呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「兄さんも大切な家族だよ」

アクア「ありがとう」

厄介ファン「アイ、ずっと会いたかったよ!」

クリス「キッショ、めんどくさ、あっちいけ」



母の力、家族の絆

アイの隠し子の存在が世間に明るみになってから数週間が経った今日。

 

トップタレントとして活躍するアクアやルビーのみならず、表向きは一般人のクリスも徐々にその影響を受けつつあった。

 

ただし、悪い方向で。

 

 

「こんにちは、あなたが星野アクアさんとルビーさんの妹さんですね?」

 

「……誰ですか?」

 

「ああ、これは失礼。私、こういう者でして」

 

 

街中を散策していると、突然見知らぬ男に声を掛けられた。

 

嫌な予感がしつつも誰なのか尋ねたところ、男はポケットから一枚の名刺を取り出しそれを手渡した。

 

 

(うっわ、ざけんな最悪だよ。よりにもよって週刊誌の記者じゃんこの人。面倒な奴らに目を付けられたな……)

 

 

名刺を確認すると、名前の上の欄に『週刊芸能実話』と記載されていた。芸能人のゴシップを記事にする記者である。

 

それを理解したクリスの気分は一気に急降下。せっかくの休日が台無しとなった。

 

 

「……僕はあの星野アクアや星野ルビーのようなトップタレントとは関わり無いですよ」

 

「嘘ですよね?何せ先日、あなたの写真がSNSにアップされてトレンドに入ってましたからね。物凄い反響を呼んでましたよ」

 

「他人の空似でしょう。よく似た人が何人か居たって不思議ではありません」

 

「その容姿と声でその言い訳は無理があるんじゃないですか?だってあなた、アイとそっくりですからね」

 

「…………」

 

 

記者の男にそう言われ、クリスは内心頭を抱えた。

 

先日、買い物中にアイの厄介ファンにアイと勘違いされて追いかけられたクリス。その時はすぐに逃げて事無きを得たが、周囲に居た野次馬の何人かが2人のやり取りの様子を勝手にSNSにアップしていた。

 

アップされたその映像と写真は瞬く間にネット上で拡散。一晩過ぎた頃には50万を超える『いいね』と10万件以上のリツイートがされ、クリスの存在はあっという間に明るみとなった。

 

アイの隠し子騒動が未だ盛り上がりを見せているこの時期に広まってしまったクリスの存在。彼女がアイの3人目の隠し子であるとバレるのに大して時間は掛からなった。

 

容姿のみならず、声や態度や雰囲気までアイと瓜二つのクリスに、現在ネット上では『アイの生まれ変わり』や『アイの復活』などと騒がれている。特にアイの古参ファンからの反響が凄まじい。

 

そのような経緯があり、クリスは心底うんざりしていた。

 

 

「では、差し支えなければこちらの質問に幾つかお答え頂けますか?あなたのこと、アイのこと、お兄さんやお姉さんに関する情報もお話ししてくれると助かりますね」

 

 

まだ良いとも悪いとも言ってないのに、さも取材を受けるのが当たり前の様な態度で質問してくる記者。

 

本来、クリスのような一般人に取材が来ることはまずあり得ないのだが、世間からの注目度や状況も相まってこのような事態になってしまった。

 

とはいえ表向きは一般人なので、目の前の記者が配慮に欠けた行動をしているのは言うまでもない。

 

 

「嫌です」

 

「えっ?」

 

「えっ?じゃないです。嫌と言ったら嫌です。そもそも僕は一般人ですし」

 

 

勿論、クリスは普通に取材を拒否した。拒否された記者は信じられないと言わんばかりの表情でクリスを見た。

 

 

「そうは言いましても、取材が出来なければこちらも困るんですよ。時間は取らないと約束するんで、どうか質問に答えてくれませんか?それくらい構わないでしょう?」

 

「それは出来ない相談ですね。他を当たってください」

 

 

段々高圧的な口調でにじり寄ってくる記者に臆さず、クリスは頑として首を縦に振らない。

 

だが、記者も記者で諦めが悪く、何度断られてもしつこく付き纏ってくる。ある意味ストーカーよりも質が悪いその行為に、とうとうクリスは痺れを切らした。

 

 

(めんどくさ、とっとと逃げよ……)

 

「あっ、待ってください!逃げるという事は、やはりアイの隠し子だと認めるという事ですね!?違うというなら自分の口で説明して貰えませんか!?」

 

