呪術の子 作:メインクーン
クリス「僕くらい強くなってよね、恵君」
伏黒「無茶言わないでください」
ルビー「何で私なんかを生まれ変わらせたの?」
アクア「もしかしてルビーの前世は……」
春の名残も過ぎ去り、少しずつ夏の色に染まり始めたある日のこと。
この日実家に帰ってきたクリスは、家の中の空気が和やかになっていることに気付いた。
その原因はリビングのソファーで堂々と乳繰り合う2人にある。
「おにいちゃーん、トレーニング頑張ってたら疲れちゃったー。なでなでしてー」
「嫌だよ、汗でべたつく。先にシャワー浴びてからにしてくれ」
「はいもう遅ーい、私の勝ちでーす。ついでにおにいちゃんのジュースも飲んじゃおっかなー?」
「言ってる傍から既に飲んでるじゃねぇか……まぁ良い、少しだけだぞ」
「やったー!おにいちゃんやっさしー!」
家に帰って扉を開けたら、兄と姉が人目も憚らずにイチャイチャしていた。少し前まで絶縁寸前の険悪なムードだっただけに、今の光景は落差が激しい。
呪霊の討伐や後輩の面倒やらで忙しい日々を送るクリスから見れば、自分の知らないところで何か兄姉が仲直りして恋人みたいなやり取りをしているという、訳が分からない状況である。
だが、兄妹間でのこのようなやり取りは、アクアとルビーの仲が悪くなる前までは度々あった。なので星野家にとってはいつも通りの出来事に過ぎないと言えなくもない。
「……よく分かんないけど、まぁ、仲直りできたみたいなら何でも良いか」
『だよね。いやー、一時はどうなるかと思ったけど、やっぱりウチの子達は仲が良いね。というか2人とも可愛すぎてマジヤバいんだけど』
故に、クリスは目の前の事実をあっさり受け入れ、環境の変化に適応した。中にいるアイも、アクアとルビーの仲睦まじい様子に興奮を隠せず騒ぐ。
しかし、この事態を容易に受け入れられない者もいる。
「いや何言ってんの?どう考えても兄妹間でするやり取りじゃないでしょ。あんた達がシスコンとブラコンなのは知ってたけど、流石に背徳感エグくてドン引きよ……」
「確かにかなちゃんの言ってることにも一理あるのがまた……でも双子カップルは絵になるからバズるんだよね」
2人のやり取りを一緒に見ていた有馬は、かなりドン引きした顔で目の前の光景を凝視していた。クリスの平然とした反応にも若干引きながら。
一方でMEMちょも有馬の意見に同意しつつも、インフルエンサーとしての血が騒ぐのか、バズの欲望に塗れた発言を溢す。
「えっ、そう?こんなのいつもの事でしょ」
「そんな『何言ってんだこいつ』みたいな目で見られても困るわよ。あんたらの中ではいつも通りでも、周りから見ればどう考えて距離感がおかしいの。インモラルが過ぎるわ」
首を傾げて聞いてくるクリスの発言に、有馬がすかさず反論する。仲の良い兄妹だとしても流石に距離が近すぎると。
だが、そんな理屈が通用するならここまで爛れた家族関係に発展しない。
「何それ正論?僕そういう正論嫌いなんだよねー。ポジショントークで気持ち良くならないでよ、オ゛ッエー」
「正論ちゃうわ、一般論じゃボケ」
いつかの五条のような煽りを行うも、有馬はそれに激昂せず冷静に反論する。
クリスはそれを軽くスルーしてくるりと背を向けると、未だに抱き合っている2人の隣に腰掛けた。ちょうどアクアの右隣が空いていたのでそこに座る。
「兄さん姉さんただまー。どうにか仲直りできたみたいで良かったね」
「あっ、お帰りクリス。いやー、本当にありがとね。おにいちゃんと無事に仲直りできたのはクリスのお陰でもあるからさ」
ソファーに座るとルビーが早速お礼を言ってきた。満面の笑みを浮かべており、嘘偽りのない感謝の気持ちが伝わる。
「そうだな。お前があの時必死に仲裁して俺達を繋ぎ止めてくれなかったら、今頃こうはなって無かったよ。ありがとう」
アクアもルビーの言葉に同調し、一緒に頷いてお礼を言った。とても良い気分になった。
「ふふーん、それ程でもあるね。もっと褒めてくれたって良いんだよ?」
「相変わらずの自信家だな……まぁお前らしいが」
