呪術の子   作:メインクーン

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入学初日から教室をぶっ壊して(ぶっ壊したのは担任)グラウンドをぼろぼろにするクリス。

カオスな日々を送る呪術高専側の一方で、アクアとルビーは芸能の世界へ本格的に踏み入る事に……。



それぞれの活動

いきなり五条悟との戦闘という、波乱万丈な入学初日から数週間後。

 

五条との戦闘は結局、騒ぎを聞いて駆け付けた夜蛾校長に止められ、2人揃って愛の鉄拳制裁を食らうという形で幕を閉じた。

 

そして、頭の天辺にぷっくりと膨れ上がったたんこぶの痛みがようやく引いてきた中、今日もクリスは特級術師として呪霊を祓っていた。

 

 

「術式順転『望速(ぼうそく)』ッ!!」

 

「グギャアアアアアアアアッ!!」

 

 

特に危な気もなく祓われ、塵となって消えていく呪霊。

 

その様子を最後までしっかりと見届けると、クリスは思い切り背伸びして身体を上下左右に曲げた。

 

仕事を終えた後にいつも行うストレッチである。

 

 

「んー、今日のお仕事終わりー! さーて、後は寮に戻ってゆっくり休みますかねぇ! もうすっかり外も暗くなって、帰る頃合いとしてはベストだし。

 いやぁ、それにしてもさっきの呪霊はちょいとタフだったかな? 僕の初撃を耐え切った呪霊は久しぶりだよ。流石は特級呪霊といったところだね」

 

 

先程の戦闘を振り返り、祓った呪霊に対して珍しかったと感想を溢す。

 

 

────本日のクリスの任務は、離れ小島にある神社を根城とする呪霊の討伐。

 

東京から南へ数百km離れたその島には嘗て村があり、多くの人々が生活を共にする至って普通の場所だった。

 

しかし、第2次世界大戦による血みどろの争いの煽りを受けた結果、その村は壊滅。戦後から10年と経たない内に無人島と化した。

 

それから数十年の間は放置されていたのだが、最近になってその島の近くに位置する別の島の住民が、次々と神隠しに遭い行方不明になる事件が発生。

 

被害者数が10人を超えた辺りで事件を認知した呪術界が、被害に遭った島近辺を調査した結果、近くにある無人島の神社に原因の呪霊が存在する事を確認した。

 

そして更なる調査の末、特級相当の呪霊である可能性が非常に高くなったために、今回特級術師の1人であるクリスに討伐の任務の話が回ってきたのであった。

 

 

「まあ、いくら初撃を耐えたところで反撃出来なきゃ意味無いか。戦闘が始まって1秒で消滅しかける様だとねぇ……2撃目で完全に祓っちゃったけど、初撃だけでも肉体を保てなくなってすぐ消えてたかもね。今更だけど」

 

 

しかしいくら特級が相手でも、生半可な実力を持った呪霊ではクリスの足元にも及ばない。

 

先程クリスが呟いたように、最初の一撃を耐えた程度では到底勝ち目は無い。そこから術式を用いて反撃するなり逃亡するなりしないと、一瞬で祓われてしまうのがオチなのだ。

 

 

「よし、帰るか。ほほいのほいっと!」

 

 

こうして、たった数秒で特級呪霊の討伐任務を終えたクリスは、高専へ戻るために瞬間移動でその場を後にした。

 

 

 

 

 

────任務を終えた翌日。

 

朝食を済ませ、呪霊討伐の詳細報告を呪術界総監部にした後、クリスは高専に戻って授業に参加していた。

 

とはいえ、高専で行う授業とは単なる座学の事ではない。呪術師育成機関で行う授業とは即ち、戦闘訓練である。

 

 

「金ちゃん、綺羅羅ちゃん、こっちはいつでも良いよ! 全力で掛かっておいで!」

 

「そんじゃお言葉に甘えさせてもらうぜ。綺羅羅も良いな? ゲロする準備はよぉ!」

 

「良いけどさ金ちゃん、ゲロとか言わないでよ、汚いじゃん。はぁ、何で私までクリスちゃんと戦う事に……特級と戦闘訓練とか普通に嫌なんだけど」

 

 

校舎から離れた場所に位置する訓練場に、1年生の3人が集って向かい合う。

 

入学初日からいきなり特級術師の称号を与えられたクリスに対し、実力が未知数な秤と綺羅羅の2人組で挑むという分かりやすい構図が形成されている。

 

ちなみに担任の五条は、本日急な任務が入ったため高専にいない。そのため必然的に、1年の中で最も実力と戦闘経験があるクリスが2人の相手をする事になった。

 

 

「大丈夫だって綺羅羅ちゃん、僕の方は術式の使用禁止縛りだから大分マシになるとは思うよ? それなら2人もすぐには倒れないだろうしさ!」

 

「おい待て、ナチュラルに俺らの負けにしてんじゃねぇ。そういうのは実際に勝ってから言えや」

 

「おっと、そうだったね。じゃあ早く始めようか」

 

 

あまり乗り気ではない綺羅羅を励ますと見せかけて、極自然に2人を煽り散らかすクリス。

 

