呪術の子   作:メインクーン

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特級術師として活躍中のクリス。

兄姉が芸能活動に勤しむ裏で何故かアフリカに。

その理由とは一体……。



炎上

それは数日前の事だった。

 

 

「えっ、呪具の回収に行ってほしい? 今からですか?」

 

「うん、そう」

 

 

相変わらず飄々とした様子で、困惑するクリスに五条は返答した。

 

昼下がり、都内某所にある人気のカフェテラスにて、向かい合って座る2人。

 

2人とも呪術高専の黒い制服に身を包み、お洒落とはかけ離れたシンプルな格好をしている*1。しかし、どちらもアイドルや俳優顔負けのルックスとスタイルを兼ね備えており、シンプルな服装だからこそ2人の存在感が強調されていた。

 

そんな絶世の美男美女が外で優雅にパフェを食べている様は、周囲の視線を釘付けにする程で、2人に気付かれないようにこっそりカメラを向ける者もちらほらいた。

 

だが、クリスも五条も周りには一切目もくれず話を続ける。

 

クリスにしか頼めない重要な仕事がある。五条にそう言われ、高専から離れた人混み溢れる場所へ呼び出されたクリスは、首を傾げながらも注文した苺パフェを口に運んだ。

 

 

「どうしたんですか急に? 先生が直々に頼むって事は、どうせ特級クラスの案件なんでしょ? それも上層部には言えない訳ありの。

 まあ、今までもこういう事は結構ありましたけど、今回もまた面倒そうな気配がしますね。一体どんな呪具をお求めで?」

 

 

あの五条悟が秘密裏に探し求めているともなれば、それはそれは凄まじい術式と効果を持った呪具に違いない。

 

そんな事を考えながらじっと見つめるクリス。その予想は間違っていなかったが、五条の口から出た呪具の名称は、クリスの予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「特級呪具『天逆鉾(あまのさかほこ)』────あれを回収してほしい」

 

「えっ……!?」

 

 

呪具の名を聞いた瞬間、クリスは思わず手にしたスプーンをテーブルの上に落としてしまった。

 

それだけ大きな衝撃を受けたという証拠である。

 

では一体なぜこれ程までに驚いているのか?

 

 

「それって確か……五条先生が高専に居た時、唯一先生を負かした相手が使用していたっていう、あの……」

 

「そう、僕がたった1度だけ敗北した戦いの決定打になった、その天逆鉾だよ。クリスもその辺の話は覚えてるでしょ? だって君もあの時高専に居て、夜蛾学長から色々と話を聞いてたんだから」

 

「……ええ、そうですね、よく覚えていますよ。というか、忘れられる訳ないじゃないですか。多分あの時の事件がきっかけで、()()()()は……いえ、すみません。今の発言は忘れてください」

 

「いいよ別に。クリスが気にする事じゃない」

 

 

過去に起こったとある事件の事を思い出し、クリスの顔色が若干暗くなる。

 

五条は気にしていないと笑って受け流すが、それでも2人にとって忘れたくても忘れられない記憶として鮮明に残っていた。

 

10年以上前に起きた、()()()()()()()()から始まった負の出来事を。

 

 

「……それで、どうして今になってその呪具を? 確かあれって、先生が完全に破壊したって聞きましたけど?」

 

「報告の内容ではね? でもさ、曲がりなりにも僕を追い詰めた唯一の呪具なんだよ? 世界でたった1つしか無いかもしれないそれを、負かされたからって腹いせに破壊するのは勿体ないと思わない?」

 

「あー、いかにも先生らしい考え方ですね。まあ、その気持ちも分かりますよ。ついつい勿体ないって思っちゃうと……ねぇ?」

 

「だよねー。多分、僕と君以外でそれを知ってるのは、天元様くらいじゃないかな?」

 

 

暗い表情から一転、互いに似た者同士だからこそ共感できる気持ちに、2人して一緒に笑い合う。

 

その様子がとても絵になっており、2人に向けたカメラのシャッター音が一時的に増加する。

 

 

「なるほど、本当は封印されている天逆鉾を、訳あって今すぐ回収しなければならなくなった。でも五条先生は今忙しくて手が回らない。だから付き合いが長くて実力もある僕に、呪具の回収を依頼したいってわけですね?」

