呪術の子 作:メインクーン
ルビー「おにいちゃん大好き!」
アクア「まぁ好きにさせとけば良いか」
クリス「照れてる兄さん可愛いねー」
鴉の幼女「子役に抜擢された」
伏黒「呪物回収しに仙台へ行ってきます」
王の目覚め
──20XX年6月中旬。
この日、クリスは苺プロの事務所にて謎の鴉の幼女と一緒にいた。
アクアやルビーやミヤコなどの苺プロで働くメンバーは、今日から映画撮影なので全員出払っており不在。
子役に任命された鴉の幼女ことツクヨミの出番は当分先とのことで、映画関係者の中で彼女だけ事務所で待機している。
「……って、君ひょっとしてしばらくここに住む感じ?」
「まぁ有り体に言えばそうなるね。私も君のお兄さんのせいで映画に出る羽目になったから、いつものように自由に行動するのが難しくなってね。撮影が終わるまではここに居候させてもらう予定だよ」
「ふーん、そうなんだ」
ツクヨミは苺プロの事務所、つまりはクリス達の実家にしばらく住むことになった。
家主であるミヤコから「あなたさえよければ撮影期間の間だけでもここに居る?」と提案され、それに素直に応じた結果である。
演技指導やら撮影の打ち合わせなどで呼ばれる機会も多くなるため、結構合理的な選択ではあった。色々と確執のあるアクアとルビーは非常に渋い顔をしていたが。
「にしてもよく堂々と僕の前に姿を現せたよね。この前の百鬼夜行での事、僕はまだ忘れてないよ?」
「勿論私も忘れたわけではない。ただ、私としてもこの映画はヒットしてくれた方が助かるから、わざわざリスクを背負ってでも君達に手を貸したまでだ。利害の一致というものさ」
「……まぁ良いか、今は子役としてここにいるわけだし。兄さん達のためにも僕は撮影期間中に手出ししないと約束するよ。でも君のことは当然五条先生にも伝わってるから、せいぜい寝首を掻かれないように気を付けることだね」
「あの五条悟にも認知されてるのか。なるほど、確かにそれは気を付けないといけないね。まったく困ったものだ」
ツクヨミは昨年の12月24日、夏油傑が起こした百鬼夜行の混乱に乗じて、特級過呪怨霊の星野アイをクリスにぶつけた過去がある。
結果的に呪霊化したアイは倒され、核となるアイの魂はクリスの肉体に受肉する形で丸く収まった。
当然この事は五条悟に報告しており、ツクヨミの存在を彼は情報として認知している。現状ツクヨミはクリスの温情で見逃してもらっているだけに過ぎず、普通に追われている立場なのだ。
「でもまぁ……君のおかげでママと再会できて、今も僕の中で一緒に過ごしてるから、そこだけは感謝してる。ありがとう」
「別にそんなつもりで星野アイを寄越したわけでは無い。まさか君の肉体に受肉するとは思わなかったしね。でもそのお礼は素直に受け取っておくよ」
「受肉に関しては大目に見てほしいな。あの時はああするしかママを助ける方法が無かったんだから」
「それに関しては済まなかった。まさか星野アイの死を拒み呪う者が、アイが死んで十数年経った今尚あれほど存在するとは予想外だった」
百鬼夜行から今日に至るまでの日々を振り返り、クリスはツクヨミにお礼を言った。
確かにツクヨミがした事は呪詛師と変わらないが、アイと再会する機会を与えてくれたこと自体には感謝していた。
一方で、ツクヨミもお礼を言われて僅かに口角を上げており、満更では無さそうな表情だった。とはいえアイの受肉は流石に予想外だったらしく、初めて知った時はおっかなびっくりしたそうだが。
そんなツクヨミの発言を受けてクリスは言った。
「五条先生も前に言ってたよ。愛ほど歪んだ呪いはないって」
「愛ほど歪んだ呪いはない、か……。ふふっ、確かに言い得て妙だね」
五条が以前乙骨やクリスに言った言葉を教えると、ツクヨミもこれには共感したらしく、くつくつと笑って頷いた。
「愛は呪いか……。言われてみれば、確かに私も生涯かけて愛をずっと探し求めてたなぁ。呪いって言われると嫌なイメージがあってアレだけど、ちょっと反論できないのが悔しいところだね」
2人の会話を聞いていたアイも先程の言葉には思うところがあるのか、クリスの頬から口を出現させて感想を語る。
「まぁ言い方を変えれば、ママも愛という名の呪いに取り憑かれていたと言えるしね。ツクヨミの言う通り、言い得て妙だよ」
「間違いないね」
「全くその通りだ」
クリスのフォローにアイとツクヨミは共感した。
こうして3人揃って「愛って凄い力だけど歪んだ呪いって言われればそうだよね」と、呑気に意気投合しあって談笑する。
「あ、ちょっと待って。五条先生から電話だ」
