呪術の子   作:メインクーン

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前回:
さしす「高専へようこそ!」

クリス「よろしくお願いします」

ミヤコ「元気そうで良かったわ」

アクア&ルビー「アイ(ママ)……」



家族は大切にね

クリスが高専での修行を認められてから早1カ月が経過した。

 

その間、五条と夏油の呪霊討伐の任務に同行し、呪術のいろはを手取り足取り教えてもらっている。

 

学習能力意欲が高かったクリスは、元々の高い呪術センスも相まってメキメキと実力を伸ばしている最中である。

 

 

「ギャオオオオオオーーン!!」

 

「おー、今回の相手は随分デカいし素早いな。流石は鮫の呪霊、思ったよりやるね」

 

「こらこら悟、あまり油断してると足元を掬われちゃうよ。クリスちゃんもいるし気を付けないと」

 

「あっ、私なら全然大丈夫ですよ。あれくらいの速度ならすぐ避けられるので」

 

 

関東のとある近海に現れたという鮫の呪霊。

 

海を縄張りとして度々漁船を襲うこの呪霊を、五条と夏油の2人で討伐するように高専から指示されていた。

 

高専から聞かされた情報では等級は1級との事だが、五条と夏油の最強コンビに掛かれば何てことない相手である。

 

 

「ガァアアアア……ガッ!?」

 

「甘えよバーカ。お前じゃ俺には指一本触れる事すらできねーよ」

 

 

容赦なく襲い掛かる鮫だったが、五条の無限に阻まれその場で動きを止める。噛み付く寸前で身動きが取れず、鮫は呪霊ながら戸惑いを隠せない様子だった。

 

その隙を突いて夏油が呪霊を飛ばす。

 

 

「よし行け!」

 

「ギャアアアアアアーッ!?」

 

 

夏油が取り出したのは、鮫の呪霊よりも一回り大きい芋虫型の呪霊。

 

どんな物でも飲み込む大きな口は先の見えないブラックホールの様で、見ているだけで飲み込まれそうな恐れが湧き出る。

 

それが今、鮫の巨体を頭から丸々飲み込んだ。

 

 

「まだ完全には飲み込むなよ。そいつも取り込む」

 

 

全てを飲み込まれてしまう前に待ったを掛け、いつでも仕留められる状態を維持させる。そして、飲み込まれて弱った呪霊に向かって手を伸ばし、ブツブツと呪詞を唱え始めた。

 

この降伏の儀を行う事で夏油は呪霊を取り込み、自在に操られるようになる。

 

 

こうしてまた1つ、強力な呪霊があっさりと夏油の手元に加わり任務は完了した。

 

 

「……何か、今日もあっさり終わりましたね」

 

「まあな、俺達に掛かればこんなもんよ。あんな雑魚余裕だ余裕」

 

「悟の言う通りさ。私達は最強だからね」

 

 

個の五条に軍の夏油。

 

どちらか1人でも厄介極まりない術師同士がコンビを結成した事で、誰も敵わない最強が爆誕した。

 

この1カ月、誰よりも近くでその事実を目の当たりにしてきたクリスは、2人の言葉の重みをヒシヒシと感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「よっ、お疲れー五条。今日はどうだった?」

 

「硝子か。今日も余裕のよっちゃんだったよ。もう一瞬だったね」

 

「クリスちゃんにも怪我は無かった?」

 

「もち。俺らを誰だと思ってんの?」

 

「最凶のクズ2人組」

 

「はっ、言うと思った」

 

 

高専のグラウンド前で佇む五条に、家入が軽口を叩きながら隣に立つ。

 

五条も特に怒らず、むしろそんな気楽な関係を良しとする雰囲気さえあった。

 

 

「……で、あの2人は今何やってんの?」

 

「修行。傑が近接格闘めちゃ得意だし教えるの上手いからって、クリスに色々教えてる最中」

 

 

