呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「愛してくれてありがとう。僕もママのこと愛してる」

アイ「私も愛してる!」

クリス「そりゃ良かった!」

※ちょっと独自解釈入ってます。



呪胎戴天

アイとクリスの壮絶な親子喧嘩にようやく終止符が打たれた。

 

今際の際でようやく愛せた娘に対して何度も暴言を吐いたり殺しかけたりと、とても酷いことをしたと落ち込んでいたアイだった。

 

だが、クリスがそれら負の面をひっくるめてアイのことを愛している、純愛だと堂々と言い切ってみせたことで、アイは元気を取り戻したのであった。

 

こうして互いに本物の愛を確かめ合った後。

 

 

「思ったんだけど、これからママはどうするの?」

 

 

今のアイは呪いから解放され、魂だけの存在。実体が無い故人なので、彼女のこれからが疑問だった。

 

 

「うーん、そうだねぇ。出来ることならこのまま残ってアクアとルビーの成長まで見届けたいけど……大人しく成仏するつもりだよ」

 

 

意外も意外。アイのことなので、子供達の現状は気になってしょうがないから現世に残るだろうと思っていた。

 

そんなクリスの予想に反して、このまま成仏すると宣言したアイ。

 

 

「えー、何で?残りたいなら残ればいいじゃん。方法も別に無いことは無いんだしさ。ママが居たら何だかんだ楽しそうだし」

 

 

意外そうに驚いた顔でアイを見やるクリス。そんな娘に対し、アイは「でもね……」と呟き少し翳りのある表情を浮かべた。

 

 

「やっぱりどれだけ愛してても、我が子に手を出しておいてこのまま残るのはちょっとね……。そもそも私とっくに死んでる身だし」

 

「…………」

 

 

成仏を選んだアイの理由にクリスは押し黙った。

 

やはりどれだけ親子で愛を分かち合っても、アイが自身の悪感情を呪いに込めてクリスにぶつけたという事実は変わらない。

 

母親失格の行為を何回も犯してしまった自分は、このまま地獄に行くのが妥当だろうとアイは語る。

 

 

「いやいや、成仏するにしてもわざわざ地獄に行く程度のことじゃ……」

 

「ううん、クリスが良くても私が納得できないの。それに愛する子供を殺しかけて天国なんて、とてもじゃないけど行けないよ。それ以前にずっと嘘吐きだったしさ」

 

 

悲しいほどにアイは優しく微笑む。

 

やはり娘を殺しかけた行為はそれだけアイの心に深く突き刺さっており、これ以上にない罪悪感を抱いていた。

 

もはや説得の余地なし。あれだけ愛を嚙み締めた後でこれなのだから、アイの決意が相当固いのは想像に難くない。

 

これにはクリスもお手上げだった。

 

 

「……そっか、それは残念。なら、もうこれ以上僕から言うことは何もないよ。それがママの選択なら僕はそれを尊重する」

 

「ごめんねクリス……ありがとう」

 

 

アイの意志を尊重することにしたクリスの判断に、アイは感謝の言葉を述べた。

 

名残惜しいけど魂だけになったら普通は成仏するのが当たり前か、とクリスは1人で納得し、大人しくアイを見届けることにした。

 

 

「でも最後に1つだけ。兄さんも姉さんも元気に大きくなってるよ。2人ともママの身長超えてる」

 

「へぇ、そうなの。アクアもルビーもそんなに成長したのかぁ。流石私の子、元気に育ってくれてよかったよ」

 

 

せめて2人の兄姉のことは伝えておこうと思って言ったところ、アイもほっと胸を撫で下ろして安堵してくれた。

 

 

「お母さんが私達の面倒をずっと見てくれたんだ」

 

「お母さんって、ひょっとしてミヤコさんの事?」

 

「そうだよ。ママは僕にとって掛け替えのない母親だけど、お母さんも僕の立派な母親なんだ。どっちも僕は愛してる」

 

「そっか、ミヤコさんに感謝だね」

 

 

アイが亡くなってから今日まで、クリス達をたった1人で支えて育て上げたミヤコの存在も伝えると、アイは嬉しそうに笑った。

 

 

「だったらさ、私の子を元気に育ててくれてありがとうってあの人に伝えてくれる?」

 

「勿論、必ず伝える」

 

 

