呪術の子   作:メインクーン

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前回:
アイ「いやぁああああ!もう止めてぇええええ!」

クリス「ったく、いつの時代も厄介なものだね、ファンの呪いは!こうなれば……!」

アイ&クリス「受肉して1つになったよ」



百鬼夜行の幕引き

百鬼夜行開始から数時間後。

 

東京都立呪術高等専門学校の敷地内にて、百鬼夜行を起こした張本人、特級呪詛師の夏油傑が高専内を練り歩いていた。

 

 

「素晴らしい……本当に素晴らしいよ。まさに世界を変える力だ」

 

 

そう呟きながら夏油は高専の出口を目指してゆっくり進む。

 

 

──そもそも今回の百鬼夜行の真の目的は、非術師を皆殺しにして日本を終わらせることでは無かった。

 

東京と京都に大量の呪霊を放ったのはあくまで陽動に過ぎない。真の目的は百鬼夜行で孤立無援となった乙骨を殺害し、祈本里香を手に入れることである。

 

そのため他の仲間が五条やクリス達の足止めをしている間、夏油は高専に侵入して乙骨達の前に立ちはだかった。

 

 

『君もいたとはね』

 

『いちゃ悪いかよ。てめぇこそ何でここにいる?』

 

『悪いが猿と話してる暇はないんだ』

 

 

薙刀を持って応戦した真希は呪霊を使って瞬殺した。

 

 

激震掌(ドラミングビート)!』

 

『堕ちろ!』

 

『素晴らしい!素晴らしいよ!私は今、猛烈に感動している!』

 

 

真希と乙骨を助けに馳せ参じたパンダと狗巻は、一見善戦したかのように思われたがそんな事はなく、無傷で夏油に完封された。

 

 

『君を殺す』

 

『ぐちゃぐちゃにしてやる!』

 

 

それらを経て、友達を傷付けられて怒り狂った乙骨と里香のペアと戦った夏油。

 

最初こそ夏油の優勢で戦いは進んだが、乙骨が術式のコピーで獲得したクリスの術式を使い始めてからガラリと戦況が変化した。

 

時間加速による高速移動、拡張術式による確定黒閃打撃、里香との連携。流石の夏油もこれには押されてしまい、最後の切り札を出すことに。

 

 

『そうくるか!女誑しめ!』

 

『失礼だな、純愛だよ』

 

『ならばこちらは大義だ!』

 

 

手持ちの呪霊を全て消費して放った極ノ番『うずまき』。しかしそれも、乙骨自身を生贄とした呪力の制限解除による呪力砲で返り討ちにされてしまった。

 

その結果、夏油は泣く泣く敗走。全身がボロボロかつ右腕を失う重傷を負った。

 

それでも夏油はまだ諦めていなかった。

 

 

「里香さえあればせこせこ呪いを集める必要もない。次だ、次こそ必ず手に入れる!」

 

 

次を視野に入れてほくそ笑む夏油。しかしその笑みも、彼の前に突如現れた存在によって消え失せた。

 

 

「……遅かったじゃないか、悟」

 

 

夏油の親友、五条悟の登場に夏油は全てを諦め、足を止めてその場に座り込む。

 

 

「君で詰むとはな。家族達は無事かい?」

 

「揃いも揃って逃げ果せたよ。京都の方もお前の指示だろ?」

 

「まぁね、君と違って私は優しいんだ。あの2人を私にやられる前提で、乙骨の起爆剤として送り込んだな」

 

 

元々新宿に派遣されていたパンダと狗巻を高専に送ったのは五条であり、夏油の見立て通り、乙骨の覚醒を促すつもりで2人を特級と戦わせた。

 

それは確かにそうなのだが、2人の命の危機を五条は微塵も心配していなかった。

 

 

「そこは信用した。お前のような主義の人間は理由もなく若い術師を殺さないと」

 

「くっくっく、信用か。まだ私にそんなものを残していたのか」

 

 

五条は知っていた。夏油はたとえ敵対していたとしても、術師であるならば殺さないよう手加減すると。

 

初めて自分を孤独から救ってくれた親友として、それくらい今でも夏油に対して並々ならぬ感情を抱いていた。

 

 

「そうだ。これ返しといてくれ」

 

「何だ……って」

 

 

夏油が思い出したようにポケットから取り出した物は、乙骨の学生証だった。

 

