呪術の子   作:メインクーン

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五条の依頼で天逆鉾を回収しにアフリカに訪れたら、謎の呪詛師ミゲルとの争奪戦になってしまったクリス。

どうやら今回の相手は只者ではなさそうだが、特級呪具を手にするのは果たしてどちらなのか……?

あと、ようやくクリスの術式(一部)が判明します。



争奪戦 ①

『今ガチ』で黒川あかねが大炎上してから1週間が経過した、ある日の夜。

 

この日も変わらずあかねに対する誹謗中傷のコメントが多く寄せられ、炎上騒ぎは益々大きくなっていた。

 

恐らく16歳のあかねよりも歳上の大人達が、まるで親の仇でも見つけたかの様な勢いで、情け容赦なく1人の少女の精神を粉々に壊していく。

 

今回の騒動は事故の様なもので、本来なら「今度からは気を付けろよ」程度の注意で終わるはずだった。

 

しかし、ネットとテレビの世界はたとえ子供相手だろうと非情である。

 

ネットでは本人に対する暴言のみでは収まらず、全く関係のない家族にまで心ない言葉を吐き、名誉を傷付け侮辱の限りを尽くす。

 

番組側も、あかねが炎上騒ぎで憔悴している事を知っていながら、守るのではなく逆に更なる悪役へ仕立て上げる事で炎上を加速させ、1人の少女の名誉と命を犠牲に、高い視聴率を稼ごうと躍起になっていた。

 

加えて最悪な事に、今回の誹謗中傷の的は心優しい性格のあかねであり、本人は心から反省しているからこそ、自分への罰だと思ってあらゆる罵詈雑言を真摯に受け止めていた。

 

仮に炎上した相手がクリスだった場合、誹謗中傷のコメントを送られても「何か言ってて草」で軽く遇らえるのだが、人一倍真面目なあかねはそうもいかない。

 

始めは何とか耐えられても、番組もネットも『敵』となってしまった以上、いつかは限界が来る。

 

今日がその日だった。

 

 

「…………疲れた」

 

 

もう何日も食事を取っていない事に気付き、台風が吹き荒れる中で弁当を買った帰りの途中、不意に思った言葉が口から小さく漏れ出た。

 

強風に煽られ転倒した拍子に弁当の中身が散らばり、傘は根本から折れ曲がり、倒れたあかねは雨で全身がずぶ濡れになる。

 

この瞬間、あかねは思考を放棄した。

 

もう何も考えたくない、早く楽になりたい、皆にこれ以上迷惑をかけたくない。そんな思いが一気に爆発し、あかねの心は遂に壊れてしまったのだ。

 

そこからは早かった。

 

 

「もういいや……考えるの、疲れた……」

 

 

今いる場所は歩道橋。

 

真下の道路には大小様々な自動車が絶える事なく走っている。

 

あかねは一歩、道路に向かって踏み出した。

 

 

「もう何も考えたくない」

 

 

そして手すりの上に立ち、下を走る自動車を眺め、何も考えず滑るように歩道橋から飛び降り……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────落ち着け、俺は『敵』じゃない。頼むから落ち着いてくれ」

 

 

周りの大人達が全て『敵』となった中で、救世主(アクア)があかねをそっと抱き上げ、壊れた彼女の心を優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

所変わって、アフリカのサハラ砂漠にて。

 

封印されし特級呪具『天逆鉾』の回収を五条に依頼され、サハラ砂漠に赴いたクリスは、突如現れた謎の呪詛師ミゲルと対峙していた。

 

大岩が所狭しと転がる岩石砂漠で、クリスは岩の上からじっとミゲルを見下ろし、次の行動に警戒する。

 

一方のミゲルは、相変わらず不敵な笑みを浮かべたままポケットに手を突っ込み、そこから紙札を数枚取り出した。

 

式神の召喚や簡単な結界術の発動など、術師が事前に呪力や術式を篭める事によって様々な効果を発揮できる札、呪符である。

 

その内の1枚に呪力が込められた。

 

 

「マズハコレデ、オ前ノ実力ガドレ程ノモノカ、オ手並ミ拝見トイコウカ」

 

『グルォオオオオオオオオッ!!』

 

「ッ!?」

 

 

呪符に呪力が込められ、ミゲルの横に巨大な四足歩行の異形が出現する。

 

