呪術の子   作:メインクーン

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前回:
五条「こいつら全員殺すか」

クリス「盤星教の連中は鏖殺してやる」

夏油「いい、意味がない」



玉折 ①

星漿体護衛任務の失敗から1年が経過した。

 

天内達との死別や盤星教の連中の醜さを目撃したショックからようやく立ち直り、クリスは修行を重ねて順調に実力を伸ばしていた。

 

そんな中、とある夏の日にて。

 

 

「いっくよー」

 

「準備は良いですかー?」

 

 

高専内にて、五条から少し離れた位置にクリス達が立つ。3人の手にはそれぞれ消しゴム、ペン、石ころが握られている。

 

 

「OK、いつでも来い」

 

「それ!」

 

 

合図と共に3人同時に投げられたそれらは、消しゴムを除いて五条の目の前で静止した。

 

 

「……うん、いけるね」

 

「げっ、何今の?」

 

「術式対象の自動選択か?」

 

「そう。正確に言うと術式対象は俺だけど」

 

 

曰く、今までマニュアルで張っていた無限をオートマに変更したとの事。呪力の強弱のみならず、質量・速度・形状からも物体の危険度を選別しているらしい。

 

これにより、最小限のリソースで無下限呪術を発動したまま日常を送れると五条は言った。

 

 

「出しっぱなしなんて脳が焼き切れるよ」

 

「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ」

 

「そっか。五条さんには六眼があるから呪力切れが無いのか。それかなり強いですよね。私もどうにかして出来ないかな?」

 

「クリスの術式は時間を操れるから、ワンチャン拡張術式次第で化けるかもな。今でも十分ヤベーけど。もう1級術師と良い勝負できるんじゃね?」

 

「そうですかね? 私、冥冥さんと戦えって言われても勝てる自信無いですよ」

 

「行ける行ける。そもそも6歳の時点で1級とやり合える可能性あんのが凄ぇから」

 

 

五条悟は最強になった。

 

護衛任務の際、呪力の無い謎の男との戦いに敗れて瀕死の重傷を負った彼だが、死に際で呪力の核心を掴んだ事で反転術式を習得、現代最強として覚醒した。

 

今では術式順転と術式反転を同時に使いこなし、今後は領域展開と瞬間移動の習得に専念するとの事。

 

一方でクリスは術式反転を未だに習得できていないので、まだまだ課題は山積み状態。それでも五条が言ったように、6歳にして1級術師に届き得るスペックを身に付けている。

 

少なくとも歌姫よりは強いという評価だ。

 

 

「傑、ちょっと痩せた? 大丈夫か?」

 

「……ただの夏バテさ。問題ないよ」

 

「ふーん……ソーメン食い過ぎた?」

 

「単純に忙しくて疲れたからじゃないですか? 五条さんも夏油さんも特級術師になってから単独任務が一気に増えましたし」

 

 

この1年間で変わった事がある。

 

五条が最強になった事は言わずもがな、五条と夏油が遂に特級術師に認定された。とはいえ特級は他の等級と違い、称号ではなく烙印の様なものであるが。

 

それでも国家を揺るがす絶大な力を有している事の証明にもなる。その実力を買われ、現在2人は各々全国を飛び回ってその力を存分に振るっている。

 

以前のように二人三脚ではなく、単独任務が多くなったのは少し寂しく思うが、立場が変われば環境も変わるのは仕方がないと言えるだろう。

 

 

2人の関係は依然良好で、五条も夏油も呪術師として獅子奮迅の活躍を見せている。クリスも2人の事を弟子として誇らしく思っていた。

 

 

「よっし、それじゃあ修行再開するか! まだまだ時間はあるからな」

 

「すまないが私は抜けるよ。この後任務があるからね。もうそろそろ補助監督の迎えが来る時間だ」

 

「えー、マジで? そりゃ残念……じゃあクリス、今日は俺と1日中修行するぞ」

 

「はい、是非お願いします。ちなみに今日はどんな修行をする予定で?」

 

「うーん、そうだなぁ……今日は領域対策でも教えとくか。簡易領域見せるからそれの習得に頑張ってくれ。そしたらいつか俺が領域展開を習得した時の相手になれるし」

 

 

しれっととんでもない事を宣っているが、それを2人が知るのはもう少し後の事である。

 