すかさずツッコむ秤のこめかみに若干血管が浮かび上がるも、それを一切気にせずクリスは拳を握り締め、腰を低くした。

 

それに合わせて2人も身構える。

 

 

「……よーいドンッ!」

 

「よっしゃ掛かって……ぐほぉっ!?」

 

「えっ、ちょ、速過ぎ……ぐえっ!?」

 

 

しかし、勝負は一瞬で終わった。

 

クリスの動きに合わせて即座に術式を使い、対応しようと考えていた秤と綺羅羅だったが、対するクリスが取った戦法は非常にシンプルな物だった。

 

相手が術式を発動するよりも速く、不可避の速攻で一気に畳み掛ける。これだけである。

 

失敗した時の事など一切考えない。相手が何かするよりも速く倒してしまえば良い。その思い切りの良さがクリスを勝利に導いた。

 

正に脳筋。ゴリラもびっくりなゴリラ戦法である。

 

 

「ごめんねー、結構隙だらけだったからつい……ってあれ? おーい、2人とも意識あるー?」

 

「……あるけど、しばらく立てねぇわこれ」

 

「……うん。もう少しさ、加減してよね」

 

「そうは言っても殴る力は調整したんだけど……いやまあ、そうだよねー。ごめんごめん、次はもう少し手加減して相手するからさ!」

 

 

もの凄く吐きそうになったが、何とか根性で吐き気を抑え込んだ2人。代わりにダメージが大き過ぎてその場に倒れ、しばらく動けなくなってしまう。

 

クリスも謝罪の言葉を口にするが、その軽い口調から全く気持ちが籠もっていない事が分かる。

 

その能天気な態度にイラッとした2人は、いつか絶対に吠え面をかかせてやると誓うのであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

所変わって、苺プロの事務所内にて。

 

この日、新人アイドルの星野ルビーと有馬かなの2人は、事務所内ですっかり暇を持て余していた。

 

ルビーの兄の星野アクアは、現在恋愛リアリティーショーの『今からガチ恋始めます』という番組に出演中で不在。

 

そんな中、駆け出したばかりの無名の新人アイドルに仕事なんてあるはずもなく、ルビーはその事実を前に少々焦りを感じていた。

 

 

「……ねえ先輩、仕事無いの慣れてるでしょ? 普段何して過ごしてたの? 教えて」

 

「顎にジャブ入れて脳揺らすぞコラ」

 

 

開口一番から失礼な物言いのルビーに、有馬の強烈なツッコミが間髪入れずに返ってくる。

 

 

「……ったく、暇なら勉強してなさいよ。アイドルなんて売れても食えないうえに旬の短い仕事なんだから、良い大学入る為に何かした方が人生にとってプラスよ」

 

「身も蓋もない……何か今出来る事は無いのかな?」

 

「新人アイドルの仕事って、ライブハウスで歌って躍って、たまにメディアの仕事受けたり……みたいなものでしょ? 

 でも私達は持ち曲も無ければユニット名も未定。今の時点で何が出来るっていうのよ?」

 

「でもでも、ユニット名がまだなのは先輩がごねるからじゃん!」

 

「だって、名前付けたらもうマジでしょ……私まだアイドル名乗る踏ん切りが付いてないっていうか……」

 

 

新人アイドルでも出来る事を模索するルビーに対し、未だにアイドル活動をするモチベーションが湧かない有馬が言い合う。

 

アクアに説得され、そのまま押し切られる形で苺プロと契約を交わしてしまった有馬にとって、これまで積み上げてきた役者人生とは全く違う分野に足を踏み入れる事に躊躇していた。

 

だからこそたった2人のアイドルグループは、結成から数週間たった今でも代わり映えのない日々を過ごしていた。

 

挙句の宛てには「実績の無い自称アイドルとか恥ずかしい!」みたいな事を叫んで頭を抱える始末。

 

有馬のこの嫌がり様にはルビーもほとほと手を焼いていた。

 

しかし、ここに来てようやく助け舟が入る。

 

 

「実績があれば踏ん切りが付くのかしら? なら実績を作りましょう」

 

 

苺プロの現社長、斎藤ミヤコ。

 

星野アイが殺害され、それが原因で失踪した斎藤壱護元社長に代わり、10年以上かけて苺プロを建て直した敏腕社長。

 

そして、残されてしまったアイの子供達を今日まで育て上げた、頼れる第二の母親でもある。

 

そんな彼女がビデオカメラを片手に、2人にとある案をもたらした。

 

 

「今のアイドルカルチャーの中心はネット。草の根活動するにもここが一番コスパが良い。だから、あなた達はまずネットで名前を売るところから始めましょう」

 

「つまりユーチューバーって事?」

 

「そう。動画配信で固定客を作って、ライブに人を呼べば効率が良いでしょ?」

 

「おおー! ミヤコさん賢い!」

 

「ええー……」

 

 

アイドル活動を本格的に始める前に、知名度を上げるための動画配信を勧めるミヤコ。

 

この提案にルビーは目を輝かせ、有馬はそんなに上手くいくものかと半信半疑な様子。

 