 

クリスはその場から駆け出した。

 

当然記者もクリスを逃がすまいと後を追うが、彼女の走る速度に付いて行けるわけもなく、1分と経たずに見失ってしまった。

 

こうして記者の追跡をあっさり撒いたクリスは、逃げ込んだ先の路地裏ではぁーと大きく息を吐いた。

 

 

「まったく、モラルの欠片もない記者がいるせいで調子狂っちゃうよ」

 

『ごめんねクリス、私のせいでこんなに迷惑かけちゃって……』

 

 

堪らず愚痴を溢すと、中にいるアイから申し訳なさそうに謝罪する声が聞こえた。

 

 

「いいって、ママのせいじゃないし。しつこく付き纏ってくる向こうの問題だから。そもそも芸能人でもないのにストーキングしてくるとかアウトでしょ。人の心とか無いんか?」

 

『そういう配慮があれば、そもそもクリスに直接取材しようとはならないし……』

 

「だよねー」

 

 

週刊誌の記者に対する愚痴をアイと言いながら、クリスは颯爽と自宅に戻っていった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

翌日、クリスが厄介ファンだけでなく記者にまで追いかけ回された事実はすぐに苺プロ内で知れ渡った。

 

これを聞いたルビーは当然大激怒し、すぐさまアクアに詰め寄った。

 

 

「アクア、もう聞いたよね?クリスが昨日記者に追いかけられた話は」

 

「……ああ、聞いたさ」

 

 

ルビーが静かに尋ねると、アクアは一言二言だけ返して首肯した。そんな素っ気ない兄の態度にルビーのボルテージが徐々に上がっていく。

 

 

「ねぇ、状況分かってるの?これで2度目だよ、クリスが誰かに追われて逃げる羽目になったのは。1度目はママの厄介ファン、2度目は週刊誌の記者。おかしいよね、あの子は私達と違って芸能人じゃないのにさ」

 

「……そう、だな」

 

 

語気を強めて言うルビーに若干気圧されながら、アクアは特に言い返しもせず曖昧な返事を繰り返す。

 

 

「全部……全っっっ部アクアが原因なんだよ!?あんな形でママの秘密を暴露して!ママの名誉を傷付けて!そのせいでクリスにまで火の粉が降りかかって!あの子が今どれだけしんどい思いをしてるか本当に分かってるの!?」

 

「…………」

 

「何も言わないつもり?黙ってればそれで済むと思ってるの!?」

 

 

アクアは何も言えなかった。まさかこんな事態にまで発展するとは思っていなかったからだ。

 

確かに多少は影響を受けるかもしれないが、クリスは一般人でメディアへの露出もほぼ皆無。今まで彼女の存在が露見することは無かったので、厄介事に巻き込まれるリスクはゼロに近いだろうと。

 

だがその予想は見事に外れ、今やクリスも世間を沸かせる話題の一つになっている。本人の意思に一切関係なく。

 

まだ本名は知られていないが、それもいずれ特定されるため時間の問題だろう。

 

 

「クリスさ、昨日愚痴ってたよ。最近街に出る度に視線を感じるって。誰かに後を付けられてるだろうって。本人は相変わらず軽い調子で語ってたけど、私は気が気じゃないよ」

 

「……ッ!!」

 

 

ルビーから告げられた情報にアクアは目を見開いた。妹がストーカーされている可能性が非常に高いことに動揺を隠せなかった。

 

 

「そんな、クリスが……」

 

「だから私はこんなにも怒ってるの!やっと事の重大さに気付いたみたいだけど、もう何もかも遅いのよ!アクアのせいで、クリスがママの二の舞になるかもしれないんだから!」

 

 

勿論、そのような事は万に一つも起こらない。呪術師としてのクリスの実力をルビーは知っている。仮にクリスがアイの様にストーカーから危害を加えられたとしても、受ける被害はたかが知れたもの。

 

それでも姉として、家族として、妹のことを心配せずにはいられない。ただでさえ特級術師として日本の秩序を維持するため、毎日想像を絶する重圧と責任を背負っているのに、これ以上妹の負担を掛けるような真似はしたくなかった。

 

 

「違っ……俺はクリスをそんな目に遭わせるつもりだったわけじゃ……!」

 

「そんなつもりじゃなくても、アクアの行動でクリスだけが負担を強いられる状況になってるのよ!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 

ルビーに言い詰められ、アクアの呼吸が徐々に荒くなっていく。

 

