呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「五条先生の家に泊まったし一緒に寝たよ」

ルビー「ぎゃああああああっ!? 私の大切な妹がぁあああああ!」

あかね「ルビーちゃん気をしっかり!」



呪いは廻る、どこまでも

都内某所のマンションの一室にて。

 

 

「どう……かしら? 一応形にはなったけど」

 

「さぁ? これがちゃんと機能するかどうかは実際に使ってみないと分からないからね」

 

 

この日、羂索と万は獄門疆の試作品第1号を完成させた。

 

星野アイの肉体を乗っ取り、彼女に刻まれた生得術式を利用しての作成は1年近くかけてようやく形となった。

 

たった1つしかない特級呪物を人工的に再現できるアイの術式の性能に、羂索は「驚いたよ」と呟き舌を巻いた。

 

 

「勿論万が構築術式で獄門疆の外郭を丁寧に構築してくれたから短期間で済んだけど、肝心の機能に関しては星野アイの術式頼りだったからね。

 いやはや本当に凄いよ。これだけ呪術の可能性を秘めてたなら、この母体から星野クリスみたいな存在が生まれても不思議じゃない」

 

「最初は私も無理だと思ったけど、実際に目にした時は本当にびっくりしたわ。確かにこれはとんでもない術式ね。可能性の塊って説明も納得よ」

 

 

万は羂索がアイの肉体を使って獄門疆を作っている瞬間を眺めていた。その時の記憶を振り返り、改めてアイの術式の恐ろしさを痛感する。

 

13年前のあの時、火葬場で遺体をこっそりすり替えておいて本当に正解だったと、羂索はそう思った。

 

 

「じゃあ早速それが使えるか確かめましょ。何か適当な物を封印すれば良いでしょ」

 

 

そして、実際に試作品ができたとなれば次は性能テストである。理論上は問題ないとはいえ、本当に本物と同様に封印が機能するかは確かめなければならない。

 

実際に封印する時、機能不全で失敗したら洒落にならないからだ。だがそこで、万の意見に羂索が手で制してやんわりと異を唱える。

 

 

「こらこら万、適当な物といっても本当にただの物じゃつまらないだろう。これはいずれ五条悟か星野クリスのどちらかを封印するかもしれないんだ。生半可な奴で実験はできない」

 

「そりゃまぁ、確かにそうだけど……」

 

 

要は封印の実験をするならある程度の実力者で試すのが好ましいとの事だった。

 

言われてみれば確かにそうだが、羂索の言う実力者がそう簡単に見つかるだろうか。万は訝しんだが、羂索は違った。

 

 

「誰を使って実験する気なのよ。あなたが求めるレベルの術師がそう簡単に見つかるわけ……」

 

「ははっ、何を言ってるんだい万。私が求めるレベルの術師なら、既に目の前にいるじゃないか」

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

────というわけで。

 

 

「獄門疆『開門』」

 

「いぃぃぃやぁああああああっ!?」

 

 

あれよあれよという間に獄門疆の実験対象にされてしまった万の悲鳴が森中に響き渡る。

 

場所は変わり、東京から離れたとある県境の山奥にて、羂索は早速万に向けて獄門疆を使った。

 

しかし、結果は納得のいくものではなかった。

 

 

「うーん、おかしいな。獄門疆で万を封印してみたはいいが、所々本物と性能に差がある」

 

 

実際に使ってみて、オリジナルと比較して明らかにおかしい点が見つかった。

 

 

「万の封印に3分近くかかったし、抑え込んだ時に万が若干抵抗できていた」

 

 

主に2つ。

 

1つ目は封印までの時間が長い事。本来なら半径4m以内に対象者の脳内時間で1分すぎれば獄門疆が発動する。だが、試作品は物理的な時間で3分かかった。これでは現代最強を封印なんて夢のまた夢である。

 

2つ目は封印される直前まで術式で抵抗できる事。獄門疆が万を拘束した時、何故か万が術式を用いて少し抵抗していた。これも本来なら術式どころか呪力操作すら不可能になる。

 

 

「とりあえずこのまま獄門疆を観察してみて……」

 

「おらぁあああああああっ!!」

 

「──ッ!?」

 

 

否、問題は3つだった。

 