ぱっと見はライオンに近いが、6つある眼・全身を覆う紅蓮の炎・2つに枝分かれした尾がその異質さを物語っていた。

 

いきなり現れた巨大なライオンを目にしたクリスは、僅かに目を見開くもすぐ冷静になり、相手をよく観察して分析する。

 

 

「……あれは式神? いや違う、この違和感……ねぇ、そいつ呪霊でしょ? それも日本製じゃないやつ」

 

「ゴ名答。度重ナル内戦ガ原因デ頻発スル爆撃、ソレニ対スル恐怖ガ募ッタ事デ形成サレタアフリカ産ノ特級呪霊ダヨ。

 ……サア、オ前ハコノ呪霊ヲドウ攻略スル?」

 

 

呪符を媒介として召喚されたのは、アフリカで誕生した特級呪霊。

 

全長30m超えの巨体からくる圧倒的な膂力と瞬発力に加え、6つの目で捉えた任意の場所を粉々に爆破する『地雷』の術式を持つ怪物。

 

生物を直接爆破する事は出来ないが、それ以外の物や空間が術式の対象となり、その爆発の被害規模はクラスター弾の絨毯爆撃に匹敵する。

 

先程、天逆鉾を封印している小屋を爆破したのもこの呪霊の術式による。

 

その呪霊が今、クリスを敵として認識した。

 

 

「術式順転『望速(ぼうそく)』…………!」

 

 

それに合わせてクリスも臨戦態勢になり、術式を発動させる。

 

右手にはバスケットボール程の大きさの岩が握られており、クリスの呪力で強度が底上げされている。

 

その岩をクリスは、振りかぶって呪霊に投擲した。

 

 

「おらぁああああああああああっ!!」

 

「ピギャアアアアアアアアアアッ!?」

 

「ナ、ナニッ!?」

 

 

手にした岩が投げられた瞬間、信じられない程の超スピードで呪霊の顔面に激突

 

特級呪霊は避ける間も爆破する隙もなく、クリスの手によって頭部が丸ごと消し飛び、そのまま呆気なく消滅してしまった

 

この意外すぎる結果にはミゲルも驚愕したようで、一瞬だけ消えゆく呪霊をぼうっと眺めてしまう。

 

しかし、クリスはそんな暇を与えない。

 

 

「僕の術式を知らなくて困っているなら、特別に教えてあげようじゃないか!」

 

(今ノ一瞬デ俺ノ背後ニ!?)

 

 

ミゲルがほんの一瞬余所見をしてしまった隙に、クリスは一瞬で相手の背後に回ると、拳を握り締めて再び術式を発動させた。

 

 

 

 

 

「────『時間』だよ!」

 

「ウグッ……!」

 

 

クリスの拳がミゲルの顔面を捉える。

 

咄嗟にガードするよりも速く殴られたミゲルは、そのままの勢いで大岩を何度も突き抜け、数百m近く吹き飛ばされる。

 

 

「今ノスピード……ナルホド、アレガ話二聞イテタ星野クリスノ……」

 

「そう。今のが僕の術式だよ、ミゲルさん?」

 

「ッ!?」

 

 

そして、辺り一面を高々と昇る土煙が囲む中、殴り飛ばされたミゲルの前に一瞬でクリスが現れた。

 

音もなく現れた事で又もや驚くミゲル。だが、流石に2度も同じミスを犯す事はなく、すぐに立ち上がっていつでも対応できるように身構える。

 

 

「流石に2度は無いか……まあ良いや。説明の続きがまだ残ってたね? 僕の術式は『時限操術』。僕自身や周囲の物体・空間の時間の流れを自由自在に操る事が出来るんだ。

 そして今お前に見せたのが、時を加速させる術式順転『望速』だよ」

 

 

 

 

 

『時限操術』────それが特級術師・星野クリスの術式である*1

 

先程の説明通り、自分自身や周囲の物体・空間の時間の流れを意のままに操作する事が出来る。

 

術式の発動条件は対象に直接触れる、又は術式を用いた攻撃を対象に当てる事。

 

ただし、触れた対象の時間をどれだけ自由に操れるかは、対象の実力によって左右される。その代わり無生物の時間に対してはほぼ無制限で操れる。

 

そんなクリスが持つ時限操術の順転『望速』は、時を加速させる力を持っている。

 

この力を用いる事で、クリスは相手が認識できない速度で動き回って攻撃したり、順転の応用で瞬間移動したり出来るのだ。

 

なお、クリスは反転術式を使えるため、必然的に術式反転も使用できるのだが、その説明はここでは割愛する。

 

 

「それにしても、さっきの発言からして僕の事をある程度知ってる感じだったけど……一体誰に教えてもらったのかな?