数カ月前、小学生が行方不明になる事件で乙骨と真希が小学校に派遣された時に拾ったものである。最もその事件の原因となった呪霊は、夏油が呪霊操術で解き放った呪霊だが。

 

それを察した五条が呆れ顔になる。

 

 

「うっわ、小学校もお前の仕業だったのか」

 

「まぁね」

 

「ったく、呆れた奴だ」

 

 

互いに軽口を叩きながら、夏油が小学校で拾った乙骨の学生証を五条に投げ渡す。

 

するとそこへ、突如遠くから足音と声が響いてきた。

 

 

「五条先生……と、夏油さん!?」

 

 

このタイミングで飛んできた夏油と親しい人物が1人。

 

 

「ふふっ、君も来たか……クリスちゃん」

 

 

京都に派遣されていたクリスが2人を見つけた瞬間駆け寄った。

 

高専にも事前に設置したスポットがあるので、それを利用して瞬間移動で戻っていたのだ。アイと戦う直前、電話で五条から受けた指示を思い出したが故に。

 

 

「クリス……だよな?お前、京都で一体何が……」

 

「今そんな事は良いです。後で詳しく話します。それよりも夏油さんを……」

 

 

六眼を持つ五条が即座にクリスの異変に気付いて尋ねるが、それを撥ね退けてクリスは夏油の前にしゃがみ込む。

 

夏油を治癒するために。

 

 

「待ってください夏油さん、今すぐ僕の術式で治しますから……」

 

「おっと、それは止めてくれ。そんな事をしてしまえばクリスちゃんまで追われる立場になってしまう。それは私の望む未来じゃない」

 

 

だが夏油は、治そうとしたクリスの手を掴んで治癒を拒否した。当然クリスは食い下がる。

 

 

「でも……」

 

「君も分かっているだろう?私の死刑執行役に任命されている以上、悟か君のどちらかがこの場で処刑しなければならない。もしここで指令に背く行為をしてしまえば呪詛師に認定されると。上の連中は君達を嫌ってるから、間違いなくやるだろうね」

 

「それは分かってます。でも……それでも、あなたには死んでほしくなくて……」

 

「それにもし君が呪詛師に堕ちてしまったら、君の家族はどうするんだい?」

 

「それは……その……」

 

 

夏油の指摘にクリスは押し黙ってしまった。

 

夏油には死んでほしくない。今すぐ治癒して元気な姿を見せてほしい。でもそれを実行したら犯罪者に手を貸した罪で追われる立場となり、家族全員を取り残してしまう。

 

13年前にアイを喪ったあの時とは違い、今のクリスには他人を治癒する力も技術もある。だが、周りの環境がそれを許さない。

 

クリスの中で天秤が揺れ動いていた。

 

 

「大丈夫、その気持ちだけで私は十分だよ。ありがとうクリスちゃん。最期に看取ってもらえるのが君達で本当に良かった」

 

「夏油さん……」

 

 

優しく諭すように語る夏油を前に、それ以上は何も言えなかった。

 

今際の際でこれなのだから、彼の意志が相当固いのは想像に難くない。これにはクリスも諦めざるを得なかった。

 

それでも最期に1回だけクリスは我が儘を通す。

 

 

「夏油さん……!」

 

 

治癒しない代わりに、夏油をギュッと抱き締めるクリス。その瞳からは薄らと涙が溢れていた。

 

 

「まったく、君もあの頃から変わってないね。本当に素直で、純粋で、優しい子だ」

 

 

そんなクリスの行動に、夏油は若干呆れつつもしょうがないと言わんばかりに優しく微笑み、彼女の涙を拭いてそっと抱き締め返した。

 

そうしてお互いのハグが終わったところで、2人の様子を静かに見守っていた五条が再び口を開く。

 

 

「……最期に言い残すことはあるか?」

 

「……誰が何と言おうと非術師(猿ども)は嫌いだ。でも別に高専の連中まで憎かったわけじゃない。ただこの世界では、私は心の底から笑えなかった」

 

「…………」

 

 

クリスは何も言わず、ただ黙って夏油の最期の言葉に耳を傾ける。

 

非術師を守るべき存在から忌むべき存在へと見做し、最悪の呪詛師に堕ちてしまった夏油。だがそんな彼のことを、クリスは最期まで責める気になれなかった。

 