話は変わり、2人の視線の先ではグラウンドの中心で夏油に殴り掛かるクリスの姿があった。

 

 

「たぁああああっ! はっ! やーっ!」

 

「そう、良いよクリスちゃん。段々動きのキレが増してきてるね。調子出てきたんじゃない?」

 

「まだまだぁ!」

 

 

クリスがひたすら夏油に向かって殴り込み、それを夏油が対処しながら丁寧に教え込むという実戦形式。

 

この1カ月でクリスは、夏油直伝の体術を九官鳥の如く記憶に刻み、その技術を物にしている。

 

その成長スピードは凄まじく、直感で動いていた1カ月前と比べてもその差は一目瞭然だった。

 

 

「1カ月であそこまで動き変わるとかマジどうなってんの? お前つくづくとんでもない奴連れて来たよな」

 

「偶然拾った物が磨けば輝くダイヤの原石だったって感じ? いやー、これからが楽しみだねぇ」

 

「その台詞だけ切り取ったらただのやべーロリコンにしか見えないんだよな。まぁ、ロリコンは大体ヤバい奴ばっかだけど」

 

「俺はロリコンじゃねーし」

 

「でもヤバい奴に変わりはないだろ。じゃあロリコンとそう大差ないじゃん」

 

「おい」

 

 

相変わらず火の玉ストレートの豪速球を投げてくる家入に、五条も苦言を呈さざるを得なかった。

 

だが、どれだけ五条から詰められても家入は素知らぬふり。彼への対応は既にお手の物だった。

 

その間もクリスと夏油の修行は続く。

 

 

「隙ありっ! 今だ……ぐえっ!?」

 

「はっは、詰めが甘いねクリスちゃん。駄目じゃないか、軽率に距離を詰めたら。ちゃんとカウンターを考慮しないとこうなるよ」

 

 

クリスは強い。この1カ月で見違える程には。

 

それでも最強の片割れを担う夏油が相手では流石に分が悪かった。

 

 

「うぐ……さ、誘ったって事ですか?」

 

「まあね。今私が一歩後退った瞬間、隙だと思って一気に距離を詰めたでしょ? そういう時こそ相手の罠だと疑って慎重に動いた方が良い。

 良いかいクリスちゃん、勝ち方が決まってる相手ほど勝ち筋を見せたら簡単に食いつく。それを利用されたカウンターはかなり手痛いから気を付けるんだよ」

 

「……はい」

 

 

カウンターで夏油の掌底を横腹に貰い、クリスはもろに受けて吹き飛ばされた。そのダメージは思っている以上に大きく、喋る事はできるが身動きが取れる状況ではない。

 

最強の一撃は途轍もなく重かった。

 

 

「よし、それじゃあ今日の修行はここまでにしよう。呪術に関しては悟の番だし」

 

 

現在、クリスは夏油から体術指導を、五条から呪術の指導を受けている。

 

どちらもクリスの師匠であり先生のような存在。2人の最強から指南してもらえるこの環境は、クリスにとっては非常にありがたいものだった。

 

加えて……、

 

 

「はいクリスちゃん、お腹見せてねー……うっわ、今日もボコボコにやられたね。あいつら4歳の女の子相手に容赦なさすぎない? 大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ、お陰でどんどん強くなってますから。それに家入さんも居ますし」

 

「クリス、あんたは本当に素直で良い子ね……その純粋な優しさがお姉さんには凄く効くよ」

 

 

他人への反転術式が使える家入がいるため、クリスが修行でどれだけボコボコに伸されようとも、多少の無茶を押し通せる状況が出来ていた。

 

確かな痛みを伴った最高峰の指導に、高度な反転術式使いによる怪我の治療。

 

クリスの実力が鰻登りになるのも必然だった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「ふと気になったんだが、クリスちゃんはどうして呪術師になろうと思ったんだい? どんなきっかけや目標があるのかな?」

