呪術の子   作:メインクーン

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前回:
アイ「逃がさない!皆嫌い!死んじゃえ!」

クリス「ちょっとママどうしたの!?」

アイ&クリス「領域展開」

クリス「えっ、僕の領域が破られた……?」



アイとクリスの親子喧嘩 ②

星野アイは確かにアイドルとして規格外の存在であり、圧倒的な才能を持っていた。

 

しかし、アイにとってアイドル活動中は、本当の自分を隠して嘘で塗り固めた姿を皆が一番喜ぶ形でアピールしていただけに過ぎない(最も、その技術がずば抜けて優れていたせいで大勢の人々を魅了し、狂わせる原因にもなったが)。

 

そんなアイを見た凡夫達は囁く。まさに『天才』、『完璧で究極のアイドル』だと。

 

だが、彼女の中で最も光る原石は────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪術師としての才能だった。

 

 

「ぐっ……!」

 

「…………」

 

 

星野アイの領域展開『相思相愛』は、他の者の領域と異なり結界で空間を分断しない神業の域に達する。

 

故に、クリスの領域の外殻をあっさり破壊し、術式が焼き切れて使えなくなったクリスを追いつめている。

 

今も領域展開で創造した幾千本ものナイフを飛ばし、実の娘の身体を容赦なく切り裂いていた。

 

 

(まさか結界で空間を分断しない、閉じない領域展開とはね。その発想は今まで無かった。悔しいけど、領域対決はママの方が一枚上手だったわけだ……)

 

 

全身をナイフで切り裂かれた結果、目玉が抉り取られたり骨が見えたりする程の重傷を負うクリス。傍から見れば全身ズタズタの血塗れで、失血死する量の血が地面に飛び散っている。

 

その状況でも彼女は己の身に起きている事実を冷静に受け止め、アイの閉じない領域展開をしっかり分析していた。

 

更に術式が使えなくとも、呪力強化と反転術式を同時に使用することで即死は免れている。

 

 

(マズいな……反転術式での回復が間に合わなくなってる)

 

 

とはいえ、呪力強化と反転術式のみで耐えるには限度がある。反転術式の過剰使用で呪力を急速に消費していき、徐々に回復が追い付かなくなる。

 

しかし、ここでくたばるクリスではない。

 

 

「──シン・陰流『簡易領域』」

 

 

絶え間ない攻撃で回復が追い付かないのであれば、攻撃の雨を中断させればいい。

 

クリスは居合の構えを取り、五条悟直伝の簡易領域を使用した。当然、呪力強化と反転術式の併用も忘れない。

 

 

「まぁ、領域対策と言ったらやっぱこれだよねー」

 

 

そう呟きながら、簡易領域が破壊されるまで全力で身体の回復に専念する。ズタボロになった全身は瞬く間に治癒され、綺麗で艶やかな肌を取り戻した。

 

その瞬間だった。

 

 

「許さないっ!!」

 

「あっぶな!?そうだよね、当然邪魔してくるよね!」

 

 

アイがナイフを片手に携えて、クリスを切ろうと直接襲い掛かってきた。

 

クリスは咄嗟に後ろに飛んで回避したが、簡易領域はガラスのように破壊された。

 

 

「ちっ!」

 

 

再びクリスの身体がナイフの雨に晒される。

 

せっかく回復した肉体もあっという間に切傷だらけで血塗れになり、取り柄の可愛い顔も台無しになっていく。

 

 

(簡易領域だとすぐに剝がされる!何となく察してたけど、これじゃ時間稼ぎにもならない!ならば……!)

 

 

定番の簡易領域ではアイに通じないと理解したクリスは次の手を打つことにした。

 

 

「──領域展延」

 

 

相手の術式を中和する領域展延。

 

初めて習得してから1年半、かなりの精度と出力を誇るクリスの領域展延は、アイの領域の必中術式を中和してダメージを軽減させる。

 

更に領域展延のメリットは、術式を中和しながら自由に動き回れること。

 

クリスは襲いかかるアイと真正面からぶつかった。

 

 

「あんたなんか大っ嫌い!死ね!死んじゃえ!」

 

「さっきから物騒な事ばかり喋るなぁ!確か『相思相愛』だっけ、領域の名前。大層な名前の割に愛情の欠片も無いね!」

 