 

「それじゃあ皆、また明日」

 

「おう、行ってら傑」

 

「お気を付けて、夏油さん」

 

「怪我したらまた治してやるからなー」

 

 

こうして時間は過ぎ、各々が思い思いの日々を過ごしていた。誰1人として夏油の異変に気付く事なく。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

それから更に1週間後の事。

 

 

「おーい傑、もう花火大会始まってるから早く行こうぜ。待ちくたびれたー」

 

「行きましょう夏油さん。皆さん待ってますよ」

 

「分かった分かった、今準備してるからもう少し待ってくれ」

 

 

本日は都内で大きな花火大会が開催される日。

 

既に浴衣に着替えて準備万端な五条達に促され、夏油は皆と一緒に花火大会の会場へ向かった。

 

 

「いやー、やっぱこういうのは良いね! このクソうるせー感じが祭りの醍醐味だよな」

 

「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしろ。つか、煩いのはお前もだろ」

 

「家入さん、それは皆思ってる事ですけど口にしたら五条さんが傷付きますよ?」

 

「クリス……お前も俺に対して段々遠慮が無くなってきたよな」

 

 

大勢の人が集まって喧騒に包まれる祭りの場で、楽しく談笑しながら会場内を練り歩く。

 

色んなものを食べ歩きながら、時にはその場に居座ってだらだらしたり、射的ゲームで無双し店主から出禁を勧告されたりと、彼らなりに一夜の思い出を作っていく。

 

その中でもやはり一番の目当てはこれだ。

 

 

「あー、これこれ。やっぱお祭りといえばカキ氷っしょ。これが無いと楽しさ半減っつーか?」

 

 

屋台で買ったカキ氷を頬張りながら、五条は笑顔で感想を口にした。

 

 

「良いですよねー。私はブルーハワイを選びましたけど、夏油さんは何味にしたんですか?」

 

「私はイチゴ味にしたよ。悟もブルーハワイにしたから、どうせなら色違いにしようと思ってね」

 

「家入さんはメロン味でしょ? 私と五条さん以外は皆違うシロップですね」

 

「つっても味はほぼ一緒だけどねー」

 

 

クリス達もカキ氷を食べて、冷えて頭痛がする頭を抑えながらワイワイ騒ぎ立てる。

 

そんな彼らの後ろ姿を眺めながら、ここへ強制的に連れて来られた七海はカキ氷を片手に溜め息を吐いた。

 

 

「まったく、相変わらず騒がしすぎる。というか、私はそろそろ寮に帰りたいのですが……」

 

「まぁまぁ七海、そんな悲しい事言うなって。僕は今超楽しいよ。こうして皆と花火大会に行けたんだからさ。七海も一緒に楽しもうよ!」

 

「……まぁ、灰原がそう言うならもう少しだけ回っておきますか」

 

 

早く帰りたいと何度も愚痴を零していたが、屈託のない純粋な笑顔を浮かべる灰原を前に、渋々ながらも帰るのはもう少し後にしようと思う七海であった。

 

 

──それからも思い思いに祭りの時間を堪能していき、遂に本日のメインイベントを迎えた。

 

 

『3! 2! 1! たーまやー!』

 

「「たーまやー!」」

 

 

都会の光で明るく輝く夜空に、更に明るい色とりどりの光が綺麗な花を咲かせる。

 

その瞬間に合わせ、五条とクリスは大きな声で定番の掛け声を発した。他の皆はその2人を微笑ましく見つめている。

 

 

「出会った頃は物静かで大人しかったクリスも、今じゃあんなに騒ぐようになったか。ははっ、マジおもしれ―」

 

「そうだね……随分変わったと思うよ」

 

「このまま五条さんに毒されなければ良いのですが。そこだけ心配ですね」

 

「分からないよー? クリスちゃんくらいのお年頃は色んな人の影響を受けやすいからね。僕の妹もそんな感じだったし」

 

 

2年前に出会った頃の彼女と見比べても、随分と明るくなったと言える。

 

勿論良い思い出ばかりではなく、紆余曲折あった。それでも彼女は順調に強くなって、見違えるほど逞しくなった。このまま行けば最強達と肩を並べられるだろう。

 

