呪術の子   作:メインクーン

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前回:
漏瑚「星野クリスの実力……眉唾ではなかったか」

クリス「見学の虎杖悠仁君を連れて来ました」

虎杖「クリス先輩ここどこ!?」



領域展開 ②

それは、上空から漏瑚を投げ飛ばして地面に叩き付けた後、五条に現状報告の電話をした時だった。

 

 

『へぇー、そっち今そんな事になってんの?あはは、面白いことになってるね!ウケるー』

 

「そう言わないでくださいよ。おかげで楽しかったハイキングが台無しになったんですから」

 

 

現状について軽い説明を済ませると、電話越しに五条の笑い声が聞こえてくる。

 

五条は対岸の火事ということもあって、野次馬根性丸出しの感想を言うが、クリスはそれにムッときて口を尖らせた。

 

そんなクリスの反応を華麗にスルーして、五条は何かを思い出したようにあっと声を上げる。

 

 

『ねぇクリス、どうせなら悠仁をそこに連れて見学させてくれない?』

 

「えっ、悠仁君を?」

 

『ほら、今悠仁に色々と教えてる最中じゃん?丁度良い機会だし領域展開でも教えてあげてよ。今度僕が教える予定だったけど、やっぱ実戦の中で見せた方が分かりやすいと思うし』

 

「なるほど、確かにそれもそうですね。百聞は一見に如かずとも言いますから」

 

『そういう事。というわけで頼んだよー!』

 

 

このようなやり取りがあり、クリスは瞬間移動で虎杖がいる地下室へと戻った。

 

なお、呪力のコントロールを鍛える修行で映画を鑑賞中だった彼は、突然背後から現れたクリスに驚いたものの、それによって彼の呪力が揺らぐ様子はなかった。

 

それを見たクリスは彼の成長速度に感心しつつも、課外授業と称して困惑する虎杖を強引に引き連れ、再び瞬間移動で漏瑚の前に現れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──時は戻り、クリスに無理やり戦場へ連れて来られた虎杖は、突然の事態に未だ困惑していた。

 

 

「先輩、俺10秒くらい前まで地下室にいたよね?どうなってんの?」

 

「ああ、瞬間移動したの。僕そういうのも出来るから」

 

「瞬間移動!?そんな漫画でしか見た事ない技まで使えんの!?先輩凄ぇ!」

 

「ふふーん、そうでしょ」

 

 

一瞬で遠方の地まで移動した絡繰りが瞬間移動によるものだと知らされ、虎杖は素直に驚愕して声を張り上げる。

 

可愛い後輩からの純粋な賛辞に悪い気はしなかった。

 

 

「…………」

 

 

一方で、突如現れた虎杖に漏瑚は一瞬驚愕するも、宿儺の器が生きていた事実をすぐに受け入れ、冷静に相手の狙いを探ろうとしていた。

 

 

(今後の計画のため虎杖は殺せん。まさか我々の目的に気付いて……?)

 

 

などと一瞬訝しむも、それは流石に無いかと考えを改めつつ、一応相手に悟られないように敢えて素知らぬふりをして対応する事に。

 

 

「何だそのガキは、盾か?」

 

「盾?違うよ、見学だって。さっき僕が言ったの聞いてなかった?ちょっと耳が遠いんじゃない?その辺の呪霊に介護頼みなよ」

 

「──ッ!!口を開く度に余計な一言を言わんと気が済まんのか貴様はっ!!」

 

「まぁそういう冗談は置いといて……」

 

「無視するなぁ!」

 

 

知らぬ存ぜぬを貫いた対応を心掛けようとしたら、またしてもクリスに煽られてしまい激昂する漏瑚。

 

特級呪霊特有の濃密で強烈なプレッシャーがビリビリと空気を震わすが、クリスは相手の憤りなどお構いなしに話を続ける。ちなみに虎杖は、漏瑚が発する殺気で既に腰が引けている。

 

 

「何はともあれ、君は気にせず戦ってよ。無理に手加減とかしなくて良いからさ」

 

「はっ、何を言うかと思えば!先程の攻撃でもう勝った気でいるのか?それで足手纏いを連れ来るなど──」

 