アイの二の舞になる──その言葉にアクアは長年仕舞っていた苦い記憶、決して癒えないトラウマを思い起こしてしまった。

 

アイが突然ストーカーに腹を刺され、血を溢し涙ぐみながら最期の言葉を綴った当時を。細い腕に抱かれ、段々冷たくなっていく体温を直に感じながら母が死にゆく様を。

 

クリスがアイの生き写しであることも相まって、次から次へと悪い想像が溢れ出す。

 

 

「何度でも言うよ。今更後悔したってもう遅いの!これでもしクリスの身に何かあったら、私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだよ、姉さん」

 

「──ッ!?」

 

 

動揺して過呼吸になったアクアに構わず責め立てるルビー。そんな彼女の糾弾を止めたのは、他でもないクリスだった。

 

 

「クリス、いつから……」

 

「途中から。『昨日愚痴ってたよ』ってあたりから盗み聞きしてた。もう十分だから、それ以上兄さんを責めないであげて」

 

「でもアクアのせいでクリスはあんな目に……!」

 

「そうだね。でも大丈夫、兄さんも意図的に仕組んだわけじゃないって分かってるから。けど、姉さんが僕のためにそこまで本気で怒ってくれたのは凄く嬉しいよ。ありがとね」

 

 

ルビーの肩にポンと手を置き、優しく諭すように語りかける。本人にそう言われては流石のルビーも口を噤むだけだった。

 

 

「兄さんも落ち着いて深呼吸して。ほら、大きく息を吸って……吐いて……」

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「ありゃ?どうやらあまり効果が無さそうだね」

 

 

今度はアクアを落ち着かせようと優しく背中を擦るも、アクアの過呼吸は収まる気配を見せない。

 

クリスとしてはあまり自分のことで悩んでほしくなかったので、どうにか落ち着かせようと考えを巡らせる。

 

 

「うーん、困ったな。完全に自分の世界に入っちゃってる……どうしよっか?」

 

 

しかし、良い案があまり思い浮かばない。この状態のアクアを正気に戻すのは結構骨が折れるだろう。

 

そんなわけでクリスがうんうん唸って悩んでいると、クリスの中から声が聞こえてきた。

 

 

『……クリス、ちょっといい?』

 

『ん?どうしたのママ?』

 

 

生得領域内からアイが突然話しかけた。アクアの背中を無言で擦りつつ、アイの声に耳を傾ける。

 

すると、アイはとんでもないことを言ってきた。

 

 

『今すぐ私と変わってくれない?』

 

『えっ!?ママと変わるの?今ここで?』

 

『うん、そうだよ』

 

 

なんと自分と今すぐ入れ替わってほしいと要求してきた。これにはクリスも内心驚愕を隠せない。

 

 

『それ大丈夫なの?五条先生も言ってたけど、このタイミングでママの存在を明かしても更に混乱を招くから……』

 

『それは分かってる。でも多分大丈夫だと思うよ。一応聞くけど、確かクリスも演技上手いんだよね?』

 

『……ああ、なるほど。そういうことね。だったら今すぐ変わるよ。ちょっと待っててね……』

 

『ありがとね。用が済んだらすぐに戻るから』

 

 

変わることでアイの存在が公になるリスクを危惧するも、アイの質問ですぐさま意見を変えたクリス。

 

ならば早速とばかりにアイと交代する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────大丈夫だよ。落ち着いて()()()

 

「「ッ!?」」

 

 

その声が耳に入った瞬間、アクアもルビーも驚愕に目を見開きクリスを凝視する。

 

クリスの瞳に映る、純白に輝く二つの星。声、雰囲気、立ち居振る舞い、何もかもが圧倒的な存在感を放ち、片時も目が離せない。

 

そんな中、あまりの衝撃に過呼吸が止まったアクアの掠れた声が響く。

 

 

「…………アイ?」

 

「もう、アクアったらどうしたの?そんなに悲しそうな顔をして。もっと笑った顔を見せてほしいな」

 

 

呼吸を忘れてしまう程に見入ってしまう。頭の中の理性では、目の前にいるのはクリスだと分かっている。

 

だが、まさかそんな……と、つい期待せずにはいられない気持ちも同時に存在していた。

 

それはルビーも一緒だった。

 

 

「…………ママ?」

 

「ルビーもあんまりアクアを虐めちゃ駄目だよ?まぁ、ルビーなりに本気で家族を思っての行動だから、私もあまり強くは言えないけどね」

 