なんて事を思いながら打ち上がる花火を眺めていると、例の2人がすり寄ってきた。

 

 

「何々、皆してどうしたの?」

 

「何やら4人でコソコソ話してたみたいですけど、何を話してたんですか?」

 

 

4人の会話が気になって首を傾げる2人へ家入が代表して教える。

 

 

「大した事じゃないよ。クリスが出会った頃と比べて随分変わったなーって話。性格とか強さとか色々ね」

 

「あー、なるほどね。確かに最近のクリスは俺に対して遠慮が無くなってるもんな。酷い話だぜ」

 

「それに関しては五条さんの自業自得でしょう。むしろそれでもあなたを師事してるクリスさんの方が優しいかと」

 

「ああん?」

 

「まあまあ五条さん、落ち着いて」

 

 

七海の鋭いツッコみにドスの効いた声で睨み付ける五条だったが、睨まれた当人はあっさりスルーしてそっぽを向いた。

 

その2人を灰原が間を割って仲裁する中、クリスは夏油の隣に座って顔を見上げた。

 

 

「そういう話でしたか。確かに改めて振り返ると、私も結構変わったなって自覚があります」

 

「そうかい? それは良かったよ。これも悟のおかげだね」

 

「あなたのおかげでもあります、夏油さん」

 

 

夏油の言葉に頷いて肯定しつつも、夏油の顔をじっと見つめてクリスは言った。

 

 

「今こうして呪術師として強くなろうと頑張れるのも、色んな所で夏油さんが寄り添ってくれたからですよ。五条さんも恩人ですが、あなたも私にとっては計り知れない恩人です」

 

「…………」

 

 

訥々と語られるクリスの想いを、夏油は黙って傾聴する。

 

 

「私、嬉しかったんです。呪術師を目指すきっかけを話したあの時、夏油さんが心から寄り添ってくれて。私の知らない私を教えてくれて。

 今思えばあの言葉があったからこそ、私はここまで邁進する事ができたと思うんです」

 

 

2年前のあの日、家族の話になって暗い気持ちになっていたクリスを救ってくれたのが夏油だった。

 

あの時のクリスが欲しくてたまらない言葉を掛け、優しく寄り添って励ましてくれた。五条ではこうもいかなかっただろう。まさに夏油だからこそ生まれた結果だった。

 

だからこそ、クリスは夏油の事を心から慕っている。

 

 

「本当にありがとうございます。私、これからももっと頑張りますね。だから見ててください。いつか五条さんと夏油さんの隣に立てるくらい、強くて優しい呪術師になってみせますから!」

 

 

これまでの感謝とこれからの抱負を胸に、改めて壮大な目標を夏油に宣言した。

 

殆ど者はこれを聞いて鼻で笑うだろう。しかし、クリスの目覚ましい急成長を間近で見続けた夏油は、僅かに翳りのある優しい笑みを浮かべた。

 

 

「……うん、ずっと見てるよ。大丈夫、クリスちゃんなら悟のように強くなれるさ。きっとね……」

 

 

この時の彼の心境はどのようなものだったのか。花火大会という非日常の中でのやり取りに一瞬だけ見せた違和感に、クリスは気が付かない。

 

気が付かなかったからこそ、彼女は自身の本心を夏油に直接伝える事ができた。

 

 

「ありがとう夏油さん! 大好き!」

 

「ああ、そう言ってくれて嬉しいよ……」

 

 

それが相手にとって、一方的な感情の告白になっているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

更に数日が経過した。

 

 

「へぇー、じゃあ明日の任務は結構遠出ですね。帰って来るのは3日後とかになりそうですか?」

 

「そうなんだよ。あっ、お土産買ってこうと思うんだけど、クリスちゃんは甘いのとしょっぱいのどっちが良い?」

 

「甘い方ですかね。最近大福にハマってて……」

 

「良いよね大福、僕も好き。じゃあそれ系の物を中心に買ってくるね」

 

 

廊下ですれ違った灰原と一緒に雑談しながら校内を練り歩くクリス。明日から七海と一緒に遠方の地へ任務に赴くとの事で、その事を中心に話していた。

 

 

「おおー、ありがとうございます! 帰ってきたら皆で一緒に食べましょう!」

 

「だね! 皆で分け合って食べる大福はきっと美味しいと思うよ!」

 