色々と考えた末に観察しようと地面に座り込んだ瞬間、獄門疆の表面に亀裂が走り、そこから万が飛び出してきた。

 

これには流石の羂索もびっくりしたのか、ただ唖然と万を見つめていた。

 

 

「あー……きつかった。気分最悪だわこれ」

 

「……えっ、マジで?」

 

 

愚痴を零しながら肩を回す万を見て、羂索は溢れんばかりに目をカッと見開き、ボソッと呟いた。

 

 

「ったく、この私を封印の実験台にするなんてどうかしてるわよ。人使いが荒すぎるったらありゃしない。にしても変ね、本物の獄門疆なら脱出なんて不可能のはずよ」

 

 

万の言う通り、これが本物の獄門疆なら自力で脱出されるという事態は絶対に起こりえない。本物と比較して何かしらの穴があるのは確定だった。

 

 

「何が駄目だったんだろうね? 材料も機能も形も全部、計算上は完璧に作ったはずだし封印の術式効果もちゃんと刻まれていたけどさ」

 

「うーん、そうね……封印されてみた感じ、ちょっとした違和感を覚えたのよね。何というか、致命的に何かが足りないというか……」

 

「へぇ、それ詳しく」

 

 

実際に封印されてみた万曰く、痒いところに手が届かない感覚がしたとの事だった。

 

途中までは完璧だが、最後の最後で致命的な何かが不足しているせいで、他の全てがズレを起こしているのではないかと。

 

実際問題、その綻びがあったおかげで万は獄門疆から自力で脱出できた。早急に解決せねばならない課題だった。

 

 

「不足している、か……。恐らく獄門疆には存在するうえで何かしらの縛りがあるのだろう。もしくは獄門疆を構成するうえでまだ付随してない機能があるか。いずれにせよ、今後の課題だね」

 

「はぁ、完璧に再現できたと思ってたのに、ここで振り出しに戻るのって割とショックなんだけど。何か都合の良い抜け道とか無いかしら……」

 

「あはは、それが出来たら苦労はしな……いや待て。都合の良い……抜け道……?」

 

 

溜め息を吐いて落ち込む万に羂索が笑いながら答える途中、突如万の言葉に反応して羂索の脳裏にある考えが浮上した。

 

 

「抜け道……なるほど、抜け道か。確かにこの可能性はあり得るね。獄門疆という存在を成立させるうえでの縛りにもなる」

 

「えっ、何か分かったの?」

 

 

困り顔から一転して急ににやけ面を見せ始めた羂索。顎に手を当てて何度も頷くその姿に、万が気になって尋ねた。

 

 

「ああ、まだ憶測でしかないけど可能性は高いと踏んでる。似たような前例は幾つかあるしね。ひょっとしたら獄門疆というのは、1()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁ? どういう事よ?」

 

「いや別に。ただ、脱出ゲームの出口ってたまに複数あるよねって話」

 

「ますます意味が分からないんだけど」

 

 

獄門疆の複製を完成させるために足りない最後のピース。実験を通してその存在を察知した羂索は、実に不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

それから実験を終えて帰宅した後の事。

 

獄門疆の複製第2号の製作に取り掛かる前に、万が気になっていた事を尋ねた。

 

 

「ねぇ、前からずっと気になってたんだけどいいかしら?」

 

「ん、何かな?」

 

「あんたがこの前産んだガキはどうしたのよ?」

 

 

遡ること10ヵ月以上前、星野アイの肉体を乗っ取った羂索は世にも悍ましい実験を自身に行った。

 

両面宿儺の器になりうる複数の術式を持った子の作成────人道に反したこの実験を、羂索は面白そうだからという理由で何の躊躇いもなく実行していた。

 

実を言うと既に宿儺の器は別で存在するのだが、第二の器として予備はあった方がいいという理由もある。

 

とにかくその実験が始まったのが昨年の年末。そして今は11月を過ぎ、そろそろ12月に差し掛かろうとしていた。お腹に孕んだ呪いの子は既にこの世に生まれ落ちている。

 

だからこそ万は気になった。産んですぐに例の子を見かけなくなったので、一体どこにやったのだろうと。

 

 

「ああ、あの子? ()()ならもうとっくに別の所へ預けたよ」

 