「そう言って内心照れてるおにいちゃん可愛いすぎー!なでなでしてあげるね!」
「じゃあ僕も一緒になでなでしよっと!」
「…………」
ルビーがアクアに抱き着いたまま頭を撫で始めたので、それを見たクリスも便乗してアクアに抱き着き頭を撫でる。
両隣に座る可愛い妹2人から頭を撫でられるアクアからの反応は無い。だが表情を見れば満更でもない様子なのが分かる。
そんな三兄妹の触れ合いに有馬は更にドン引きして後退り、MEMちょは逆に興奮してポケットからスマホを取り出した。
「待って、3人ともそのままの状態を維持して!これ写真に収めてSNSにアップしたい!あ、でもクリスちゃんって確か顔出しNGだったし、編集でちゃんとカットしておかないと……」
「あー……それに関してはもう良いかな。既に僕の顔写真とか名前は勝手に特定されて拡散されてるし。それにMEMちゃんなら一線を超えた行動はしないと思うから、ある程度好きにして大丈夫だよ」
クリスが自身の情報を公開したがらない一面がある事を思い出し、写真を撮る直前で止まって遠慮気味に尋ねるMEMちょ。
しかし、アイの隠し子騒動の一件以来すっかり顔や名前まで特定され、その存在が世間に広く認知されてしまった以上、今更必死になって情報を隠すことに意味が無くなった。
幸い呪術に関する情報が洩れる心配は無いので、それ以外は好きにしろという気持ちですっかり開き直っているクリスであった。
とはいえ、SNSへの写真公開を許した一番の理由は「MEMちょなら悪い様にはならない」という信用があるから。過去に『今ガチ』で黒川あかねが炎上した際の彼女の立ち回りを考慮すれば明らかなことである。
当然、MEMちょのボルテージは更に上昇した。
「マジで!?良いの!?じゃあお言葉に甘えて連写するね!だって美男美女の三つ子のスキンシップとか尊すぎて一種の芸術作品だし!」
「いや、芸術作品は大げさでしょ……」
興奮を抑えきれないMEMちょが出した例えに、有馬が呆れた口調でツッコみを入れて溜め息を吐く。
だがその後、MEMちょがSNSにアップした写真は予想以上の大反響を呼んだ。クリスが初めてはっきりと姿を見せたのが大きかったようで、やはりアイの古参ファンが一際色めき立っていた。
中には「もういっそクリスもB小町に入ってアイドルやっちゃえよ」や「もっとSNSとかテレビに顔出ししてほしい」などと支持する声も多く上がったが、それはまた別の話である。
結果、写真が公開されたその日は「星野クリス」がSNSでトレンド1位を獲得する事となる。
なお、この写真を見た五条悟はというと……、
「わーお、クリスったらすっかり有名人じゃん。これもう知名度だけならトップタレント並みじゃね?まぁアイと瓜二つだし当然か。にしてもマジウケるんだけどー!」
などと呟き、腹を抱えて心底愉快そうにゲラゲラ笑っていた。他人事の様に呟いたその言葉が後々自分に返ってくるとも知らずに。
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──20XX年6月初旬。
この日、苺プロの事務所内は緊張感に包まれていた。
「いよいよ来週から映画『15年の嘘』の撮影に入ります。苺プロ揃い踏みの大仕事よ」
会議室では
その様子を部屋の外からそっと眺めていたクリスは、撮影直前の張り詰めた空気をアイと一緒に感じ取ってソワソワする。
「いやー、いよいよ映画撮影だねママ」
『うんうん、これで私がどんな風に演じられるのか楽しみだなぁ。ルビー頑張れー!』
「かなちゃんとMEMちゃんも頑張れー!」
『で、撮影終了予定は8月3週か。となると公開日は結構先になりそうだね』
「それまでは気長に待つしかないか」
そうして期待を胸に映画の完成を今か今かと待ち侘びる2人だったが、その時会議室から「有馬かなの卒業は年末のライブツアーに変更したから」という斎藤壱護の声が聞こえてきた。
その情報にクリスとアイは意外そうに驚く。
「あれ、かなちゃん8月末にB小町卒業じゃなかったっけ?」
