呪術の子   作:メインクーン

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前回:
ツクヨミ「留守番するからお土産よろしく」

アイ「私も喜久福食べたーい」

虎杖「ごめん、宿儺の指食べちゃった」

クリス「マジ?」

虎杖&伏黒「マジ」



史上最強と現代最強のウォーミングアップ

宮城県仙台市杉沢高校の屋上にて、クリスは予想外の事態に動きを止めていた。

 

両面宿儺の指の回収に行った伏黒の様子を見に行ったら、一緒に居た虎杖悠仁が指を食べて宿儺を受肉していたからだ。

 

しかも驚くべきことに、虎杖は宿儺を受肉しておきながら難なく自我を保てている。ただでさえ宿儺の指は猛毒で、食べればまず即死するにもかかわらずだ。

 

普通に考えてあり得ない事態だが、実際に現実として起きている以上受け入れるしかない。そう思ってクリスは虎杖に話しかける。

 

 

「えーと、虎杖悠仁君……だっけ?宿儺の指を食べたそうだけど、調子はどう?具合は悪くない?」

 

「具合は大丈夫っす。めちゃくちゃ元気。でもちょっとうるせーっすね。頭の中でアイツの声がする」

 

「いやいや、宿儺を受肉してそれで済んでるのが奇跡だよ。どうなってるの君の身体?」

 

 

虎杖の状態を聞いてクリスは素直に驚き、どれだけ頑丈な身体だろうと思った。

 

まさに1000年の1人の逸材。これは直ちに五条へ連絡すべきだと判断する。

 

 

「分かった、ちょっと待ってね。今から先生呼ぶからここで待機して……」

 

「クリス先輩、ちょっといい?」

 

「ん、どうしたの?」

 

 

五条をここへ呼ぼうとスマホを手にしたクリスに、何かを感じ取ったらしい虎杖が待ったをかけた。

 

 

「いや、何か俺の中でアイツが今すぐ変われって叫んでるんだけどさ……」

 

「あー、無視していいよそれ。しばらく放っておいたら大人しくなると思うから」

 

「それが……クリス先輩に用があるから少しだけ変われって……」

 

「えっ、僕に?宿儺が?」

 

 

何と宿儺がいきなりクリスを名指しで呼び出した。これにはクリスも首を傾げざるを得ない。

 

とはいえ、ある程度予想はできる。大方、自分の実力を見抜いたうえで、久々の運動がてら力をぶつけてみたいのだろう。この場で宿儺の相手が出来るのは彼女しか居ないので、割とあり得る可能性ではある。

 

それらを考慮したうえで少し考え、クリスはまぁ何とかなるかと結論を出した。

 

 

「良いよ、変わってあげて。ぶっちゃけ僕も宿儺の力は気になるし」

 

「えっ、本当に良いの!?」

 

 

クリスがあっさり宿儺と変わるのを許可したので、虎杖は驚いてあたふたし始めた。今知り合ったばかりの先輩とはいえ、自分よりも小さな女の子に危害が及ぶのは看過できなかった。

 

 

「でもコイツ、さっきみたいに暴れ出すだろうし、そしたらクリス先輩が危ないんじゃ……」

 

「大丈夫、僕最強だから」

 

 

だが、クリスが自信満々に言い放った力強い言葉が、虎杖の心配を真正面から吹き飛ばす。

 

五条悟と同様、自他ともに認める現代最強だからこそ、何よりも説得力のある言葉だった。

 

 

「まぁ君は安心して宿儺と変わってよ。とりあえず10秒くらいでどうかな?」

 

「あ、はい。じゃあ……」

 

「というわけで恵君、これ持ってて」

 

「これって……お土産?」

 

 

軽くストレッチをしつつ、ここに来る途中で買ってきた喜久福の袋を伏黒に手渡す。五条やツクヨミ達の要望通り、ずんだ生クリーム味や抹茶味などの様々な種類が袋に入っている。

 

それを見た伏黒は内心憤慨した。

 

 

(この人、土産買ってからここに来やがった!人が死にかけてる時に!)

