呪術の子 作:メインクーン
夏油「クリスちゃん、君は優しい子だ。これからも一緒に修行頑張ろう」
クリス「はい!」
夏油に対するクリスの好感度が上がった。
あれから更に月日は経ち、4月の春。
長かった冬の肌寒い日々が終わり、桜舞い散る季節となった今日、呪術高専に2人の新入生がやって来た。
「では新入生の2人は大きな声で自己紹介をお願いしまーす!」
「はい! 呪術高専1年、灰原雄です! よろしくお願いします!」
「……呪術高専1年、七海建人です。よろしくお願いします」
教卓の前に立ったのは、快活で明るい印象を持つ青年と、暗めで険しい目付きをした七三分けの青年の2人。
『超新入生歓迎会!』と書かれた黒板を背に、パーティー用の三角帽子と『本日の主役』たすきを肩に掛けた状態で、2年の先輩から無茶なノリを強いられていた。
その2年の先輩とは主に五条の事を指す。
「えー、七海君の挨拶が地味なのが残念ポイント100点ですが、時間が無いので次に行きましょう!
続いての項目は先輩後輩の交流会だぁ! 各々自由に会話を楽しみ親睦を深めていこう! 終了時間は本日の下校時間までだからそのつもりで!」
「時間が無いと先程言ってませんでした? というかまだ午前ですよ?」
「はいスタート!」
司会進行を務める五条の言葉に七海がツッコみを入れるが、華麗にスルーされたまま交流会は始まった。
教室内には新入生の灰原や七海の他に、五条を含めた新2年生の3人と教師の夜蛾がいる。
その傍には何故かクリスもおり、高専に小さな子供がいる事に疑問を持った灰原が話し掛けてきた。
「あのー、さっきからずっと気になってたんですけど、この子は一体……あっ、もしかして夜蛾先生の娘さんとか?」
夜蛾の隣に立つクリスを見て、娘ではないかと灰原は予想する。それを誰かに否定される前に、五条が悪ノリする気満々で口を開いた。
「そうだよー。実は先生と離婚した奥さんとの間に出来た子供でさ、今はここで俺達と一緒に子育てしてる最中なんだー」
「へぇー、そうなんですか! 可愛らしいお子さんですね! ねぇねぇ、君は何て名前なの?」
「ちょっと待て悟、新入生に変な冗談吹き込もうとするんじゃない! 灰原、言っておくがこの子は俺の子じゃないからな。今のは悟の悪い冗談だ」
「えっ、そうだったんですか? 勘違いしちゃってすみません」
危うく五条の吐いた嘘に騙されそうになった新入生を、夜蛾が声を荒げて咄嗟に止める。
そもそも先生がバツイチである事をどうして五条が知っているのか問い詰めたかったが、それは今ではないと夜蛾は考え一旦矛を収めた。
そんな彼らのやり取りを横目に、クリスは灰原とその後ろにいる七海に自己紹介した。
「初めまして灰原さん、七海さん。星野クリスと申します。呪術師として強くなるため、定期的にここに通って修行している若輩者です。どうぞよろしくお願い致します」
「クリスちゃんか、素敵な名前だね! にしてもクリスちゃんは随分幼く見えるけど、今何歳なのかな?」
「今は4歳。来月あたりで5歳になります」
「えっ、その歳でもう呪術師を!? それ凄くない!? 怖くないの?」
「そこまでですね。生まれた時からずっと見えてたので、特に違和感もなく受け入れてます」
クリスの年齢にびっくりして目を見開く灰原。先程から純粋に驚いたり疑問を口にしたりと、裏表のない爽やかさから彼の人間性が見て取れた。
「いやー、凄いなぁ。最近の児童は僕達よりも随分立派だ。七海もそう思わない?」
「私としてはその歳で敬語で話せる事に驚きを隠せませんが……まぁ、確かに凄いのは認めます。というか、こんな幼い子を呪術師にスカウトするなんて、この学校にいる人達は正気ですか?」
「あっ、スカウトしたのは五条さんですけど、ここへ来たのは私の意思なのでお気になさらず」
「なるほど、やはりあの先輩は要注意ですね。肝に銘じておきます」
クリスの訂正も虚しく、五条に対する七海の要警戒度が更に跳ね上がっただけだった。
