呪術の子 作:メインクーン
ルビー「七海さんなら結婚相手として認める」
クリス「急にどうしたの姉さん?」
コスプレ取材の日から更に月日が経ち、9月中旬。
「というわけでやって来ました京都! 皆、テンション上げていこーっ!」
「おーうっ!!」
「どうしたぁ!? 金ちゃんしか返事聞こえなかったよ! 綺羅羅ちゃん、憂太君、もっと元気出して!」
「「あ、はーい……」」
遂に京都校との交流会の日がやって参り、東京校のクリス達は遠路はるばる京都の山奥へ訪れていた。
「クリスの言う通りだよ。こっちからガッツ出していかないと相手に舐められちゃうからね! ほら、盛り上げていくよ!」
「でも、そんな事急に言われても困りますよ五条先生……」
「乙骨君に同じく」
「悟、お前の独特なテンションで生徒達を困らせるのは感心しないぞ」
クリスの言葉に引率の五条も便乗して声を荒げるが、朝からテンションの低い乙骨と綺羅羅には響かなかったし、夜蛾学長にも苦言を呈されてしまう。
こうしてちぐはぐなテンションのまま京都校への道を辿っていく一行だったが、その道中で乙骨が五条に尋ねた。
「あの、五条先生、ずっと気になっていたんですけど、3年生はどこにいるんですか?」
「んー、3年生? ああ、3年は今年の交流会に参加しないよ」
「えっ、そうなんですか!? 何で!?」
本来2年と3年が参加するイベントに、人数合わせで乙骨も呼ばれてきたため、3年生の数も相当少ないのだろうとは思っていた。
だが、まさかの全員欠席という事実に乙骨は心底驚く様子を見せた。
「いやー実はさ、一昨日の任務で3年が全員負傷しちゃってさ。硝子の治療を受けて大分良くなったけど、戦うにはもう少し療養が必要らしくてね。だから今年の参加者は君達4人になっちゃったってわけ」
「ええ……」
「出来れば他の1年を代理で連れて行ければよかったんだが、生憎今日は3人とも任務で高専に居ない。すまんな乙骨」
「そ、そんなぁ。夜蛾学長まで……」
「まぁまぁ良いじゃん憂太君! むしろこれくらい逆境がある方がスリルあって楽しいよ」
「僕は別にそこまでスリルを求めているわけじゃ……」
クリスが間髪入れずにフォローするが、乙骨には何の励ましにもならなかった。
日本でも僅か5人しかいない特級術師の内の3人が集っており、更にその内の2人が生徒で先輩後輩の関係だが、纏う雰囲気も覇気も全く異なる。
良くも悪くも特級らしくない2人に、夜蛾と秤と綺羅羅は若干呆れ混じりの表情を浮かべて2人のやり取りを見守るのであった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
それから数十分後、一行はようやく京都校に到着した。
そこで待っていたのは京都校の生徒達。
「ようやく来たか」
「ふむ、彼が問題となってる例の1年か?」
「乙骨憂太君だっけ? 確か物凄い特級呪霊に呪われてるっていう……」
立ちはだかるように堂々と並んで立っている3人の生徒。事前に名前は聞いており、左から東堂葵、加茂憲紀、西宮桃である。
何故か向こうも3年生の姿が全く見えないのが疑問だが、一先ず互いに挨拶を交わした。
「お前か、呪霊に呪われた特級術師というのは!」
「えっ、あっ、里香ちゃんの事ですか? だったらそうですけど……」
「こらこら葵君、そんなぐいぐい詰め寄らないの。憂太君が困ってるでしょ」
「そういうお前はMs.クリスじゃないか! 待っていたぞマイシスター! お前と戦える日をどれだけ待ち望んでいた事か!」
「そうだね、僕もお前とやり合える時をずっと待ってたよ。ってかずっと疑問なんだけど何でシスター?」
東堂の意味不明な発言の連続に疑問符を浮かべながらも、口角を上げてニヤリと笑みを浮かべるクリス。
実は東堂とクリスは今から2年程前に師匠を通じて面識がある。
東堂の師匠はあの特級術師の九十九由基。クリスの師匠の五条悟と同じ特級という事で、師匠と弟子同士で顔を合わせたのだ。
その日以来、何故か東堂は「俺達は親友のようだ」だの「地元じゃ負け知らず」だの言って、クリスに謎の執着を見せている。
終いには「思い出せ、俺とお前の輝かしい今までの軌跡を! 小学校から中学までずっと同じクラスで、共に笑い合った仲じゃないか!」と、意味不明な妄言まで言い出す始末。
そんな存在しない記憶を語られても困惑するだけだが、実力だけはお互いに認め合っていた。