 

「しょうがないじゃん、五条先生に買ってきてって頼まれたんだもん。文句言うなら先生に言って」

 

 

伏黒の考えてる事を読み取ったクリスがニコニコ笑いながら答えるが、それなら帰る時に買えよと至極当たり前な正論を吐く伏黒であった。

 

 

「余所見とは随分余裕だな?」

 

「ッ!?先輩後ろ!!」

 

 

と、2人でそんなやり取りをしている間に虎杖は宿儺と変わっており、一時的に肉体の主導権を握った宿儺は早速クリスに襲い掛かった。

 

背後から音もなくクリスに飛び掛かる宿儺を見て、伏黒が咄嗟に声を上げるが問題ない。

 

 

「うん、だって実際余裕だし……ねっ!」

 

「──ッ!?」

 

 

クリスは鋭い爪で切り裂こうとした宿儺の攻撃を横に身体を傾けて回避し、カウンターで強烈な裏拳を宿儺の顔面に叩き込む。

 

目にも留まらぬ速さで繰り出された殴打を受け、宿儺は数十m吹っ飛ばされた。

 

 

(やはり速いな……しかも2年前に比べてより動きが洗練されている。おまけに黒閃を出してない一撃でこの威力。やはりこの女は……良い!)

 

 

先程クリスから受けた一撃を冷静に分析し、改めてクリスの実力を認める宿儺。

 

流石に指1本分の力では分が悪すぎる事は理解しているが、それでも我慢など到底できなかった。2年前、東京の地下で蜂型の特級呪霊と戦う姿を見たあの時から、ずっとクリスの事だけを考え続けていたのだから。

 

 

(今の一撃、あえて黒閃を出さなかったけど、並の術師なら重傷だ。それを受け流してダメージをほぼゼロにされた……流石は呪いの王、反応速度が尋常じゃない)

 

 

ジャブ感覚で繰り出した一撃だったので、拡張術式による黒閃は発生させなかった。

 

それでも2級術師なら瞬殺、1級でも当たり所によっては重傷を負う一撃だった。それを顔面に受けた宿儺は何事も無かったかのように平然としている。

 

宿儺の咄嗟の対応力の高さにクリスは舌を巻いた。

 

 

「ククッ、良いぞ女。それでこそだ」

 

 

こうしてお互いがお互いの実力を認め合ったところで宿儺が仕掛けた。

 

右腕に現時点でのありったけの力を込め、クリスに向かって下から大きく振り払う。

 

屋上の床が広範囲に渡って抉れ、衝撃と爆風が大量の瓦礫を巻き上げてクリス達を襲う。並の相手なら即死は免れない強力な攻撃。

 

だが、今目の前にいるのは現代最強。

 

 

「……まぁ、予想通りの結果だな。今の俺の力ではこんなものだろう」

 

「ふふっ……7、8、9……そろそろかな?」

 

 

宿儺の予想通り、クリスは無傷で佇んでいた。終始余裕の笑みを浮かべたまま、その場から一歩も動かずに。後ろで隠れている伏黒にも被害はない。

 

それを確かめた直後、10秒が経過したので虎杖の意識が表に出始めた。試しにもう1度肉体を乗っ取れないか踏ん張るが、どうにも無理そうな手応えだった。

 

仕方がないので意識が完全に落ちる前にクリスに言う。

 

 

「小僧の身体をモノにしたら真っ先に殺す。それまで待ってろ、星野クリス」

 

 

それを伝え終えると同時、宿儺の意識は肉体の底に落ちて虎杖の意識が表に出た。

 

 

「おっ、大丈夫だった?」

 

「……悠仁君、君本当に凄いね。10秒くらいとは言ったけど本当に10秒で入れ替わるとは思わなかった。やっぱり宿儺相手に完全に制御できてる」

 

「そんな事よりも先輩は怪我なかった?」

 

「僕は平気。恵君も問題ないし、後は五条先生を呼んで一件落着だね」

 

 

その後、クリスは五条に電話で事のあらましを説明して呼びつけた。

 

数分後、五条はすぐに現地まで駆け付けた。

 

 

「来たよクリス。で、この子が例の宿儺の器?」

 

「うん、そうだよ先生。名前は虎杖悠仁君、元気があってとっても良い子だよー」

 

「虎杖悠仁っす!よろしくお願いします!」

 

 

飛んできた五条に大きな声で挨拶する虎杖。そんな彼の身体を五条はじっくりと見つめて笑った。

 

 

「ふむふむ……ははっ、本当だ。混じってるよ、ウケるー。クリスと同じだね」

 

「えっ、同じってどういう事?」

 

「悪いけどちょっと寝てて」

 

「へっ?あっ……」

 

 

そう言いながら五条は虎杖の額にいきなり人差し指を突き立て、そのまま虎杖を眠らせた。

 