当然、ミヤコに対する感謝の気持ちも本物である。それをクリスは瞬時に理解し、感謝の言葉を伝えると約束した。

 

 

──そうして伝えたいことは粗方伝えたところで、いよいよ別れの時間がやって来た。

 

 

「クリス、ありがとう。最後にクリスと再会できて本当に良かった」

 

「僕も嬉しかったよ、ママ。それと兄さんと姉さんのことは任せて」

 

「うん、お願い」

 

 

いよいよ成仏すると決心したのか、アイの魂がどんどん輝きを増すと同時に透け始めた。

 

悔いの残らないように、最後までお互いに感謝の言葉を伝えあう。

 

 

「じゃあねクリス、元気でね。あんまり早くこっちに来ちゃ駄目だよ?」

 

「……うん、さよならママ。またね」

 

 

そう言って互いに手を振って、笑顔で別れの言葉を告げる。

 

これで思い残すことなく逝けると感じたアイは、最後にクリスに向かってそっと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

突如、クリスの素っ頓狂な声が2人の間に響き渡る。その左胸には鋭利なナイフが深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 

アイが成仏すると決心し、別れの挨拶を交わしていざあの世に向かおうとした矢先、クリスの心臓を見覚えのあるナイフが貫いていたのだから。

 

これにはクリスも、そしてアイ自身も驚愕に目を見開いていた。

 

 

「えっ、ママ……?どうして……?」

 

「えっ……何で?うそ、嘘嘘嘘嘘嘘ッ!?そんな、何で!?どうして!?そんなつもりは無かったのに!」

 

 

困惑した様子でクリスが理由を尋ねるも、アイは狼狽して質問に回答できる状況ではなかった。

 

このナイフを飛ばしたのはアイで間違いないが、反応からして意図的ではないしどこか様子がおかしい。

 

クリスはすぐに思考を切り替えて冷静に分析を始めた。

 

 

「っと、まずはナイフを抜いておくか……えい!」

 

 

ナイフを引き抜いた瞬間、クリスの左胸から大量の血液が滝のように溢れ出した。

 

明らかに致死量を超えた出血量。常人であれば失血死は免れないその傷は、クリスにとっては蚊に刺されたも同然。

 

驚異的な呪力強化と生命力を併せ持つクリスは、最悪心臓が無くとも長時間の活動が可能な程である。

 

そんなこんなで刺された箇所を治癒していると、アイが悲哀と焦燥を孕んだ泣き顔を浮かべて聞いてきた。

 

 

「クリス、大丈夫!?ごめん、ごめん……!あんなに愛してるって言ってくれたのに、許してくれたのに……わ、私、何て酷いことを……!」

 

「良いから落ち着いてママ。わざとじゃないのは分かってるから。はい、大きく深呼吸を──ッ!?」

 

 

大粒の涙を流して平謝りするアイを宥め、事情を聞こうとしたクリスだったが、アイの身体を見て息を吞んだ。

 

 

「ママ、身体に憑いてるその呪いは一体……!?」

 

「えっ……えっ、えっ、えっ?何これ……?」

 

 

アイの指先から胴体部分に掛けてドス黒い呪力の塊が取り憑き、アイの魂を凄まじい速さで浸食していた。

 

一体いつの間にそんな物が憑いたのだろうとか、そもそもどこから来た呪いなのだろうとか、次から次へと疑問が湧き上がる。

 

 

「いや、もう止めて……いや……いやぁああああああああっ!!」

 

 

が、アイの悲痛な叫び声を聞いて、このまま放置するとマズいことになると感じたクリスは、考えるよりも先にアイから呪いを取り除くことに。

 

 

「ごめんママ、そのままじっとしてて!もう1度さっきのやつを当てて取り除く!」

 

 

アイの魂を侵食する呪いを除去するために、再び身体の内で順転と反転のエネルギーを掛け合わせる。

 

先程の1発を経験して、魂を傷付けずに呪いだけを祓うコツをクリスは既に掴んでいた。

 

 

「虚式──『滅』」

 

「──ッ!?」

 

 

最初に当てたものと異なり全力からは程遠く、威力を軽減した虚式の射出。

 

それが超速でアイの身体にぶつかると、呪いの塊のみ綺麗さっぱり取り除いて空の彼方に消えていった。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

(ママが疲労してる!虚式によるダメージは無くとも、呪いに浸食された時の負担は残ったままか!)