「まったく、何してるのあんた達。いつまでもそこに突っ立ってないで早く行くわよ」
「あっ、その声は……歌姫姉さん!」
学校の入り口で話し合っていると、背後から呆れ混じりの口調で歩み寄る歌姫の姿があった。
それに気付いたクリスが手を振って歌姫の名を呼ぶ。
「いやー、久しぶりですね歌姫姉さん! 半年ぶりかな? とにかく今日は楽しみましょ! イエェェーイッ!!」
「……ああ、一体どこで育て方を間違えちゃったのかしら。あんなに可愛かったクリスちゃんが、今となっては五条みたいになっちゃって……はぁ」
しかし、名を呼ばれた歌姫は幼き日のクリスと今のクリスを重ね、非常に落胆した表情を見せる。
大きくなって、可愛さに磨きがかかったにもかかわらず、よりにもよって五条悟の影響を強く受けてしまった。そのどうしようもない事実が歌姫の心に大きなショックを与えていた。
「ちょっと歌姫、僕の弟子に何て事言うんだい? こんなにもクールでビッグなナイスガールに育ったのにさ。もうちょっと広い心を持ちなよ」
「お前に言われたくないわ五条悟! よくも、よくも私の可愛いクリスちゃんをーっ!」
1人ショックを受けて暗い気持ちになったところへ、割とマジで嫌いな五条から一番言われたくない言葉を吐かれ、歌姫は唐突にキレた。
そんな歌姫と弄り倒す五条のやり取りを、クリスはケラケラ笑いながら見届けていた。
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所変わって、交流会の会場となる広大な森林。
クリス、秤、綺羅羅の3人は森の入り口でストレッチしながら待機していた。
「さっ、ようやくこの時間がやって来たね2人とも。去年は京都校が勝ったけど、今年の勝利は僕達東京校が手にするよ」
「ああ、そうだな。熱くなってきたぜ」
「にしても、まさか東京は私達3人だけになるなんてね。いやまぁ、クリスがいるからまだ良いんだけどね?」
交流会に向けて意気込みを語りながら、スタートの合図を待つ3人。
その中に東京チームの乙骨の姿は見当たらない。
「まさかよりによって乙骨君が京都校の方に行くとは思わなかったよ」
「気にすんな。さっきクリスも言ってただろ、逆境ある方がスリルで楽しいって」
「そうそう、金ちゃん分かってるじゃん。むしろそれだけ僕達の実力が評価されてるって事だよ」
乙骨は東京側ではなく京都側に回った。
実は開始する数十分前の事。
『あそうそう、乙骨は京都チームだからそのつもりで。京都の皆も仲良くしてあげてね』
『えっ、何ですかそれ!? 僕そんなの聞いてませんよ五条先生!』
『いやー、実は昨日先生同士で話し合ったんだけど、特級が2人もいる東京チームの方が圧倒的に有利過ぎて面白くないよねって話になってさ。
特にクリスは僕と肩を並べる術師だし、余計不利じゃん? だから特級をそれぞれのチームに分けようって決まったの』
『でもそれだと余計人数差が酷くなりませんか? 京都校には3年生も居ますし』
『ああ、京都校の3年生なら全員東堂に締められて療養中よ』
『ええっ、何で!?』
『私に聞かれても分からないわよ。理由は本人に聞いてちょうだい』
このようなやり取りがあり、今に至る。
どうして東堂が先輩を締めて病院送りにしたのか、東京校の乙骨を京都側に入れて楽巌寺学長は大丈夫なのか、疑問は尽きない。
だがそれでも1つだけ言える事は、これでゲームが面白くなったという事だろう。付け加えると、乙骨が京都チームに行っただけではない。この話には続きがある。
『それからクリス、君は術式の使用禁止ね。クリスが術式使うとマジで勝負成り立たないし』
『へぇ……良いですね。喜んで受けましょう、そのハンデ』
『話が早くて助かるよ。それじゃあこの首輪を付けてくれるかい? 術式の使用を制限する効果が付与されてるんだ。僕の力作だよ』
そうして今、クリスの首には金属製の分厚い首輪が付けられている。傍から見れば完全に雌奴隷にしか見えず、街を歩けば通報待ったなしだ。
そんな悪趣味全開の首輪を付けたクリスが、高々と拳を掲げて声高に叫ぶ。
「行くよ2人とも! 勝利を我らに!」
「「勝利を我らに!」」
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一方その頃、京都校のチームも戦いに備えて淡々と神経を研ぎ澄ましていた。
