呪術の子 作:メインクーン
虎杖「いやー、何か生き返ったわ」
五条「悠仁に力を付けさせるために匿おう」
クリス「スピネルの面倒は僕が見ます」
都内某所のファミレスにて、夏油に扮した羂索は最近手を組んだばかりの特級呪霊達と話をしていた。
「五条悟に星野クリス……やはり我々が束になっても殺せんか」
「ヒラヒラ逃げられるか、最悪全員祓われる。1人だけでも脅威なんだ、尚更正面から挑むのは得策じゃない。だから『殺す』より『封印』に心血を注ぐことをオススメするよ」
テーブルを挟んで羂索と話しているのは特級呪霊の『漏瑚』。単眼に火山の様な頭という特徴的な風貌をしている。
その隣に座る、白い肌に黒い紋様がある筋骨隆々な呪霊の名は『花御』。本来眼球があるべき穴からは角のように2本の枝が伸びており。こちらも人間の風貌から大きくかけ離れている。
更に隣で佇んでいる『陀艮』という呪霊に至っては、フードを被ったタコのような姿をしており、人間的な特徴が見受けられない。
そんな漏瑚達と一緒に、羂索は呪いの時代を作るための作戦会議をしており、その上で最大の障害である五条悟と星野クリスの対処法を伝えていた。
「封印?その手立ては?」
「特級呪物『獄門疆』を使う」
呪いが蔓延る混沌の時代を作るために、羂索達は近い内に戦争を起こすつもりでいる。その戦争に勝利するには2つの条件があった。
1つ目は現代最強の五条悟及び星野クリスを戦闘不能にすること。この場合の戦闘不能とは、殺害、再起不能、封印など色々あるが、羂索のオススメは封印である。
2つ目は呪いの王である両面宿儺を仲間に引き込むこと。虎杖悠仁を仲間にすると言い換えても良い。
この2つを満たすことが勝利の最低条件であると羂索は語り、その上で五条とクリスを封印するために獄門疆を使用すると言った。
「獄門疆……持っているのか!?あの忌み物を!」
「漏瑚、あまり興奮するな。暑くなる」
「いや待て、獄門疆を使うにしても封印する相手は2人。1人成功したとして、もう1人はどうするのだ?」
「実は数年前から獄門疆の複製を試みていてね。紆余曲折あったが、最近になってようやく完璧なレプリカが完成したんだ。それらを使って2人を封印する」
「何と!?それは本当なのか!?あれを複製とは、俄かには信じられん話だが……」
「疑うようなら後で見せてあげるよ。見た目から性能まで本物と遜色ないとすぐに分かるだろう」
獄門疆を所持しており、更に唯一無二の特級呪物を複製したという情報に、漏瑚のボルテージが急上昇する。
その興奮に応えるかのように、頭部にある火口のような穴からポンという軽快な音と共に炎が噴出され、冷房の効いた室内でも暑いと感じるほど気温が上昇する。
「……ねぇ、何だか暑くない?さっきから冷房効いてる感じがしないような……」
「気のせいだろ。暑い季節だしそういう事もある」
「それより今は映画の話だ。『15年の嘘』の撮影は後1ヵ月くらい続くしな。話し合うべき点は多くある」
「それはそうだが……にしても本当に暑いな。ちょっと店員に聞いてみるか?」
周囲にいる店員や客が違和感を覚えるが、暑い季節という事もあって特に気に留めない。
そんな中、いつまで経っても料理を注文しない羂索に痺れを切らした店員が、特級呪霊の存在に気付かないまま注文を尋ねに近付く。
「お客様、ご注文はお決まりで──」
しかし、店員の言葉がそれ以上紡がれることはなかった。
周囲をうろつく人間の存在を鬱陶しく感じた漏瑚が、術式を使って店員を丸焼きにしたからだ。
そして、何の前触れもなく店員が炎に巻かれて焼け死んだことで、店内は一気にパニック状態になる。
「きゃああああああああーっ!!」
「な、何だ一体!?何が起こって……うぁあああああああっ!?」
「どうしたの、そんなに騒いで……いやぁああああああああっ!!」
「ァ……ガッ……カハッ……」
次から次へと店員や客が全身を炎に包まれ、訳も分からず焼かれる苦痛に悶えながら息絶える中、羂索はやっちゃったかと言わんばかりに呆れた顔を漏瑚に向ける。
「……はぁ、あまり騒ぎを起こさないでほしいな」
「これで良いだろう?」
「高い店にしなくて良かったよ」
そうこうしている内に最後の1人が焼け死んだ。
これは後始末が大変だねと呟きながら、炎と煙で充満した店内で平然と会話を続ける羂索。
