呪術の子 作:メインクーン
宿儺「星野クリス、お前を殺す」
ツクヨミ「虎杖悠仁を今すぐ処刑すべきだ」
ルビー「クリス、無茶だけはしないでね」
クリス「大丈夫、僕最強だから」
クリスが事務所でツクヨミと秘匿死刑の賛否で口論になっている一方、虎杖と伏黒と五条は宮城県で引っ越しの準備を進めていた。
「後はこのポスターをスーツケースに詰めて……ふう、これで荷造りは完了だな」
「なぁ虎杖、そのポスター本当に必要なのか?というか何のポスターなんだ?」
「ジェニファー・ローレンス」
「わーお、悠仁ったら女の趣味分かりやすーい」
宿儺の指を食べたことで呪術高専への転入が決まったので、3人は虎杖の自宅で引っ越しのための荷造りを済ませていた。
伏黒と五条はその手伝いで来ている。先程虎杖に2本目の指を食べさせた五条は、家の中でずっとサボってのんびりしていたが。
「よし、それじゃあ荷物も纏めたわけだし、早速駅に向かおうか。次の東京行きの新幹線は……」
「あ、五条先生ちょっと待って。その前にもう1度病院行きたいんだけど良い?」
「君のお爺ちゃんが入院してた所?良いけどどうしたの?」
「昨日の今日でずっとバタバタしてて見れなかったけど、流石に心配だから迎えに行こうと思って。というか置いていけないし」
「迎えに……?」
引っ越しの準備も終えてさぁ東京に行こうとしたタイミングで、虎杖が待ったをかけた。
何やら病院に用があるとの事だが、五条と伏黒は意味が分からず首を傾げる。
「まぁとりあえず行こうぜ。伏黒も五条先生も多分びっくりすると思うから」
「「……?」」
よく分からなかったが、五条と伏黒は一先ず虎杖の後について行くことにした。そのまま3人は駅に向かわず、虎杖の祖父が入院していた病院へ足を運ぶ。
数十分後、病院に到着した虎杖は早速病院の受付に向かった。
「こんにちは、虎杖です。スピネルを迎えに来ました」
「あら、よく来てくれたわね虎杖君。さっき電話で聞いたわよ、明日から東京に引っ越すんだって?」
「いやー、そうなんですよ。ちょっと色々あって。でも向こうに行っても何とかやっていけそうっす。で、スピネルは今どうしてます?」
「スピネルちゃんなら寝てるわよ。もうぐっすり。ちょっと待ってね、今連れてくるから」
虎杖と結構仲の良いらしい看護師の人が、少し話した後に受付の奥の部屋へ行って姿を消した。
そんな2人の会話を後ろで聞いていた五条達が虎杖に尋ねる。
「ねぇ悠仁、さっき言ってたスピネルって誰?」
「ぐっすり寝てるとか言ってたがどういう事だ?」
「あー、説明するとちょっと長くなるんだけどさ、実は去年の晩秋くらいに……」
「虎杖君、スピネルちゃん連れてきたわよー」
少し面倒くさそうに説明しようと口を開きかけた虎杖だったが、丁度そこへ先程の看護師が虎杖の下へ戻ってきた。
スヤスヤ眠る赤子を乗せたベビーカーを押しながら。
「はい、スピネルちゃん寝てるから起こさないように気を付けてね」
「うっす、どうもありがとうございます。本当にお世話になりました」
「良いのよー、私達も可愛がってたんだから。にしても寂しくなるわねぇ。あ、スピネルちゃん関連の手続きはこっちで全部済ませたからね」
「マジすか?あざっす!」
「はーい、それじゃあ向こうに行っても頑張ってね。私達も応援してるわ」
虎杖は看護師と楽し気に話して別れを告げた後、受け取ったベビーカーを引いて戻ってきた。
儚げで可愛らしい女の子の赤ん坊が気持ちよさそうに寝ている姿は、見ていて和やかな気持ちになる。
ただし、五条と伏黒は目玉が飛び出そうなほど驚いた顔で見ていた。
「い、虎杖……お前さっき、両親は小さい頃から居ないって言ってたよな?」
