呪術の子 作:メインクーン
ルビー「コスプレして取材受けて」
五条「クリスのコス見てみたいなー」
クリス「しょうがないなぁ!」
1週間後、クリス達はコミケの会場に集った。
「遂に来たね、コミックマーケット! さあ、コスプレして五条先生を欲情させてやろうじゃないか!」
「女の子があんま『欲情』なんて言うもんじゃないよ、クリス」
クリスとルビーは支給された衣装に着替えるべく、会場内のコスプレ専用の更衣室に入った。
「はぁ……クリスだけならまだしも、五条悟まで来るとか何かの悪夢でしょ。取材の邪魔してこなければ良いけど……」
「でも姉さん、パンダも来るって知った時は嬉しそうだったじゃん」
「だってパンダ君、モフモフしてて可愛いもん」
今日コミケの会場に来たのはクリスと五条だけではない。特別枠、いざという時のネタ枠としてパンダにも来てもらった。
当の本人は「遂に俺の勇姿を全国に知らしめる時が来たか」と、結構乗り気な様子だったので問題はない。他の人にも精巧なコスプレと思われるだけだろう。
ちなみに、ルビーとパンダは既に高専で面識があり、パンダのモフモフな身体と愛くるしさをルビーは気に入っている。反対に、乙骨には一目見ただけで酷く怯えていた。恐らく祈本里香の存在が原因と思われる。
「ルビー、来たよー!」
「あっ、みなみ! おはよー!」
「ふふふ、一緒の仕事やね」
「だねー!」
ルビーと1年生達の出会いを振り返っていると、ルビーが呼んできた人達がやって来た。
真っ先に挨拶して駆け寄ってきたピンク髪の女の子、寿みなみはクリスを見るなりぺこりと頭を下げた。
「初めまして、ルビーの妹さん。寿みなみと言います、よろしゅう」
「ん、よろしくー。星野クリスだよ。僕の事は気軽にクリスちゃんって呼んで」
「クリスちゃんね、ええ名前やわ(一人称が『僕』ってほんまやったんやな……)」
関西弁の混じった口調で丁寧に挨拶したみなみに対し、クリスも軽く名乗って挨拶し返した。
その後ろから更にもう2人の見知らぬ人がいた。
「あ……えと……、吉住未実って言います。わ、私も『深掘れワンチャン』の収録で来ました。よろしくお願いします……」
「初めまして、メイヤって名前で活動してます。よく少年誌ジャンルでコスしてます。よろしくね」
「OK、未実ちゃんにメイヤさんね。僕の方こそよろしく」
聞けば未実の方は兄が深掘れワンチャンのADで、今回の取材でどうしてもと出演を頼まれたらしい。一方でメイヤの方は、以前ルビーと動画の企画で一緒になった事があり、今回はそのご縁から呼ばれたという。
「にしても皆大丈夫だった? 昨日になっていきなりコス変更の連絡があったでしょ。私はオリジナルのコス多いから何とかなったけど、用意できなかった子も多いんじゃないかと思って心配で……」
「確かにびっくりしましたけど、何とか間に合いましたし……」
「うちは事務所にあったので……」
「えっ、そんな事あったの? 全然知らないんだけど?」
「クリス、さては昨日の連絡見てなかったでしょ?」
どうやら番組側の都合で前日に急なコス変更の知らせがあったらしく、新たな衣装を用意するのに大分苦労したとの事。
クリスも当然ルビーからその連絡が届いていたはずなのだが、彼女はトレーニングに夢中でその事を一切知らなかった。そもそもクリスの衣装はルビーが一緒に持ってくる手筈になっていたので、知ったところであまり関係のない話ではある。
こうして今回の取材を受けるメンバーが全員揃ったところで、一緒に着替える事になったのだが……。
「クリスの身体、いつ見ても凄いわね」
「えっ、嘘……クリスちゃんどんな鍛え方したらそんな身体になるん?」
「やば……めっちゃバキバキ。筋肉凄すぎ」
「私のたるんだ身体と大違いだわ……」
着替えの最中、下着姿になった彼女達は目撃する事になる。
色白の肌に似合わない、限界まで鍛え抜かれた無駄のないスマートな体型。鋼の筋肉に浮いた血管、六つに割れた完璧な腹筋。
星野クリスが人生の大半を費やして築き上げてきた剝き出しの肉体、その躍動を。
(まぁ、五条先生と死ぬほど身体鍛えまくったからね。結局のところ、最後に呪術戦の勝敗を決めるのはフィジカルだし)
幼い頃から五条達と一緒に吐くまで身体を鍛えた結果である。呪術師として活動する以上、術式も大事だがフィジカルはそれ以上に大事なのだ。
今までの経験からクリスもよく分かっているので、今でもトレーニングは欠かさない。
そんなやり取りもしつつ、クリス達は取材に向けて衣装に着替えるのであった。
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「はい、インタビューはこれで以上です。本日はありがとうございました」