 

「ピンポーン! そういう事さ! 流石クリス、飲み込みが早いねぇー!」

 

「これくらいなら誰でもすぐに分かりますよ。ただそうなってくると、色々と知っておく必要がある事がたくさんありますね。

 とりあえず場所を教えてください、スマホにメモしておくんで。それと封印の解き方も」

 

 

周囲の反応など気にした様子もなく、スマホを取り出し五条の顔を見据えるクリス。

 

 

「封印の解き方については特に言う事ないかな? 適当に術式で攻撃当て続ければ、その内勝手に封印解けると思うから。

 というかその封印の効力が最近弱まってきたから、誰かの手に渡って悪用される前にどうにかしたいの。今すぐ回収したいのはそれが理由。

 だからまあ、勢い余って逆鉾までぶっ壊さないように気を付けてね」

 

「あっはい、じゃあ解除できるまで程々に攻撃しておきますね……それじゃあ場所は?」

 

「場所はねぇ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────で、封印された天逆鉾がアフリカにあるとか、いくら何でも遠すぎるでしょ! しかもサハラ砂漠のど真ん中とか! いや、確かに封印場所としては良いかもしれないけどさぁ!?」

 

 

どこまでも同じ景色が続く広大な砂漠地帯。

 

砂漠のど真ん中で思わず大声で愚痴を叫ぶが、それに応える者は1人もいない。

 

ジリジリと容赦なく白い肌を焼き付ける日光と、この地域特有の気温の高さのダブルパンチが効果覿面で、クリスの心は早くも折られかけていた。

 

 

「はあ……移動だけで丸1日も費やしたのに、ここから更に目的地まで1人で行くとか正気の沙汰じゃない……。サハラ砂漠が日本の何十倍広いと思ってるんですか、五条先生? 日本に帰ったら覚えておいてくださいね?」

 

 

想像以上に無茶苦茶な依頼だった事に後悔し、日本にいる五条への怨嗟の言葉が口から出る。

 

しかし愚痴を言い続けては何も進まないので、渡された地図を見ながら渋々目的地まで向かう事に。

 

現在の気温は30度をあっさり超え、40度に近い高温に達している。この状況下で律儀に歩いて向かっては、熱中症で倒れるどころか途中で餓死してしまう事は避けられない。

 

クリスもそんな面倒な手段は取らず、当たり前のように術式を使って空を超高速で飛行し、封印場所まで最短距離で向かう。

 

 

「あーあ、日本でもこんな感じで自由に空を飛べたら良いんだけどなぁ。田舎ならまだしも東京は人目が多すぎるから難しいし……まあ、そのために瞬間移動できるように頑張ったんだけどね」

 

 

術式を駆使すれば音速を超えた飛行も余裕な彼女は、術式を更に極めて瞬間移動まで可能にしている。

 

発動に必要な条件はあるものの、瞬間移動ができる術師は五条以外ではクリスのみ。これは呪術界の中でも非常に大きなアドバンテージとなっている。

 

これなら日本からアフリカまで自ら飛んで行った方が速い、と思うかもしれない。だがそこに関してはクリスは結構律儀なので、アフリカまでは普通に飛行機に乗って移動しているのだ。

 

こうして広大な砂漠の上空を飛行し続け数時間が経過し、遂に封印場所の周辺までやって来た。

 

 

「えーと、地図だと大体この辺りに天逆鉾が封印されているらしいけど……どこだろう? それらしい建物とかは全然見当たらな…………あったわ」

 

 

目的の物は近くに行って目を凝らせば案外すぐ見つかるもので、一見岩だらけの岩石砂漠の中でこぢんまりとした小屋が、目立たない様にひっそりと佇んでいた。

 

近付いてみるとしっかりとした作りの扉が付いており、ご丁寧に五条家の家紋が小さく彫られている。

 

 

「中を実際に確かめるまでは分からないけど、絶対ここだって断言できる自信がある。外からでも感じ取れるこの()()()()()……うん、間違いない」

 

 

もはや疑う余地など何処にも無かった。

 

後はこの小屋の中にあると思われる天逆鉾の封印を解き、それを五条悟の下まで送り届けるだけ。それで今回の長旅が終了する。

 

