呪術の子   作:メインクーン

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前回:
1年2年全員「お誕生日おめでとう!」

クリス「ありがとうございます!」

夏油「ウサギの髪飾りあげる」

五条「500万のダイヤのイヤリングあげる」

他全員「ふぁっ!?」



星漿体護衛任務 ①

クリスのサプライズ誕生日会を開いた数か月後。

 

長かった梅雨がようやく明け、徐々に日差しが強くなってきたある日。

 

 

「そーれ!」

 

「うわぁああああああああっ!?」

 

 

街外れに建つ森の館がガラガラと音を立てて崩壊する中、1人の女性の悲鳴が木霊した。

 

崩壊した館は空中のある一点に向かって掃除機の様に吸い込まれ、圧縮されていく。それに巻き込まれた巫女姿の女性は、瓦礫が散乱する地面の上で無様に転がっていた。

 

 

「助けに来たよー歌姫」

 

 

そんな彼女を見下ろすように、館を壊した張本人の五条が塀の上に立っていた。

 

 

「泣いてる?」

 

「泣いてねぇよ! 敬語!」

 

 

挑発するような問いかけに対し、歌姫と呼ばれた女性は額に青筋を浮かべて大声で吠えた。

 

その反応を見て更に笑みを深めているので、やはり五条に心配する気など全く無く、ただ単純に面白がっているのは明白だった。

 

 

「泣いたら慰めてくれるかな? 是非お願いしたいね」

 

「いやいや、冥さんは泣かないでしょ。強いもん」

 

 

そこへ歌姫と行動を共にしていた冥冥が静かに歩み寄り、五条との他愛もない会話に花を咲かせる。

 

しれっと無視された歌姫の怒りは更に増した。

 

 

「五条! 私はね、あんたの助けなんか──」

 

 

瓦礫の山を押しのけ、背後から突如襲い掛かった呪霊の存在に気付かず。

 

 

「グルァアアアア────ギャッ!?」

 

 

だが歌姫を飲み込もうとした呪霊は、更に一回り大きな芋虫型の呪霊に飲み込まれ、身動きが取れなくなった。

 

寸での所で歌姫を助けたのは夏油。上手に芋虫呪霊を操り「まだ飲み込むなよ」と指示を送る。

 

 

「悟、弱い者いじめは良くないよ」

 

「強い奴いじめる馬鹿がどこにいんだよ」

 

「というか君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」

 

「あっ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

弱い者いじめは良くないという発言をすかさず冥冥にツッコまれ、夏油は己の失言に気付いた。とはいえ時すでに遅しだが。

 

 

「歌姫せんぱーい、無事ですかー?」

 

「硝子ー!」

 

「心配したんですよ。2日も連絡無かったから」

 

 

2人に煽られ怒り心頭だった歌姫のボルテージは、家入の呼びかけにより一瞬で収まった。

 

更に家入の背後からひょっこり顔を覗かせる少女が1人。

 

 

「歌姫姉さん、ご無事で何よりです。お怪我はありませんでしたか?」

 

「はわわぁああああ! クリスちゃんじゃない! もしかしてお姉さんが心配で来てくれたの? ああもう、あなたほんっとうに可愛いんだから!」

 

 

五条達と共に来ていたクリスを見るや否や、歌姫は全速力で彼女に駆け寄ると、飛び切りの笑顔でギュッと抱き締めた。

 

 

「硝子、クリスちゃん、あんた達はあの2人みたいになっちゃ駄目よ!」

 

「あはは、なりませんよ。あんなクズ共」

 

「特にクリスちゃん、あいつらに嫌な事されたらいつでもお姉さんに相談しなさい! すぐ助けに行くからね!」

 

「はい、頼りにしてます」

 

 

クリスが歌姫や冥冥と初めて出会ったのは今から2カ月前。五条達に連れられ京都までやって来たのがきっかけだった。

 

その時に生意気な態度ばかりの五条達と異なり、驚くほど礼儀正しく尊敬の念を持って接する美幼女のクリスに、歌姫は一瞬で心を奪われた。

 

