呪術の子   作:メインクーン

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前回:
五条「準2級呪霊、1人で倒してね」

夜蛾「馬鹿言うんじゃない!」

クリス(4歳)「やります」

夏油「危なくなったらすぐ助けるから」



人生初の戦闘

クリスは呪霊との戦闘らしい戦闘は1度もした事がない。むしろつい最近まで呪術の存在すら知らなかった。

 

ただ自分でもよく分からない謎の力を持ち、他の人には見えない異形の何かが見える、という周囲との違いを淡々と受け入れて過ごしてきた。

 

別に恐怖心は一切なかった。生まれた時から既に見えていたうえに、物心ついて話せるようになった時にはすっかり生活の一部に溶け込んでいたから。

 

それに加えて、クリスは生まれてすぐに直感で呪力の操作を可能にしており、4歳の時点で呪力による肉体強化もお手の物だ。

 

このように、目の前に映る現実をすぐに受け入れ適応していく精神がクリスにはあり、それが彼女の強みでもある。

 

 

つまり何が言いたいかというと──、

 

 

「はあっ!」

 

「ギャアアアアアアアアーッ!?」

 

 

4歳児だろうと、準2級呪霊が相手だろうと、クリスはあっという間に戦闘で優位に立っていた。

 

 

「ガァアアアアアーッ!!」

 

「そこっ! 隙だらけ!」

 

「ガッ!?」

 

 

呪霊が横薙ぎに振るった腕を前方に一回転跳躍して回避し、一気に懐に入りこんで高々と足を振り上げる。

 

呪力で強化した蹴りが呪霊の腹に食い込む。

 

 

「もう一発!」

 

「ギャッ!?」

 

 

呪霊の腹の下を滑るように搔い潜って背後に立ち、間髪入れずに跳躍。

 

力一杯振り下ろした右拳が呪霊の背中に直撃し、ボキッと背骨らしき物が折れる音が鳴った。

 

4歳児とは思えない凄まじい膂力を発揮している。

 

 

「うっわ、あれマジ? クリスちゃん全然余裕そうじゃん。とても4歳の動きとは思えないよ」

 

「そうだろ硝子? 俺の言った通り、今のクリスの実力でもあれくらいの呪霊は1人で祓えるんだよね」

 

 

術師から見ても常人離れしたクリスの動きに家入はドン引きし、五条は妹を自慢する兄の様に誇らしげに胸を張る。

 

家入の驚きは夏油や夜蛾も同様で、機敏に動き、果敢に攻めるクリスに驚きを隠せないでいた。

 

 

「どうっすか先生? 俺の言った通りっしょ」

 

「……正直俺はまだ納得してないが、こればかりは認める……しかない、な。まさかこれ程とは……」

 

「呪力による肉体強化は問題なし。呪力量も底が見えないし、子供故の小柄な体格を逆手に取った戦法も見事……。悟、クリスちゃんは誰に呪力操作と戦い方を教わったんだ? ひょっとして君か?」

 

 

クリスの戦いぶりに感嘆した夏油が五条に尋ねるが、その予想すら大きく上回る答えが返ってくる。

 

 

「ぜーんぶ独学だよ、あいつのな。というより直感に近いかな? 俺が初めて出会った時からあんな感じだったし、基礎的な呪力操作も気付いたら出来ていたんだとよ」

 

「なるほど、まさしく天性の才能って奴だね」

 

 

全てクリスの独学で至った事実に夏油はいたく感心した。それでも更なる疑問が湧いて出てくる。

 

 

「にしても些か速すぎないかい? 今のクリスちゃんのスピード、自動車並みの速度だよ。ひょっとしてこれは……」

 

 

いくら呪力強化が出来ていたとしても、肉体はあくまで4歳児。膂力と脚力は相当な物だが、それを踏まえても動きが速すぎる。

 

それに関しては五条が答えた。

 

 

「ああ、クリスの術式だよ。しかもかなり異質だ。御三家の中でも過去存在した事例がなかったくらいにはな」

 

 

六眼で見て得たクリスの術式情報。

 

時間に直接干渉し、意のままに操るというもの。五条悟曰く、無下限呪術に対抗し得る術式との事だった。

 

 

「今クリスが発動してるのは術式の順転。さしずめニュートラルな時間の加速ってところだな。自身の動きを倍速にしてあのスピードを出している」

 

「凄いな。4歳の時点であれなら、もっと使いこなせれば最速の術師を名乗れるんじゃないか?」

 