気を失って倒れた虎杖を抱え、伏黒とクリスに問いかける。

 

 

「さて、ここでクエスチョン。宿儺を制御できてるらしいこの子をどうすれば良いと思う?」

 

「……制御できたとしても、呪術規定に乗っ取れば虎杖は死刑です。でも、死なせたくありません」

 

 

五条からの問いかけに伏黒は即答した。この短時間で虎杖の人間性を理解した彼の意見は「虎杖を死なせたくない」の一点だった。

 

 

「……私情?」

 

「私情です。何とかしてください」

 

「……クックック、可愛い生徒の頼みだ、任せなさい。クリスもそれで良いよね?」

 

「勿論。明るくて素直で良い子な後輩、前から欲しかったんだよねー」

 

「あはは、クリスは相変わらずだね」

 

 

クリスも伏黒の意見に反対する気はなく、新しい後輩が1人増えることなってウキウキしている。しかも呪術師には珍しい典型的な善人で根明で素直な性格。可愛くて仕方がなかった。

 

そんな生徒2人からの要望を聞き届け、五条は早速虎杖を連れて上層部に駆け込むのであった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

両面宿儺が受肉して復活を果たした翌日。

 

五条が虎杖に事の顛末と死刑判決に執行猶予が付いたことを伝えている一方で、クリスは一旦事務所に戻ってツクヨミ達に昨晩の出来事を伝えていた。

 

 

「というわけで、両面宿儺が1000年の封印から復活したよ。いやー、何だかとんでもないことになっちゃったねー」

 

「「…………」」

 

 

クリスはケラケラと笑いながら説明したが、話を聞いたルビーとツクヨミの表情は引き攣っており、それどころではなかった。

 

 

「……星野クリス」

 

「ん、何だいツクヨミちゃん?」

 

「本当に宿儺が復活したというのか?あの『呪いの王』が」

 

「うん、そう。何なら少しだけ戦った。流石呪いの王と言われるだけの事はあったよ。指1本であの実力なら、20本ならどうなることやら」

 

 

ツクヨミが恐る恐る確認すると、クリスはあっけらかんと肯定した。凄いよねーと呟いているが、ツクヨミは気が気でなかった。

 

 

「呑気なことを言ってる場合ではない。奴が力の全てを取り戻して完全復活を果たせば、その時は今度こそ日本の終わりだ。こちらも映画どころではなくなる」

 

「まぁ何とかなるでしょ。確かに悠仁君は宿儺を受肉したけど、死なないどころか難なく自我を保ってた。今朝眠りから覚めた時も肉体の主導権を譲らなかったみたいだし、これなら変に刺激しなければ宿儺が暴れるリスクは低いと思うよ」

 

「その虎杖悠仁という男だが、呪術界上層部は死刑判決を下したのか?」

 

「うん、一応ね。死刑は流石に無効に出来なかったって五条先生が言ってた」

 

 

変わらず呑気に構えるクリスに対し、ツクヨミは危機感を抱いているのか表情は真顔のままだ。

 

 

「なら、すぐに虎杖悠仁を処刑すべきだ。その男がいくら善人で気のいい奴だとしても、その男の存在で今後何人の命が犠牲になるか分かったものじゃない。生かしたままは危険すぎる」

 

「えー、ツクヨミちゃんひょっとして上層部並みに頭固い?だって1000年現れなかった逸材だよ、すぐ処刑するなんて勿体ないじゃん。

 だから悠仁君には無期限の執行猶予が付いたよ。宿儺の指を全部取り込むまで死刑は先送りってやつ。上はそれで了承したってよ、渋々だけど」

 

「馬鹿馬鹿しい、こればかりは上層部の判断が正しいよ。いつか君達はその選択と行動を必ず後悔する時が来る」

 

「ふーん……けどそれって君の私情じゃない?僕らと一緒じゃんね」

 

「1人の命と日本の未来を天秤に乗せて下した公平な判断だ。誰が何と言おうと、私は虎杖悠仁の秘匿死刑に賛成だよ」

 

 

あの後、虎杖を連れた五条が上層部と色々話し合った結果、虎杖を秘匿死刑にするのは変わらないが、宿儺の指を全て取り込ませてから処刑するという条件が付くことになった。

 

これでしばらくは虎杖の命が保証されることになる。それを聞いたツクヨミは全然納得していない様子だが。

 