以来、私の事はお姉さんと呼んでと要望したり、たまに会う度に抱き着いて頬をスリスリしたりと、クリスに対してかなりぞっこんな様子である。

 

 

そんな歌姫とクリスの、微笑ましいのか危ういのかよく分からない光景を他所に、ニコニコ笑いながら冥冥が問いかけた。

 

 

「それはそうと君達……帳は?」

 

「「「「……あっ」」」」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

──翌日の朝。

 

 

『続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故。原因はガス管の経年劣化!? 現場の節アナウンサー……』

 

 

昨日の出来事が原因で、幾つもの報道陣が現場に駆け付けるニュースがテレビに流れている。

 

その画面を前にして、夜蛾が正座した4人に静かに問いかけた。

 

 

「この中に『帳は自分で降ろすから』と、補助監督を置き去りにした奴がいるな。そして帳を降ろし忘れた……名乗り出ろ」

 

 

五条がビシッと手を挙げ、夏油、家入、クリスの3人が静かに五条に指を向ける。

 

 

「先生! 犯人捜しはやめませんか!?」

 

「悟だな……指導っ!」

 

 

反省しろという意を込めて、夜蛾の愛の鉄拳が五条の頭上に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そもそもさぁ、帳ってそこまで必要? 別に一般人(パンピー)に見られたって良くね? どうせ呪霊も呪術も見えねぇんだし」

 

 

愛の鉄拳によるたん瘤の痛みが未だに尾を引く中、教室で駄弁っていた五条が不意にそんな事を言い出した。

 

 

「駄目に決まってるだろ。呪霊の発生を抑制するのは何より人々の心の平穏だ。そのためにも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ」

 

「というか、呪術師は万年人手不足で大変だーって言ってたの、他でもない五条さんじゃないですか。帳があれば結果的に呪術師の仕事が減って楽になるのでは……?」

 

 

五条の疑問にすかさず夏油が反論し、それに便乗する形でクリスも自分の意見を口にする。

 

ごもっともな反論だが、それでも五条はウザったく思ったのか、心底疲れたような顔で溜め息を吐いた。

 

 

「あーもう……ったく、分かった分かった。弱い奴らに気を遣うのは疲れるよ」

 

「そう言うなって。"弱者生存"、それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け強きを挫く。良いかい悟……呪術は非術師を守るためにある」

 

 

それでも夏油は一切めげず、何度も五条を窘めるように社会の在り方、引いては呪術の在り方を説いた。

 

泣いてる子供を落ち着かせるような優しい声と口調で、それでいて堂々と自信を持って断言する夏油。

 

そんな彼の姿にクリスは、流石は夏油さんだと惚れ惚れした目でじっと見つめていた。

 

 

「それ正論? 俺、正論嫌いなんだよね」

 

「……何?」

 

呪術()に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者がやる事だろ。」

 

 

それでも五条の琴線に触れる事はなく、馬鹿馬鹿しいと一笑に付した。

 

この瞬間、教室内が剣呑な空気に切り替わった事を敏感に察知したクリスは、また始まっちゃったかと思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

「ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねーよ、オ゛ッエー」

 

「……外で話そうか、悟」

 

「寂しんぼか? 1人で行けよ」

 

 

2人が本気でかち合う前に、家入は1人だけ颯爽と教室から逃亡していった。

 

 

「……よし、私も逃げるか」

 

 

それを見てクリスも今すぐ逃亡する事を決意する。

 

だが、丁度そのタイミングで夜蛾が教室に入って来た。悪くなっていた空気は一瞬で霧散した。

 

 

「おい、硝子はどうした?」

 

「さぁ?」

 

「便所でしょ」

 

「まぁいい、早速だが任務だ。これはお前達2人に行ってもらう。だからクリス、お前は硝子と一緒に高専(ここ)でお休みだ。良いな?」

 

 

今朝怒られたばかりなうえに、たった今大喧嘩が始まる直前だったため、2人は思わず微妙な表情になった。

 

