呪術の子   作:メインクーン

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遂に黒縄を解禁したミゲル。

天逆鉾の争奪戦はどちらが制するのか……?


※2023/8/25 11:00
大幅な加筆修正を行いました。ミゲルとの戦闘シーンを盛っています。



争奪戦 ②

クリスとミゲルがサハラ砂漠でぶつかる1週間前。

 

日本のとある山奥の施設内にて。

 

 

「……ソレデ、今カラコノ『天逆鉾』ヲ取リニ行ケバ良イノカ、夏油?」

 

「ああ、そうだよミゲル。君にしか頼めない事だ」

 

 

テーブルを挟んで向かい合う2人の男。

 

1人はケニアから来た海外の術師、ミゲル。サングラスを掛けた謎の男である。

 

そしてもう1人の男の名は夏油傑(げとうすぐる)。彼もまた日本に数人しかいない特級の称号を持つ者であり、呪術を使って人々を害する存在、呪詛師として裏社会で暗躍している。

 

元々は五条悟と唯一無二の親友だったのだが、訳あって今は敵対しており、その関係は未だに改善の兆候が見られない。

 

そんな夏油は現在、とある戦いに備えて着々と準備を進めている最中だった。

 

 

「特級呪具『天逆鉾』。かつて悟を瀕死に追い込んだ唯一の呪具さ。その効果は発動中の術式の強制解除。今所持している黒縄にプラスしてこれも手に入るなら、是非ともそうしたいよね」

 

「ダガ、コノ呪具ハ記録デハ五条悟ガ破壊シタ事ニナッテイル。ソレガ何故アフリカノサハラ砂漠ニ封印サレテイルト分カッタ?」

 

 

ミゲルの疑問通り、天逆鉾は五条悟が10年以上前に破壊した事が記録に残っている。

 

もうとっくの昔に存在していない呪具のはずなのに、どうして夏油が呪具の存在どころか呪具の封印場所すら知っているのか。

 

その答えは至極単純なものだった。

 

 

「何故って……私が悟と元々どういう関係だったか忘れたのかい、ミゲル? 私は悟と唯一の親友だったんだよ? 天逆鉾に関する情報は悟本人から直接聞いたに決まっているじゃないか。

 いやまぁ、正確には悟自ら私に教えてくれたんだけどね。『破壊するつもりだったけど、やっぱそれは止めて封印したよ』って言って、ご丁寧に封印場所の情報までセットでね。

 この事を知っているのは、悟と私以外だと天元様くらいじゃないかな? もしかしたら()()()()()()も知ってるかもだけど」

 

「ナルホド、ソウイウ事ネ。ソノ時ニ教エテモラッタ情報ガ、今ニナッテ活キテイルトイウ訳カ。……トコロデ、ソノ『クリス』ッテ誰ダ?」

 

 

夏油の回答を聞いて納得するミゲルだったが、また新たに知らない事が増えたので、それも併せて尋ねる。

 

海外の術師であるため、日本にいるクリスの事を知らないのは当然の事だった。

 

 

「クリスちゃんはねぇ、私がまだ高専に居た時に悟が見付けてきた子なんだよ。凄い呪術の才能を持った子が居たって事で、後日悟がその子を高専に連れて来たんだ。

 私もその時にあの子と会って挨拶してね。それからよく色んな現場に連れて行ったんだ。飲み込みが早くてびっくりした覚えがあるよ。

 確か……最近になって特級術師の称号を得たんだっけ? 元からそれだけの実力はあったから当然なんだけど」

 

「ソコマデ強イノカ、ソイツハ?」

 

「そりゃあ勿論さ。初めて出会った時から呪力による身体強化はほぼ完璧だったし、センスも術式も飛び抜けて優れていた。

 特にあの子は近接が超強いから、いざ戦う事になったら注意すべきだ。何せ、あの子に近接格闘を教えたのは他でもない私自身だからね」

 

「イヤ、ソンナ誇ラシゲニ語ラレテモ……」

 

 

クリスを鍛えたのは自分だと言わんばかりに自慢げに語る夏油を前に、呆れたように嘆息するミゲル。

 

 