「いやいや、実際僕にボコボコにされてたじゃん。今更カッコつけようとしても遅いって。君弱いんだからさ、あんま無理しちゃ駄目だよおじいちゃん」

 

「…………」

 

 

ニヤリと馬鹿にしたような笑みと共に放たれたクリスの煽り言葉。それを耳にした漏瑚は完全に俯き押し黙ってしまった。

 

この戦いが始まって以降、何度も何度も言葉を交わす度にクリスに煽られ、馬鹿にされ、虚仮にされてきた。

 

そうして溜まりに溜まった鬱憤が、最後の「弱い」という発言でとうとう我慢の限界を迎える。

 

 

「舐めるなよ小娘がぁあああああっ!!そのニヤケ面ごと飲み込んでくれるわぁあああああっ!!」

 

 

遂に漏瑚の怒りが大爆発した。

 

頭部にある火口のような穴、耳の部分にある穴、穴という穴から凄まじい勢いで火炎が噴き出し、周囲の温度を爆発的に高めていく。

 

先程と比べて余りに桁違いな殺意とプレッシャー。今まで出会ったどの化け物よりも遥かに化け物な漏瑚の存在に、クリスの隣に立つ虎杖は無意識に身体の震えを起こしていた。

 

 

「大丈夫、僕が付いてる。絶対離れないでね」

 

 

今にも倒れそうな虎杖を安心させるように、クリスは彼の頭にポンと手を置いて身体の震えを落ち着かせる。

 

自分よりも一回り小柄な体格でニコニコしている先輩の背中が、この時ばかりはとても大きく頼りに見える虎杖であった。

 

そんな2人のやり取りなどお構いなしに、漏瑚は両手で掌印を結んで唱えた。

 

 

「──領域展開」

 

 

瞬間、3人を取り巻く周囲の景色が一変する。

 

一瞬真っ暗闇に覆われたかと思うと、突然地面や何もない空間にヒビが入り、そこから大量の岩石と溶岩が溢れ出てきた。

 

 

「蓋棺鉄囲山」

 

「なっ……何だよこれ!?」

 

 

そして、元いた森に囲まれた夜の景色から打って変わって、一面溶岩で囲まれた灼熱の地獄空間へと変わり果てた。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

まるで火山の内部の様な環境に、虎杖は訳が分からず酷く動揺する。

 

生まれて初めて体感する領域展開なので、そのような反応になるのも仕方がない。そう思ったクリスは、動揺する虎杖の頭を撫でつつ領域展開について簡単に説明した。

 

 

「──とまぁそういう訳で、領域展開は術者の最終奥義って感じなんだよね。環境要因によるステータスの大幅な上昇、術式による攻撃が全て必中必殺になる攻撃性能の高さ。確実に相手を殺すことに特化した技なの」

 

「ヤッベぇじゃん」

 

「そう、だからこそ習得難度も超高い。ちなみに高専関係者で領域展開を使えるのは、僕が知ってる中でも3,4人くらいかな?」

 

「めっちゃ少ねぇじゃん」

 

 

領域展開の概要と使用できる人数をざっくり伝えると、虎杖は領域展開の恐ろしさを何となく理解したのか、思ったことをそのまま口にした。

 

なお、現在漏瑚が展開している領域も並の術師なら引きずり込まれた時点で全身を焼かれ、即死するという恐ろしい性能をしている。

 

それでもクリス達が無事なのは、偏にクリスが術式を使って自身と虎杖の身を護っているからである。普通なら虎杖はこの時点で死んでいる。

 

 

「でも領域展開にだって対処法はあるよ。今僕がやってるように呪術で防御するか、領域内で攻撃されても強引に相手を叩くか。他にも領域外に逃げるって手があるけど、ほぼ不可能だからこれは考えなくて良いかもね」

 

「ふむふむ、なるほどそれで?」

 

「けどやっぱり1番有効な領域対策は、こっちも領域を展開することかな。相手の必中効果を打ち消せるし、相手より洗練された領域なら逆にこっちが押し合いに勝って有利になるからね」

 

「あー、確かに同じストレートでもメジャー選手と高校球児じゃ全然違うしな。そんな感じか」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

 

クリスの説明を自分なりに分かりやすく噛み砕いて理解する虎杖。彼はあまり難しいことを考えるのが得意ではないが、学習能力や理解力は非常に高い。

 

理解が早くて助かると思うクリスであった。

 

 

(ここに来たのは半分戯れ。殺せぬならそれで良いと思っていた。だが、突き付けられたこの彼我の差……呪霊としての、新たな人間としての矜恃が到底受け入れられん!!)

