞いた瞬間、クリスの動きが止まった。
次の瞬間──、
「えぇええええええええーーっ!?」
クリスの絶叫が部屋中に響き渡る。
何の前触れもなく、唐突に知らされた衝撃の真実にクリスが動揺するのも無理はなかった。
そんな彼女の反応などお構いなく、五条は更にとんでもない爆弾を投下する。
「あっ、ついでに言うと星野アイを殺害した真犯人もカミキヒカルの可能性が最も高いよ。いや、星野アイの殺害を手引きしたと言った方が正確かな?」
「ふぁああああああああーーっ!?」
星野アイの殺害を手引きした真犯人。つまり、星野アイが殺されるようにストーカーを唆したという事を意味する。
もしそれが本当なら立派な殺人教唆である。
「……それ、本当なんですか?」
「まあね。僕ん家の情報網を使ってクリスの身元を調べた時に出た情報だから、確定では無いけどほぼ間違いないと思う」
「ええ……」
疑わしい目でじっと見つめるクリスだったが、それでも五条はあっけらかんとした様子で淡々と真実を告げる。
「一応聞きますけど、いつ頃に知ったんですか?」
「うーん、結構前だったかな? 少なくとも5年以上は前だったと思う」
「そんなに前!? 知ってたならどうして教えてくれなかったんですか!?」
「だって聞かれなかったもん。いつか絶対に聞くと思ってた」
「だと思いましたよ! 相変わらず適当ですね! 僕も人の事は言えませんけど!」
今まで教えてくれなかった理由を問い詰めると、聞かれなかったからという何とも適当な答えが返ってきた。
どうせそんな事だろうとクリスも思っていたため、これにはただ騒ぐだけで怒りの感情は無かった。
そして、こたつの上でがっくりと項垂れる。
「マジかぁ……ミキさんが僕の実の父親? しかもママを殺した真犯人? 嘘でしょ、これ明日どんな顔して会えば良いんですか……?」
「笑えば良いと思うよ」
「領域展延ッ!!」
「ぶはぁっ!?」
驚きの連続のあまり溜め息を吐くクリスに対して、あまりにも適当な五条の返答。
刹那、どこまでも適当な五条の顔面に、領域展延を纏ったクリスの拳が炸裂した。
五条家の情報網にかかれば父親の事もお見通しだけど、五条悟がちゃらんぽらんなのでクリスが知る機会は今までありませんでした。
アクア「俺の父親は既に死んでいた。これでやっと復讐を終えられる。これからはあかねにしっかりと向き合っていこう」