「なのにその赤ん坊は一体……まさか悠仁の?」
「うーん、どこから言えばいいかなぁ。確かに俺の子って言えばそうなんだけど、厳密にはそうじゃなくて……」
震える声で尋ねる2人に、虎杖は何とも歯切れの悪い返事をしながらも、ベビーカーを引いて病院を出た。
そのまま駅に向かう道中で虎杖は説明する。
「この子の名前はスピネル。去年の初冬だったかな?何故か俺の家の前に段ボール箱ごと置かれてたんだよ」
「つまり捨て子ってわけか。一応聞くが、センスを疑うそのキラキラネームはお前が名付けたのか?」
「いや違ぇよ?箱の中に置き手紙があってさ、そこにこの子の名前が書かれてたんだ。酷ぇ当て字だったけど、名前を勝手に変えるのも悪いと思ってそのまま登録した」
「そこは変えてあげた方が良かっただろ……」
スピネルを家に迎え入れた経緯を聞いて、伏黒は思わず溜め息を吐いた。
ある日突然捨て子として虎杖家の前に置かれたスピネルは、その後虎杖悠仁と彼の祖父に引き取られた。今では『虎杖
「という事はさ、今は悠仁がその子を育ててるって事でしょ?何でさっき病院からその子が出てきたの?普通預けるなら保育所じゃない?」
「俺もそうしたかったんだけど、近くに空いてる保育所が無かったんだ。それでどうしようって途方に暮れてたら、病院のおばちゃん達が子育て手伝ってくれてさ」
自宅周辺の保育所には、近年の保育士不足問題が祟って受け入れを拒否されてしまった。
だが虎杖は学生。昼間は学校に通う必要があるため、いつまでも子供の面倒を見ているわけにはいかない。
それを不憫に思った病院の看護師達が、昼間は自分達が代わりに面倒を見てあげようかと提案したことで、虎杖は安心して学校に通うことが出来ていた。
ちなみに、スピネルの寝場所は虎杖の祖父がいる病室だった。そして虎杖の祖父はスピネルをかなり溺愛していたことをここに明記する。
「結構大人しい子でさ、あんま滅多に泣かないんだよ。おばちゃん達もここまで泣かない子は珍しいって言ってた。そのおかげで病院内では迷惑かけずに済んだけど」
「ふーん……まぁ良いや。とりあえずその子の育児は僕の方で何とかするよ。僕の家なら1人養うくらいわけないし。何なら生徒達皆で面倒見る?」
「マジすか、ありがとう先生!でも、スピネルの面倒はなるべく見ておきたいしなぁ。かといって皆に手伝わせるのもちょっと……」
五条の提案に虎杖は目を輝かせるも、流石に他の皆に迷惑をかけるのは憚られるのか少し逡巡する。それでも五条はニヤリと笑った。
「大丈夫、いざとなったらクリスに面倒見させるから。あの子なら子育てもお手のものだろうし」
「えっ、クリス先輩って子育て経験あるの?あの人まだ18歳じゃん。いくら何でも早すぎない?」
「いや、正確にはクリスの中にいる人だよ。あの子は自身の肉体に母親の魂を受肉させてるんだ。悠仁と同じようにね」
「そうだったの!?というか母親を受肉って何?意味が分からねぇ」
昨日の時点では全く知らなかった事実に驚愕し、虎杖は思わず声を上げた。
クリスの事は虎杖もSNSである程度知っていた。今年の初め頃に暴露された星野アイの隠し子騒動の際、3人目の子供であるクリスがアイの生まれ変わりだと世間で騒がれたことで、瞬く間に全国で有名になったからだ。
彼女の名前が挙がる度にトレンド上位に食い込んでいたうえに、最近では3兄妹が並んで映った写真がSNSにアップされたことで、その知名度と人気を確実なものにしている。
今や彼女の非公式ファンクラブまで設立されており、芸能界デビューを今か今かと待ち望むファンは大勢存在する*1。