「でもまずは任務から無事に……あ、夏油さん!」

 

 

歩きながら話していると、高専内にある数少ない自販機の前のベンチに夏油が座り込んでいた。

 

それに気付いたクリスが声を掛けると、向こうも気付いたのか笑顔で手を振ってくれた。

 

 

「クリスちゃん、それに灰原も……」

 

「「お疲れ様です!」」

 

「2人とも、何か飲むかい?」

 

「えっ、悪いですよ……コーラで!」

 

「私はリンゴジュースを!」

 

「ふふっ……」

 

 

夏油が気前よくジュースを奢ってくれるので、2人とも遠慮なく飲みたい物を注文した。

 

それを飲みながら3人で先程の話を繰り返す。

 

 

「明日からの任務、2人で頑張れよ」

 

「はい、七海にも伝えておきます。ちなみに夏油さんは甘いのとしょっぱいのどっちが良いですか?」

 

「お土産の話だね。悟も食べるかもしれないから甘いので頼むよ」

 

「あっ、クリスちゃんとほぼ同じ返答だ! この子もさっき『皆で食べたいから甘いので』って言ってたんですよ」

 

「へぇ、クリスちゃんは凄く優しいね」

 

「えへへ……」

 

 

大好きな夏油と同じ回答なうえに、本人から直接褒められたクリスはすっかりご満悦な様子だった。

 

その笑顔に微笑み返しつつ、夏油は真剣な顔になって灰原に尋ねた。

 

 

「……灰原、呪術師やっていけそうか? 辛くないか?」

 

 

質問した時に見せた夏油の表情がやけに暗そうに見えたのは果たして偶然か。

 

クリスは一瞬だけ違和感を覚えたが、最近忙しくて夏バテ気味だった話を思い出し、多忙で疲れているのだろうと1人で勝手に納得する。

 

そんな事を考えていると、質問された灰原が数瞬考えた末に口を開いた。

 

 

「そうですね……自分はあまり物事を深く考えない性格なので、自分にできる事を精一杯頑張るのは気持ちが良いです!」

 

「……そうか」

 

 

灰原らしい、明るく前向きな答え。

 

それを聞いた夏油は一瞬目を見開いたかと思うと、妙に納得した様子で頷いた。その表情は幾分か柔らかくなったように見える。

 

クリスも灰原の真っ直ぐな考えを聞いて素直に感心していると……、

 

 

「君が夏油君? どんな女がタイプかな?」

 

 

仲良く3人で話し合っているところへ、突如見知らぬ女性が割って入ってきた。

 

金髪ロングの長身で、誰が見ても見惚れる理想的なスタイルをしている。そんな人が堂々とした佇まいで3人の前に立った。

 

おかしな質問を投げ掛けて。

 

 

「どちら様ですか?」

 

 

当然、夏油も警戒心を高めて女性に聞き返す。

 

 

「自分はたくさん食べる子が好きです!」

 

「灰原……」

 

 

が、灰原が屈託のない笑顔ではっきりと答えた。これには夏油も呆れるばかりだった。

 

 

「大丈夫です、悪い人じゃないですよ。人を見る目には自信があります」

 

「……私の隣に座っておいてか?」

 

「? ……はい!」

 

「あっはっは! 君、今のは皮肉だよ」

 

 

人を一切疑わない灰原の言葉に、夏油が自嘲気味に言葉を返すも伝わらなかったようで、それを女性は豪快に笑い飛ばす。

 

本当に誰だろうと思っていると、今度はクリスの方に視線を向けてきた。

 

 

「じゃあそこのお嬢ちゃんはどうかな? どうして子供がここにいるかは置いといて、君はどんな人がタイプだい?」

 

「私は夏油さんがタイプです!」

 

 

女性に好みの相手を聞かれ、クリスは一切包み隠さず夏油だとはっきり告げた。夏油の様な人ではない。夏油()好みなのだ。

 

あまりの即答ぶりに夏油は驚いて目を見開くが、灰原と女性は「わーお!」とでも言いたげな良いリアクションを見せた。

 

 

「あっはっは、良いねぇ君! そこまではっきり即答するとはいっそ清々しいよ」

 

「へぇー、クリスちゃんは夏油さんが好きなんだ。その気持ち、僕は応援してるよ!」

 