クリスもクリスでいきなり待機を命じられたため、子供らしく頬を膨らませて駄々を捏ねる。

 

だがそんな事など関係ないと言わんばかりに夜蛾は無視し、任務の内容を告げた。

 

 

「正直荷が重いと思うが、天元様からのご指名だ」

 

「「ッ!?」」

 

「……?」

 

 

任務の依頼人の名を聞いて、クリスを除く五条達の表情が変わった。

 

 

「依頼は2つ。"星漿体"天元様との適合者……その少女の護衛と抹消だ」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

星漿体──それは呪術界の最重要人物である天元の存在を維持するため、500年に1度、彼女と同化する素質を持った人間の事である。

 

そもそも天元とは、存在そのものが日本の呪術界の基底とも言える存在であり、日本国内のあらゆる結界の強化・行使を行っている術師である。

 

不死の術式を持つ天元の歴史は1000年以上も前から続いており、現在も呪術界上層部を含む多くの術師から敬意を込めて「天元様」と呼称されている。

 

そんな呪術界の頂点たる天元の役に立てると言えば聞こえはいいが、実際は単なる延命(厳密には高次元体化の阻止)のために生贄にされる定めにある。

 

よって星漿体に任命された者は、呪術界、引いては日本の未来のためにその身を犠牲にする事を強いられるのだ──。

 

 

 

 

 

「と言っても、理解したところであまり実感の湧かない話だなぁ……」

 

「まぁしょうがないよ。500年に1度とか、1000前から続いてるとか言われてもねー。正直現実味のない話だし、私だってぶっちゃけそこまでピンと来てないもん」

 

 

五条と夏油が任務に赴き、一緒に行く事叶わず高専に取り残されたクリス。彼女は今、同じく待機中の家入と一緒に暇を持て余していた。

 

他愛もない会話で時間を潰す中、ふと今回の任務で思うところを口にした。

 

 

「それでも日本の未来のために同化か……国を存続させるためには仕方ない事かもしれないけど、そのために1人だけ犠牲になるのもおかしな話ですよ。

 だってその星漿体、まだ中学生の女子って話ですよね? 非力な少女1人の犠牲が無ければ生きられない私達が、何だか情けない存在に思えてきます」

 

「あまりそういう事を言わないでくれよクリスちゃん。私もその点に関しては思うところがあるんだからさ。5歳児の君にそれを言われちゃうと何も言えなくなる」

 

 

現在の呪術界の歪な体制に対してクリスに痛い所を突かれ、家入は何とも言えない表情で笑いながら流すしかなかった。

 

 

「おまけに呪詛師達に命を狙われてるのも酷い話です。確か……呪詛師集団『Q』と『盤星教"時の器の会"』でしたっけ?

 いい歳した大人達が寄ってたかって少女1人を殺しに来るってどこの世紀末やら……。あれ、今回の護衛任務って成功しようが失敗しようが、その少女が犠牲になるのは避けられない感じですか?」

 

「よしクリスちゃん、そこまでだ。それ以上深く考えるのはよそう。いつか耐えられなくなる」

 

 

少女の末路の想像が止まらないクリスの気を逸らそうと、家入が無理やり介入してきた。

 

その後、必死に話題を逸らしまくったおかげで何とかその場は有耶無耶に終わったが、クリスの心にはモヤモヤした複雑な感情がこびり付いていた。

 

昨年殺された星野アイとはまた違う、どう転んでも助かる道がない少女。果たして彼女を護衛している五条と夏油はどのような気持ちでいるのだろうか。

 

最強の2人がこれから取るであろう行動を予想し、注目するクリスだった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

家入とそのような会話をした次の日の夜。

 

学生寮で家入と一緒に寛いでいると、唐突に家入のスマホから着信音が鳴り響いた。

 

 

「はいもしもし……ああ、お前か。そっちはどう? ……へぇ、上手く行ってるみたいだね。そりゃ良かった。……うん、クリスもいるよ。ちょっと待ってね」

 