深掘れワンチャンの取材自体は意外にもあっけなく終了した。
事前に聞いていた情報ではかなり問題がありそうな予感がしたが、クリスにとってはそこまで目くじらを立てるような内容ではなかった。
唯一、番組ディレクターの漆原という中年の男性が何度もセクハラ発言を繰り返しており、メイヤがそれにかなり困惑した様子を見せていたのが懸念点だろうか。
とはいえ、クリス視点では漆原Dのセクハラ行為などまだまだ可愛いものである。クソを下水で煮詰めたような禪院家や上層部に比べれば、とても常識的でマシな対応だったと言える。
「ふぅー、やっと終わった」
「お疲れ様ー。何とか上手く行ったかなぁ」
「結構時間取られちゃったね」
「私は楽しかったよ」
「僕も良い気分転換になったよ」
「クリスだけ他とはテイストが違ってたけどね……」
炎天下の中、数時間に渡る取材が終わって皆で一休みする。互いに労いながら感想を口にした。
ちなみに、クリスがインタビューを受けた時に「好きな男性のタイプは?」と聞かれたので、「強いて言うなら
そんなこんなで少し休憩した後、撮影の約束があると言って別れたメイヤを除いた4人で、コミケの会場を回ろうという話になる。
しかし、丁度そのタイミングで彼らはやって来た。
「撮影お疲れ様クリスー! 遅れちゃってごめんねー……って、良いじゃんそのコスプレ。やっぱ可愛いね!」
「おーう、来たぞクリス先輩。俺の出番は結局無しになったの残念だけどな」
「……どうして私までここに」
「すみません、本当にすみません七海さん」
クリス達の前に姿を見せたのは五条悟とパンダ。そして、五条に騙されて連れて来られた七海と、五条の送迎で連れて来られた伊地知の4人。
不満げな様子でブツブツ呟く七海を他所に、サングラスを掛けた五条はいつもの飄々とした態度でクリスに駆け寄り、イェーイと言ってハイタッチを交わす。
「来たわね五条悟……さっさと帰ってくれると嬉しいんだけど?」
「またまたぁ、そんな酷い事言わなくても良いじゃんかー。でしょ、クリス?」
「うんうん」
「「ねーっ!」」
蛇蝎の如く五条を嫌うルビーの刺すような視線が五条に向かうも、向けられた本人はクリスと一緒に肩を組んで笑顔でピースする。
それがルビーの怒りのゲージを更に引き上げた。その横では、規格外のルックスを持つ五条の甘い笑顔にやられた女性陣がきゃあきゃあ騒いでいた。
「は、はわわわわわわっ!? イ、イケメン、イケメンだぁ! えっ、何このイケメン!? 待って待ってヤバいヤバい!」
「ねぇねぇルビー、この超イケメンのお兄さん誰なん? クリスちゃんとどういう関係なん?」
「あー、こいつはね……」
「へー、もしかしてルビーの友達? 初めまして、僕の名前は五条悟。クリスとは生徒と教師の関係だよ。よろしくー」
「あっ、そうなんですか。生徒と教師……なるほど、禁断の恋ってわけやね。クリスちゃん、隅に置けへんなぁ」
「みなみ、違うからね? それだけは断じて違うからね? 仮にそうだとしてもこんな男は私が絶対に認めないから。お兄ちゃんも間違いなく反対するから」
五条の自己紹介を聞いて何やら変な勘違いをしたらしく、みなみは妙に納得した表情を見せた。ルビーが必死に否定しているが、果たしてその誤解が解ける時は来るのだろうか。
そんなやり取りを交わしていると、今度は七海が心底不機嫌な顔で五条を睨んだ。
「ここで延々とふざけているのであれば、私はそろそろ帰らせてもらいますね。今日はせっかくの休日なので。では」
「ちょいちょいちょーい! ここまで来て帰るは無いでしょ七海。せっかくだしコミケ見て回ろうよ。ほら、クリスもこんなに可愛いコスプレしてるしさ。ねぇ?」
「そうですよ七海さん。ほらどうですこの衣装? 可愛いコスプレだと思いません?」
ぐいぐい身体を寄せてくるクリスに、七海は仕方なく衣装の方に目を向ける。
クリスのコスプレは基本的に露出が少ないが、肩や脚や胸元など、出る所はしっかり出ており、妖艶なエロスを感じさせるものがある。
それに一通り目を通して、期待の眼差しを向けるクリスを見て、七海は深い溜息を吐いた。
「はぁ……可愛らしいと思いますよ。ただ、そのような恰好はあまり人前でしない事をお勧めします。あなたの場合は特に」
「ッ!? ~~~~ッ!! やったぁ、ありがと七海さん!」
七海に可愛らしいと言われ、まさか本当に褒めてくれるとは思ってなかったのか、クリスは一瞬驚いた後、声にならない歓喜を露わにして七海に抱き着いた。
「嬉しい! 好き! 僕と結婚しよ!」
「「ええっ!? 結婚っ!?」」