そう思いながら、安堵の溜め息を漏らしつつ扉に手を掛け────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソノ呪具ハ、コチラノ物ダ! オ前ハ大人シク帰ッテモラオウカ!」

 

「────ッ!?」

 

 

唐突だった。

 

片言の日本語が背後から聞こえた瞬間、反射的にその場から離れて岩石の上に飛び移る。

 

直後に響き渡る、大気をつんざくような爆音。音がした方向を見ると、天逆鉾が封印されている小屋が爆発によって激しく炎上し、灰となって崩れ落ちていた。

 

 

「そんな、小屋が……あそこには逆鉾が封印されているのに! ……ねえ、お前誰?」

 

 

いきなり小屋が吹き飛ばされた事に驚愕しつつも、冷静な思考で小屋を破壊した実行犯を鋭く睨み付ける。

 

一方で、クリスに睨まれたサングラスの男の方はというと、余裕の笑みを一切崩さず、片言の日本語で質問に答えた。

 

 

「俺ノ名ハ『ミゲル』。アンタカラアノ呪具ヲ奪イニ来タヨ、特級!」

 

「…………あっそう。なら容赦なく叩きのめしてあげる。勢い余って殺しちゃっても文句は垂れないでよね?」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

所変わって、東京都内の某所にて。 

 

この日、星野アクアは『今からガチ恋始めます』という恋愛リアリティーショーの番組撮影に顔を出していた。 

 

これは色々な縁で知り合ったプロデューサー、鏑木雅也との話し合いの末に決定した出演。アクア本人はあまり乗り気ではなかったものの、生前のアイの人間関係を知るために出演を引き受けた。

 

全ては、アイを殺した真犯人と思しき実の父親に復讐するために。そもそも復讐に向いていない善良な人であるという事も知らずに。

 

そうして数週間前から始まったリアリティーショーの撮影は、今日も特に大きな問題もなく順調に進んでいた。

 

そのはずだったのだが……。

 

 

「私……もう『今ガチ』辞めたい」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

 

番組出演者の1人である鷲見(すみ)ゆきから出た突然の辞退宣言に、他の共演者が驚愕の声を上げた。

 

どうして辞めたいのか理由を聞くと、曰く学校でクラスメイト達から揶揄されたり偏見の目で見られたりして、精神的に辛くなったからとの事。

 

 

「自分の『好き』って気持ちを皆に見せるって、こんなに怖い事ないよ」

 

 

その一言で全員が押し黙ってしまう。

 

励まそうとする気持ちが引っ込み、どう接するのが正解なのか分からず言葉に詰まる。

 

それでも一番近くにいた熊野ノブユキが「ゆきが辞めるなら俺も辞める!」と啖呵を切って、最後まで懸命にフォローし続ける。

 

 

「私は……」

 

 

そこで今回の『今ガチ』の収録は終わり、辞退を希望したゆきの最終的な返答は次回へ持ち越しとなる。

 

毎回ハラハラドキドキさせる内容に視聴者数は徐々に増加しており、ゆきを中心とした話の展開で中高生の人気を獲得していった。

 

 

 

 

 

「────どう? 見て見て、記事になってる! 私もちょっとは視聴者獲得に貢献できたかな?」

 

「そうだな、結構貢献してると思うぞ」

 

 

なお、撮影の裏側ではこんな調子である。

 

番組を辞めたいと思った事も、クラスメイトから揶揄われて悲しかったのも事実ではあるが、当の本人は実はそこまでダメージが無かったりする。

 

ほんの少しでも思った事を分かりやすく強調し、視聴者達にアピールしているだけ。しかし、それらをカメラワークと立ち回りを意識しながら行う事で、上手い具合に話を進めていた。

 

彼女のこういう立ち回りの上手さにはアクアも舌を巻いており、素直に凄いと思っている。

 

だからこそと言うべきか、機転の利かせ方が上手い人達とは違い、それがあまり得意ではない人の方を少しだけ心配に思っていた。

 

 

「……まあ、それも杞憂に過ぎないか」

 

 

嘘は身を守る最大の手段。

 

そう考えているアクアにとって、リアリティーショーで本当の自分を曝け出す事の危険性を十分に理解しており、故にとある共演者の少女の事が唯一の気がかりでもあった。

 