「夏油、儂は宿儺の指何本分の強さだ?」
「甘く見積もって8,9本分ってとこかな?」
「十分!」
宿儺と比較した自身の実力を羂索に尋ね、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる漏瑚。そこには確かな自信と矜持が見え隠れしていた。
故に、漏瑚は宣言する。
「獄門疆を1つ儂にくれ!蒐集に加える。その代わり、五条悟と星野クリスは儂が殺す」
現代最強を殺すという、呪詛師達ですら到底考えないような夢物語を口にする。
それでも、雑多な術師ではどう足掻いても勝てない力を漏瑚は持っている。だからこそ、自分の実力なら最強と呼ばれる2人にも勝てる、そうでなくとも善戦はするだろうと考えていた。
「もう1つ質問だ。五条悟と星野クリス、先に殺すならお前はどちらを選ぶ?」
「そうだね、私としてはどちらとも正面から戦いたくは無いけど……強いて言うなら星野クリスかな?彼女の方がまだやりようはある。まだね」
「では、手始めに星野クリスを殺して、本戦前の肩慣らしといこう」
星野クリスを殺そうとあれこれ企て、更に邪悪な笑みを深める漏瑚。
だが、その自信と矜持がただの傲りと油断でしかなかった事を、後に彼は身を以って知ることになる。
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虎杖悠仁の訃報が流れて1週間以上が経った頃。
呪術高専の寮内にて。
『続いてのニュースです。先週、都内のファミレスで発生した大規模な火災ですが、ガス管の経年劣化により漏れ出たガスの引火が火災の原因と先程警察が発表しました。
この火災で店内にいた従業員と客、併せて18名の死亡が確認されており、未だに身元が判明していない遺体が殆どです。更に店内は全焼、監視カメラの映像も全て焼失しており、事故当時の状況について調査はまだ長引くそうです』
『これはかなり酷い火災事故ですよ。ここ近年で最悪と言っても過言ではない被害規模じゃないですか?』
『そうですね。今回ガス管の経年劣化が原因と判明したことで、お店を経営している本社にネットでは多くの非難の声が集中しており──』
昼のテレビでは、先週都内で発生した火災事故に関するニュースが映し出されている。
都内のとあるファミレス店で起こった未曽有の火災事故は、瞬く間に全国でニュースとなり、連日事故に関する情報が放映されている。
そのニュースを半分聞き流しながら、クリスはアイと話していた。
「いやー、火災事故かぁ。全員死亡、おまけに店は全焼ってヤバいね。しかも身元が判明したのは店員だけで、客は誰1人身元が判明してないんだって」
「ねー、怖いよね」
火には気を付けないとねー、などと2人で呑気に呟く。
その間、丁度昼食の時間なので上着を脱いで胸を出し、スピネルに授乳する。
「おーよしよし、お腹空いてたのかな?たくさん飲んで、早く大きくなってねー」
「ふふ、スピネルは今日も可愛いなぁ」
クリスもアイもスピネルをひたすらに甘やかす。
おっぱいを呑んでご満悦なスピネルの笑顔に、2人ともデレデレに照れており、すっかり子供に甘い親バカと化していた。
この光景を伏黒あたりが見れば確実に呆れるだろうが、クリス達には関係ない。全力で母親を遂行する。
と、こんな感じで今日も子育てに奮闘していたところ、突然クリスのスマホから着信音が鳴った。
「はいもしもし、久しぶりだねゆらちゃん」
『もしもしクリスちゃん、今話せる時間ある?』
「あるよ。それで今日はどうしたの?」
電話の相手は片寄ゆらだった。
今は映画『15年の嘘』の撮影中のはずなので忙しいはずだが、一体何の用で連絡してきたのだろうか。
そう思いながら用件を尋ねると、片寄は溌剌とした声で答えた。
「いやね、私今週末にハイキングに行く予定を立ててるんだけどさ?」
「ああ、そう言えばこの前言ってたね。最近山登りにハマってるって。それがどうしたの?」
「それでね、もし良かったらクリスちゃんも一緒にどうかなと思って。皆でハイキングに行こうなんて思っちゃったりさ』
何かと思えばハイキングへのお誘いだった。
最近、片寄は登山にハマっているらしく、自然に囲まれた景色や新鮮な空気を吸って気分転換するのが趣味との事。
その事をクリスは本人から既に聞いており、お互い忙しくない時に一緒に行けたらと良いねなんて会話をしたこともある。
