呪術の子 作:メインクーン
クリス「明日の夜、ゆらちゃんとミキさんの3人で飲み会だ!」
五条「カミキヒカルはクリスの実父だよ。ついでに星野アイの殺害を手引きした黒幕でもある」
クリス「ふぁああああああああーーっ!?」
突如、五条の口からカミキヒカルがクリスの実父兼星野アイ殺害の黒幕であると知らされた、次の日。
時刻は午後19時過ぎ。
「いらっしゃいクリスちゃん! 待ってたよー!」
「やっほーゆらちゃん、久しぶりだねー! あっ、ミキさんもどうもー!」
「ええ、またお会いできて嬉しいです」
飲み会の約束をしていたクリスは、予定通り片寄ゆらの自宅に招かれた。家に入ると片寄が笑顔で出迎え、その後ろにはカミキの姿もあった。
相も変わらず一番最後に遅れて来る自由奔放ぶりはここでも健在である。
「ちょうど料理もできたしお酒もたくさん用意したんだ。あっ、クリスちゃんがリクエストした生ビールもちゃんとあるよ」
「おっ、マジで? それはありがたいわ。サンキューゆらちゃん!」
そして、さも当然のようにアルコール飲料を飲む気満々で、片寄も未成年飲酒を止めようとする素振りが一切ない。
頭のおかしい呪術師達に毒され、片寄の常識はすっかり変化していた。悪い方向に。
そんな事情など露程も知らないカミキは苦笑いするしかなかった。
「あ、あはは……。何か平然と未成年飲酒しようとしてる事に不安しか感じませんが、僕は何も見なかった事にしておきますね……ええ、はい」
「またまたそんな事言っちゃってー。ミキさんも飲まないと損ですよ損!」
「それ、どう考えても未成年のクリスさんが言う台詞じゃないですね……」
酒を飲めと言ってくるクリスの圧に気圧され、カミキの頬には冷や汗が滲み出ていた。
若干顔が引き攣っているが、それでもクリスはお構いなしだった。
「……という訳で、3人揃った事だしパーッと朝まで飲みますか!」
「イエェェェェェーイッ!!」
「で、では僕も頂きますね……」
こうして1カ月ぶりとなる3人での飲み会がスタートした。
片寄とクリスが一緒にビールを豪快に呷り、カミキが2人の飲みっぷりに若干引きながらも少しずつ酒を口に含む。
それから数時間も経てば、頬を赤く染めた美人2人の誕生である。
「あー、大分飲んだねぇ」
「そうだねゆらちゃん、僕もいーっぱいビール飲んじゃったぁー」
「うへへー私もー」
テーブルの上には所狭しと空のビール缶が並んでおり、面積の半分を占めている。
2人はすっかり酒臭くなった状態で、肩を組んでゆらゆらと揺れていた。
「うみゃ~もう飲めないよ~」
「私も飲めないよゆらちゃん~」
「というか、段々眠たくなってきたかも……ちょっとベッドで横になるねぇ」
「はーい、お休みー」
酒を飲み過ぎてベロベロに酔っ払った片寄は、眠気を感じて自室へ向かう。
覚束ない足取りでふらふらと歩きながら、部屋のベッドに勢いよくダイブしていった。
「あっ、クリスちゃんも眠くなったら布団に転がって良いからねぇ。ちゃんと別室に布団敷いておいたからぁ。ミキさんの布団も勿論あるよぉ」
「うぃー、ありがとゆらちゃん」
「そうですか。ありがとうございますゆらさん」
最後の力を振り絞り、2人のために布団を既に用意している事を伝え、片寄は酔いの末に深い眠りについた。
すぅすぅと静かに寝息を立てて寝る彼女の姿はとても可愛らしく、それが「この人って女優なんだよね」とクリスを思わせた。
そうして2人きりになったリビング内では、クリスとカミキが隣同士になってちびちびと酒を飲んでいた。
「……クリスさんもベッドで横になった方が良いのでは? もうかなり酔いが回ってますし」
「大丈夫ですよぉ。僕はまだまだ平気ですからね。ミキさんの方こそ大丈夫なんですかぁ?」
「どう見てもヤバい気がしますが……僕は大して酔ってませんので心配は御無用ですよ」
残ったビール缶を片手に会話を続ける。
自室で爆睡している片寄を他所に、互いの肩と肩が密着し合うほどの至近距離で、2人だけの時間が静かに流れていく。
「あそうそうミキさん、ちょっと良いですか?」
「ん? 何ですかクリスさん?」
──そんな中、昨日五条から話を聞いたクリスは、何の前触れもなく単刀直入にカミキに尋ねた。
「そろそろ新年が近くなって来ましたけど、どうです? 年始めに星野アイの墓参りに行きません? せっかくだし