だからこそ、そんな超有名人の彼女がまさか呪術師という裏の顔を持っていた事実に驚愕したし、たった今五条が暴露した母の魂を受肉している事にも心底驚いた。
「とにかく、詳しい話は高専に着いてからにしよう。ついでに途中で赤ちゃん用のグッズも買っておこうか」
「そうですね。俺、ちょっと津美紀にもスピネルの面倒を見てもらえないか掛け合ってみます。クリス先輩だけだとこの子の将来が不安すぎるんで」
「伏黒、五条先生……マジでありがとう。俺、2人に後でラーメン奢るよ」
何だかんだ言いつつも、スピネルの身を案じる伏黒達の優しさに虎杖は感動し、2人にお礼を言った。
底なしの善人である虎杖に感謝の気持ちを伝えられて悪い気はしなかった。
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翌日、呪術高専の校舎にて。
「悠仁君、高専合格おめでとう!」
「あざっすクリス先輩!情報得るの早いっすね!」
「ここへ来る途中で五条先生から連絡を貰ってね。何か学長に色々扱かれたらしいけど、無事に編入できて良かったよ。まぁ、悠仁君なら大丈夫だと思ってたけど」
「最初はマジでどうなるかと思ったけどな」
「でも結果オーライだったから良いじゃん。クリスもそう思うでしょ?」
「確かに、これは五条先生の言う通りですね」
呪術高専の編入時に行われた学長との面接。紆余曲折ありながらも、それをどうにか乗り越えて合格を勝ち取った悠仁は、実家から戻ってきたクリスに合格を祝われていた。
ただし、虎杖の顔には学長が作った呪骸との戦闘で負った傷があり、それが戦闘の激しさを物語っている。
「ん-、悠仁君それ酷い怪我だね。ちょっと僕に見せてくれる?」
「あ、はい。良いすけど、別に大したことないから大丈夫……」
「良いから良いから……術式反転『還』」
どうにも放っておけなかったので、大丈夫だと言い張る虎杖を押し切って術式反転を発動する。
瞬間、頬に触れた手からクリスの術式効果が伝わり、それが虎杖の肉体の時間を急速に巻き戻していく。そしてあっという間に虎杖が負った傷や疲労はリセットされ、全快した。
「はい、治療完了。傷とか疲労は回復したと思うけど、調子はどう?」
「えっ……おお、本当だ!身体がめっちゃ軽い!傷も全部治ってる!こんな事まで出来るとか先輩マジ凄ぇ!」
「ふふーん、そうでしょ。もっと褒めてくれたって良いんだよ」
怪我が治って驚いた虎杖からの純粋な賛辞に、クリスを鼻の下を伸ばした。明るく素直で可愛げのある彼だからこそ、今の誉め言葉はクリスの心に物凄く響いた。
(……ほう、今のが星野クリスの術式反転か。中々に興味深いな)
クリスが虎杖に褒められて上機嫌になっている一方、虎杖越しに彼女の術式反転を体感した宿儺は冷静に術式効果の分析をしていた。
(他者へ施す反転術式とは訳が違う。治すというよりは無かった事にしている感じか……治癒性能も反転術式とは比較にならん。なるほど、実に面白い)
先程のクリスの術式反転『還』について、しっかりと分析したうえで面白いと評する宿儺であった。
「……で、今すぐ来てと言われて来ましたけど、一体何の用ですか先生?」
話を戻し用件を尋ねるクリス。先程まで実家で寛いでいた彼女を高専へ呼び戻したのは他でもない五条だ。
緊急時でもないので特段呼ばれる理由はないのだが、一体何の用だというのか。
そう思っているクリスに、五条はずっと背中におぶっていた存在を見せつけた。
「ふふ、今日呼んだのは他でもない、この子の面倒を見てもらおうと思ってね!」
「えっ……赤ちゃんですか?」
「うん、そう。元は捨て子だったらしいけどね、去年悠仁が引き取ったらしくて……」
「…………」
(何だ?クリス先輩が……ぼーっとしてる?)