「嫌です、私が社会的に死にます。あと、これでこのやり取り16回目です。そろそろ止めてください」
その際にクリスの口から出た「結婚しよ」という言葉に、ルビーとみなみが敏感に反応するが、七海は即座に断って受け流す。
「ははっ、相変わらずだよね七海は。ウケるー」
「五条さん、笑ってないで何とかしてください。こうなったクリスさんを落ち着かせるの大変なんですから」
もはや恒例となった2人のやり取り。五条は面白がって見ていたが、七海の機嫌はますます暗くなる一方だった。
と、ここで若干空気になりかけていたパンダが皆に話しかけた。
「なぁ、どうでも良いけどそろそろ観て回りに行かね? ここでダラダラ喋ってもしょうがないだろ」
「あっ、確かに」
その言葉に、ルビーはようやく冷静になって返した。
「こっちはこっちで、えらい精巧なパンダのコスプレやなぁ」
一方で、高専側の事情を全く知らないみなみは、パンダを見て本物そっくりのコスプレという認識しか持たなかった。
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その後は皆で一緒にコミケ会場を観て回った。
主にクリスと五条がふざけ合い、それをルビーと七海が心底呆れた目で見つめ、残った人達で静かに様子を見守るという形で1日を終えた。
その帰り道。
「お疲れ様クリス、今日は本当にありがとね。おかげで助かったよ」
「いやいや、これくらいどうって事ないよ。五条さんだけじゃなくて、七海さんにも可愛いって言ってもらえたし」
自宅へ戻る最中、クリスとルビーは街中を歩きながら今日の出来事を振り返った。
「あー、七海さんね。あの人、最初見た時は怖くて気難しそうな感じだったけど、実際に話してみたら凄く誠実で優しい人だったね。五条悟と違って常識的だし、対応がとても丁寧で年下相手にも敬意があってさ」
今日初めて七海と出会ったルビーは、七海と色んな話をした時の記憶を振り返る。
『まずは挨拶からでしょう。初めまして、星野ルビーさん。七海建人と申します。あなたの事はクリスさんからよく聞いています。よろしくお願いします』
『私が高専で学び気付いた事は、呪術師はクソという事です。そして一般企業で働き気付いた事は、労働はクソという事です。同じクソならより適正のある方を。呪術師をやってる理由なんてそんなものです』
『別に褒めも貶しもしませんよ。ただ事実に即し己を律する。それが私です』
『確かにクリスさんはとても強いです。私では足元にも及びません。ですが、それでも彼女はまだ10代の子供。大人である私には命懸けで彼女を守る義務があります』
『単に年を重ねただけで大人になれるわけではありません。枕元の抜け毛が増えていたり、お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり、そういう小さな絶望の積み重ねが人を大人にするのです』
『確かにどうしようもない人間というのは存在します。呪術界も芸能界も、長く身を置けばいつかそういう人と出会い、対峙しなければならない時が来る。でもそれは今ではない。理解してください、子供であるという事は決して罪ではない』
初めて出会った相手にしては実に多くの話をしたが、あれほど頼りになる大人の存在をルビーはあまり見ていない。
それこそ前世の初恋の雨宮吾郎や推しの星野アイ、育ての親のミヤコくらいだろうか。その人達に並ぶほど信頼できる何かを七海は持っていた。
(クリスが七海さんにあそこまでぞっこんなのも頷ける。しかもあれでまだ27歳で、MEMちょとほぼ同い年……年齢は一緒でも貫禄が全然違うなぁ)
そして失礼にも、ほぼ同い年のMEMちょと比較して、言動や振る舞いから七海の威厳と貫禄の大きさを痛感した。
「……ねぇクリス」
「ん、何だい姉さん?」
「私……七海さんならクリスの結婚相手でも認めるからね。応援してるよ」
「えっ何々? 急にどうしたの?」
いきなり訳の分からない事を姉に言われ、思わず素で聞き返してしまうクリスであった。
途中からコスプレじゃなくて七海の話になっちゃったの許して。あと、コスプレ取材回は原作通り炎上しました。
なお、後日コスプレ回の収録を見た人達の反応。
アクア(何でクリスが番組に出てるんだ!? まさかルビーが呼んだのか? いや、問題はそこじゃない。一瞬カメラに映った白髪のサングラス男と眼鏡の金髪男は一体誰だ? 後でクリスに問い詰めるべきか……?)
鏑木P(あれ、あの子昨年テレビ局でADやってた子だよね。急に消えたと思ったら、まさかこの番組に出てたなんてね。でも履歴書の名前が『摺久野志保』ではなく『星野クリス』か……なるほど、後でアクア君に聞いてみようかな?)