「預けたの? わざわざあなたが産んだから、あなたが育てるもんだと思ってたわ」

 

「勘弁してくれ。私は星野アイと違って、別に愛情深い母親でも何でもないからね。私の興味はあの子の持つ術式と呪術への可能性、その身に秘める混沌だよ。それ以外はどうでもいいかな」

 

「ふーん……」

 

 

羂索曰く、産んだ子供は他所の家庭へ預けたとの事。ただし、厳密には預けたではなく送り付けたという方が正しい。

 

既に立派な育児放棄だが羂索にとっては大した問題ではなく、産んだ子の内に眠る混沌にしか興味がないという。

 

それ以外の人間関係などは本当にどうでもよく、何なら呪術高専に黙って送り付けるのもアリだと考えていた。足が付くリスクを考慮してそれは止めたが。

 

 

「という感じで、確実に捨て子を拾って育ててくれる善意ある家庭に預けたから安心してね。でも星野アイのネーミングセンスに沿って名付けてみたから、そこだけ懸念点かな?」

 

「あらそう、蓋を開けてみれば実にあなたらしい考えと行動ね」

 

 

話を聞いて万は満足した。やはり羂索は羂索だったと、その気色悪さに内心どん引きしながらも表情には出さなかった。

 

 

「とはいえ、ただの一般的な家庭も避けたくてね。呪術とは何の絡みもないまま成長する羽目になるし。だからこそ、いずれ必ず呪術界に関わるように工夫はしたさ」

 

「いや、別にそこまでは聞いてないんだけど」

 

 

聞きたい事は聞いて十分に満足したところへ、追加で要らない情報までペラペラと自慢げに語る羂索。

 

万としてはもうお腹一杯だったのでこれ以上は勘弁してほしかった。

 

 

「ふふっ、これからの彼女の成長が楽しみだね。さぁ、第二の器は私にどんな混沌を見せてくれるかな?」

 

「相変わらずキッショ……」

 

 

やはり言わずにはいられなかった万であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──一方その頃、東京から遠く離れた地では。

 

 

「……ん、何だこの子? 『拾ってください』だって? うっわマジか、これひょっとして捨て子ってやつ? 今時こんな事する親がいるのかよ、最低だな。親の顔が見てみたいぜ」

 

 

自宅に帰ってきた男子生徒が、玄関先で置き手紙と共にスヤスヤ眠る赤ん坊を発見した。

 

大きな段ボール箱の中には毛布が詰め込まれているが、このまま放っておけば冬の寒さと栄養失調で亡くなること請け合いである。

 

優しい心を持つ青年はどうしてもこれを見過ごせず、とりあえず箱ごと赤ん坊を家の中に入れた。

 

 

「どれどれ……名前は『栖秘音瑠(スピネル)』って、凄ぇ名前だなおい。親のネーミングセンスどうなってんだ?」

 

 

どう考えても適当な当て字としか思えない名付け方に、青年は一瞬顔を顰めるもすぐに切り替えた。

 

 

「うーん、それにしても何だか不思議な子だなー。俺と髪色が一緒だからかな? どことなくシンパシーを感じるぜ」

 

 

そう言って青年は、髪色が薄茶色の女の子・スピネルの髪を触り、そっと頭を撫でてあげる。

 

スピネルはパアッと顔を綻ばせて笑った。

 

 

「まぁとりあえず、この子をどうするかは爺ちゃんに連絡してからだよな」

 

 

青年はスピネルをあやしながら電話をかけた。数コールしてからすぐに相手と繋がった。

 

 

『……こんな時間に何の用だ、悠仁(ゆうじ)?』

 

「あっ、爺ちゃん? ちょっと相談したいことがあるんだけどさ、実はさっき家の前で──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それから更に数週間後、呪術高専にて。

 

 

「お集まり頂いた皆々様、耳の穴をかっぽじってよーく聞いて頂こう! 来たる12月24日、日没と同時に我々は百鬼夜行を行う!!」

 

 

呪術高専では、日本の命運を左右する最大規模の呪い合いが始まろうとしていた。

 

 

 




交流会終わると後は百鬼夜行だよね。

あと、メロンパンならこういう事をするかしないかで言えば、する。
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