「まあとにかく、今から地図で示した場所に行って、天坂鉾を回収してきてくれ。ここら辺の地理に詳しいのは君だけだからさ。

 もし悟かクリスちゃんと出会っても、回収できそうなら頑張ってくれるとありがたい。念のため私が持ってる呪霊もいくつか貸そう。それでも無理そうだったらすぐに撤退してくれ」

 

「……ハア、分カッタ。引キ受ケテヤルヨ」

 

 

────こうしてミゲルは、天逆鉾を回収するため単独でサハラ砂漠にある封印の小屋へ赴いた。

 

だが、さぁ封印を解いてさっさと呪具を回収するぞと、意気揚々と小屋に向かったところでクリスとばったり遭遇してしまい、今に至る。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

特級呪具『天逆鉾』を巡って対立していたクリスとミゲル。

 

クリスが圧倒的な優勢で立ち回る中、遂にミゲルが奥の手と思しき黒い縄の呪具を取り出した。

 

 

「何あの黒い縄? 嫌な予感がする……」

 

「フフフ……」

 

 

その呪具から発せられる異質な呪力を感じ取り、思わず立ち止まって注視する。

 

攻撃の嵐から一転、警戒して近付こうとしないクリスの反応に、ミゲルは不敵に笑った。

 

それがクリスの不快感を煽る。

 

 

「何だろ、警戒しないといけないはずなのに凄い腹立つ、その笑顔……まあ良いか、当たらなければどうって事はないし」

 

「ソウダト良イナ?」

 

「そうだね、じゃあさっさとケリを付けさせてもらうよ!」

 

 

警戒心を強めたまま、再び術式順転で超高速移動を始めるクリス。

 

これまで通りミゲルを翻弄しながら死角に入り、一気に距離を詰めて黒閃を撃とうと拳を握り締める。

 

だが、そこで想定外の事態が起こった。

 

 

「今、ココダッ!」

 

「なっ……!?」

 

 

何と、今まで防戦一方だったミゲルが初めてクリスの攻撃を防いだのだ。

 

死角からの攻撃だったはずが完璧に見切られ、拳が当たる直前でミゲルの持つ黒い縄に弾かれた。

 

そして、突発的な出来事で驚くクリスの隙をミゲルは見逃さない。

 

 

「ダァアアアッ!!」

 

「しまっ……ガハッ!」

 

 

一瞬の隙を突いて繰り出したミゲルの拳がクリスの鳩尾を正確に捉え、そのまま近くの岩盤へ叩き付けるように殴り飛ばす。

 

ミゲルのカウンターとクリス自身の超高速移動の反動によって、打撃の威力は凄まじい事になっており、クリスに多大なダメージを与えた。

 

それによって、クリスの口から僅かに血が零れる。

 

 

「……な、何あの黒い縄? 触れた瞬間に僕の術式が乱された……。というか、さっきまで全然僕の攻撃を見切れていなかったのに、どうしていきなりカウンターが成功したの?」

 

「ソレハ簡単ナ話ダ、星野クリス。サッキ食ラッタアンタノ連続攻撃デ攻撃パターンヲ解析シテ、タイミングヲ計ッタ。ソレダケノ事ダヨ。時間ハ掛カッタケドナ」

 

「……えっ、嘘でしょ? あれに対応できたの? 五条先生以外誰も捌けなかったあの速度を? マジかー、それは想定外……」

 

 

言われてみれば至極真っ当な攻略方法に、クリスは驚いて目を見開いた。

 

それでも、五条悟以外で彼女の移動速度に追いつける術師や呪霊は今までいなかったため、その衝撃は大きい。

 

そしてもう1つ。ミゲルが持つ黒い縄の呪具も厄介だった。

 

 

「というか、その呪具何なの? それに当たった瞬間、発動していた術式が()()解除されたんだけど。ひょっとして天逆鉾と同じ類の呪具?」

 

「アア、ソウダ。天逆鉾ト同ジ類ノ呪具、ソノ名モ『黒縄』。発動中ノ術式効果ヲ強制的ニ乱シ、相殺スル効果ガアル」

 

「何それ、だったら尚更天逆鉾を狙う必要無いじゃん。天逆鉾くらいこっちに譲ってよケチ」

 

「残念ナガラソウハ行カナイ。俺ハ回収ヲ頼マレタ身ナンデネ。ソレニ、コウイウ呪具ハ沢山アル方ガオ得ダロウ?」

 

