呪術の子   作:メインクーン

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前回:
片寄「クリスちゃん、スピネルは一体誰の子!?というかいつの間に子持ちに!?」

カミキ「誰だ、僕の娘を孕ませた不届き者は……」

漏瑚「矜持が傷付いたか?」

クリス「いや、楽しくなってきた」



蹂躙

スピネルを連れて、片寄とカミキの2人と一緒にハイキングを楽しんでいたら、帰り際に特級呪霊の奇襲を受けたクリス。

 

遠くの木の影から片寄とカミキが固唾を飲んでクリスを見守る中、相対する漏瑚は嘲笑を浮かべた。

 

 

「楽しくなってきた……か。危機感の欠如だな」

 

「それ、自分のこと言ってる?そういうのブーメランって言うんだよ。知ってた?」

 

「ふん、今の内にほざいてろ小娘が」

 

 

先程のクリスの発言を馬鹿にすると、クリスが逆に煽り返してきた。それでも漏瑚は自分の実力に相当な自信があるのか、これに苛立ちもせず華麗に受け流す。

 

 

(わざわざ人の居ないところで襲うとは……いや、他の術師の加勢を防ぐためかな?こういう山の中なら援護は望めないし。にしても……)

 

 

漏瑚が急襲してきた理由や思惑を考察しながら、クリスは背後の方へチラリと視線を傾ける。

 

 

(スピネルは勿論、ゆらちゃんとパパまで巻き込んでしまったのは良くないな。いやまぁ、高千穂の時に比べたら結構楽だし、ぶっちゃけこいつ1人だけなら遊ぶ余裕すらあるけど……)

 

 

片寄達の無事を確認して、再び相手の方へ意識を向ける。

 

 

(帳を張ってすぐに僕を攻撃してきた。僕が標的なのは間違いないね。でも呪霊が僕に関する情報を初めから知ってるとは思えないから、こいつに情報を提供した呪詛師がいるね?それも相当手練の。そうじゃなければこのレベルの特級呪霊と関わろうとは思わない)

 

 

それでも、クリスから見た相手への評価は「まぁ大丈夫でしょ」というもの。実力は間違いなく特級に相応しいだろうが、それでも百鬼夜行時に戦った特級過呪怨霊の星野アイに比べたら何てことない相手。

 

このままノラリクラリと適当にあしらいながら、遊んで時間を潰すのも可能なくらいだ。

 

それをクリスは一目見て確信していた。なお、そのような考え事をしている内に、漏瑚は次の攻撃準備を済ませていた。

 

 

「火礫蟲!」

 

「うっわ、何だか物騒な虫だね。見た目気持ち悪いし、刺さったらヤバそー」

 

 

頭部にある火口のような穴から、先端に鋭い針を携えた不気味な虫を数十匹出すと、それら全てをクリスに向けて突進させる。

 

火礫蟲は羽根を羽ばたかせながら、銃弾並みの速度でクリスを貫かんと真っ直ぐ向かう。

 

それに対し、クリスはこちらを襲う虫に向けて片手を突き出すと、冷静に人差し指と中指を立てて照準を定めた。

 

 

「──『鋲』」

 

「なっ!?」

 

 

針状に切り取った不可視の空間を、超高速で飛ばして対象を貫く『望速・鋲』。

 

クリスに襲い掛かった火礫蟲は、クリスが寸分狂いなく放った『鋲』によって全て胴体を貫かれた。

 

瞬間、火礫蟲が爆発して巨大な火柱を立てる。

 

 

「ちっ、全て弾かれたか……まぁ良い。ここまでは想定の範囲内だ」

 

「その割には随分驚いてなかった?自信満々に『火礫蟲!』とか言ってカッコつけてたのにね。うわー、恥ずかしい」

 

「貴様っ……!調子に乗るのもいい加減にしろ。楽には死なせんからな」

 

 

漏瑚の発言に逐一煽って馬鹿にしていると、沸点が低いのか、漏瑚は苛立ちを隠さず語気を強めた発言をするようになった。

 

全身から迸る殺気が凄まじいプレッシャーとなってクリスを襲うが、殺気を向けられた本人は相変わらずのほほんとしている。

 

その態度が余計に漏瑚の苛立ちを募らせた。

 

 