『あー、これは佐藤社長に言い包められた感じかな。あの人昔からあんな感じで口八丁に人を誘導してたし』
「ふーん、ママがトップアイドルになるまで育て上げたお父さんの腕は今でも健在ってわけね」
つい最近、苺プロの元社長である斎藤壱護が事務所に舞い戻ってきた。
どうやら先日ミヤコが行きつけのバーに寄った際、偶然にも斎藤壱護とばったり出くわしたらしく、その際怒り狂ったミヤコがぶん殴って無理矢理連れ戻したという。
そして数日前、事務所に帰ったクリスは14年ぶりに壱護社長と再会したのだが……、
『えっ……ア、アイ!?アイなのか!?』
『残念、星野クリスだよ。ほら、最近SNSで話題になってたでしょ?見てないの?』
『あ、ああ……何だクリスか、びっくりしたぜ。にしてもマジでアイと瓜二つだな、色々と』
『そういう社長は全然変わってないね。まぁちょっと老けてるけど。もう更年期に入ってる感じ?』
『開口一番から失礼すぎないか?いやまぁ、ミヤコに全ての責任を投げ出して逃げた俺が言うのもアレだけどさ……』
『佐藤社長がしょぼくれてるの何かウケる』
『斎藤だ。お前今わざと間違えただろ。今後その呼び方は止めろよ』
『なるほど……じゃあ次からお父さんって呼ぶよ!よろしくねお父さん!』
『ぐぶはぁああああああっ!?』
『あっ、お父さんが泡吹いて倒れた!?お母さん、ちょっとこっち来てー!』
といった感じで、あまり感動的ではない再会を果たした2人。ちなみに、壱護社長の事は「お父さん」呼びで固定になった。
その後、壱護社長から「お前と話してると懐かしい気持ちになる。アイと他愛ない会話で盛り上がっていたあの頃を思い出す」と言われた。
それを生得領域内で全て聞いていたアイは、「佐藤社長って私のこと今でも大切に思ってくれてたんだね。何だか照れるなぁ……」と、こちらも懐かしそうに社長を見ていた。
こうして無事に苺プロに戻ってきた壱護は、ミヤコに言われるがまま社長の席に座らされ、代わりにミヤコはアクアとルビーの専属マネージャーにジョブチェンジした。
苺プロの配置が目まぐるしく変化した数日間であった。
──と、少し前の出来事を振り返っていると、丁度そこに五反田監督が台本を片手にやって来た。
「あれ、監督じゃん。今日はどうしたの?」
「クリスか。いやなに、今日は映画の最終台本を皆の分届けにな」
「それでわざわざここまで歩いて来たの?それくらい郵送で送れば良いじゃん」
「郵送料が勿体ねぇんだよ、言わせんな」
「40代独身の財布事情ほど虚しいものも無いね」
「言葉のナイフが鋭利すぎないかお前……?」
クリスに事実を真正面から打ち付けられ、若干震えた声で言い返す監督。だが、その言葉に覇気は感じられなかった。
「まぁ良いや、映画撮影に関係ない奴はどっか行ってろ。ネタバレは嫌なんだろ?」
「はーい、じゃあまた後で」
こうして会議室の傍から離れたクリスはしばらくリビングで寛いでいたが、呪術高専から緊急の任務が飛んできたので急いで現場へ向かった。
──その数日後、どういう経緯かは知らないが、アクアがとある幼女を事務所に連れてきた。
「使えそうな子役捕まえてきた」
「捕まってない、自分の意思」
「あっ、お前は……!」
百鬼夜行以来2度目となる、謎の鴉の幼女との邂逅にクリスが驚愕したのはまた別の話。
そして遂に……、
「へぇー、次の任務は特級呪物の回収なんだ。で、場所はどこなの?」
『宮城県仙台市にある学校らしいです。ちょっと何言ってるか分からないと思いますが、とにかくそこに保管されてるみたいですよ。さっき五条先生がそう言ってました』
「特級呪物が学校に?それはまた変な話だね。でもまぁ封印はされてると思うし、恵君ならよっぽどの事が無ければ大丈夫でしょ」
『相変わらず適当ですね先輩も』
「まぁそう言わずに……ね?でも困った事があったら僕か五条先生にすぐ連絡してよ。一瞬でそっちに駆け付けるから」
『はいはい、それではまた』
世界が変わる運命の歯車が動き出そうとしていた。
最後駆け足気味になったけどこれにて第5章終了。次回から第6章開始です。
ようやくメロンパンの活躍が見られるよ。