 もし差し支えなければ相手の名前を教えてくれる? 僕は自分の術式の情報を明かしたんだから、それくらいの対価はあって当然だよね?」

 

「フン、白々シイ。術式ノ開示デ効果ヤ威力ヲ底上ゲスルノガ目的ノ癖ニ。ソウイウノハ出来ル事全部ヲ教エテカラ言エ」

 

「まあ、だと思ったよ。そこはあまり期待してなかったから大丈夫。さっさとお前を殺した後で、天逆鉾を回収すればそれで終わりだし」

 

「出来ルモノナラヤッテミロ!」

 

「言われずとも今やるよ! 術式順転『望速』!」

 

 

再び術式を発動してミゲルに攻撃を仕掛けるクリス。

 

相変わらず視認できない速度で動き回り、相手を翻弄する。これにはミゲルも警戒して、ずっと防御の姿勢を維持して待ち構える。

 

 

(何テ速サ……コレト真面目ニ付キ合ウナド冗談ジャナイ。コノ女ガ攻撃スルタイミングヲ見極メテ、カウンターデ応戦スルノガベターナ選択……)

 

 

まずは相手(クリス)の攻撃パターンを分析し、その後カウンターで応戦するというやり方を選んでいた。

 

しかし忘れてはいけない。クリスは今し方術式の開示を行ったばかりである。

 

ただでさえ特級呪霊を一撃で消し飛ばす術式順転が、更に強化されているのだ。

 

では、術式の開示によって順転の何が強化されるのか。スピードか、攻撃の威力か、それとも別の何かか。

 

その答えは非常にシンプルなものだった。

 

 

「歯ぁ食い縛れ! ────『黒閃』ッ!!

 

「何ダッテ!? ……カハッ!」

 

 

クリスの打撃がミゲルに当たる瞬間、纏っていた呪力が黒く光り、稲妻の如き火花を撒き散らす。

 

先程の攻撃とは余りにも桁違い過ぎる威力に、今度はしっかりと防御していたミゲルはまたしても派手に殴り飛ばされ、より勢い良く岩盤に激突した。

 

それでも肉体の原型を保っているどころか、五体満足で案外平気そうなのは流石というべき肉体強度だろう。

 

 

「……フウ、今ノハ危ナカッタ。事前ニガードシテイナカッタラ、ドウナッテイタ事ヤラ……。マサカイキナリ黒閃ヲ撃ッテクルトハナ……」

 

 

 

 

 

『黒閃』────それは呪力を用いた戦闘において、極稀に発生する現象の事。

 

『打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み』を指す。

 

衝突の際はその名の通り、黒く光った呪力が稲妻の如く光り輝き、その威力は平均で通常の打撃の2.5乗という驚異的な攻撃を相手に叩き込む。

 

そして、この黒閃を発生させた術師はスポーツにおけるゾーンに入った状態となり、一時的にだが呪力操作の精度が急激に上昇する。

 

黒閃を経験した者とそうでない者とでは、呪力の核心との距離に雲泥の差があると言われている。

 

しかし、享受できるメリットの多い黒閃にも1つだけ問題点が存在する。

 

 

「ダガ、何故イキナリ黒閃ヲ撃テルヨウニナッタ? アノ感ジ、マルデ黒閃ヲ撃ツノガ確定シテイタカノ様ダッタ……」

 

 

黒閃に存在するただ1つの問題点。それは、黒閃を狙って出す事は出来ないという点である。

 

繰り返すが黒閃は技の1つではなく、あくまで現象の1つに過ぎない。出すための条件はあるものの、0.000001秒以内という瞬きにも満たない誤差まで縮める事は容易ではない。

 

だからミゲルは疑問に思った。クリスがいきなり黒閃を撃ってきた事に。

 

黒閃を撃ったのが本当にただの偶然ならば、「歯を食い縛れ」という言葉は出てこない。

 