そんな中、東堂が乙骨の前に仁王立ちで立ち塞がる。
「さて、乙骨よ。あいつらと戦うその前に、俺から1つ聞きたい事がある」
「は、はい、何でしょう?」
「どんな女がタイプだ?」
「……へっ?」
険しい表情から予想だにしない質問が飛んで、乙骨は素っ頓狂な反応を返してしまう。
「気にするな、ただの品定めだ。早く答えろ」
男でも良いぞ、と言って東堂は返答を待った。
唐突に女の好みを聞かれた乙骨は、少し戸惑う素振りを見せるも、ふぅと深呼吸して心を落ち着かせるとはっきり答えた。
「勿論、僕は里香ちゃんが好みです」
「里香ちゃんというのは、ひょっとして呪霊の祈本里香の事か?」
乙骨の回答を聞いた東堂は眉根を上げた。
まさかこいつは呪霊と化したガールフレンドの事が好きなのか? マジで言ってるのか? そう言いたげな表情をありありと見せていた。
「はい、そうです!」
しかし、乙骨は堂々と言い切ってみせた。心なしかどこかで「ふふふっ」と不気味に笑う声が聞こえた気がした。
「……ふっ、なるほどな。どうやら相当惚れ込んでいるらしい。ならばこれ以上は何も言うまい。改めて歓迎しよう、乙骨憂太」
「あ、はい。よろしくお願いします」
しばらく考え込んだ末にどこか納得した東堂は、乙骨と堅い握手を交わした。
その横で2人のやり取りを見ていた加茂と西宮は、溜め息を吐いて肩を竦める。
「おい東堂、そんな事をしている場合ではないぞ。私達は如何にして星野クリスを攻略しなければならないか考える必要がある」
「そうだよ東堂君。いくら術式の使用縛りがあるとはいえ、相手は特級。しかもあの五条悟と肩を並べる最強の1人だよ。間違いなくヤバいって」
戦闘前に関係ない話で勝手に盛り上がる東堂を2人は咎める。
それもそのはず、東堂のせいであの星野クリスとどうしても対峙しなければならなくなったからだ。
その原因は数日前、本来一緒に参加するはずだった3年生と東堂の意見の食い違いにある。
『東京校の2年には特級術師の星野クリスがいる。こいつと対峙すればまず勝ち目はない。バレずに隠れて行動しながら、こっそり呪霊を祓ってポイントを稼ぐぞ。そうすりゃ俺達の勝利だ』
『却下だ。それではせっかくの交流会が退屈になる。俺は退屈な事が一番嫌いなんだ。だから星野クリスと戦う、それ一択だ。それ以外は認めん!』
『おい、調子になるなよ東堂。いくらお前が相手でもこればかりは食い下がるからな。俺達の勝利条件の基本は隠れて逃げる、これしか無い』
『だからそれが気に入らんと言ってるんだ! 俺の方こそ、お前達が認めるまで絶対に引き下がらないからな!』
それからどんどん3年生と東堂の口論は激しくなり、遂には殴り合いでどちらの案を採用するか決める事になった。
結果、東堂が3年生を全員病院送りにしてしまい、残った加茂と西宮は渋々東堂の作戦に付き合う羽目になったのである。
とはいえ戦うのはあくまで東堂であって、2人はそのサポートという流れになっている。
加えて、本来東京側にいるはずだった特級術師の乙骨の存在。この時点でどのような作戦になるかは自ずと導き出される。
「……という感じで行動するのがベストだと俺は考えた。どうだ?」
「まぁ、順当に考えればそうなるな」
「うん、それで良いと思う。私は星野クリスと絶対に戦いたくないし」
加茂と西宮も東堂の考えた案に頷き、満場一致で作戦が決まった。
『はーい、皆さん準備は良いですかー? そろそろ始めていきたいと思いまーす』
丁度良いタイミングで五条のアナウンスが耳に入り、全員が即座に臨戦態勢に入る。
『では姉妹校交流会、よーいスタート!』
合図と同時に森の中へ駆け出す4人。木々の間を掻い潜り、相手に向かって真っ直ぐ突き進む。
そして開始宣言から数分後──、
「やっほー葵君、憂太君。1時間ぶりだね。ていうか2人だけ? 他の2人はどうしたの?」
「待っていたぞマイシスター・星野クリス! お前の相手は俺と乙骨の2人だ!」
「全力で行きます、クリス先輩!」
戦場となった森の中、東堂と乙骨のコンビが現代最強の1人であるクリスと邂逅し、その瞬間に戦闘開始のゴングが鳴った。
京都姉妹校交流会【東堂&乙骨vsクリス】開戦!
ちなみに他の場所では、秤&綺羅羅vs加茂&西宮の戦いが始まってます。
※五条が作ったクリスの首輪は天竜人の奴隷のやつと同じ見た目。悪趣味すぎる。