呪術の子 作:メインクーン
五条「スピネルの面倒お願いね」
クリス「良いですよ。何ならこの子の育児は全部僕がやりますよ」
虎杖「手伝ってくれるのマジ助かります」
メロンパン「笑っちゃうよねー」
虎杖が引き取った謎の捨て子、スピネルの育児を五条から任された翌日。
「それじゃあクリス、僕達3人目の1年生を迎えに行くからスピネルの面倒お願いねー」
「はーい、皆行ってらっしゃーい!」
「うっす、ありがとう先輩!行ってきます!」
「あまり変なこと吹き込まないでくださいよ」
「恵君は僕のこと何だと思ってるんだい?」
五条、虎杖、伏黒は3人目の1年生を迎えるべく原宿へ出掛けた。今日来る1年生は厳密には2人目なのだが、入学の際に色々と揉めて時間が掛かったらしい。
その間の育児を任されたクリスは、高専内で大人しくスピネルの面倒を見ていた。
「だぁーあ!あーうー!」
「おーよしよし、スピネルは今日も元気で良い子だねぇ!顔も僕並みに可愛いし、この子はきっとヤバいくらいの美人に育つね。ねぇママ?」
「そうだね、この子はきっと可愛くて綺麗な子になるよ。まぁ私ほどじゃないけどね」
「ふふっ、可愛さ勝負なら僕だって負けないよ。何たってママと同じ容姿なんだからさ」
アイと2人で面倒見ているクリスだったが、たとえ相手が赤子や母親だろうが可愛さでマウントを取り合う。
他の人が見れば大人げないと嘆く一面である。
「それにしても、まさかこの子も持ってる側だったとはね。五条先生から聞いた時は驚いたよ」
「ねー。私もこんな偶然あるんだって思ったよ」
スピネルを抱きかかえながら散歩する最中、クリスとアイは昨晩五条に言われた内容を思い返していた。
『あそうそう、クリス達にも一応伝えておくけどさ、その子見えてる側だし持ってる側だと思うよ』
『えっ、まさか呪いがですか?』
『うん、そう。実はここへ来る途中で呪霊を幾らか見かけたんだけどさ、その子普通に目で追ってたし呪霊の動きにも反応してた。間違いないよ』
『しかも術式持ち?』
『多分ね。まぁ術式の詳細は4~6歳頃まで待たないと分かんないけどさ、僕の眼で見た感じだと持ってるっぽい』
『へぇー、この子もねぇ……』
『まぁそういう意味でも、スピネルの面倒は僕らが見た方が良いわけでさ。よろしく頼むよ』
『はーい。ちなみにこの事を知ってる人は……』
『今は悠仁、恵、学長、硝子の4人が知ってる。そもそも呪いが見えてることに気付いたのも恵が最初だし』
このようなやり取りが昨晩あり、スピネルが呪術師としての才能を持っていることをクリス達は知った。
とはいえ最初こそ驚いたものの、呪術の才能がある以外はただの赤ん坊に変わりないので、特に何か言うこともなくあっさり受け入れた。
「まぁ何はともあれ、元気に育ってね。僕としてはそれだけが願いだよ」
「クリスもすっかり母親だね。でも子育てで困ったことがあったら私に聞いて。生前はあまり面倒を見てあげられなかったけど、ある程度は慣れてるつもりだしさ」
「うん、じゃあそうするよ」
新たにスピネルの母親になったクリスと、そのクリスを産んだ母親のアイ。
スピネルにとっては母親と祖母であり、そんな2人のタッグはどこか頼もしさを感じさせた。
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その日の夜、午後9時を回った頃に五条達は高専に帰ってきた。3人目の1人生を引き連れて。
「おかえり、皆帰ってくるのが随分遅かったけどどうしたの?」
「ただいま先輩。何か釘崎が回転寿司に1度も行ったことが無くてさ、それで皆と寿司食いに行ってた」
「ああ、なるほどそういうわけね。良いなぁ、僕も寿司食べに行きたかったよ」
「じゃあ今度一緒に食べに行こうぜ。スピネルも連れてさ」
高専の寮に帰って早々、虎杖が回転寿司に行った話をクリスに聞かせ、後日ご飯を一緒に食べに行く約束を結ぶ。
その後ろから五条と伏黒が寮に入っていき、最後にもう1人の1年生がクリスの前に立った。