そんなミゲルの疑問に答えたのは、またしてもクリス本人だった。

 

 

「……僕の術式は時限操術、その順転は時を加速させる力。そして術式の開示によって性能が底上げされた術式の対象は、()()()()()()()()()()()()()

 

「……アア、ナルホド。今ノ説明デ理解シタヨ。ツマリ、今カラアンタノ攻撃ハ全部……」

 

「うん、そうだよ。ここから先、僕の打撃は全て黒閃になる。だからまあ……精々頑張って?」

 

 

クリスは術式の開示などで性能を底上げする事により、体内に流れる自分自身の呪力の時間操作すら可能にする。

 

その状態で性能が上がった術式順転を応用する事により、呪力の衝突と打撃との誤差が常に0.000001秒以内になるシステムを体内で構築し、運用する。

 

これによりクリスは、自らの意思で止めない限り百発百中で黒閃を撃てるようになるのだ。

 

そこから始まるのは当然……。

 

 

「術式順転『望速』────黒閃ッ! 黒閃ッ! 黒閃ッ! 黒閃ッ!

 

「グハッ! ガッ! ゴフッ! ウグッ!」

 

 

 

 

 

────蹂躙。

 

術式と圧倒的なフィジカルから成る凄まじい殴打の連続。

 

相手のガードを真正面から突き破って尚止まらない超高威力の連続打撃は、徐々にミゲルの体力を削っていく。

 

最初に取り出した呪符も、絶え間なく続くクリスの攻撃によって使用する隙が与えられない。

 

そうして何度も何度もクリスの黒閃を食らい続ける事5分、遂にミゲルは()()を使う事を決断する。

 

 

「黒閃ッ!!」

 

「グホォアッッ!!」

 

 

黒閃の効果が相乗されたクリスの跳び蹴りがミゲルの胴体を捉え、そのまま遥か遠くへ蹴り飛ばす。

 

 

(……イ、今ノモカナリ危ナカッタ。気合イデドウニカ耐エ切ッタガ、アレヲズット食ライ続ケルノハ流石ニ不味イ。

 ……仕方ナイ、()()()()ニ備エテ取ッテオキタカッタガ、ココデ死ンデハ本末転倒。アレヲ使ウ!)

 

 

飛ばされた先の地面に転がったところでようやく攻撃が止む。

 

その間にミゲルは溜め息を吐きながらもすぐに立ち上がり、ポケットからとある物を取り出した。

 

 

「さあ、このまま一気に畳み掛けて終わり……にして……?」

 

「……始メハ使ウ気ガナカッタガ、コノママデハ不味イト思ッタ。ダカラ、コレヲ使ッテアンタノ相手ヲスル!」

 

「く、黒い縄……?」

 

 

その手に握られていたのは、異質な呪力を発する謎の黒い縄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────所変わって、東京都内では。

 

 

「いやぁ、最低でも5000RTは行って欲しいよねぇ」

 

「それも結構難しいよー。気合い入れて作った物ほど意外と伸びなかったりするからさぁ……。最初の1分で100RTくらい行けば、最終的に結構なバズにはなると思うけどね?」

 

「なるほど、100ね」

 

「まあやるだけやったんだ! さあ、ショーダウンと行こうぜ!」

 

「お前が一番何もやってない癖に……」

 

「リーダー面が酷いよねー」

 

 

────数分後。

 

 

「イケる! これイケるよ! 来たぁあああ!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

 

 

*1
彼女の術式の命名者は五条悟。




クリス(嘘でしょあいつ、僕の攻撃をいくら食らっても全然倒れないしピンピンしてるんだけど……マジでどうなってんの?)

ミゲル(マジカヨアノ女、思ッテタヨリズット強イゾ。噂ノ五条ハコレヨリモット強イノカ……全ク、死ンダラ祟ルゾ夏油!)


※クリスの術式『時限操術』

効果:自分自身や周囲の物体・空間の時間の流れを意のままに操作する。

術式の発動条件:対象に直接触れる、又は術式を用いた攻撃を対象に当てる。操れる程度は相手の実力によって左右される。無生物にはほぼ無制限。

術式順転『望速』:時を加速させる。

順転の応用:術式の開示などで、狙って黒閃を撃つ事が可能となる。強い。
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