「うるさい黙れ!」

 

「ママの方こそ!」

 

 

互いに激情を乗せた言葉をぶつけ合いながら、殴り合い切りつけ合いの泥試合を展開する。

 

だが、術式が焼き切れて呪力強化のみの身体能力しか発揮できないクリスに対し、領域のバフ効果で更に動きが機敏かつ力強くなったアイの前では分が悪かった。

 

 

「許さない!許せない!どうして私ばっかり!」

 

「さっきから話が見えてこな……うぐっ!?」

 

 

アイが繰り出した右のエルボーがクリスの顎を捉える。強烈な打撃を食らったクリスは体勢を崩した。

 

その隙にすかさず連続で拳を突き出すアイ。先程のような強烈な打撃が、クリスの顔面や胴体に炸裂する。

 

 

(これやっば……!)

 

 

流石のクリスもこの状況で焦りを見せた。

 

連続で使用した反転術式、呪力強化や領域展延との併用も相まって、いよいよ呪力の底が見え始めた。

 

だが、このタイミングでアイは駄目押しとなる攻撃を繰り出した。

 

 

「死ねっ!」

 

「──ッ!?」

 

 

死ねという言葉と同時に、アイがクリスに思いきり体当たりした。その瞬間、クリスの腹部に硬い異物感とじんわりと広がる熱が発生する。

 

何事かと思い視線を下に向ける。

 

 

(今のは……ナイフ!?腹部に突き刺したのか!こんなにも深々と!)

 

 

見ればアイが携帯していたナイフがクリスの腹部に突き刺さっていた。根元まで深々と。

 

しかもクリスが刺された箇所は腹部大動脈。奇しくも生前のアイが刺されて亡くなった時と同じ傷をクリスも負った。

 

 

(あっ、ちょっとこれは洒落にならないかも……)

 

 

本来なら腹部大動脈を刺された程度で死ぬことは無い。すぐに治せるからだ。

 

だが、今は領域の攻撃に晒されて反転術式を全力で回している最中。呪力の底が見え始めてきたタイミングでこの負傷は無視できない痛手だった。

 

故にクリスは必死で頭を回転させる。

 

 

(何か……何かないか!?この絶体絶命な状況を上手く打破する方法!)

 

 

この状況をどうにか打開できる策は無いか考える。

 

いくら何でも死因がママと一緒は勘弁してほしい。その一心であーでもないこーでもないと様々な案を思い浮かべた。

 

 

(あーもう、術式反転が使えたら全然問題ないのに!いい加減早く術式回復して……ん?術式の回復……それだ!)

 

 

焼き切れたまま使用できない術式に愚痴を零しながら策を練っていたが、術式の回復という単語で突如天啓を得た。

 

かなりリスクは高いが、それでもこのままジリ貧で負けるよりはマシだと考え、躊躇なく行動に移す。

 

 

「もっと、もっと殺して──ッ!?」

 

「おっ、やっとびっくりした顔見れたかも。ったく、本っ当に世話の焼ける母親なんだから!」

 

 

止めの一撃を刺そうと再びナイフを振り下ろすアイだったが、超高速で横に回避したクリスに驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「うん、成功だね。反転術式での術式の回復。これなら術式が自然回復するまでちんたら待たずに済む」

 

 

そもそも術式の回復を時間経過で悠長に待つ必要って無いのでは? そのような考えにクリスは至り、焼き切れた術式を反転術式で無理矢理回復させた。

 

とはいえ焼き切れた術式、つまりは脳に刻まれたシステムそのものを回復させるので、1度呪力で物理的に脳を破壊してから反転術式で治す必要があった。

 

一歩間違えれば即死する綱渡りの方法。だがクリスは、天性の才能と類稀なる勘でそれを一発で成功させた。

 

 

これにより、クリスは術式の回復に係る時間を大幅短縮させることに成功する。

 

 

「さっきは実の娘の身体を散々切ったり刺したりしてきたからね……」

 

「──ッ!?」

 

「お返しだよ!」

 

 

 

 

 

────術式順転『望速・烈』!!