 

 

目を赤く泣き腫らし、激しく息を切らすアイを見て分析を再開する。突如起こった異常事態だが、長年呪術師として働いた経験からクリスはある1つの仮説を立てた。

 

 

(ママが呪霊になった原因は恐らく祈本里香と同じ。ママの死を拒絶する大勢のファンの呪いが集まって、それがママの魂と融合して呪霊化した)

 

 

以前、乙骨本人から聞いた話。特級過呪怨霊の祈本里香が生まれた原因として、「里香ちゃんではなく僕が呪いをかけたのかもしれない」と言っていた。

 

そして、アイは生前数百万人以上のファンを持つ伝説のアイドルだった。今でもアイの人気は根強く、アイを信奉する全国のファンは数知れず。

 

これら2つの要素を加味してクリスが弾き出した答えは1つ。

 

 

(推し測るに、今もなおママを呪うファンの存在がある限り、ママの魂はドス黒い呪いに取り憑かれ、何度でも呪霊として蘇る……!)

 

 

アイの魂を核とした特級過呪怨霊の再誕。それは新たに発覚した絶望とも言えた。

 

なまじ狂信的なファンや関係者が多過ぎるが故に、アイの魂は本人がどれだけ望んでも成仏する事すら叶わず、何度でも最強最悪の呪霊として復活する。

 

死した後ですら大勢の人々から偶像を押し付けられるアイは、まさにアイドルという存在を体現したアイドルであった。

 

その事を理解したクリスは苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。

 

 

「ちっ、本当に面倒な事をしてくれるねファンって奴は!いい加減ママの死から立ち直れっつーの!」

 

 

思わずアイのファンに対して愚痴を溢すが、そんな事を言っている間に次の新たな呪いがアイの魂を浸食し始めた。

 

 

「あっ、がぁあああ……ぐぎぎっ……!」

 

「マジか!?呪いの浸食が速すぎる!」

 

 

アイが壊れた機械のような悲鳴を上げて藻掻き苦しむ様を見て、クリスが驚愕と動揺の表情になる。

 

やはり放っておくわけにはいかないので、もう1度虚式を当てて呪いを取り除いた。

 

 

「はぁ……はぁ……!もう嫌……嫌だよぉ……!」

 

「ママ……」

 

 

生前、どんなに辛いことや苦しいことがあっても気丈に振る舞い、完璧な嘘を吐いて全員を騙し通したアイ。

 

そんな彼女ですら魂が呪いに浸食されるのは耐えられる限界を超えていたのか、ボロボロと涙を流し、すっかり憔悴しきった様子で何度も弱音を吐いていた。

 

 

(さて、どうする?ここからママを助ける方法は主に3つだけど……)

 

 

アイに取り憑く呪いを祓いながらクリスは思案する。どうすれば母親を苦しみから救えるかについて。

 

ざっと思い浮かんだ方法は全部で3つ。

 

 

(1つ目は全力の虚式をぶつけてママの魂を跡形もなく消し飛ばす方法……)

 

 

正直これが一番手っ取り早く、苦しみから解放するという眼下の問題を解決できる。

 

だが、アイの魂が完全に存在ごと消えて無くなるという問題が発生する。つまり天国や地獄へ行く前に、そもそも安らかに成仏することすら不可能になるという事である。

 

流石のクリスも愛する母親に対してこれはやれそうにないと思い、即座に却下した。いくら何でも嫌すぎる。

 

 

(2つ目は夜蛾学長に頼んで人工呪骸を作ってもらって、そこにママの魂を宿らせる方法……)

 

 

呪いによる浸食を止めたいのであれば、魂を何らかの器に宿らせて存在を安定させる必要がある。

 

魂を器に宿らせるといえば、傀儡操術の第一人者たる夜蛾学長がいる。彼に頼んで呪骸を用意してもらい、そこにアイの魂を宿らせれば呪いの浸食は止まる。

 

このまま成仏したいというアイの要望に逆らう結果になるが、そうも言ってられない状況になってしまった。アイに懇切丁寧に説明して、了承してもらう他ない。

 

だが、これにも致命的な問題がある。

 

 

(呪骸を作って魂を宿らせるにも時間がかかる。それまでにママの精神が持ちそうにない)

 

 