「いやちょっと待って、ゆらちゃん今映画の撮影だよね?そっちの予定は大丈夫なの?」
片寄ゆらは今を時めく天下の大女優。不知火フリルと双璧を成す活躍ぶりで、忙しい毎日を送っているはずである。
しかし、そんなクリスの心配は杞憂に終わる。
『ああ、映画の方は大丈夫。私の出番って結構後でさ、撮影が始まるの8月過ぎてからなんだよね。それまでは番組の収録とかCMの撮影だけで、意外と時間はあるから問題ないよ』
「あ、そうなんだ。ふーん……」
クリスはネタバレを気にしているため知らないが、映画で片寄が演じる役は斎藤ミヤコである。彼女の登場はかなり後半なので、7月2週の現在は映画以外の仕事を熟している状況。
登山に行ける時間は十分にあるので、後はクリスの意思次第なのだ。
『それでどう?クリスちゃんも一緒に山登ろうよ』
「うーん……」
再度片寄に誘われ、クリスは逡巡する。
クリスの唯一の懸念点はスピネルである。友人の片寄と一緒に登山に行くのは悪くないが、その間誰がスピネルの面倒を見るのかが問題となる。
以前のように夜蛾校長に頼むのも1つの手だが、あまり迷惑を掛け過ぎるのも良くない。
それで頭を悩ませていると、生得領域内にいるアイがクリスに提案した。
『ねぇクリス、それならスピネルも一緒に連れて行けば良いんじゃない?』
『……ああ、確かにその手があったね。最近は赤ちゃんを連れて登山する人も増えてるんだっけ?』
『富士山とか、よっぽど高い山じゃなければスピネルでも大丈夫だと思う。何ならクリスの術式でスピネルを守りながら登ればいいし』
『じゃあ、決まりだね』
頭を悩ませる時間は一瞬で終わった。
アイの助言でスピネルも一緒に連れて行くことを決意したクリスは、片寄に了承の返事を送る。
「いいよ、僕も行く。でももう1人連れて行きたい子がいるんだけど、それでも良い?」
『クリスちゃんの友人かな?1人くらいなら全然良いよー。私もミキさんを誘おうと思ってたし』
「ミキさんも?ゆらちゃん、それはアリだ」
ここでスピネルの存在を明かしても良かったが、カミキヒカルも一緒に来るかもしれないと分かり、今は適当にはぐらかして伝えることにした。面白い反応が見れると思ったからだ。
こうして、週末は一緒にハイキングへ行くことが決まった。
「じゃあ当日はゆらちゃん家に集合ね」
『分かった、準備して待ってる。それと目的地までは私が車を運転するから、荷物多めに持って来ても大丈夫だよ』
「OK、それじゃまた週末」
通話を切り、スピネルの授乳を終えてクリスはふうと一息吐く。
「……とりあえず、必要なグッズを注文しよっと」
「登山に必要な物って何だろうねー」
登山するにあたって必要な物をネットで注文するクリスとアイ。
だが、友人と楽しく過ごすはずだったハイキングの時間が台無しになる事を、この時のクリス達はまだ知らない。
一方その頃、黒川あかねは自宅に引き籠もって独自に調査を進めていた。
「先週から連絡が途絶した映画撮影スタッフ4人……私のメイクを担当してたお姉さんも急に見なくなった……1人だけならまだしも、4人同時に連絡が付かなくなるのはおかしい。
……そう言えば、メイクのお姉さんが『仲の良い同僚とファミレスに行く』って言ってたっけ?そして連絡が途絶えたのはその翌日から……ファミレスで火災事故が起きた日と重なる」
部屋中に何枚もの写真を張り付け、メモ用紙にありったけの情報を書き込んで纏める。
突然連絡が付かなくなった関係者4人の行方を探るため、持ち前のプロファイリングで情報を集めて推察する。
「火災事故の原因はガス管の経年劣化……でもそれで全員が死亡するなんてことがあるのかな?いきなり爆発したならまだしも、ニュースを見る限りそんな形跡も無いみたいだし。
……ひょっとして原因はガス管ではない?もしかしたら呪い……呪霊が火災の原因なんて可能性も?東京は呪霊の発生数が桁違いらしいし、術師以外に呪霊は目に見えないから、あり得ない話ではない。今度クリスちゃんに会ったら聞いてみようか」
Q.漏瑚が起こした焼き討ち事件の真相は呪術界にバレてないの?
A.メロンパンが上手く誤魔化したおかげでバレてません。呪術的な証拠が何一つ残っていないので、今のところ普通に不運な事故として処理されてます。メロンパンならこのくらい徹底してる。(偏見)