 

ルビーの短い問いかけに、クリスと入れ替わったアイは優しく微笑む。

 

不安を取り除き安心を感じさせるその笑顔に魅せられ、2人は光を求めて無意識の内によろよろとクリスに歩み寄る。

 

 

「アイ……」

 

「ママ……」

 

「ふふっ、良いんだよ2人とも、今だけはお母さんに思いきり甘えても。だからおいで……ほら」

 

「「あっ……」」

 

 

歩み寄って手を伸ばしてきた2人を拒まず、アイは優しく包み込むようにその手を受け入れる。

 

それどころか、逆に自ら2人を抱き寄せてから近くのソファーに3人並んで座り込んだ。2人もつい我を忘れてなすがままに腰掛ける。

 

 

「アイ……ごめん……ごめん。あの時、君を助けられなくて……本当にごめん」

 

「ママ……私、ずっと寂しかった。ママが居なくなって……それで……」

 

 

目頭が熱くなる。何も考えられない。頭の中ではアイを演じるクリスだと理解していても、今まで蓄積していたアイへの想いが言葉となって徐々に溢れ出てしまう。

 

 

「うんうん、私の方こそごめんね。皆を置いて先に逝っちゃって。でも良く頑張ったね。偉いよアクア、ルビー」

 

「「……うん!」」

 

「2人とも素直で良い子だね……ほら、よしよし」

 

 

2人は縋るようにクリスの身体に抱き着き、ポロポロと涙ぐんで話しかける。それをアイは全て聞き入れ、2人の頭に優しく手を置いてそっと撫でてあげた。

 

2人の瞳から更に大粒の涙が溢れ出した。

 

その様子を生得領域内から眺めていたクリスは、はえーと感嘆した声を上げる。

 

 

『兄さんのみならず姉さんまで一瞬で丸め込むとは……流石ママ、母の力は偉大だね』

 

『ふふーん、そうでしょそうでしょ!それに、どうやら上手くいったみたい』

 

『そうだね。まぁ、まさか今話しかけてるのが本物のママとは思うまい』

 

 

クリスがアイとこのタイミングであっさり入れ替わったのは至極単純な理由。

 

ここでアイと入れ替わっても、まさか目の前にいるのが本物のアイとは2人とも思うまい、という考えからであった。

 

いくらアイがクリスの身体を使って堂々と話そうと、傍から見ればクリスが本物と見紛う程の精巧さでアイの演技をしているとしか思われない。

 

普通に考えて、実はアイの魂を受肉していて共生関係にあるなんてオカルトチックな答えに辿り着くわけがなかった。たとえルビーのように呪術についてある程度知識があっても。

 

とはいえ、クリスが演技面でも天性の才能を有しているという事実を、周りの人達が知っているからこそ実現できた方法でもある。

 

そんなこんなで、いつまでも静かに涙を流すアクアとルビーを、アイはギュッと抱き寄せて優しく頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……社長は行かなくても良いんですか?あなたも立派な家族の一員でしょう?」

 

「ありがとう有馬さん、でもいいの。今はこのままそっとしておいてあげて。MEMちょも良いわね?」

 

「ええ、言われなくともそのつもりですから……」

 

 

そんな親子同士のやり取りを扉の向こう側から眺めていた有馬とミヤコとMEMちょの3人は、特に何かを言うわけでもなく、ただ静かにその様子を見守り続けるのであった。

 

 

 




中身は実質母親だから良いんだけど、傍から見たら母親そっくりの妹にオギャる兄姉とかいう倒錯プレイを有馬達に見せ付けてるわけで……。

ちなみに今回の騒動で一番曇ってるのはアクアでもルビーでもミヤコでもなく有馬かな。


※なお、現在クリスを狙っている人一覧
ストーカー化した厄介ファン(New!)
記事のネタが欲しい週刊誌の記者(New!)
もっとセンシティブな情報を求める世間(New!)
アイ似の娘をいつか〇〇したいカミキヒカル
時々ちょっかいを出してくる鴉の幼女
存在しない記憶で勝手にシスター認定する東堂
五条悟との世継ぎが欲しい五条家一同
優秀な術式を取り込みたい禪院家一同
どうにかしてどん底に陥れたい上層部
懸賞金目当てで暗殺を企ててる呪詛師連中
獄門疆での封印を企ててるメロンパン一派
真っ先に殺そうと楽しみにしてる両面宿儺
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