五条はおんぶ紐を解いて虎杖の代わりに背負っていたスピネルをクリスに見せ、引き取った経緯を説明する。
その説明を聞いている間、クリスはどこか上の空でずっとスピネルの方を凝視していた。返事も曖昧で様子がおかしい。
それに気付かず説明を終えた五条は、笑顔でクリスに言った。
「……というわけでさ、いきなりで悪いけどスピネルの子育てを手伝ってくれたら嬉しいかな?悠仁だけだとこの子の面倒見切れないし。心配せずとも僕ん家の人にも手伝わせるから……」
「良いですよ。スピネルの育児でしょ?何なら僕がこの子の面倒見ますよ、全部」
忙しさや面倒臭さを理由に断られる可能性も考慮し、事前に実家のサポートも用意していた五条だったが、その予想に反してクリスの返事はまさかのOKだった。
しかも即断即決、おまけに育児も少し手伝うどころか全部1人でやると言い出す始末。この反応には五条も予想外で面食らっていた。
「あ、あれ、てっきりもっとごねると思ってたんだけど……まぁ、やってくれるなら何でも良いか。にしても随分乗り気だね?」
想定以上に育児に乗り気なクリスを不思議に思って尋ねると、クリスは悩まし気に首を傾げつつも訥々と答えた。
「うーん……何故かは分からないんですけど、この子を見てるとどうにも放っておけなくて。何というか、見た瞬間『この子を育てるのは僕だ!』って感じでビビッと来たんです」
「その子に母性でも湧いた感じかな?赤ちゃんを見ると本能的にそうなる女性は結構いるみたいだし」
よく分からないが、スピネルに対して本能的に母性が働いたのだろうかと、会話を聞いていた虎杖は思った。
とにかくクリスがスピネルの育児を積極的にやってくれるとの事なので、五条も虎杖もそれで良いかと特に気にせず流すことに。
「じゃあこれから寮に案内するから、悠仁はこっちに付いてきて。クリスは早速スピネルの面倒でも見てもらおうかな」
「うっす、分かった。にしても高専の寮ってどんな感じだろ。部屋広いかなぁ?」
「はーい、それじゃあスピネルをこっちに渡してください。あとおんぶ紐も込みで」
虎杖は荷物を持って寮に向かい、クリスは五条からスピネルとおんぶ紐を預かって早速あやし始める。
そして、スピネルを抱っこして「おーよしよし、可愛いねぇ」と優しく微笑むクリスの姿は、まさに我が子を愛する母親の様だった。
「ああ、それから明日もその子の面倒お願いね」
「良いですけど、明日何かあるんですか?」
「明日は3人目の1年生を迎えに行くんだ。勿論悠仁も一緒に付いてきてね。恵も同行させるし」
「おう、分かった。ちなみにこの学校って1年は何人いんの?」
「悠仁を含めて3人」
「いや少なっ!?」
新たな1年を迎えに行くワクワクと、想像以上に少ない生徒数に対する驚きで、感情の波が激しくなる虎杖であった。
一方その頃、都内某所のマンション内では。
「そろそろ虎杖悠仁が高専に到着した頃かな?そしてスピネルの面倒は星野クリスが見てるかもね。いやはや、これから先の展開はある程度予想できるけど、どちらに転んでも笑っちゃうよねー」
虎杖、クリス、スピネルの姿を思い浮かべ、たはーと他人事のように嗤う羂索であった。
五条が赤ちゃん背負ってる姿って凄くシュールじゃない?少なくとも自分は笑うと思う。不審者感エグすぎて。
※スピネルの育児に関して
アイ「私の中の母性がこの子を育てろと叫んでる」
クリス「僕の中の母性がこの子を守れと叫んでる」
虎杖「育児手伝ってくれるのマジ助かります」
メロンパン「笑っちゃうよねー」