そしてクリスの顔を見た瞬間、急に騒ぎ始めた。
「えっ……えっ!?う、嘘……もしかして……星野クリス!?」
「あ、やっぱり僕のこと知ってる?いやー、僕もすっかり有名人になっちゃったね」
やはりと言うべきか、クリスの顔と名前を知ってるらしく、感動のあまり目をキラキラと輝かせる。
「初めましてクリス先輩。私、釘崎野薔薇って言います。以後お見知りおきを」
「うん、初めまして野薔薇ちゃん。知っての通り、星野クリスだよ。よろしくね」
釘崎野薔薇と名乗ったその女子は、クリスに対してキリリと佇まいを正すと、妙に丁寧な仕草と言葉遣いで挨拶した。
「なぁ伏黒、あいつ俺達と出会った時に比べて何か対応違くね?やけに行儀が良いというか……」
「俺らの時は顔を見るなり溜め息吐いてたしな。というか、別にクリス先輩はそこまで尊敬できるような人じゃないんだが」
初対面の相手に対する対応の違いで思うところがあったのか、2人のやり取りに虎杖と伏黒はコソコソと不満を口にする。
それを聞いていた五条は「まぁ良いじゃんそれくらい」と軽く流したが、少し納得できないと思う虎杖達であった。
「……で、これで1年全員揃い踏みかな?改めてよろしくね、3人とも」
「おう!」「はい!」
「良いね2人とも、元気ある子は大歓迎だよ。恵君ももう少しテンション上げていかないとね」
「いえ、俺は結構です」
「えー、相変わらずつれないなぁ」
「…………」
相変わらず素っ気ない態度を見せる伏黒にクリスがブーイングするが普通に無視された。
「ところで先輩、スピネルは今どんな感じ?」
「スピネルならベッドでぐっすり寝てるよ。寝顔が可愛くってもう最高。カメラ連写してスマホの待ち受けにしちゃった」
「すっかり溺愛してるなぁ」
虎杖がスピネルの様子を尋ねると、クリスはパアッと顔を輝かせて答えた。
その反応に、事情を知らない釘崎以外の全員がクリスのことを親バカだと思った。
「ほらこっちこっち……見てよほら、静かに寝息立てて可愛いでしょ?」
「おー、今日も良い子にしてたんだなスピネルは。よく寝て早く大きくなれよー」
「悠仁はお兄さんでクリスはお母さんか……あはは、中々に複雑な家庭で面白いね、ウケる」
「五条先生、それ不謹慎……」
スピネルが起きない程度の声で話す4人。
親代わりのクリスと虎杖は和やかな笑顔でスピネルを見守り、伏黒は失言を溢す五条を諫めた。
そして事情を知らない釘崎は、目をカッと見開いてスピネルとクリスと虎杖を交互に見ていた。
「えっ……赤ちゃん?いや、えっと……虎杖、クリス先輩、これどういう事?」
「ああ、野薔薇ちゃんはまだ知らなかったね。この子はスピネル、僕と悠仁で育ててる子だよ。可愛いでしょ」
「まぁそういうわけだからさ、釘崎も時間あればスピネルの面倒見んの手伝ってくれよ」
クリスと虎杖から聞かされた説明に、釘崎は衝撃のあまり口をパクパク動かすことしか出来なかった。
今の2人の不十分な説明を聞いて想像できることなど1つしかない。
「じゃあつまり、その子供は虎杖とクリス先輩の……ふ、2人ってそういう関係だったの!?嘘でしょ早すぎない!?」
「何言ってんだ釘崎?つーかあんま大きな声出すなよ。スピネルが起きるだろ」
「どうやら変な誤解を招いたみたいだね」
2人の関係を邪推して狼狽える釘崎に虎杖もクリスも首を傾げるが、釘崎がこうなってしまったのは至極当然の結果である。
その後、どうにかして誤解を解くことは出来たが、それでも高校生2人が赤ん坊を育てているという事実に驚きを隠せない釘崎であった。
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それから1週間が経ぎたある日の事、スピネルをあやしていたクリスはふとこんな事を思った。
「やっぱスピネルにも母乳を飲ませてあげたいな」
「急に何言ってんの先輩?」
いきなりクリスの意味不明な発言を聞かされ、虎杖は思わず首を傾げて聞き返す。