「だろうな。禪院のクソ爺の目ん玉飛び出る姿が今から待ち遠しいぜ」

 

 

五条家と禪院家は昔から仲が悪い。

 

今から約400年程前に当時の当主同士が本気で殺し合い、両方とも死亡した事件を契機に今に至る。

 

当然、五条悟と現禪院家当主も最低限の付き合いこそあれ、関係性はあまり芳しくない。年に数回、家の事情でたまに会って睨み合う程度。

 

そんな禪院家当主は最速の術師と呼ばれており、文字通り彼より速く動ける術師は存在しない。

 

しかし、齢4歳にしてクリスは自動車顔負けの速度での戦闘を可能にしている。順当に鍛えれば、最速の術師の称号は彼女の物になる可能性は高い。

 

そんないつかが来る日を想像して、五条は目の前の戦闘を笑顔で見届けるのだった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

戦闘開始から5分が経過したところで、ようやく勝敗が見えてきた。

 

途中、クリスが呪霊の背骨をへし折ったのがかなり効いていたらしく、ここに来て呪霊の動きが途端に鈍くなった。

 

それを見逃すクリスではない。

 

 

「グッ……ガアッ!」

 

「甘い! そらもう一丁!」

 

「ガッ!? ゴブッ!」

 

 

戦闘中故か、口調も行動もアグレッシブになっているが、脳内は至って冷静で落ち着いている。

 

今も呪霊の攻撃を軽々と避け、顎に強烈なアッパーと回転蹴りを食らわせた。

 

ヒット&アウェイで少しずつ、確実に蓄積されていくダメージは呪霊の体力を急速に削り、肉体を構成する呪力も少なくなっていく。

 

最早肉体の治癒は叶わず、幼い女児に翻弄され、ただ一方的に打ちのめされるだけである。

 

 

「おらぁあああっ!」

 

「グェエエエエエーッ!」

 

 

反撃する間もなく、助走をつけたクリスの蹴りが横腹に刺さり、巨体を誇る呪霊は無様にも地面を滑っていく。

 

力の大きさは速さと重さの掛け合わせ。クリスは4歳故に体格が小さく、重さがない。だが彼女は術式を用いた速さで攻撃力をカバーしていた。

 

加えて並の術師とは比較にならない緻密な呪力操作により、バランス良く肉体が強化され、激しい戦闘の中でも彼女の肉体は傷一つ負っていない。

 

 

「これで……終わりっ!」

 

 

そして今、地面に転がった呪霊の首元目掛け、空高く跳躍してスピードと重さを乗せた渾身の蹴りを繰り出した。

 

 

「ガアッ……!?」

 

 

殆ど力尽きた呪霊に抵抗する力も回避する瞬発力も残っていない。

 

案の定、クリスの蹴りをもろに食らった呪霊はぐちゃりと首が潰れ、一面に体液を撒き散らしながら絶命した。

 

それを契機に消滅していく呪霊の肉体を他所に、戦闘を終えたクリスは4人のいる方へくるりと振り向いた。

 

 

「やりましたよ五条さん、夜蛾先生! 今のちゃんと見てましたか?」

 

「おう、ちゃんと見てたぞ。やっぱ俺が見込んだ通りだったな。さっすがー!」

 

「えへへー」

 

 

五条に手放しで褒められ、嬉しさのあまり顔が綻ぶ。

 

 

「…………はぁ、認めるしかないか」

 

 

呪霊との戦闘をしっかり見届け、嬉しそうに笑うクリスを見た夜蛾は仕方がないと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 

 

「分かった、俺の負けだ。クリス、ひとまず君がここへ来る事は認める。特別だぞ。学長へは後で俺が話を通しておこう」

 

「おおっ!」

 

「ただし!」

 

 

直々に呪術高専に来る事を認められ、感嘆の声を上げるクリス。

 

とはいえ流石に無条件という訳にもいかないのか、夜蛾はそこへ待ったを掛けた。

 

 

「何度も言うが君はまだ幼い。しばらくは安全を考慮して、ここへ来た時は悟か傑か硝子の誰かと共に行動するように。勿論、高専の教師でも構わない。分かったな?」

 

「はーい、分かりました!」

 

 

夜蛾が提示した条件は至ってシンプル。要は常に保護者と共に行動しろと、そういう事だった。

 

保護者といるのは考えてみれば当然の事で、この条件に反論する者はいなかった。

 

 