それどころか、幼い頃に仕舞った彼への恋心は今でも健在。まさに拗れに拗れきった初恋で、五条とは別のベクトルで夏油に重い感情を抱いている。

 

 

「傑……」

 

 

そんなクリスに代わり、五条が夏油に歩み寄って告げる。

 

 

「────────」

 

「……はっ、最期くらい呪いの言葉を吐けよ」

 

 

その言葉を最期に、夏油は五条に止めを刺されて人生の幕を閉じた。

 

こうして、長い長い百鬼夜行の戦いは終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

夏油傑が死亡した後、祈本里香が乙骨の下を去って成仏する瞬間を見届けた翌日。

 

高専に戻ってきたクリスは、京都で起こった出来事を五条に説明していた。

 

 

「────ということがあって、ママの魂を僕の肉体に取り込んで受肉させたんです」

 

「なるほどね、ようやく理解したよ」

 

 

百鬼夜行が始まってから全然連絡が付かなかったと思えば、数時間後に会ってみたらクリスの肉体から2人分の魂を感じていた五条。

 

本人から呪霊となった星野アイとの再会、死闘、そして受肉という事情を説明され、ようやくその違和感を理解するに至った。

 

 

「で、肝心の母親は今どうなの?話せるの?」

 

「ここだよー」

 

「……びっくりしたぁ。ちょっと見ない内に随分面白い身体になったねクリス」

 

「あはは、そうでしょ先生」

 

 

五条がアイの現状を確認しようとしたところ、クリスの頬から突然口が生えてアイが答えた。

 

それを見て一瞬びくりと身体を震わせた五条に、クリスがクスッと笑って頷く。

 

 

「えーと、君がクリスの母親の星野アイ……で良いのかな?」

 

「うん、そーだよ。初めまして五条悟さん、娘がいつもお世話になってます」

 

「いやいや、それほどでも……あるね!」

 

 

アイが呼び間違えることなく五条の名前を言う。

 

とりあえず軽い自己紹介を済ませてから、先生と生徒とその母親の実質三者面談が始まった。

 

 

「受肉って言ってたけど、実態は共生って事で良いんだよね?」

 

「そうですよ。普段は僕が肉体の主導権を握ってますけど、双方の同意でママに肉体の主導権を譲ることも可能です。といっても、僕もママも容姿と声が瓜二つだから殆ど見分け付きませんけど」

 

「まぁこればかりはね。娘の身体なんだから、私から言うことは何も無いよねって」

 

「ふーん、そこんとこは話し合いが済んでるのね。呪霊の面影も全く無いし、クリスを支配して暴れ回る心配は無さそうだね」

 

 

クリスとアイの話を聞いて五条は一先ず安堵した。

 

これはクリスがアイの魂を受肉するために設けた縛りの1つである。普段はクリスが変わらず肉体の主導権を握り、双方の同意で肉体の主導権をアイに譲れるというもの。

 

ただし、クリスが外的要因で意識を失うなどの緊急時に限り、アイが一時的に肉体を動かすことも可能である。

 

 

「それでさ、呪霊だった時のアイとかなり本気で戦ったとは言ってたけど、そんなに強かった?」

 

「そりゃあもう。五条先生と本気で戦った時以来ですよ、自分の命が天秤に掛かったのは」

 

「それに関しては本当にごめんねクリス……」

 

 

五条にアイの実力を尋ねられ、クリスは戦いの詳細を長々と語った。

 

クリスとほぼ互角の体術、規格外の術式性能、領域勝負、領域と展延の同時発動、莫大な呪力量と出力に裏付けされた攻撃力と防御力。

 

どれをとっても呪霊としては規格外で、クリスか五条のどちらかでなければ勝負にすらならないレベル。

 

中でも五条の興味を惹いたのは、アイが披露した閉じない領域展開だった。

 

 

「領域って結界に術式を乗せて攻撃するもんでしょ。なのに結界で空間を分断しない領域とかマジ?僕でもできないよそんな事。というか、考えたことすらない発想だね」

 

「やっぱりそうですよね。僕も初めて領域を破壊された時はマジでびっくりしましたもん。領域の精度も僕と互角でしたし。現状、領域勝負でママの右に出る術師はいないかと」

 

「えへへー、それほどでも」

 

 

五条とクリスの2人から賞賛の嵐を受け、満更でもない反応を見せるアイ。

 