だが、それも結局は杞憂に終わるだろうと勝手に結論付け、残りの撮影期間を如何に上手くやり過ごすかに思考を切り替える。

 

その一瞬の油断が良くなかったのだろうか。

 

ある日、事件は起きてしまった。

 

 

「────い、一旦カメラ止めます!」

 

「えっ、モデルの顔にそれはちょっと……」

 

「明日は雑誌の撮影なんだろ? 不味くないか?」

 

「おいおいおい、どうすんだよこれ……?」

 

 

黒川あかねが、鷲見ゆきの頬に誤って傷を付けてしまった

 

普段の真面目で愚直な性格から番組内で上手く立ち回れず、その事を事務所の社長や視聴者から批判された事で焦った末に、慣れない事をして起きてしまったのだ。

 

タイミングがあまりにも悪過ぎた、としか言えない不運な事故。まさかこんな事になってしまうとはあかね本人ですら予想できなかった事故。

 

 

「そ、そんな……違っ、私、そんなつもりじゃ……!」

 

「あかね! 私は大丈夫だから落ち着いて! 分かってるからね……」

 

 

幸いな事に、傷付けられた当人はあかねの心境と事情をしっかりと理解しており、あかねも誠心誠意を込めて謝罪した事で、2人はすぐに和解した。

 

しかしこの出来事がきっかけで、黒川あかねは自ら命を絶とうとする程ネット上で誹謗中傷の嵐を浴び、大炎上してしまう酷い目に遭う。

 

 

 

*1
クリスは普通に素顔で、五条はこの時サングラスを掛けているよ。




炎上(ネット)と炎上(物理)の違い。

クリスもあかねも、互いに炎に巻かれて大変です。

それと天逆鉾についてですが、原作では五条悟が破壊したか海外に封印したとなっており、実際はどうなったか明かされていません。

なのでこの小説内では、極一部の人を除き天逆鉾は破壊されたという認識になっているが、実はこっそり海外に封印していたという事にしました。





※オマケ
苺プロの事務所にて


ルビー「ミヤコさーん! ミヤコさーん! 大変だよぉー!」

ミヤコ「どうしたのルビー? あまり大声を出したら近所迷惑でしょう。少し落ち着いて?」

ルビー「落ち着いてなんかいられないよ! ねぇこれ、これ見てよ!」

ミヤコ「だからどうし……ツイッター? 一体これが何だって……って、クリス!?」

ルビー「そうなのよミヤコさん! さっきツイッター開いたらクリスが載ってる写真がバズって凄い事になってたの! 『都内の人気カフェで絶世の美男美女カップルがいた』って!」

ミヤコ「というか何でカフェにいるのよ? あの子の学校、郊外じゃなかったの?」

ルビー「それは分かんないけど、こっちも見て! クリスの正面にいるサングラスのお兄さん、超イケメンじゃない!?」

ミヤコ「本当だわ。そこらのアイドルや俳優とは比較にならないイケメンね。しかも高身長でスタイリッシュ……クリスとどういう関係なの? まさかクリスの彼氏?」

ルビー「嘘でしょクリス……こんな超イケメン彼氏を一体どこで捕まえたの? アイドルに誘う前にこっちの方を先に問い詰めなきゃ……」

ミヤコ「その時は私も一緒に話を聞くわ。可愛い娘に手を出したこの男がちゃんと任せられる相手かどうか、母として判断する必要があるもの」

ルビー「お兄ちゃんがこれ見たら絶対ヤバい事になりそうだなぁ……」


一方その頃、今ガチの収録に来ていたアクアは……。


MEMちょ「アクたんアクたん、これ見てよ! 今日ツイッターに投稿された写真だけどさ、これヤバくない!? ほら、『絶世の美男美女カップル』だって! こんなイケメンと美女がこの世にいるなんて凄いよねぇ!」

アクア「あ、ああ……凄いな(何で郊外にいるはずのクリスが都内のカフェに? まさか学校サボって……いや、そもそもクリスと一緒にいるこの男は誰だ? これは本人に直接問い詰める必要がありそうだな)」

あかね「す、凄い……この2人、よく分からないけど自然と注目しちゃう……目が離せなくなる何かが……」

MEMちょ「あれっ? なーんかこの女の子の顔、どっかで見た事あるような……?」
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