 

 

 

 

 

瞬間、突き出したクリスの右手に莫大なエネルギーが生成・凝縮され、アイの目の前でそれが一気に解き放たれた。

 

超高威力広範囲の爆破攻撃である『望速・烈』。手加減はしない。爆破で吹き飛ぶ範囲を狭める縛りで、爆破の威力を底上げする。

 

 

「──ッ!?──ッ!!」

 

 

目の前で大爆破攻撃を食らったアイは声にならない悲鳴を上げ、ものの見事に吹き飛ばされて地面に叩き付けられた。

 

よく見るとアイの顔面は目玉ごと半分焼け焦げ、腕や脚の肉は爛れて骨まで見える状態になっている。

 

それを確認したクリスは、術式反転で消費した呪力と傷付いた身体を一気に回復させながら言った。

 

 

「あー、すっきりした」

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

クリスが術式を回復させて反撃したことで、アイの身体は見るも無残な状態へと変わり果てた。

 

だがアイの領域は未だ継続中で、今もクリスの身体を容赦なく切りつけている。

 

 

「うーん、結構な大ダメージだと思ったんだけど、領域はまだ健在なんだよね。やっぱりママが呪霊だからかな?」

 

 

呪霊の肉体は呪力で構築されているため、肉体の治癒に高度な反転術式を必要としない。

 

それ故に人間であれば即死か重体必至の怪我でも、呪霊化した今のアイは一瞬で肉体を治癒させて復活できる。

 

それでも目の前で食らったクリスの反撃は効いていたのか、先程よりも若干動きが鈍くなったように見える。

 

 

「でも良いね、勝ち筋が見えてきた。もう何回か大技ぶつければ祓えそうかも」

 

 

先程放った『望速・烈』レベルの大技をアイに当てれば更に大きなダメージになるだろうし、領域も解除されるだろうと予想を立てる。

 

 

「おっと、こっちはもう領域展開を使用しないよ。このまま戦わせてもらうから」

 

 

そしてもう1つ。クリスは領域展開するのを止めた。

 

一度アイの領域の必中術式を受けて分かったことがある。それは術式反転を併用すれば余裕で耐えられるということだ。

 

クリスの術式反転は時間を巻き戻す。それを自身の肉体に掛ければ、ダメージの無効化から呪力の回復まで可能にする。

 

脳自体を駄目にする五条悟の無量空処と違い、ナイフで切り裂くアイの領域効果であれば、わざわざ領域展開で対抗する必要はないと判断した。

 

 

「それじゃあ行くよ!『望速・烈』!」

 

 

完全に回復したところで、戦闘再開の合図代わりに再び『望速・烈』を撃つ。

 

一瞬でエネルギーを凝縮させ、アイに向けて素早く発射。

 

しかし2度目は流石に読まれてしまい、一瞬でその場から飛んでダメージを最小限に抑えられた。

 

 

「それはもう効かない」

 

「あっそ。でもこれ撃ち続けられたら辛いでしょ!」

 

 

アイも最初の頃より大分受け答えがハッキリしてきた。長時間の戦闘、領域対決、予想外の反撃を食らった影響だろうか。

 

そんな事を考えながらも『烈』を何度もアイに向かって放つクリス。

 

そもそもが広範囲を破壊する爆破技なので、いくらアイが直撃を避けようと完全回避は不可能なのだ。

 

 

「ほらママ、直撃しなくてもダメージは溜まる一方だよ!」

 

「…………」

 

 

無言で動き回るアイに向かって容赦なく爆破攻撃を撃ち続ける。

 

確かに本物のアイの魂が核となっているのは確認したし、言葉も少しずつ交わせるようになった。それでも本質が人を襲う呪霊であることに変わりはない。

 

そう思って攻撃の手を緩めないクリスだったが、閉じない領域を魅せるアイの対応力は伊達ではない。

 

 

「──領域展延」

 

「えっ、マジ?」

 

 

クリスが驚くのも束の間、アイの体表を見覚えのある膜が覆った。紛う事なき領域展延である。

 

 

(マジか!?さっき僕が展延使うところを見て、この短時間で物にしたってこと?ママってば呪術の才能あり過ぎでしょ!)