「どこまでも馬鹿にしよって……良いだろう、ならばこれでどうだ!」

 

「……ん?」

 

 

クリスの視界から漏瑚が姿を消す。

 

それを見て「意外と速く動けるんだねこいつ」とクリスが感心していると、一瞬で背後に移動した漏瑚が殴りかかってきた。

 

右の拳に呪力と炎を纏い、超高温の打撃を振り向きざまのクリスの顔面に食らわせる。

 

案の定、クリスは吹き飛ばされた。

 

 

「まだまだぁ!たあっ!」

 

 

殴り飛ばされたクリスに一歩の踏み込みで追いつくと、追撃で強烈な蹴りを脇腹に入れ込む。

 

それによって、クリスを中心に地面が蜘蛛の巣状にひび割れ、大きなクレーターが出来上がる。

 

 

「ヒャアッ!!」

 

 

地面に叩き付けられたクリスに向けて、漏瑚は更に高出力の火炎をビームの様に放出する。

 

至近距離で放たれたそれは、強烈な衝撃波と膨大な熱による圧倒的な暴力を生み出し、着弾地点の地面を溶かして辺り一帯を溶岩の海に変えた。

 

それを遠目で見ていた片寄は思わず叫んだ。

 

 

「そんな……クリスちゃん!駄目っ!」

 

「なっ……!?こ、こんな事が……」

 

 

広場の地面は灼熱の溶岩地獄に代わり、辺り一帯を黒い煙が覆い尽くそうと広がる。その中心に向かって片寄は叫び、カミキは動揺して上手く喋れない。

 

そんな2人の存在には一切興味を示さず、漏瑚は今度こそクリスを殺したという勝利の余韻に浸っていた。

 

 

「……ふん、こんな程度か、現代最強とやらは。わざわざ蓋を開けてみれば弱者達による過大評価。今の人間はやはり紛い物、真実に生きておらん」

 

 

初撃の火炎に火礫蟲による刺突攻撃。

 

どちらも難なく凌がれたので最初こそ驚いたものの、少し本気で殺しにかかってみれば、呆気なく戦いが終わった。

 

 

「万事醜悪反吐が出る。本物の強さ真実は、死をもって広めるとしよう」

 

 

それでも散々煽り散らしたクリスに思う存分やり返せた漏瑚は、とても清々しい面持ちでくるりと戦場に背を向けた。そして、遠くで2人の戦いを見ていた片寄達の存在に気付き、くつくつと邪悪に嗤う。

 

 

「何だ、そこでずっと戦いを見ていたのか貴様ら。確か星野クリスの知人だったな?なぁに案ずるな、貴様らもすぐに奴の元へ送ってやろう」

 

「ひっ……!」

 

「ゆらさん、僕の後ろに下がって……!」

 

 

標的を変えてゆっくり歩み寄る漏瑚。

 

規格外の特級呪霊が発する濃い呪力と明確な殺意を向けられ、片寄は恐怖のあまり短い悲鳴を上げて震え出し、カミキは冷や汗を流しつつも片寄を庇うように前へ出る。それでも片寄を庇う彼の手は僅かに震えていた。

 

そんな絶対絶命の時だった。

 

 

「ちょっとちょっと、なーに僕を倒した気でいるの?勝手に殺さないでくれるかなー?」

 

「は……?」

 

 

背後から聞こえたその声に漏瑚は目を見開き、声のした方へすぐに振り返った。

 

するとそこには、またしても何事もなかったかのように佇むクリスの姿があった。

 

これには漏瑚も動揺を隠せない。

 

 

「……どういう事だ?」

 

「んー、簡単に言うと効いてない」

 

「馬鹿を言うな、儂は今確かにお前を殺した。手応えだってある」

 

「君がそう勘違いしてるだけだよ。確かに攻撃は当たったけど、当たっても無かった事になってるの」

 

「何だと?」

 

 

クリスが無傷でいる理由を聞くと、返ってきたのは「無かった事になっている」という曖昧な回答のみであまりピンと来ない。

 

そんな漏瑚を見かねたクリスが、右手を掲げて言った。

 

 

「よく分かってないみたいだから見せてあげる。この手に向けて適当に攻撃してみて。何でも良いよ。さっきの火礫蟲とかどうかな?」

 

「…………」

 