 

「えっ……?」

 

 

しばらく修行に励んでいたある日の事、不意に夏油からそのような事を尋ねられた。

 

本来、御三家や術師の家系でもない人間が自ら積極的に術師を目指す例は珍しい。基本的にスカウトか半強制で高専に集められる。ましてや相手は4歳の女の子。今までにない事例である。

 

だからこそ夏油は気になった。クリスが術師になりたい理由、そのきっかけを。

 

 

「えっと、その……」

 

 

しかし、聞かれた本人はどこか歯切れが悪い。その反応からして、出会う前までに何か暗い過去があったという事は夏油も察した。

 

 

「ああいや、別に無理して言わなくても大丈夫だよ。すまない、野暮な事を聞いたね」

 

 

どこか神妙な顔付きのクリスを見て夏油は一歩引いた。五条とは違い、人のデリケートな話には安易に踏み込もうとしないが彼である。

 

だがクリスの表情が暗いのは、経緯を話すと星野アイの隠し子という特大のスキャンダルが世間にバレるかもしれない可能性を懸念しているから。

 

とはいえ……、

 

 

(……それでも、夏油さんなら正直に打ち明けても世間にバラす事は無さそうかも。それにいつもお世話になってるし、夏油さんが気になるならその期待に応えよう)

 

 

死者の秘密がバレるかもしれないリスクと夏油への恩を天秤に乗せ、今生きている人の意思を尊重する方を選んだ。

 

たとえどんな反応が返ってきたとしても。

 

 

「……呪術師を目指そうって思ったのは殆ど成り行きみたいな感じです。五条さんと偶然出会ったのが始まりですし。でも、そうなった事には色々な経緯がありまして……」

 

「…………」

 

 

それからクリスは訥々と語った。

 

念のため星野アイの実名を伏せたうえで、五条と出会う前に起こった身の上話を話した。

 

母親が現役アイドルで、10代で自分を含めた三つ子を産んだ事。アイドルと母親の二足の草鞋を履いて生活していた事。

 

家族4人で慎ましくも幸せな生活を送っていたある日、突然ファンの1人にそれがバレてしまい、母親が糾弾されたあげく凶刃に倒れ亡くなってしまった事。

 

そして、母親を殺した犯人に復讐するため強硬手段に出て、それを見事に完遂した事。

 

 

「……という事があったんです。その時に任務帰りだった五条さんと出会って今に至ります」

 

 

極一部の人達だけ共有している母親の秘密。これが今世間に知れ渡ればアイはおろか、その子供のクリス達までバッシングの対象にされる事は想像に難くない。

 

そもそもアイドルでありながらファンに黙って子供を産んだ事自体、世間体を考えればあまり褒められた話ではない。

 

それでもクリスは話した。何故なら夏油には五条と同等級の恩があるから。これで夏油から何をどうこう言われても、クリスは素直にそれを受け止めるつもりでいた。

 

そう思っているクリスに向かって、夏油は静かに口を開く。

 

 

「……ふむ、なるほど。そんな事があったのか。さぞ大変だったろうに、よくそこまで耐えて前を向いて来られたと思う。凄く立派だよ。君も……君のお母さんもね」

 

「そう言って頂けて……えっ?」

 

 

夏油の言葉に1度素直に頷いて、そこで俯き気味だった頭がガバッと持ち上がった。その目には「どうして母親の事まで?」と疑問に思う気持ちが込もっている。

 

 

「確かに君のお母さんは、アイドルでありながらファンの想いに背く事をしたのかもしれない。でもね……」

 

 

しかし想定していた反応とは裏腹に、夏油はクリスに微笑みかけながらとても優しい声で言った。

 

 

「どんな理由があろうとも、命を懸けて子を守った君の母親は凄いし立派だと私は思う。いつ家族の幸せが壊れるかも分からない中で、自分が持てる精一杯の愛情を子供達に与え続けてきたんだからね」