「おっ、噂をすればだね」
「こんな時間に電話とは、一体何の用だか」
と、3人での会話が盛り上がっていたところで、丁度話題に上がっていた五条から突然電話が掛かってきた。
「はいもしもし、どうしましたか五条先生?」
『あ、クリス?いきなりで悪いんだけどさ、今から仙台に向かってくれない?』
「えっ、今から仙台にですか?」
『うん、そう。ちょっと恵が呪物を回収できてるか確かめに行ってほしいの。流石に特級呪物の回収となると、上の爺共が煩くてね』
「でもそれって五条先生の仕事でしょ?飛べば一瞬じゃないですか?」
『そうしたいのは山々だけど、こっちは今別の任務で手が離せなくてね。だから代わりに行ってほしいの。詳しい場所は今メールで送ったからさ、お願い!』
「……まぁ、そういう事なら良いですよ。ちなみにお土産とかは要ります?」
『それなら喜久福買ってきて!味はずんだ生クリーム一択ね。そんじゃよろしく、バーイ!』
そう言って五条は電話を切った。嵐のようにあっという間だった。
「……あー、というわけで今から仙台に行くから。ツクヨミ、その間の留守番よろしく」
「分かった。私もお土産を楽しみに待っているよ。抹茶味があると嬉しいかな」
「はいはい。しょうがないね、まったく」
「クリス、私も喜久福食べたいからたくさん買ってー」
「大丈夫、分かってるよママ」
五条との会話を聞いていたツクヨミの図々しい要求に溜め息を吐きつつも、何だかんだで買ってあげようと考えるクリス。
アイの要求にも素直に応じて買い与えようとする彼女の姿は、まさに子供をあやす母親のようだった。
だがこの後、とんでもない事態に直面することをクリスはまだ知らない。
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一方その頃。
この日、伏黒恵は宮城県仙台市内のとある学校に赴いていた。
理由は校内に保管された特級呪物"両面宿儺の指"の回収を任せられたため。本来なら1人で行くような任務ではないのだが、この仕事を割り振った五条悟がいい加減な対応で伏黒に丸投げしたので、彼は渋々1人で回収に来ていた。
そして、目的の物を所持していた同学年の虎杖悠仁と出会い、紆余曲折ありながらも何とか呪物の回収に成功しかけていたのだが……、
「虎杖、逃げろ!」
「えっ……?」
「うぐっ!?」
寸でのところで指の呪力を求める呪霊に急襲され、伏黒は虎杖を庇って呪霊の攻撃をモロに受けてしまう。
頭から血が垂れ流れ、少なくないダメージを負ってしまったことで術式の運用もままならない。
そんな絶望的な状況下でも、どうにかして戦おうとする伏黒を見捨てられない者が1人。
「大丈夫か伏黒!」
「なっ、虎杖!?何してる、逃げろつったろ!」
「今逃げたら夢見悪いだろ。それにな、こっちも面倒臭ぇ呪いがかかってんだわ」
虎杖が追い詰められた伏黒を助けに、数時間前に亡くなった祖父の言葉を思い出して心を震わせ、呪霊と伏黒の間に割って入ってきた。
予想外の行動に驚愕する伏黒を他所に、虎杖は人並み外れた持ち前の馬鹿力で呪霊を殴り応戦する。だが、いくら彼がずば抜けた肉体の持ち主だったとしても、呪力を扱えない以上呪いは祓えない。
案の定、虎杖は呪霊のカウンター攻撃を受けて殴り飛ばされた。
「呪いは呪いでしか祓えない。だから何度も逃げろと俺は言ったんだ」
「……それ早く言ってくれない?」
「言ったところでだろ。呪力の無いお前じゃどの道勝ち目はねぇんだよ」
全く知らされていない情報に思わず愚痴を溢す虎杖だったが、伏黒はそれを軽く一蹴して目の前の呪霊に意識を集中させる。
既に満身創痍だが、この前の特級呪霊に追い詰められた時よりはマシだと思い込む事で何とか意識を強く保つ。
そうして現状の危機を切り抜ける策を模索する伏黒の一方で、虎杖はふとした疑問が浮かび上がった。
「……なぁ、あの呪いは何で指を狙ってんだ?」
「喰ってより強い呪力を得るためだ。それだけ大きな呪いなんだよ、あの指はな」
「なんだあるじゃん、全員助かる方法。要は俺に呪力があれば良いんだろ?」
「はぁ?」
天啓。
伏黒の回答を聞いた虎杖は、それなら全員助かる良い方法があるじゃんと考え、その方法を実現すべくポケットにしまった指を取り出した。
「あーん」
「なっ!?おい馬鹿!やめろ!」
あまりにも突飛な行動。信じられないことに、虎杖が特級呪物の指を口に放り込んだ。
これには普段冷静な伏黒も動揺を隠せない。
(両面宿儺の指、特級呪物だぞ!?猛毒だ、確実に死ぬ!だが万が一、万が一の可能性があるとしたら……!)