呪骸に魂を宿らせるよりも先に、アイの精神が崩壊する方が確実に早いという問題である。

 

先程から呪いに浸食される度、アイが耐え難い激痛に藻掻き苦しんで精神が摩耗している。この呪いは魂が剥き出しの状態となった今では事前に弾けないので、浸食された箇所を虚式で取り除くしかない。

 

あと数回も繰り返せばいよいよ取り返しのつかない事態に発展しそうである。そうなってしまっては本末転倒だ。

 

 

(となると、残るは3つ目の方法。だけどこれは、ママというよりは僕の意思次第による……)

 

 

残る3つ目のアイを助ける方法。消去法で2つ消されて残った最後の1つ。

 

この方法は先程挙げられたそれぞれの欠点を概ねクリアしている。魂が完全に消え去ることは無いし、時間がかかり過ぎてアイの精神が崩壊することも無い。

 

つまりアイ側には殆どデメリットが存在しない。だが1つだけデメリットがあり、それはクリス自身が少々身体を張る必要があるという点だ。それも割と無視できない程の。

 

なので3つ目の方法を実行するかどうかはクリスの意思によるのだが……、

 

 

(いや、考えるまでもないね。これが有象無象ならノータイムで虚式をぶっ放してたけど、相手がママなら話は別だ。今すぐやろう)

 

 

クリスは熟考するまでもなく、即断即決で3つ目の方法を実行することにした。アイの魂に直に触れ、魂の輪郭を知覚したからこそ実行可能となった3つ目の方法を。

 

 

「ママ、意識はある?返事は返せる?」

 

「……う……ん……クリス……?」

 

 

一応アイに意識確認を行ったが、返事もままならない状態でかなり追い詰められてるのがよく分かった。

 

これも安らかに成仏したいと願うアイの意志に逆らうが、それでもやるしかない。

 

 

「ママ、手を……」

 

「クリス……」

 

 

クリスは今にも倒れ伏しそうなアイの身体を支えると、そっとアイの手を自身の掌の上に乗せた。

 

そして、その手を決して離すまいとギュッと握り締めると、全身から徐々に呪力を漲らせていき、自身の術式を発動させ ────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、京都の山の麓に少女が1人ぽつんと佇んでいた。

 

紫がかった黒の長髪、抜群に整った顔立ち、アスリートの様に引き締まった筋肉質の肉体にバランスの取れたスタイル、人々の目を奪う輝きを放つ瞳。

 

紛れもない、星野クリスである。

 

 

しかし、そんな彼女の頬から突然生えた()が1つ。

 

 

決して見間違いではない。元々あったクリスの口とは別に、頬から更にもう1つの口が出現していた。

 

その口に向かってクリスが尋ねる。

 

 

「……ママ、具合はどう?少しは良くなった?」

 

「まぁまぁかな。でもさっきよりはかなりマシになったよクリス。何だか不思議な気分」

 

「まぁ、そうだろうね。僕も初めての経験だし」

 

 

ごく自然に会話しているクリスとアイだが、肝心のアイの声はクリスの頬に出現したもう1つの口から発せられている。

 

 

「まさか私がクリスの身体にお邪魔することになるなんて、人生何が起きるか分からないものだね」

 

「そうだね。ちなみにこれを呪術界では『受肉』って言うんだよ。まぁ僕らの場合は受肉っていうよりも共生に近いけど」

 

 

クリスの肉体にアイの魂が受肉した。

 

 

 




Q.何でメロンパンでもないのにクリスはアイの魂を受肉できたの?

A.星野クリスだから。(もっと言うと、アイの魂に直に触れて魂の輪郭を知覚したからこそできた。受肉というよりは憑依)


Q.アイを散々苦しめた「魂が呪いに浸食される」ってどんな感じなの?

A.真人の無為転変を休憩無しで延々と食らい続けてるようなものです。


(クリス)の肉体に母親(アイ)の魂を共生(受肉)させるのは初期から考えてた構想なので、ようやくここまで来た感。お前がママになるんだよ!ってやつの派生です。

ぶっちゃけアイの遺体はメロンパンに弄ばれてるし、魂くらいはちょっとした救済あっても良いんじゃねと思ってます。曇らせは最後にハッピーエンドがあってこそですし。とはいえアイ本人は安らかに成仏するつもりでしたが。

とりあえず百鬼夜行の後処理が大変そう。
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