そんなこんなで室内にピリピリした空気が漂う中、ずっと静観していたルビーが口を開く。

 

 

「……ねぇクリス、両面宿儺って何だったっけ?」

 

「ああ、姉さんにはまだ詳しい説明をしてなかったね。宿儺っていうのは今から1000年前に……」

 

 

宿儺ことをよく知らないルビーのために、クリスは宿儺について分かりやすく説明した。

 

曰く、両面宿儺は腕が4本、顔が2つある仮想の鬼神だが、今回の宿儺は1000年以上前に実在した人間であること。

 

呪術全盛だった平安の世に、あらゆる術師が総力を挙げて挑むも、誰1人として敵う者はいなかった史上最強の術師であること。

 

宿儺の名を冠し、死後呪物として時代を渡る死蝋でさえ今でも消し去ることができなかったこと。

 

付いた異名は『呪いの王』。そして昨晩、その宿儺が1000年の時を経て封印から目覚めたこと。

 

 

「ヤバいじゃん」

 

「ついでに言うと、記録によれば宿儺の性格は残酷・残虐・非道の極み。特に力を持たない女子供を一方的に虐殺したり食ったりするのが一番の趣味だったらしいよ。あ、ちなみに『食う』っていうのは性的な意味じゃなくて物理的な意味の方だからね」

 

「もっとヤバいじゃん」

 

「だから私は最初から虎杖悠仁を秘匿死刑にしろと何度も警告しているのだが、星野クリスと五条悟のせいでそれも先送りにされた。私はもう知らない」

 

 

説明を聞いて更に顔が引き攣るルビーの横で、ツクヨミが呆れた顔でクリスをじっと見つめる。

 

そんな2人に対し、クリスはルビーにとって更に心臓に悪い話を投下する。

 

 

「そうそう、それでね?その宿儺と軽く戦った後で『完全復活したら真っ先にお前を殺す』って言われてさ。いやー、まさかあそこまで堂々と殺害予告されるとは思わなかったよね」

 

「…………えっ?はっ?えっ?」

 

「でもまぁ、宿儺ほどの術師に命を狙われるなんて光栄の極みだね」

 

「クリス、その辺にしておいた方が良い。そろそろルビーの精神が限界に近い」

 

 

話を聞く限りどう考えてもヤバいという感想しか出ない超危険人物に、よりにもよって大切な妹の命が狙われている。

 

その情報をルビーの脳は処理しきれず、その場で動きを止めてしまった。まるで無量空処を食らった直後の有様だった。

 

それでも不撓不屈のお姉ちゃんパワーでどうにか意識を取り戻したルビーは、泣きそうなほど不安な顔でクリスをギュッと抱き締める。

 

 

「クリス、危なくなったらすぐに逃げて、お願い。絶対に無茶したら駄目だからね。私もう、ママの二の舞は御免だよ……」

 

「大丈夫、僕これでも多くの修羅場を潜り抜けてきたんだから何とかなるって。それに力の全てを取り戻した宿儺の実力も気になるし。心配しないでとは言わないけど、大船に乗ったつもりでいてよ」

 

 

暗い顔をするルビーを安心させようと、力強い言葉と共にギュッとルビーを抱き締めるクリス。

 

そうして少しでも姉の不安を和らげていると、今度はツクヨミが尋ねた。

 

 

「で、実際のところはどうなんだい?君は確かに五条悟と並ぶ現代最強だが、相手はあの宿儺。お互いに本気で戦ったら、果たしてどちらが勝つと予想する?」

 

「うーん、そうだねぇ……力の全てを取り戻した宿儺が相手だと、流石にちょっとしんどいかな」

 

 

宿儺とクリス。史上最強と現代最強。互いに本気でぶつかったらどうなるのかという質問に、クリスは何とも歯切れの悪い返事を返した。

 

それを聞いたツクヨミが重ねて尋ねる。

 

 

「つまり、君が負ける可能性が高いと?」

 

「……いや、勝つさ」

 

 

そう断言したクリスの表情に一切の不安や迷いは無く、自信に満ち溢れた不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 




すっくん、クリスにぞっこん。完全にロックオンしてしまう。後になって万が嫉妬で狂うぞ!


※おまけ
宿儺「クリス(の命)は俺のものだ」

五条「クリス(の力)は僕のものだよ」

クリス「わーお、2人とも情熱的~」

台詞だけ見たら完全に乙女ゲー。なお実際は……。
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