「それもそうだね。じゃあ続きと行こうか!」

 

 

多少の驚きはあったものの、すぐに気を取り直して再び超高速で縦横無尽に動き回る。

 

会話中に鳩尾に受けたダメージは回復しており、口から垂れていた血も拭き取っている。完全に元通りとなった。

 

一方で、ミゲルもようやく相手の攻撃パターンを分析して慣れたのか、先程と違ってクリスの動きがある程度分かるようになっていた。

 

つまり、ここから先は正真正銘どちらか一方が倒れるまでの殴り合い。クリスが連続攻撃でゴリ押しして勝つか、それともミゲルがカウンターを決めて勝つか。

 

封印されし特級呪具を賭けた両者の戦いの最終局面が、今……!

 

 

「術式順転『望速』────黒閃ッ!」

 

「フンッ!!」

 

 

横から一気に距離を詰めてきたクリスの拳が、再びミゲルの黒縄によって弾かれる。

 

これによりクリスの黒閃は不発に終わり、又もや先程と同様の隙が出来てしまう事になる。

 

 

「モウ一発ッ!!」

 

 

カウンターで応戦するミゲルの拳が、胴体がガラ空きとなったクリスに振るわれようとし……。

 

 

「甘いね、2度は無いよ!」

 

「ナニッ!?」

 

 

当たる寸前でミゲルの拳は空を切った。

 

クリスはわざと黒縄に当たって隙を見せ、相手の出方を待っていたのだ。

 

ミゲルの殴打が胸に当たる直前、膝を折るように身体を仰け反らせて懐に入り、逆に仕掛けた。

 

互いの身体が密着しそうになる程の超接近戦を。カウンターのカウンター攻撃を。

 

 

「だらぁああああああっ!!」

 

「ウグッ……!」

 

 

黒縄に弾かれた直後のため術式は使用できない。この瞬間に出来るのは基礎的な呪力操作のみ。

 

しかし、鍛えに鍛え抜かれたクリスの体術と緻密な呪力操作によって、一瞬の内に何発も強烈な打撃を叩き込んだ。

 

 

「グッ…………舐メルナ!」

 

「おっと危ない!」

 

 

そして、ミゲルが黒縄を使って反撃しようとすれば、すかさず距離を取って相手の動きに警戒する。

 

その間に乱された術式も使用できるようになるので、いつでも超高速移動が出来るように身構える。

 

 

「……上手ク誘ッタナ。マンマト乗セラレタ」

 

「まあね! 何せお前にとってはやっと見つけた有効な戦法だもんね? そりゃあ隙が出来たら思わず飛び出しちゃうよ。

 今のお前みたいに勝ち方が決まった奴は勝ち筋を見せると簡単に食い付く。後は相手の動きをよく見て反撃するだけ」

 

「フフッ……ダガ、ソウト分カレバマタ対処スレバ良イダケダ」

 

「その前に力尽きて倒れないと良いけどね?」

 

「言ッテロ特級!」

 

「そっちこそ!」

 

 

こうして殴り殴られの応酬を繰り広げながらぶつかり合う2人。

 

基本的に超高速で縦横無尽に動けるクリスの方がやや優勢だが、ミゲルのカウンター技も決まる頻度が高くなっていく。

 

 

「2度モ通用シナイノハ俺モ同ジダ!」

 

「ゔっ!? ……今のは効いたよ。じゃあこれはどうかな?」

 

 

黒縄を正確に当てた後、クリスのカウンターを一歩引いて回避。

 

直後、体勢を立て直される前に掌底打ちで顎を突き上げるミゲル。

 

クリスの口内が真っ赤に染まり、赤い液体が地面に滴り落ちる。

 

 

「懲リナイ奴ダ……ナッ!? 透ケタ!?」

 

「残念こっちだよ! おらぁああっ! 黒閃ッ! 黒閃ッ! 黒閃ッ!」

 

「グホォアッ!!」

 

 

クリスも負けじと高速移動の応用で残像を作り出す。

 

それを利用してミゲルに攻撃させると、一瞬の隙を狙って黒閃を叩き込む。

 

顔面に連続で黒閃を受けたミゲルは遥か彼方へ殴り飛ばされた。

 

 

「術式順転『望速』ッ!!」

 

「ナンノ! ダァアアアッ!」

 

 