 

電話に出て相手と仲良さげに話す家入。それを見たクリスは、電話の相手が誰なのかすぐに分かった。

 

 

「クリスちゃん、五条から電話きた。今ビデオ通話にするけどあんたも何か話しとく?」

 

「はい、是非」

 

 

護衛任務真っ最中の五条からの電話。クリスが一緒に話さない道理はなく、家入からの誘いに2つ返事で了承した。

 

 

『やっほークリス、元気にしてるー? 俺ら今色々あって沖縄のホテルにいるんだけどー』

 

「沖縄!? それはまた遠い所まで……ん?」

 

 

早速画面を覗き込むと、画面には五条の他に見知らぬ女性2人が映っていた。

 

1人は学生服を着た少女で、頭に被った布が特徴的だ。もう1人の三白眼の女性はメイド服に身を包んでおり、五条と比べてそこまで年齢差は無さそうに見える。

 

 

相手の素性を知るまでもなく、学生服を着た少女が護衛対象の星漿体だと分かった。メイド服の方は星漿体の世話係か何かだと推測する。

 

 

「五条さん、隣にいる人ってひょっとして……」

 

『うんそう、このクソ生意気なガキンチョが星漿体の天内理子。んで隣にいるのがメイドの黒井さん』

 

『誰が生意気なガキじゃ失礼な奴め! 前々から言おうと思っておったが、妾に対する扱いが雑過ぎる!』

 

『お、お嬢様、落ち着いてください。他の部屋の方々の迷惑になります。五条様もそう煽らないで……』

 

 

煽る五条、荒ぶる天内、宥める黒井。

 

特に前者2人のやり取りから、今に至るまでに何やら悶着があったのは見て取れる。それでも互いに気の置けない関係を築いているようなので、そこまで心配する必要はなさそうだった。

 

 

「あれ、それじゃあ夏油さんはどこへ?」

 

『傑は今灰原と七海が泊まってる部屋にいるぜ。取り合えず3人ずつに別れてるの。最低でも1人は目の届く範囲に居ないと護衛が難しいしな』

 

「そっか。そう言えば七海さん達も任務に同行してましたもんね。それは残念……」

 

 

夏油は部屋に居ないと知り、ちょっとだけ名残惜しい気持ちになるクリス。

 

それにしても、どうしていきなりこちらに連絡を取ってきたのだろうか。明日が同化当日なので、気を引き締めておけよと警戒を促しに電話した可能性がある。

 

そう思っていると、五条がウキウキの笑顔で尋ねてきた。

 

 

『なあなあ、今そっち暇?』

 

「えっ? まぁ、暇といえば暇ですが……」

 

「何だ五条、要件があるならさっさと言ってくれ」

 

 

今まで家入と雑談ばかりしていたクリスは絶賛暇してる最中だ。時間はいくらでもある。だからクリスも家入もすぐに首肯した。

 

それを見た五条が満を持して言った。

 

 

『じゃあさ、今から俺らと一緒にマリカーで遊ぼうぜ!』

 

「えっ、今からマリカー!?」

 

『そだよー。そっちにもソフトはあるでしょ。だから今すぐやろうぜ。勿論オンライン対戦でな!』

 

「……良いじゃん、面白そうで。よしやろう。言っとくけど私、あんたに手加減とかしないから」

 

「じゃあ、家入さんがやるなら私もやりますね」

 

『おっ、何じゃ? そこにいる小さな子もマリカーに参戦するのか? ふむ……何だか面白くなってきたな! のう黒井?』

 

『ええ、そうですねお嬢様』

 

 

天元と星漿体の同化、その前日の夜。

 

沖縄と東京というかけ離れた地にいる者達総当たりの、一夜限りのオンライン対戦が始まった。

 

 

 




原作だと2006年だからガラケーしかなかったけど、本作は推しの子の時間軸で進んでるからタブレットもスマホも存在するし、手軽にゲームのオンライン対戦も勿論できる。
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