娘を傷付けた負い目はあるものの、それはそれとして賞賛は素直に受け取るのがアイである。

 

 

「でもその後のクリスの対応も凄いよ。反転術式で術式の回復を早める方法。一回脳を物理的に破壊してから治癒するの、最高にイカれてて好きだよ。流石は僕の一番弟子」

 

「ふふーん、そうでしょ。もっと褒めてくれたって良いんですよ?」

 

 

領域を破壊された後、脳の破壊と反転術式で術式を即回復させたクリスの対応にも五条は舌を巻く。

 

両者ともに常識を超えた発想と手段で互角の戦いを繰り広げた。その事実を知った五条の口角が釣り上がる。

 

 

「僕も負けてられないよ。このままじゃ僕まで置いてけぼりにされるだろうし」

 

「そういう五条先生も何だかんだ即興で対応してくると思いますけどね」

 

 

クリスの言う通り、確かに五条も同じ目に遭ったら場当たりの発想力とセンスですぐに対抗してくるのは間違いない。

 

それでも今この瞬間だけは弟子に先を越されたと感じていた。そして、そのことを堪らなく嬉しく思っていた。

 

 

(……本当に、あの時クリスと出会えて良かったと思うよ。心の底からね)

 

 

なんてらしくない事を心の中で思いながらも、五条は母親と話すクリスをじっと見つめる。

 

 

──生まれてこの方、あらゆる術師が五条を一目見た瞬間に敗北を認め、誰一人として超えようとする者などいなかった。

 

一時的に肩を並べたたった1人の親友も最終的には置いていかれ、気付けば一生かかっても追いつけない実力差が付いていた。

 

そして百鬼夜行では、その親友を喪ってしまった。そのショックは当分引き摺るだろうが、それでも五条は不思議と孤独を感じていなかった。

 

 

何故ならもう1人の最強(星野クリス)がいるから。

 

 

初めてクリスと出会った時の感想は「大人しいけど結構アグレッシブなガキ」だった。

 

高専に連れて来たのもちょっとした興味本位だった。幼児の彼女を任務に連れ回したり呪術の事を教えたりしたのも、どこまで強くなれるか気になったが故の気まぐれでしかなかった。

 

それが今ではどうだろう。肉体を限界まで鍛え抜き、術式と向き合って多彩な技を持ち、呪術師として経験を重ね、驚くほどの成長を遂げた。

 

クリスはまだ五条に勝つのは難しいと考えているが、それは五条もまた然り。五条がクリスに勝つには領域勝負でじわじわと追い詰める以外、これといって有効な手段が無い。

 

今はまだ、それでギリギリ勝っている。だが、その領域展開すら修行の度に精度を増しているので、近い内に攻略されるだろうと予想している。

 

いつクリスに負かされてもおかしくない。それ程までに彼女は上り詰めていた。

 

だからこそ五条は思う。

 

 

(クリス、君のおかげで僕ももっと強くなれるよ。本当にありがとう)

 

 

それは純粋な感謝。

 

クリスが隣に居てくれたおかげで、夏油が去ってしまった後でも孤独を感じることは無かった。

 

自分を追い越そうとひたむきに努力して、その結果自分と肩を並べる存在になった、唯一自分の全力をぶつけられる相手。

 

そんな彼女に対し、五条はいつしか夏油と同じくらい、否、それ以上の何かを抱くようになっていた。

 

 

──『蝶』でも『花』でもない、この世でたった2人の『人間』の内の1人。決して手放したくない、掛け替えのない存在。

 

 

(傑はもうこの世にいない。それでもクリスが傍にいるから、僕はまだまだ孤独(1人)じゃない)

 

 

そんな事を思いながら、五条はクリス達との会話を楽しむのであった。

 

 

 




百鬼夜行の幕引きのはずなのに、いつの間にか五条の内面暴露大会になってた件について。

夏油が死んだショックはあるけど、原作のように孤高の侘しさ、強さ故の孤独は感じていない様子。良かったね。


※なお、クリスから他キャラへ向ける感情
クリス→アイ:母親、純愛、親子の愛
クリス→夏油:恩人、親愛、友愛、敬愛、歪んだ恋心、拗れまくった初恋、無くてはならない存在
クリス→五条:恩人、親愛、友愛、敬愛、無くてはならない存在、夏油を喪ってしまってもう……
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