「よし、じゃあ改めてよろしくクリスちゃん。今からお姉さん達と一緒に歓迎会でもする?」

 

「良いんですか? ぜひご一緒させてください」

 

「おっ、だったら皆で桃鉄でもして遊ぼうぜ。傑、今お菓子ってある?」

 

「そうだね、ポテトチップスとかグミならまだ余ってたはず。それからコーラも持ってこよう。クリスちゃんはコーラ大丈夫かな? 好きなジュースはあるかい?」

 

「リンゴジュース! でもコーラも好きです!」

 

「分かった。リンゴジュースも持ってくるね」

 

 

こうしてあっという間に3人と打ち解けたクリスは、その後歓迎会という名のどんちゃん騒ぎに参加する事になった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

夜蛾に実力を認められた数日後。

 

高専の学生寮にある、五条悟の自室内にて。

 

 

「う……ううん……」

 

「くかー……」

 

「すう……すう……」

 

「むにゃ……」

 

 

4人の男女が床の上で寝転がっており、思い思いに寝返りを打っている。

 

その間を縫うように所狭しと散乱したお菓子の袋や、テーブルに置かれた飲みかけのジュースのコップは、4人に何があったのかを物語っていた。

 

更に4人の前には大画面のテレビが設置されており、ゲームのプレイ画面が付いたままになっている。

 

そんな中、窓から差し込む朝日に照らされ、一番最初に夏油が目を覚ました。

 

 

「……ん? ああ、もう朝か。ふわぁ……あー、まだ眠いな」

 

 

夢から覚めて重い瞼を擦り、2度寝したくなる衝動を抑えて上体を起こす。

 

乱雑に散らかった室内をぐるりと見回し、ふと真横から感じる人肌の温かみに気付いて目を向ける。

 

 

「すう……すう……」

 

 

視線の先にいたのは、毛布に包まって静かに寝息を立てるクリスだった。

 

夏油の真横で寄り添うように寝ており、良い夢でも見ているのかその表情は明るい感じがした。

 

そして、右に目を向けると五条が大股を開いて大胆に寝転がっており、左に目を向けると家入がお行儀よく布団を被って横になっている。

 

これらの状況から、夏油は4人でこれまで何をしていたのか思い出した。

 

 

「そうだ、思い出した。昨日の……いや、今日の深夜までずっとゲームして遊んでたんだった」

 

 

全てを思い出した夏油はぼそりと呟いた。

 

クリスが夜蛾に実力を認められた日の夕方、悟達はクリスの歓迎会という名のどんちゃん騒ぎを起こした。

 

内容は高校生らしく、お菓子やジュースを飲み食いしながらゲームで遊ぶというもの。

 

そこで4人で桃鉄をプレイしたのだが……、

 

 

「流石に桃鉄99年ぶっ通しはきつかったな……」

 

 

とち狂った年数をほぼぶっ通しで遊びまくった結果、全てが終わるまで1日どころか数日の期間を要する羽目になり、今に至る。

 

 

「ずっと寝たってしょうがない……ほら皆起きて。悟、硝子、クリスちゃん、もう朝だよ」

 

「う、ううーん……んあ?」

 

「ふわぁ……朝?」

 

「あっ、おはようございます夏油さん……」

 

 

ずっと寝たままは体に悪いと思い、パンパンと手を叩いて全員を起こす。

 

その音に反応して他の3人も一斉に目を覚まし、大きな欠伸をしながら身体を起こした。

 

 

「あー、よく寝た。傑、朝ご飯はどこ?」

 

「ちょっと待ってね、すぐに全員分の朝ご飯用意するから。何が良い?」

 

「トースト。それからジャムも欲しい」

 

「大丈夫、ジャムは悟のために用意してるから。硝子とクリスちゃんは?」

 

「私もとりあえずパン。あと目玉焼きとベーコンで良いからおかずも欲しい。寒いからスープも出来れば」

 

「私はご飯が……でもトーストで構いませんよ」

 

「分かった。悟と硝子はトースト、私とクリスちゃんが米だね。おかずとサラダとスープも作るから部屋の片付けでもして待ってて」

 

「「「はーい……」」」

 

 

朝ご飯を作る間に部屋の清掃を3人に指示して、夏油はキッチンの奥へ消えていった。

 

3人も夏油の指示に従い、気怠い身体を無理やり動かす。散らかったお菓子の袋や飲みかけのジュースの入れ物をゴミ箱に入れ、整理整頓に励んだ。

 

 

──それから十数分経って、夏油が全員分の朝食を作り終えて持ってきた。

 