「ああ、それは良いですね。ここ最近墓参りには行ってませんでしたし、確かに親子で行くのも悪くはない……です……し」
クリスの提案に笑顔で返答するカミキの声が、徐々に小さくなっていく。
始めは何の気なしに答えていた。あまりにも唐突に、遠回しに、まるで日常会話の如く極自然に尋ねられたから。おまけに一定量のアルコールを摂取して判断力が鈍っていた影響もある。
だからこそ当然のように認め、答えた。答えてしまった。
この瞬間、カミキは事実を認めてしまった。認めてしまった後で、クリスに鎌を掛けられた事に気が付いたのだった。
もう手遅れだった。
「ふーん、やっぱりあの情報は本当だったみたいだね」
「クリスさん、一体何を……」
自白してしまった直後でも、カミキはしらばっくれようとお茶を濁す。
しかし、その前にクリスの方が一歩早かった。
「初めましてカミキヒカルさん。いや、この場合はこう呼んだ方が良いかな?」
逃がさないようにがっちりと腕を掴み、火照った顔で上目遣いにカミキを見る。
その瞳はまるで獲物を見つけた肉食獣。
「やっと会えたね、パパ」
「…………」
クリスは悪戯っ子のように笑みを深め、カミキに向かってパパと呼んだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
静かに時間が過ぎていく。
大量のビール缶が転がるテーブルの前で、2人の男女が身を寄せて見つめ合う。
クリスがパパと呼んでからどのくらい経っただろうか。シンと静まり返った空気を壊し、カミキが口を開く。
「……いつから知ってたんですか? 僕とアイとの関係、引いては僕が君達の父親である事を」
その声はとても落ち着いていた。
酔いは既に覚めており、いつもの柔和で甘い笑顔を浮かべるカミキがそこにいた。
だが、目は笑っていない。ほんの薄らと警戒の色が見える。
「そんなに警戒しないでください。僕もミキさんが父親って知ったのはつい最近の事です。ちょっと確認したくて鎌を掛けました。ごめんなさい」
そんなカミキに対してクリスもいつも通りの態度で接し、全く誠意の籠ってない謝罪を口にする。
カミキとは対称的に、こちらはあまり警戒している様子がなく、むしろ余裕があった。
「ふむ……どうやって知ったのかが気になりますが、まぁ良いでしょう。それより重要なのは……」
「あっ、それともう1つ。ミキさんが星野アイの殺害を手引きしたってのも知ってますよ」
「──ッ!?」
何かを言い掛けたカミキの言葉を遮り、クリスは昨晩五条から聞いた情報を開示する。
間髪入れずに追加で知らされた真実を聞かされ、カミキがこれ以上にない動揺を見せた。
その反応を見てクリスは確信する。
「へぇ、その反応……どうやら本当にママを殺した黒幕はミキさんで間違いなさそうですね」
「…………」
再び静かになったカミキを見つめ、クリスが詰め寄るように顔をグイっと近付ける。
「良いんですかあんな事して? 僕、ママが死んじゃってずーっと寂しかったんですよぉ?」
「……その割には、随分充実した日々を送ってる顔をしてますけどね。僕が言うのもあれですが、ぶっちゃけアイの死にそこまで引き摺られてないでしょう?」
「酷いなぁ、人の心とか無いんですか?」
カミキに発言に怒るどころかニヤリと笑みを浮かべ、挑発するように話しかけるクリス。
なお、先程のカミキの発言はクリス以外の人が聞けば速攻で刺し殺そうとするほど心無い発言である。
「まぁ確かに、ママの事は今でも慕ってますけど、ママの死に関してはそこまで重く捉えてませんね。そりゃあ12年も経てば、そんな事もあったなーくらいの認識になりますよ。僕はね」
クリスもアイが殺された直後は、母親を喪ったショックに打ちひしがれていた。そのため激情に駆られて犯人を追いかけ、結果犯人を記憶喪失に追い込んだ。
しかし、クリスの復讐はそこで終わった。その後五条悟と出会ったおかげで、彼女はアイを喪ってから僅か2時間程度で立ち直る事に成功した。
そんな彼女が真犯人を見つけたからとて、事件から12年以上も経った今、カミキに対して復讐に燃えるはずもなかった。
「でも、今でもママの死は大勢の人の心に深く刺さってる。仮にあなたが真犯人である事がバレれば、復讐しようとする者が必ず現れる」