「ほらほら、どうしたの?早くしてー」

 

 

掲げた右手をヒラヒラと振りながら、今か今かと相手の攻撃を持つクリス。

 

呑気に構える彼女を見て、漏瑚は油断を誘っている可能性を考慮して警戒を高めるも、殺意や反撃の意思を感じ取れなかったので他意はないと判断した。

 

 

(まぁいい、ここは奴の言葉に乗って探るだけ探ろう。奴を殺す糸口が掴めるやもしれんしな……)

 

 

大人しくクリスの口車に乗って、言われた通り適当に攻撃を繰り出す。

 

火礫蟲を数匹召喚し、それをクリスの右手に向かって飛ばした。ついでにクリスの胴体、もっと言えば心臓にも攻撃するのを忘れない。

 

 

「お、来た来た……って、心臓(そこ)も狙うのね。抜かりないけど何だかなぁ……」

 

(右手と心臓は貫いた。後は蟲どもが爆発するだけだが、ここからどうなるのか……)

 

 

予定とは違う箇所にも攻撃されて少し呆れた様子のクリスと、そんな彼女を一瞬たりとも見逃すまいと凝視する漏瑚。

 

彼女に突き刺さった火礫蟲は、鼓膜が破れそうな程のけたたましい金切り声を上げると大爆発を起こした。

 

中心に立っていたクリスはその爆発をモロに食らい、巨大な火柱の渦に巻かれてしまう。

 

 

(さて、星野クリスはどうなって……なっ!?)

 

 

漏瑚は驚愕した。

 

火柱が立つ中心、そこにはクリスが無傷で立っていたからだ。まるで先程の刺突も爆発も無かったかのような余裕の笑みを浮かべて。

 

 

(まさか反転術式!?それも相当な練度の……いや違う!いくら奴が反転を使えたとしても、あの刺突と爆発を真正面から受けて1秒と経たずに完治するのは辻褄が合わん!

 思えば奴が着ている衣服もずっと綺麗なままだ。今頃とっくに燃え尽きて、裸体を晒してもおかしくないのにだ。これが奴の言っていた『無かった事になっている』か?)

 

 

クリスの身に起きた事象を解明しようと、漏瑚は必死に頭を回転させてあれこれ考察する。

 

そんな漏瑚へ助け舟を出すようにクリスが答えた。

 

 

「治してるとは違うんだよね。僕の術式で肉体の時間を巻き戻してるの。君から受けた攻撃も、僕の肉体が自動的に時間を巻き戻してダメージを無効化したってわけ。これで少しは分かったかな?」

 

「なっ!?時間を巻き戻す……じゃと!?」

 

 

時間を巻き戻す。

 

そんな予想外の回答に、漏瑚はあり得ないと叫びたい気持ちになった。それではいくら攻撃したところで、攻撃を受ける前の状態に肉体をリセットされて無駄になってしまう。

 

全ての攻撃を一笑に付す反則じみた力。死ななかった絡繰りをようやく理解した漏瑚に、クリスは更に続けて言う。

 

 

「でもこの力はあくまで術式反転で、順転は時間の加速。で、攻撃する時は基本的に順転の方をあれこれ拡張してやってるの。こんな風に……ねっ!」

 

「なっ……うぐはぁっ!?

 

 

術式の開示を終えたクリスが突如視界から消える。

 

その行動に漏瑚が驚愕する間もなく、気付いた頃にはクリスが腹に拳を叩き込んでいた。

 

瞬間、呪力が黒く光り、稲妻の様な閃光が迸る。

 

鋭く重い衝撃が全身を何度も駆け巡り、あまりにも大きなダメージに漏瑚は紫色の血を大量に吐き出した。

 

 

「もう1発行くからね!耐えてよ!」

 

「あがぁああああああっ!!」

 

 

倒れかけた漏瑚の腹にもう1発、今度は強烈な膝蹴りを入れた。またしても呪力が黒く輝き、2度目の黒閃が発生する。

 

 

(黒閃……だと!?それも2連続で!まさか意図的にこれを出しているのか!?マズい、何か術を……術を繰り出し反撃せねば……!)