 

 

アイの領域内での攻撃に耐えていた時、クリスが領域展延で耐え凌ぐ姿をアイはしっかり観ていた。

 

その後はクリスの推測通り、アイは短時間で領域展延すらも覚えて使用するようになった。

 

しかも同時に閉じない領域展開を使用したままで。

 

 

(まぁ、領域展開と領域展延の同時使用は僕も出来るしやった事はあるけど、この短時間でそれを使いこなすのは凄いね。流石は僕のママってところかな?)

 

 

母親の才能をべた褒めするクリスだが、これによりアイは『烈』から身を守る手段を得たことになる。

 

爆破攻撃技の『烈』は確かに強力だが、術式による攻撃である以上、展延による中和が可能。

 

それでもクリスの攻撃を完全にダメージゼロにすることは出来ないが、やってもあまり効果が無い段階まで抑えることに成功している。

 

故に──、

 

 

「『望速・烈!』」

 

「お返ししてやる!これでも食らえ!」

 

 

試しに何発か『烈』を撃ち込んでみたが、展延を張ったアイは爆発を受けながらもそのままクリスに突進してきた。

 

 

「おっと危ない!『烈』を無視して突っ込んでくるとかこっわ。冷や冷やする」

 

 

咄嗟に身体を仰け反って回避するクリスの真上を、アイのナイフが超速で突き抜ける。

 

 

「もう一回素手喧嘩(ステゴロ)勝負でもやっとく?」

 

「ウザい!離れろ!」

 

 

クリスはすぐに体勢を立て直し、アイに正面から殴り掛かった。時間加速による高速移動が可能となり、再び互角の近接戦を繰り広げる。

 

 

「あんたなんか嫌い!嫌いな奴は皆死んじゃえ!」

 

「かなり饒舌になってきたね!でも悲しいなぁ、ママに嫌いって言われるなんて。僕はママが最期に言ってくれた『愛してる』って言葉、今でも鮮明に覚えてるよ?」

 

「それがどうしたって言うの!?」

 

「分からないかなぁ!?ショックだなぁ!呪霊化して馬鹿になっちゃったみたいだね!情けないよ!」

 

「調子に乗るな!」

 

 

時間が経つに連れて戦いが苛烈になる中、口論もどんどん苛烈さを増していく。

 

そんな激しい戦闘の中でもクリスは頭を回す。

 

 

(さーてどうする?『烈』に対応された以上、ここからママに勝つにはどうすれば良いか……)

 

 

領域勝負は閉じない領域を使うアイの方が圧倒的有利。もう2度とやらない。

 

超高威力の爆破攻撃技『望速・烈』は展延の使用でダメージを最小限に抑えられた。決め手に欠ける。

 

圧倒的な速度と貫通力に優れた『望速・煌』もあるが、それもアイにはあまり通用しないだろうと結論付けた。

 

打撃による黒閃も大したダメージになっていない以上、ここからアイに勝つ手段は限られる。

 

 

(まだ見せてない手札は2枚。1枚目は極ノ番だけど……)

 

 

手段が限られたうえでのクリスの手札。

 

1枚目に挙げたのは極ノ番。術者の奥義が領域展開なら、極ノ番は術式の奥義を指す。

 

だが、これをクリスが実戦で使ったことはない。

 

 

(極ノ番は却下。あれは確かに強力だけど、()で使用すればマジで洒落にならないからね。加減ミスったら地球まで崩壊する可能性もあるし)

 

 

極ノ番は確かに強力無比な大技だが、それ故に危険性も多分に孕んでおり、周囲への被害があまりにも甚大過ぎるというデメリットがある。

 

ここで使用すれば間違いなく日本どころか世界中が死者で溢れ返る。クリスはそれを考慮して極ノ番の使用を止めた。

 

 

(……となると、もう1枚の切り札(カード)だね)

 

 

だが、それは技の発動までに大きなタメが必要で時間がかかるという欠点がある。おまけに避けられるリスクもある。

 

とはいえ他に選択肢も無いのでやるしかない。

 

 

(うん、決まりだ。展延でも中和しきれない全力の『虚式』を、必ずママにぶつけてみせる……!)

 

 

戦いは遂に佳境を迎える。

 

 

 




Q.どうしてアイは強力な術式を持ってるのにナイフの攻撃ばかりしてくるの?

A.生前の死因だから。ナイフのデザインも当時の物を完全再現してる。


ちなみに本作のアイは日車と同じタイプ。
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