すかさず追撃しようと追ってくるクリスに、ミゲルは黒縄を使って近くの岩塊を絡め取り、思い切り投げ飛ばした。

 

 

「岩多いね! まあ、だから何って話だけど!」

 

 

降り掛かる岩石が片っ端から殴打で破壊されていく。

 

この程度では足止めにすらならないが、ミゲルの狙いはそこではない。

 

 

「隙アリッ!」

 

「あっ、しまった!」

 

 

岩石を破壊しようと腕を伸ばした瞬間、黒縄が前方から伸びる。

 

そのままクリスの右腕に絡まった。

 

しまったと驚くクリスだったがもう遅い。こうなってしまった以上、術式の使用が不可能になる。

 

 

「ヴォオオオオオオーッ!!」

 

「うわぁああああああああっ!?」

 

 

腕に絡まった黒縄を解こうと抵抗する間もなく、ミゲルの怪力によってハンマー投げのように振り回されるクリス。

 

何回、何十回と振り回す中、ミゲルは岩石砂漠の地形を活かした攻撃を行う。

 

 

「コレハ効クダロウ、特級!」

 

「ぐっ……うぐぐっ……!」

 

 

黒縄を振り回し、其処彼処に聳え立つ巨岩の山々へクリスを激突させ、短時間で一気にダメージを与えていく。

 

一方でクリスも、呪力による身体強化と回復技である反転術式の2つを同時に使用するという超高度な技術を披露し、外傷は殆ど負っていない。

 

それでも少しずつダメージは蓄積されていた。

 

 

「ソロソロ終ワリニシテヤル! ハアアアアッ!」

 

「やっば……!」

 

 

クリスを岩石にぶつけ続けていたミゲルが、声を張り上げ地面を力強く踏み込んだ。

 

ミゲルを中心に硬い地面が放射線状にひび割れ、その衝撃で周囲の岩山が大きく揺れる。

 

ただならぬ気迫に、本格的に不味いと感じ取ったクリスは何とか脱出しようと藻掻く。

 

だがその前に、ミゲルの方が速かった。

 

 

「ダァアアアアアアッ!!」

 

「がぁああああああっ!!」

 

 

地面に向かって全力で黒縄が振り下ろされる。

 

黒縄に右腕を束縛されているクリスも、ワンテンポ遅れて頭から地面に激突した。

 

その瞬間、空高く舞い上がる大量の土煙が周囲一帯を埋め尽くし、衝撃による轟音が何度も反響する。

 

後に残ったのは大量の石塊の山。

 

地面に叩き付けられたクリスは崩れ行く岩山の下敷きとなった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「サテ、今ノデ死ンダトハ思ワナイガ……ドウ出テクル?」

 

 

舞い上がった土煙もようやく収まり、積み上がった石塊の山をじっと見つめるミゲル。

 

しかし、いくら待てど一向に這い上がってくる気配がない。

 

 

「……オカシイ、何故出テ来ナイ? マサカ本当ニ死ンダノカ? イヤ、流石ニソレハ……モウ良イ、コッチカラ引ッ張リ上ゲテヤル」

 

 

いつまで経っても姿を見せないクリスにとうとう痺れを切らしたミゲルは、黒縄を使って無理矢理引き摺りだそうとした。

 

しかし、そこで予想だにしていない光景が目に映る。

 

 

「ハッ? ……ハアッ!? コ、コレハアイツノ()()()()()()()!?」

 

 

何と瓦礫の山から出てきたのは、黒縄に絡まったクリスの右腕、それのみだった。

 

何か鋭利な刃物で切断されたような綺麗な断面を晒しており、鮮やかな赤い液体がそこら中に飛散する。

 

これには流石のミゲルも度肝を抜かれた。

 

 

「何故アイツノ片腕ダケシカ出テ来ナイ? 肝心ノ本体ハ何処ヘ……イヤ、マサカ!?」

 

 

相手の姿が見当たらない事に困惑していたミゲルが、何かを察したその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────黒閃ッ!!」

 

「グハッ!?」

 

 

背後から途轍もなく大きな衝撃がミゲルを襲った。

 

その衝撃でミゲルは亜音速を超える速度で吹き飛ばされ、岩山に激突する。

 

それでも持ち前の耐久力ですぐに立ち上がり、衝撃がやって来た方へ顔を向ける。

 

視線の先に居たのは当然……。

 

 

「……ナルホド。アノ一瞬デ右腕ヲ捨テテ、間一髪デ脱出シタ訳カ」

 

「ピンポーン! 大正解! 地面に叩き付けられる瞬間、僕は術式の回復を最優先して黒縄が絡まった右腕を自ら切り落としたのさ! 