そんなこんなで新入生達との親睦を着々と深めていくクリスを、2年生になった3人は微笑ましく見守っていた。
「いやー、良かった良かった。灰原はともかく、七海とも仲良く出来てそうでほっとしたよ。特に七海はちょっと気難しそうだったからさ」
「明るく素直な性格がクリスちゃんの良いところだからね。あの子を邪険に扱える大人はそうそう居ない。それに、七海も何だかんだで情に厚い性格だと私は思ってるよ」
「まー、お前らクズ2人と比べたら遥かにマシなんじゃねーの? 何はともあれ、私らの後輩は中々の傑物揃いだし安泰だな」
現在進行形で先輩に対する後輩の評価が下がり続けている事も知らず、呑気に話し続ける3人だった。
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それから更に日が経ち、桜の花が閉じて日中の日差しが少しだけ強くなった頃。
「「「「クリス、お誕生日おめでとう!」」」」
「皆さんありがとうございます!」
寮の一室で、1年2年の5人全員とクリスが集結して誕生日パーティーが開かれた。
主役は星野クリス。歓迎会の時の七海達のように三角帽子にタスキを掛けた格好で、皆からクラッカーの音と共に誕生日を祝福される。
「私の誕生日をこんな盛大に祝ってくれるなんて嬉しいです」
「まあね。だってクリスもすっかり高専の一員みたいなもんだし? ちょいと遅れちゃったけど、それでも誕生日祝うのは当然っしょ」
「そう言って結局騒ぎたいだけだろお前は」
「良いじゃないか硝子、こういうめでたい事はしっかり祝っておくものだよ」
感激のあまり何度もお礼を言うクリスに、わいわい騒ぎながら快い返事を返す五条達。
こうして盛大にクリスの誕生日会が開かれているが、厳密に言うと今日はクリスの誕生日から3日が過ぎた日である。色々と任務が重なった結果、全員が集まってサプライズを実行できたのが今日だったからだ。
勿論、3日前には苺プロの事務所でミヤコから誕生日を祝われた。だが、アイの死亡から未だ立ち直れていないアクア達と、経営が傾いた苺プロの立て直しで多忙の日々を送るミヤコの事情もあり、誕生日当日は地獄の空気だった事をここに明記しておく。
そのような経緯も相まって、今日のサプライズには心底驚いたうえに感動するクリスであった。
「はいこれ、プレゼント! クリスちゃんに似合うかなと思って。3日遅れになっちゃってごめんね」
「いえいえそんな。祝ってもらえただけでも嬉しいのに、プレゼントまで用意してくれたなんて……ありがとうございます灰原さん、大切にします」
笑いと大声の絶えない中、早速灰原がクリスにプレゼントを手渡した。袋の中に入っていたのは可愛らしい装飾が施された洋服だった。
いつも着る服よりかなり派手なデザインだが、妙にくどくなく馴染みやすそうに思える。
「私からはこれを」
「これはペン……いや、万年筆ですか?」
「あなたは既に読み書きが殆ど出来ていますし、使い道はそれなりにあるかと。鉛筆でも良かったのですが、どうせなら長く使える物をと考えてそれにしました」
「なるほど……ありがとうございます七海さん」
七海からは万年筆をプレゼントされた。
5歳の誕生日にしてはいささか渋い選択で、そもそも5歳で万年筆を使う機会など無いに等しいのだが、真面目で堅実な彼らしいチョイスと言える。
「じゃ、次は私だね。まだ早いかなーって思ったけど、クリスちゃん可愛いからこれあげる」
「これって……口紅ですか?」
「そうだよー、デパ地下で買ってきたちょっと良いやつ。大切に使ってね。なんなら私が後で使い方を教えてあげよう」
「ありがとうございます、ぜひお願いします」
家入からは口紅をプレゼントされた。
高級感溢れる入れ物に収まるそれは、本来は大人の女性が持つ物。だが、クリスは齢5歳にして周囲の大人がたじろぐ程の魅力を身に付けつつある。
家入の選択はむしろ正解と言えた。
「えー、何だよ硝子。俺らの誕生日の時はポッキー1本とかグミ1個だけだったじゃん。クリスと比べて不公平すぎじゃね?」