「いやさ、スピネルの子育てを始めて1週間経って思ったんだけど、この子の食事って基本的にミルクばっかりじゃん」
「まぁそうっすね。だってスピネルを産んだ母親がどこにも居ないし。でも飲ませる物は間違ってないじゃん?」
「確かにそうだね。でもさ、赤ん坊と言ったらやっぱり母乳でしょ。2歳までは母乳育児が推奨されてるくらいだし。で、スピネルって精々生後1年かそれ未満だと思うから、本当ならまだ母乳が必要だと思うんだよね」
「それで母乳を飲ませたいってこと?でも先輩が産んだわけじゃないから、飲ませたくても出ないんじゃね?あれって実際に子供を産んだ人からしか出ないって聞いたことあるし」
いくら赤ん坊を育てているとはいえ、現役の高校生2人がして良い会話ではない。
だが伏黒と五条はそれぞれ任務に出掛け、釘崎は都内のデパートでショッピング中なので、現在2人の会話にツッコむ人は誰も居ない。
ボケ2人による壮絶な会話が繰り広げられていた。
「まぁ概ねその認識で間違ってないよ。それでも僕は考えたんだ、どうすればスピネルにも飲ませてあげられるか……」
「どうすればって……まさか先輩、出来るの?」
「ふっふっふ……」
思わせぶりなその言葉に、虎杖が嘘だろとでも言いたげな顔でクリスを見やる。
だがクリスは不敵な笑みを浮かべると、スピネルを抱いたままクルリと虎杖に背を向けた。
そして左肩部分から胸にかけて上着を大胆にはだけると、そこにスピネルの顔を押し当てる。
「良いよ悠仁君、こっちに来て見てごらん」
「どれどれ……おおっ、スピネルがクリス先輩のおっぱい飲んでる!いやマジでどうなってんの!?」
クリスに呼ばれて近付いてみると、確かにスピネルがクリスの母乳をしっかりと飲んでいた。
あまりの衝撃に虎杖が驚き騒ぐ中、クリスは自慢げに胸を張って説明する。
「何てことはないよ。僕の術式と呪力操作技術を駆使すれば、自分の意思で母乳を出すことくらい訳ないさ」
「マジで!?クリス先輩そんな事まで出来んの!?これもう何でもアリじゃん!呪術って凄ぇ!」
「ふふっ、やっぱ子育てするならこのくらいガチでやらないと……ね?」
クリスがやっている事に、これが呪術で出来ることなのかと素直に驚く虎杖。
なお、ここまで器用な事が出来る者は非常に限られる上に、出来たとしてもわざわざ呪術を使ってやるメリットが無いことをここに明記する。
ちなみに、この衝撃的な光景を一緒に見ている者達の反応はというと……、
『わーお、クリスってばとうとう自分でおっぱい飲ませ始めちゃった。仕組みは全然分かんないけど、あれ見てると子供達を育てていた頃を思い出すよ。
私もああやってルビーとクリスに飲ませてたっけ?でも何故かアクアはずっと哺乳瓶だったんだよね。いやー、懐かしいなぁ……』
三つ子の子育て経験があるアイは、かつて子供達と一緒に過ごした日々を思い出し、懐かしそうにクリス達のやり取りを眺めた。
その一方で……、
『ほう……術式対象に自身の脳を選択しているのか。恐らくそれで特定のホルモンの分泌を促進しているな?しかも呪力を血液に浸透させて、胸回りの血液の流れと量を意図的に調整している。
血を操る術式でもないのに、非常に器用かつ緻密な呪力操作。恐らく俺と同じで、心臓や他の臓物をやられた程度では死なんだろう。……ククッ、中々に面白いものを魅せてくれたな、星野クリス』
虎杖の中で暇を潰していた宿儺は、クリスがスピネルに授乳している様子を呪術的な視点から細かく分析し、来たる戦いを想像して邪悪な笑みを浮かべるのであった。
だが、そんな和気藹々としたやり取りから更に1週間が経ったある日のことだった。
記録──20XX年7月初旬
西東京市、英集少年院の運動場上空にて特級仮想怨霊(名称未定)の呪胎を非術師数名が目視で確認。
緊急事態のため、高専1年生3名が現場に派遣され、内1名が死亡。
クリスが呪術を駆使してスピネルに授乳するだけでも結構カオスなのに、それを見て冷静に分析する宿儺もシュール過ぎて草超えて花御。