 

「はい、これとこれが悟と硝子の分。こっちがクリスちゃんの分だよ。クリスちゃんが食べ易いようにと思ってベーコンは一口サイズにカットしたけど、大丈夫だったかな?」

 

「あっ、わざわざそんなお気遣いまで……ありがとうございます」

 

 

高校生と幼稚園児では食事の量も食べ方も異なる。

 

その差異を考慮して作られた朝食は、クリスにとっては非常にありがたいものだった。

 

 

「じゃあ食べようか……いただきます」

 

「「「いただきまーす」」」

 

 

夏油のいただきますの掛け声に3人も後から続き、一斉に朝食を食べ始めた。

 

シンプルながらにバランスの整ったメニューは朝食べるにはぴったりで、その美味しさに舌鼓を打つ。

 

 

「そういえばクリスちゃん、君はこれからどうするんだい? 一応家族には友達の家に数日泊まると伝えたって聞いたけど」

 

「そうですね……もう少し居たい気持ちもありますけど、あまり長居しても心配掛けますから……。

 とりあえず今日の内に帰って、また次の休日に来ようと思います。本格的な修行はそこからでも良いですか?」

 

 

今回は全体的にただ騒いでゲームしただけで、それ以外の事は特に何もしてない。

 

なので次来た時から修行を始める旨を伝えたところ、五条からも反応があった。

 

 

「良いんじゃない? じゃあ来週から俺らの任務に一緒に行こうぜ。呪術師の仕事ってもんを見せてやんよ」

 

「はい、よろしくお願いします五条さん、夏油さん、硝子さん」

 

「あー、私は保健医みたいなもんだから任務には同行しないんだよね。たまに一緒に行く時はあるけど」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「まあね。だからそこのクズ2人に色々と教えてもらいな。でも、変な事まで吹き込まれないように気を付けなよ」

 

「おい待て硝子、それどういう意味だこら」

 

「それは流石に聞き捨てならないね」

 

「そう目くじら立てんなよ、今更だろ」

 

 

クリスの視点では何の事だかさっぱりだったが、これまでの2人のやらかしを見てきた硝子にとっては至極当然の評価であった。

 

今の硝子の発言の意味をクリスも後々知る事になるだろう。そして持ち前の適応能力の高さですぐに慣れるだろう事も。

 

そんなこんなで騒がしくも楽しい朝食の時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それから数時間後の夕方。

 

クリスは新たな住居となった苺プロの事務所に帰って来た。

 

 

「ただいまー」

 

「……あら、お帰りクリス。友達とのお泊り会は楽しかったかしら?」

 

「うん、楽しかったよお母さん。皆とね、いっぱいゲームして遊んだんだ。来週から定期的に泊まりに行く約束もしたよ」

 

「そう、それは良かったわ……。あなたもこのままアイの分まで、元気に大きくなってねクリス。お母さん、そのためなら何でも頑張るから」

 

 

リビングに出ると、第二の母親の斎藤ミヤコが夕食の準備に慌ただしくキッチンを駆け回っていた。

 

 

(……ほんと、この人には敵わないなぁ)

 

 

つい最近、夫の斎藤壱護が突如失踪して会社経営だけでも大変だというのに、三つ子の母親まで熟すから凄いとクリスは思っている。

 

心の底から頭が下がる思いで一杯だった。

 

 

「そう言えば兄さんは?」

 

「アクアは今日も部屋に籠もったまま出て来なかったわ。部屋から出て来るのは食事の時だけね」

 

「じゃあ姉さんは?」

 

「ルビーも今は部屋にいるわ。あの子は少しずつ外へ出る時間が増えてきたけど、それでも午後いっぱいはずっと部屋に籠もってるから」

 

「うーん、やっぱり兄さんも姉さんもまだまだ精神的に辛いのかな? ママが亡くなってまだ1カ月くらいしか経ってないし」

 

「そうね。あの子達もあなたくらい芯が強ければ話は変わってくるのだけど……人間誰しもすぐに立ち直れるわけじゃないから。

 特に目の前で母親を喪った辛さはそう簡単に割り切れる物じゃない。今はただ、2人がアイの死から立ち直るまで待つしかないわ」

 

「まっ、それもそっか」

 

 

ミヤコの言葉を聞いて、クリスは素直に頷いた。

 

 

 




桃鉄やった事ある人なら分かるけど、あれの99年って控えめに言って正気の沙汰じゃないよね。
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