 

「……どうして、そう言い切れるんですか?」

 

「どうしてって、君を見てればすぐに分かったよ。気付いてないかもだけど、母親の話をする時の君はどこか誇らしげで優しい顔をしてる。それだけ母親に愛されていたんだね」

 

 

夏油に言われてクリスは自分の顔を指で突いた。

 

そんなに分かりやすく表情に出ていたのかと、直接言われるまで全く気付かなかった。もしかしたら自分は自分が思っている以上に、今でもアイの存在は大きいのかも知れないとも思った。

 

 

「そしてクリスちゃん、君も君だ。母親を喪ってあまり日が経っていないのに、こうして人々を守る呪術師になろうと日々努力している。普通なら塞ぎ込んでしまってもおかしくないのに」

 

「……いや、それは多分、私が他人より薄情というか淡白というか……あまり他人を慮れる性格じゃないからだと思います。だって私、ママが亡くなった事にもすぐ割り切れたし、怒りに身を任せて犯人に復讐したし……」

 

 

話の内容がクリスに向き、褒める夏油にそれは勘違いだとクリスが訂正する。

 

そもそも呪術師に向いている人は、他の人より頭がイカれている場合が殆どだと五条から聞いていた。

 

だから呪術師に向いていると言われたクリス自身も、これまでの経験を踏まえて、自分の事を薄情な人間だと思っている節がある。

 

だが、夏油がすぐにそれを遮った。

 

 

「いいや、それは違う。もし本当に薄情な性格なら母親の事をむしろ貶していただろうし、復讐も考えないだろうからここにも居なかった。恐らくそのまま人々を傷付ける呪詛師になっていただろう」

 

 

夏油は言った。社会の裏に潜む呪詛師達は、自分の私利私欲のためだけに弱者を痛めつけ、他人の不幸を嘲笑う真に薄情な連中だと。

 

何度かそういう人達と戦った事がある夏油からすれば、クリスが薄情な人間だとは到底思えなかった。

 

 

「君は母親の事を愛しているし、愛されていた。更に母親を喪った逆境を撥ね退け、私達と共に呪術師として日々成長している。そんな君が、果たして本当に薄情な人間と言えるだろうか?」

 

「…………」

 

「誇っていい、君は優しい子だ。誰よりもね」

 

 

──最後に放ったその言葉が、心の奥底で薄情だと思っていたクリスにとってどれほど大きなものだったろうか。

 

 

それは計り知れないが、いつの間にか自身の視界が若干滲んでいる事に彼女は気付いた。

 

ふと下の方に視線を向けると、一滴の透明な雫が掌の上に零れ落ちている。

 

 

「……これは何?」

 

「さあね。でも、それが本当の君を現しているんじゃないかな?」

 

 

自分でも分からないくらいポロポロと涙を零すクリスの背中を、夏油は優しい手付きで撫でて慰める。

 

ふとした疑問から始まった2人の会話は、思わぬ展開を迎える事となった。

 

 

「君の母親は最期、命を賭して家族を守った。最期に子供達の夢を応援して。そう言ってたよね?」

 

「……はい」

 

「それじゃあ君もだ。家族を守り、夢を全力で応援できる。そんな優しくて強い子になれるよう、これからも一緒に頑張ろう。クリスちゃん」

 

「……はい!」

 

 

最後にそう言って話を締め括った夏油に、クリスは涙を拭って飛び切りの笑顔を見せた。

 

 

 

──その日の夜、クリスは非常に清々しい気持ちで朝まで熟睡できたという。

 

 




クリス→夏油の好感度が爆上がりした!

作中一のモテ男だし、これくらいはあっても問題ないよね? この時のクリスはとても素直で良い子だし、子供らしく泣いたって良いよね? なお現在。

というのは置いといて、夏油から家族の大切さを説かれるの良いですよね。ほっこりします。
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