 おまけに、右腕を捨てる事でそれ以外の肉体の強度を底上げする即席の縛りも結んでおいた! これで万が一脱出に失敗したとしても、ダメージを最小限に抑えられるからね!」

 

 

クリスは、地面に激突する寸前で黒縄による拘束を振り解き、術式を使って脱出に成功していた。

 

包丁で食材を切る様に、呪力で強化した手刀で自身の右腕を切断するという方法を使って。

 

この強硬手段により、黒縄の効果が物理的に断ち切られ一瞬で術式が回復。即座に術式順転を駆使し、瞬間移動でその場を切り抜けた。

 

そして困惑するミゲルの意表を突き、背後から渾身のドロップキックをお見舞いしたのだ。

 

 

「見事ナ脱出劇ダ。ダガ、コノ先片腕ダケデドウ戦ウ? 諦メタ方ガ賢明ジャナイカ?」

 

「ご心配なく。片腕くらいすぐに治せるから。ほら、この通り……ねっ!」

 

 

切り落とされたクリスの右腕はものの数秒で再生し、元に戻った。

 

 

「……コレデ再ビ振リ出シニ戻ッタトイウ訳カ」

 

「そういう事になるね。でも、そろそろ決着を付けようかなって思うんだ」

 

「ソレハ俺モ同ジダ。今度コソ終ワラセテヤル!」

 

 

こうして両者は再び拳を握り締め、身構えた。

 

どちらも相手の動きに即座に対応しつつ、色々な手段でダメージを与え続けてきた。

 

しかし、そんな2人の戦いもいよいよ終盤。

 

雌雄を決するため、お互いが相手に向かって一歩踏み出し……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけどここまで戦いが長引いちゃった以上、大真面目にあんたと戦う気は無いから! このまま殴り合いだと泥試合になるって分かったし!

 だから……これで一気に決める!!」

 

「ハアッ!? オイ、一体何ヲスルツモリダ!」

 

 

突如、クリスは遥か上空へ高く飛び上がると、ミゲルを見下ろしながら声高にそう言った。

 

いよいよ勝者が決まると思って身構えていたミゲルは、クリスが取った予想外の行動に一瞬たじろぎ、思わず声を張り上げる。

 

しかし、そんなミゲルの問い掛けには一切耳を貸さず、クリスは両手で掌印を結んだ。

 

 

(ここまでカウンターを成功された以上、今まで通りのやり方だと反って時間の無駄になるだけ。

 フェイントもあまり通用しなくなったし、何よりあの黒縄が厄介すぎる。それなら回避もカウンターも出来ない高威力広範囲攻撃で仕留める方がよっぽど合理的。

 で、ここは天逆鉾がある小屋から数km以上は離れた場所。範囲を調整すれば巻き込む恐れは無し。虚式でも良かったんだけど……避けられるリスクを考えると、やっぱこっちの方が確実だよねぇ)

 

 

頭の中で冷静に今の戦況を分析し、戦いを終わらせるには何が一番合理的な手段かを考える。

 

そうして導き出した解答を基に、クリスは()()()を使う事を決意した。

 

 

「この技はあんまり使いたく無いんだけど、やるしかないよね。それにしたって……あいつマジで硬すぎるでしょ!」

 

「何テ莫大ナエネルギー……コレハ不味イッ!!」

 

 

地上にいるミゲルに向けて右手を伸ばし、照準を合わせる。

 

すると、その掌の先に燦然と()()輝く球状の物体が出現し、周囲の空気が震え出した。

 

バスケットボール程度の体積の光の周囲には稲妻が迸り、遠目から見ても凄まじい量のエネルギーが凝縮されている事がよく分かる。

 

これには流石のミゲルも身の危険を感じ取り、急いでその場から離れようと駆け出した。

 

しかし、行動に移した時にはもう遅かった。

 

 

「術式順転『望速・(れつ)』ッ!!」

 

 