 

 

特級術師が食らわせた2度の黒閃に耐え切れず腹に風穴が開く中、漏瑚は反撃の手口を必死に模索する。

 

そんな漏瑚の考えなどお構いなしに、クリスは徐に右手を向ける。

 

 

「時間を加速させる術式も、解釈を広げればこういう事だって出来るんだよ」

 

 

そう言いながら、クリスの右手に燦燦と紅く輝く光球が生み出される。

 

 

「術式順転──『望速・烈』」

 

「──ッ!?」

 

 

片寄達を巻き込まないように指向性を絞りつつ、限界まで圧縮された莫大なエネルギーを解き放つ。

 

漏瑚は腹を治しながら反撃に出ようと一歩踏み込んでいたので、回避する間もなくこの攻撃を真正面から受けた。

 

 

「うぐっ……がぁああああああっ!!

 

 

圧倒的な質量と熱を持ったエネルギーが森を丸ごと吹き飛ばしながら、回復途中の漏瑚の全身を容赦なく押し出す。

 

山の頂上付近で放たれたため、漏瑚はそのまま広場の森を突き抜けて空中に放り出された。クリスも人間離れした跳躍で空中に飛び出し後を追う。

 

 

「ァ……ガハッ……!」

 

 

全身はボロボロになり、息も絶え絶えで追い詰められている状況。それでも漏瑚は空中で身を捩りながら、火炎を放出して反撃しようと両手を突き出す。

 

 

「ぐっ……舐めるな小娘ガッ!?」

 

「声が小さくて聞こえないねぇ!」

 

 

だがその抵抗も虚しく、術を発動させる前にクリスが放った『鋲』によって両手を射落とされた。

 

その隙にクリスは漏瑚の足を掴み、空中でバッドの様に漏瑚を何度も振り回し始める。

 

 

「下へ参りまーす!そーれっ!」

 

「おわぁああああああああっ!?」

 

 

そして、地面に向かって漏瑚を投げ飛ばした。

 

数秒後、勢いよく地面に叩き付けられた漏瑚の絶叫が止み、大きなクレーターが落下地点に出来上がった。

 

 

「まっ、こんなもんかな?後はこのまま祓っても良いんだけど、どうにも協力者がいるっぽいし、念のため情報を聞き出してからにしよっと。あっ、一応五条先生に連絡しとこ」

 

 

地面の上で大の字に転がる漏瑚を見ながら、今すぐ祓うか黒幕の情報を得るか逡巡し、後々の事を考慮して後者を選んだクリス。

 

そうと決まれば五条に情報を共有すべく、ポケットからスマホを取り出した。

 

その一方で、濛々と砂埃が舞い上がるクレーターの中心で、漏瑚は走馬灯のように羂索との会話を思い出していた。

 

 

『星野クリスを殺す、か。まぁ好きにやれば良いとは思うけど……死ぬよ、漏瑚』

 

 

都内のファミレス店で話し合った時、羂索が最後の警告と言わんばかりに放った言葉。

 

言われた当初は大袈裟すぎると一蹴していたが、今になってその言葉の意味を漏瑚は理解した。

 

 

(……眉唾ではなかったか。だが、それでも奴を殺す方法はある。時を巻き戻す間もなく、全身を一撃でバラバラに消し飛ばせば良い。となると、やはり領域展開だな……)

 

 

それでも領域に引きずり込んでしまえば勝機はあると、絶望的な戦況でも前向きに考え、肉体を治しながらゆっくり立ち上がる。

 

そして、領域をいつでも展開できるように呪力を漲らせていると、そこへ丁度クリスがやって来た。

 

 

「お待たせ―。さ、続きを始めよっか」

 

「どこ!?ねぇここどこ!?」

 

 

ただし、1人の青年を引き連れて。

 

 

「そいつは……!?」

 

「僕の後輩の虎杖悠仁君。課外授業ってことで連れて来たの。要は見学」

 

「富士山!頭富士山!!」

 

 

公には死亡しているはずの虎杖悠仁が、特級同士の戦いの場に突如姿を現した。

 

 

 




カ、カミキがしれっと人を庇ってるー!?珍しいこともあるもんやな。


Q.スピネル達いるのにクリス意外と冷静じゃね?むしろ余裕こいてない?何で?

A.高千穂の時の三つ巴に比べたら100倍楽だと思ってるから。あの時は万、夏油、ミゲル、夏油が持つ特級呪霊達で今より魔境だったし。
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