「ちょ、灰原……はぁ、参ったね」

 

「えへへー」

 

 

緊張感のある空気が完全に消え去り、3人のテンションに1人取り残された夏油は困ったような顔で溜め息を吐いた。

 

 

──その後は「夏油君と2人きりで話したい事がある」と女性に言われ、クリスと灰原はまた校内をウロウロと歩き回る事になった。

 

 

「いやー、クリスちゃん結構攻めたね。まさかあんなストレートに好きって言うとは思わなかったよ」

 

「あはは、つい反射的に答えちゃいました。ちょっと浮かれちゃってますね、私」

 

 

今になって恥ずかしそうに照れるクリスだったが、優しい灰原は親指を立てて頑張れと純粋に応援してくれた。

 

そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、遂に任務へ赴く時間が訪れる。

 

 

「それじゃあクリスちゃん、お土産買ってくるから皆で一緒に食べようねー!」

 

「はい、どうかお気を付けて! 七海さんもお仕事頑張って!」

 

「ええ、出来るだけ早めに帰ってくるつもりです。そちらこそ夜更かしは程々に……では」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 

夕方になり、灰原と七海は補助監督が運転する車に乗って遠方の地へ赴いた。

 

そんな2人の背後から、笑顔で手を振って見送るクリスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それから3日後の夜。

 

 

「……何て事はない、2級呪霊の討伐任務のはずだったのに……クソッ!!」

 

 

高専敷地内のとある一室で、いつも冷静沈着な七海が珍しく感情を爆発させ、近くにあった椅子を蹴り飛ばした。

 

彼の姿は酷くボロボロで、顔には包帯が何重にも巻かれ、至る箇所から血を流した跡もあり傷だらけである。

 

 

「産土神信仰……あれは土地神でした。1級案件だ……!」

 

 

どうして七海がここまで取り乱しているのか。その理由は彼の目の前で静かに横たわる者にあった。

 

 

「灰原さん……」

 

「…………」

 

 

室内にはクリスと夏油も駆け付けており、目の前の台の上で横たわる灰原を見て酷くショックを受けていた。

 

灰原は七海よりももっと酷い傷を負っており、顔に鋭利な刃物で切り裂かれた痛々しい跡がある。

 

更に体全体に覆い被さった白い布を捲ると、腰から下の下半身が消失していて、そこからズタズタに切り裂かれた臓物が無造作に飛び出ていた。

 

恐らく呪霊に一刀両断されたと思われる。

 

 

「……今はとにかく休め、七海。任務は悟が引き継いだ。クリスちゃんもこれ以上見るのはよして、今日は早く寝た方がいい」

 

「はい……」

 

 

悲しみに暮れる2人を落ち着かせるため、夏油は2人に休息を言い渡した。

 

そんな夏油に対し、唯一の親友とも呼べる灰原を喪って心が荒んでいた七海は、思わずぼそりと呟いた。

 

 

「……もう五条悟(あの人)1人で良くないですか?」

 

「…………」

 

 

その一言を聞いてしまった夏油がどう思ったのか。それは正確には分からない。

 

だが確実に、何気なく呟かれたその言葉は呪いの様に、夏油の心に深く刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そして8月が過ぎた頃、遂に誰も予期せぬ最悪の事件が起こった。

 

 

「落ち着いて聞いてくれ……傑が任務先の集落の人間を皆殺しにして、その後行方をくらませた」

 

「「……はっ?」」

 

 

記録 20XX年9月。

 

任務概要──村落内での神隠し、変死、その原因と思われる呪霊の祓除。

 

担当者(高専3年 夏油傑)派遣から5日後、旧□□村の住民112名の死亡が確認される。

 

全て呪霊による被害と思われたが、残穢から夏油傑の呪霊操術と断定。夏油傑は逃亡。

 

呪術規定9条に基づき、夏油傑を呪詛師と認定。以後、同人を処刑対象とする。

 

 

 




クリスの過去編はあと1,2話くらいで終わる予定。そしたら第4章。


※おまけ
簡易領域を習得したクリスが五条の領域展開の相手になったのは2年後の8歳の時。修行の一環で五条の領域を受け、その際誤って必中効果を0.2秒だけ食らった。

三日三晩植物状態になった。
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