しかし、苺プロは経営を建て直すために逸早くネット活動に力を注ぎ、今では多くの人気動画配信者を抱えるネットに強い事務所であるため、現在手詰まり状態の2人にとっては渡りに船な提案だった。

 

それに加え、ミヤコが2人のために協力してくれる助っ人を呼んでくれた。

 

 

「ヤア、2人とも! 今日はヨロシクね!」

 

「へ、変質者だぁー!!」

 

「ちょっと先輩、いきなり失礼でしょ! 覆面筋トレ系ユーチューバーのぴえヨンをご存じない!?」

 

「何そのジャンル!? 初耳なんだけど!」

 

 

ミヤコの紹介でやって来た、海パン一丁でひよこを模した覆面を被っている男、ぴえヨン。彼の登場に絶叫する有馬だったが、平然としているルビーの対応にツッコみが止まらない。

 

とはいえ、実は年収1億を超える超大物ユーチューバーの協力というのは想像以上に大きなものである。

 

今の2人にとって、これほど頼りになる助っ人は中々存在しない。

 

そんなぴえヨンがふと意外そうな口ぶりでルビーに尋ねた。

 

 

「おや? そう言えばクリスちゃんはいないのかい? ルビーちゃんがアイドルやるって話を聞いた時は、てっきり彼女もアイドルやると思ってたんだけどネ」

 

「あー、それがねぴえヨンさん、聞いて! 私、一緒にアイドルやろって何度も誘ったんですよ? でもクリスはあまり芸能界に興味なくて、私達とは別の高校に行っちゃったんだぁ……」

 

「なるほど、それは残念だったね。クリスちゃんは歌もダンスも超上手いから、アイドルになれば大成功すると思うんだけどねぇ……まあ、興味ないならしょうがないよ」

 

「でも私はまだ諦めてませんから! 私のダンスとクリスの歌ならきっと凄いアイドルになれると思うんです! 今度帰ってきたらもう1度誘ってみようと思います!」

 

 

ぴえヨンの疑問にルビーが少し残念そうな表情で答えた。

 

苺プロに長く所属するぴえヨンは、アクアやルビーと同様にクリスともかなり交流が多い。そのため、クリスがどれだけアイドル向きの容姿と能力を兼ね備えているかを理解していた。

 

前述の通り、基本的にクリスは才能の塊であるため、ダンスはもちろん歌も上手に歌える。少なくとも音痴のルビーとは比較にならない。

 

そのため、ルビーは何度もクリスをアイドルの道へ誘った事があり、今でもクリスの事を諦め切れていない。

 

クリスが居ない事に対し、ぴえヨンがつい疑問に思ってしまったのも当然の結果だった。

 

 

「……ねえ、ちょっと、私を放って2人だけで盛り上がらないでくれる? さっきからちょくちょく出てるクリスって誰よ? 新しいメンバーかしら?」

 

「クリスは妹だよ。お兄ちゃんと私の妹で末っ子。私達は3人兄妹なんだ。あれ、先輩聞いてなかったっけ?」

 

「聞いてないわよそんな事……って、あー、思い出したわ。映画の撮影で初めて会った時、もう1人物静かな子がいたわねそう言えば*1。あの子がそんなに凄いなら、私を誘う必要無かったんじゃないかしら?」

 

「そんな事はない! 先輩がいるからこそ、こうしてアイドルへの第一歩を踏み出せたわけだし! 先輩を誘った事には()()()()()()()()()()って私は思ってる!」

 

「…………あっそ。それなら、まあ、分かったわよ。じゃあさっさと話進めましょ」

 

「はーい!」

 

 

ルビーの発言に何やら思うところがあったのか、それ以降の有馬はとても静かで、話は非常にスムーズに進んだ。

 

知名度を上げるためのコラボ企画を行う事になり、どのような内容にしようか3人で色々と話し合った。

 

その結果……。

 

 

 

 

 

「ぴえヨンブートダンス! 1時間ついてこれたら素顔出してヨシ!!」

 

(いやきっっっっつ!!)

 

 

ルビーの言葉に少しだけ心を動かされ、ついついその場の雰囲気に流されてしまった事を早速後悔する有馬かなであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして、2人が新生「B小町」を立ち上げてから更に数週間後。

 

 

「はぁー…………あっっっつ。何で僕がこんな所に……今すぐ帰ってアイス食べたい……」

 

 

クリスは現在、アフリカにいた。

 

 

 

*1
第1話参照。高校生になった今と違い、クリスは元々喋らない子だった。




兄は恋愛リアリティーショー、妹は先輩と共にアイドル活動、そして末っ子は単身アフリカへ。

あと、もしかしなくてもクリスは脳筋です。秤と綺羅羅を伸した時のスピードが覚醒真希クラスだったと言えば、クリスの脳筋度合いが分かるはず。

当然のように水面を駆け抜け、(くう)を蹴って飛ぶ事も可能。

正にゴリラ。ゴリラ廻戦を体現したゴリラの1人。

ちなみに、術式を使えば桁違いに速くなります。
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