一瞬、目を瞑ってしまう程の閃光が、辺り一帯を昼間以上に明るく照らす。

 

大気はざわつき始め、眩い光に当てられた岩石はより暗く黒い影を落とす。

 

次の瞬間────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グワァアアアアアアーッ!!」

 

 

莫大な熱エネルギーと強烈な爆風による圧力。

 

地震の如く揺れる大地。

 

大気を伝って鼓膜が破れるほど広範囲に轟く爆音。

 

遥か上空まで巻き上げられる大量の砂。

 

そして、それに付随して高々と舞い上がり形成される、超巨大なキノコ雲

 

まるで核爆弾が投下されたかの様な地獄絵図が、一瞬で出来上がった────。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

爆発の様子を上空からじっと静観していたクリスは、爆発による黒煙が風になって散るまで待ち続けた。

 

それから十数分後、爆心地に出来上がった広大なクレーターを横目に、クリスは地上に舞い降りる。

 

やる事は勿論、ミゲルの生死の確認である。

 

 

「さて、ミゲルの残穢(ざんえ)は……って、流石にこの規模の爆発でそんなの残ってないか。でも、これだとあいつが死んだかどうか分からないなぁ……」

 

 

爆発によって周辺一帯の地面が焦土と化したために、ぱっと見で相手がどうなったのかが分からない。

 

それでも根気よく歩いて探し回ってみると、気になる物を発見した。

 

 

「ん? これは……肉? もう消えかけてるけど、これってひょっとして……呪霊の肉?」

 

 

爆心地から少し離れた場所に、散り散りになって消えていく黒焦げの肉片を発見する。

 

肉の消え方から呪霊の肉だと断定したクリスは、どうしてここにそんな物が転がっているのか考えた。

 

すぐに理由が分かった。

 

 

「……はっ、なるほどねー。上手く逃げられたって訳か。本当にどうなってんのあいつ? 何であの爆発ですら死なないんだろ? 五条先生じゃあるまいし」

 

 

呪霊の肉が転がっている理由が分かり、呆れたように溜め息を吐いて拾った肉を投げ捨てる。

 

それと同時にようやく脅威は過ぎ去った事を知り、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「でもまあ、諦めてくれたようで良かった良かった。それじゃあ今度こそ天逆鉾を回収して、こんな暑苦しい砂場とはおさらばしましょうか」

 

 

────それから15分後。

 

黒焦げになった小屋に再び戻ったクリスは、今度こそ誰にも邪魔される事なく、無事に『天逆鉾』とそれに付随していたもう1つの呪具『万里ノ鎖(ばんりのくさり)』の2つを回収し、その後日本へ帰国した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア、ハア、ハア…………アノ爆発ハ本当ニ危ナカッタ。夏油カラ貰ッタ呪霊ノ召喚ガ後少シデモ遅カッタラ、今度コソ死ンデイタカモ知レン。

 ……モウアノ女ト戦ウノハ懲リ懲リダ。自分ガ不利ニナッタト見ルヤ否ヤ、アンナ非常識ナ爆破攻撃ヲ仕掛ケテクルトハ……少シハ加減ッテモノヲ考エロ、全ク!」

 

 

 




あれ、クリスの方がやってる事呪詛師じゃね?

クリス「もう嫌、あのミゲルってやつとは戦いたくない……何なのあいつマジで? 僕の方が優勢だったのに何故か勝てる気がしなかった……あれっ、海外の術師って実は結構ヤバい?」

ミゲル「モウ勘弁ダネ、クリスト戦ウノハ。アノ女、想像以上ニ強カッタ。デモ、アレヨリモット強イ五条悟ノ足止メヲ来年スルノカ……先ガ思イヤラレルゼ……」


※クリスの拡張術式その1

・術式順転『望速・裂』

空間内のある一点の時間の流れを極端に速める事で、周囲の空間との歪みを作り出し、そこから生成される莫大なエネルギーを極限まで凝縮し、一気に解き放つ超高威力広範囲攻撃。

ある程度の指向性を持たせて撃つ事は可能だが、それでも爆発の規模が凄まじいので被害規模もとんでもない事になる。

その威力は最低でも巡航ミサイルに匹敵し、最大威力は東京23区を文字通り更地にする程度。そのため本人はこの技をあまり使用したがらない。

五条悟には全く効かない。
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