指を取り込んだことによる様々な想定が思い浮かぶ中、その中でも最悪のパターンが現実になる。
「……ケヒッ、ヒヒッ」
(さ、最悪だ……)
豹変した虎杖が襲い掛かった呪霊を一瞬でみじん切りにする瞬間を目撃し、伏黒は絶望した。
「アハハハハハッ!ギャハハハハハハハハハハッ!!」
(最悪の万が一が出た。特級呪物が……両面宿儺が受肉しやがった!)
ゲラゲラと邪悪に嗤う声が満月の夜空に響き渡る。
ナイフの様に鋭い爪、狂気を孕んだ4つの目、全身に刻まれた特徴的な紋様。
今ここに、呪いの王"両面宿儺"が1000年の封印から解き放たれ、現世に蘇った瞬間だった。
「やはり光は生で感じるに限るな!にしても呪霊の肉などつまらん!人は!女はどこだ!」
絶望と恐怖で固まって動けない伏黒を他所に、封印から目覚めた宿儺は学校の屋上から見える夜の街を見渡し、その邪悪に満ちた笑みを深めた。
「良い時代になったのだな。女も子供も蛆のように湧いている……素晴らしい、鏖殺だ!」
仰々しく両手を広げ、力を存分に振るって虐殺の限りを尽くそうと一歩踏み出す。
だがその直前で宿儺の意に反し、右手が突然宿儺の首を掴んで絞め始めた。
内にいる虎杖の意思だった。
「人の身体で何してんだよ、返せ」
「……お前、何で動ける?」
「いや、だって俺の身体だし」
呪物を取り込んで受肉した場合、基本的に宿主の意識が表に出てくる事はあり得ない。それが宿儺となれば尚更だ。
しかし虎杖は宿儺を相手に難なく自我を取り戻し、それどころか肉体の主導権も一切譲らなかった。
(何だ……抑え込まれる……?)
故に宿儺の意識は徐々に肉体の奥底へと沈み、全身の紋様も消えて虎杖の人格が表に出てきた。
だが、その変化を当事者以外がすぐに判別するのは難しい。
「動くな。お前はもう人間じゃない」
「はっ?」
「呪術規定に基づき、お前を呪いとして祓う」
恐怖から一転、腹を括った伏黒は両手で影絵を描き、いつでも式神を召喚できるように攻撃態勢を整える。
当然、いきなり殺害宣言された虎杖は困惑した。
「いや、何ともねぇって。それより俺も伏黒もボロボロじゃん。早く病院行こうぜ」
(んなこと言われたって、今喋ってんのが宿儺か虎杖かもこっちは分かんねぇんだよ……!クソッ、どうしたら良い!?)
もしかしたら虎杖の意識が戻っているように宿儺が演じ、こちらの油断を誘っているかもしれない。
仮にそうではなかったとしても、いつ虎杖の中にいる宿儺が肉体の主導権を奪って暴走するのか分からない。
だからこそ、伏黒は新たに降って湧いたこの問題にどう対処すべきか判断を迷っていた。
しかし、このタイミングで思いがけない人物が姿を見せる。
「ねぇ恵君、これ今どういう状況?」
「なっ、クリス先輩!?どうしてここに!?」
「いやね?本当は来る予定なかったんだけど、流石に特級呪物の回収となると上が煩くてさ」
伏黒の隣に音もなく、手提げ袋を抱えたクリスが立っていた。
本来なら伏黒に仕事を丸投げした五条が向かうべきなのだが、現在彼は別の任務で手が離せない状況のため、代わりにクリスが瞬間移動で現場に駆け付けた。
「それでどう?宿儺の指は回収できたかな?」
「…………」
「えっ、何その微妙な顔?何かあったの?」
質問に答えにくそうな渋い顔で黙る伏黒に、クリスは只事ではない雰囲気を感じ取った。
彼女自身も1年生の頃、高千穂で宿儺の指を呪詛師達と奪い合った経験があるため、もしかしたら誰かに奪われたのかもしれないと考える。
だが実際は、それよりももっと奇怪なものだった。
「あのー……すいません、それ俺が食べちゃいました」
「…………マジ?」
「「マジ」」
「…………」
虎杖から告げられた予想の斜め上すぎる事態に、クリスは驚愕のあまり動きを止めた。
そして思わず素で聞き返すも、2人の即答で更に思考停止するのであった。
すっくん、1000年ぶりの復活で柄にもなく大はしゃぎ。しかも目の前に現れたのは、真っ先に殺すと決めて2年間密かに想い続けた極上の女が……!
ちなみに鴉の幼女ことツクヨミは、本作ではミゲルと同じような立場になると思っていいかも。ちょっぴり苦労人枠。
Q.本作内でのツクヨミはどのくらい強いの?
A.フィジカルが貧弱だから微妙だけど、少なくとも領域展開は使えるよ。ちなみに術式は魂に干渉する系のやつ。