それでもアイは伝説のアイドルだった。誰もが彼女に目を奪われていた。そんな彼女が殺された時、大勢の関係者やファンが悲しみに包まれた。
当然、中には犯人に復讐しようと躍起になっているもいる。クリスの知る範囲内でも、少なくとも1人は居る。
だからこそ、クリスははっきりと告げた。
「先に言っておきますね。もし今後ミキさんに復讐しようとする者が現れて、ミキさんが危険な目に遭ったとしても、僕は一切手を差し伸べません。自分で蒔いた種は自分で何とかしてください」
これがクリスの出した答え。
今更カミキに復讐する気はない。ただそれはそれとして、アイを死に至らしめた責任は自分でどうにかしろ。それだけは一切助けるつもりはない。
それを告げられたカミキは……、
「……ふふっ」
笑っていた。
口角が吊り上がり、目がカッと見開いて、不気味なほど笑みを深めている。
その両目はクリスのように黒い星の輝きを放っている。
「クリスさん、やはり君は面白い。他の人達とは一味も二味も違う。でも良かったんですか?」
母親殺しの犯人と知ってなお気軽に接するクリスのイカれた精神に、カミキはかつてのアイに通ずる何かを見出していた。
懐かしいものを見る目で、それでいて興奮を抑えきれない情熱的な表情で、アイにそっくりな彼女の身体をギュッと抱き締める。
「ゆらさんが熟睡中の今、この場には僕と君しか居ない。仮にここで何か
「ええ、そうですね。今僕を助けられる人は誰もいない。あなたにとっては、僕を煮るなり焼くなり出来る絶好のチャンスでしょう」
「「…………」」
全員が寝静まった真夜中、室内に若い2人組の男女が互いに身を寄せ合って見つめている。
クリスがか弱い女の子であれば、大人の男性であるカミキに対してどうする事もできない状況。
最悪の場合、星野家の兄妹が三つ子から双子になっていたかも知れない。もしくはクリス自身が母親になっていた可能性まである。
──緊張感の漂う空気の中、お互いに一切視線を逸らさず見つめ合うこと数十秒。
「……止めておきます、君に何かするのは」
「あれっ、本当に良いんですか? せっかくのチャンスなんですよ?」
「ええ、構いません。君みたいな人が何の対策もなく僕に近付くとは思えない。こうなる事は予想していたはず。違いますか?」
「…………」
カミキは特に何かをするわけでもなく、クリスの肩を掴んで引き離した。
意外そうに尋ねるクリスだったが、これまでの会話でカミキは既に察していた。この子に対しては下手に手を出さない方が良いと。
根拠はない。だがそう思えるだけの妙な確信があった。そしてその推測はクリスの沈黙が肯定した。
「僕に対する敵意が無い以上は放っておいても大丈夫でしょう。それにクリスさんとはこれからも会って話がしたい」
「奇遇ですね。僕もミキさんとは今後も飲みに行きたいなって思います。だってミキさん弄り甲斐があるし」
「ええ……まぁ良いですけど」
そして、カミキの秘密があっさりバレてしまったにもかかわらず、お互いに今までの関係を維持したいと思っていた。
それぞれ理由は異なれど、何だかんだ言って飲み会は楽しいという理由からだった。
クリスの発言にはカミキも呆れたような表情を見せたが、特に何か言う訳でもなく受け入れる。
「じゃあ話が一段落ついたところで、1つだけお願い事があります。良いですか?」
「内容にもよりますが……何でしょう?」
何事もなく話が落ち着いたところで、クリスは再びカミキに寄り添った。
いきなりお願い事と言われて身構えるカミキに対し、悪戯っ子のような笑みを浮かべ、そっと両手を差し出す。
「16年分のお年玉ちょーだい、パパ」
「……えっ?」
その後、しっかりと要求分のお年玉を徴収した。
Q.現状、カミキヒカルはクリスをどうにかする事ができますか?
A.できたら良いですね(笑)
・カミキ→クリス
僕の可愛い娘。アイの面影をひしひしと感じる。直感だが、もし彼女を○○すればアイ以上に命の重みを感じるだろう。でも嫌な予感がするからそれは止めておこう。
・クリス→カミキ
血の繋がった僕の父親。とはいえアイ関連で何かあっても助ける気は毛頭ない。でもリアクションが面白いので今後も一緒に飲んで遊びたい。
ちなみにパパ呼び。お父さん呼びはまた別の人。