「お前らクズ共はそれで十分だろ。むしろ貰えるだけありがたいと思え」
「ひっど」
悪態を吐く五条に情け容赦のない家入の口撃が襲う。あまりの容赦のなさに五条が思わず苦言を呈する程だった。
「それは一旦置いといて、次は私かな? はい、クリスちゃん。これを」
「これは……髪飾り?」
「そうだよ。君に似合うかなと思って」
続いて渡された夏油からのプレゼントは髪飾り。
ウサギの形を模して美しく装飾されたそれは、クリスの頭に対して少し大きかった。それでもクリスの魅力を際立たせる効果を持っており、夏油のセンスの高さが垣間見える。
「わぁ、凄く綺麗……本当にありがとうございます。夏油さん、これずっと大切にしますね」
「うん、気に入ってもらえて嬉しいよ」
好意を寄せている人から貰ったプレゼント。嬉しくないはずがなく、クリスはこの日一番の天真爛漫な笑顔を見せた。
夏油も夏油で、あげたプレゼントを気に入ってくれたクリスの笑顔につられ、自然と柔和な笑みが零れる。
そんなこんなでプレゼントを渡す人も残すところ1人となった。
「ふっふっふ、最後に締め括るのは俺ってわけよ。俺からクリスに渡すプレゼントは……これだぁ!」
「……箱?」
絶対的な自信と共に五条が取り出したのは、掌より少し大きめの黒い箱だった。
滑らかな手触りと重厚感溢れる花のデザインが施されたその見た目から、どう考えてもとんでもない高級品である事は全員が一瞬で分かった。
「悟、これの中身は一体……」
「それは開けてみてのお楽しみよ」
「じゃ、じゃあ開けますね……」
五条から箱を受け取ったクリスが、皆の注目を集めながら恐る恐る蓋を開ける。
いざ中身を覗いてみると、そこには透明な宝石が装飾された煌めくイヤリングが入っていた。
やはりどう考えてもヤバい。
「あの、五条さん……このイヤリングは?」
「俺、女の子にサプライズでプレゼントするの始めてでさ。硝子の時はタバコ1カートン寄越せって言われたし。よく分かんなかったから実家に電話して聞いてみたのよ。
そしたら女の子にはアクセサリーが良いって言うもんだから、ちょっと良い店紹介してもらってイヤリング買ってきたってわけ」
「な、なるほど……」
「で、どう? 気に入った? クリスなら絶対似合うと思うんだよね!」
「「「「「…………」」」」」
五条の説明を聞いて全員が何も言えなくなった。
イヤリングは確かに良いチョイスだしクリスに似合う一品だが、如何せん友達の誕プレで渡していい代物ではない。
真ん中に付いた光り輝く宝石がそれを如実に物語っていた。明らかに"ちょっと"良い店から買ってきた物の範疇を超えている。
「あ、ありがとうございます……大切にしますね。ところで真ん中の宝石は何なんですか?」
「ん? ああ、これダイヤモンド。クリスにピッタリの大きさの奴があって良かったよ」
あっけらかんと答える五条だが、そういう物は本来結婚相手などに贈る代物である。それをすっかり親しみのある相手とはいえ、5歳の女の子に誕プレで贈るのが五条悟というお坊ちゃまだった。
「悟、一応聞くが、これいくらしたんだ?」
「えー、いくらだったっけな……確か500万とかそんくらいだったと思う。あんま覚えてねぇけど」
「そ、そうかい? それはまた……」
恐る恐る値段を尋ねた夏油の顔が引き攣る。五条家は超が付くほどの大金持ちとは聞いていたが、まさかこれ程とはクリスも思わなかった。
直前まであれだけ騒がしかった室内が、五条のプレゼント一つであっという間に静寂に包まれる。
「これが金の暴力か……」
「えっ、なに? 皆揃ってどうしたの? 俺のプレゼントそんなにマズかった感じ?」
五条だけが未だにきゃぴきゃぴ騒ぐ中、家入がぼそりと呟いたその一言がやけに大きく耳に響いた。
皆でクリスの誕生日を祝ってプレゼントまであげる……良いですね、心が温まります。
さぁ、そんなこんなで早速ですが、次回から物語は動きます。今回の章は第2章と比べてかなり短いので。