 

 

一方で漏瑚はというと、眼前で宿儺の器と呑気に話しているクリスを睨みながら、自身と相手との実力差に憤りを感じていた。

 

呪霊としての矜恃をこれでもかとへし折られ、完全に舐められている今の状況は、漏瑚の殺意を極限まで引き上げるのに十分だった。

 

故に、漏瑚は決心した。

 

 

「灰すら残さんぞ星野クリス!極ノ番──ッ!!」

 

 

確実に、今ここでこの生意気な小娘を殺そう。自分の持てる全てを出し切って、絶対に息の根を止めてやろう。

 

それ程の強い意志で、漏瑚は最大火力の必殺技をクリスに向けて放とうとした。

 

 

──だが、その奥義がクリスに向けて放たれることはなかった。

 

 

凝縮された時間の中、クリスは冷静に左手の人差し指と中指を交差させた掌印を結ぶと、静かに唱えた。

 

 

「──領域展開」

 

 

そして、術式が付与された彼女自身の精神世界──生得領域を現実世界に構築する。

 

 

「無常迅速」

 

 

次の瞬間、世界が塗り替わった。

 

火山の内部の様な溶岩に覆われた灼熱地獄から一転、何もない暗い空間が広がり続ける不気味な景色が目に映る。

 

360度どこを見渡しても固く無機質な地面が平坦に広がっているだけで、唯一中心にある巨大な時計塔だけがこの暗い空間内を明るく照らしている。

 

よく見ると、その時計塔にある長針と短針は凄まじいスピードで回転していた。

 

クリスの領域が漏瑚の領域に押し勝った瞬間である。

 

 

「なっ……そんな馬鹿な!?儂の領域が一瞬で押し負け────ぐぇあっ!?」

 

 

領域の練度であっさり押し負けた現実に愕然とする間もなく、クリスの領域の必中効果が漏瑚を容赦なく襲う。

 

その証拠に、踏み潰された蛙のような鳴き声と共に、漏瑚の全身が急激に萎み始めた。まるで割れて空気の抜けた風船の様に。

 

 

(う、ぐっ……な、んだ……これは……わ、儂の呪力がどんどん……抜けて……!?)

 

 

1秒経つごとに漏瑚の身体は水分が抜けたようにカラカラに干からび、末端部分から肉体が急激に朽ち果てていく。

 

 

「ァ……ガッ……カハッ……!」

 

 

そして、10秒経つ前に漏瑚の肉体は頭部を除いて完全に朽ち果ててしまい、身動きの取れない置物と化してしまった。

 

それを確認したクリスは即座に領域を解除し、漏瑚の頭を容赦なく踏み付ける。

 

 

「……せ、先輩、今一体何が起こったの?」

 

「んー、こいつが僕の領域の必中効果を食らってこうなったの」

 

「先輩の領域……ってどんな感じ?」

 

 

何が起こったのか全く分からなかった虎杖は、状況を理解しようとクリスに質問した。

 

その質問にクリスは正直に答える。

 

 

「今さっき見せた僕の領域は、時間が極限まで加速した世界の内側。外界での1秒が、領域内では100年に相当する。1秒経つごとに100年分の時間が過ぎていくんだ」

 

「えぇ、何それ……こわぁ……」

 

「皮肉だよね。永遠に近い寿命を持つ呪霊の最期が、老衰による衰弱死なんてさ。でも君には色々聞きたいことがあるから、程々にしておいてあげたよ。感謝してよね」

 

 

クリスの領域の性能を知って戦慄する虎杖を横目に、彼女は足元に転がる漏瑚の頭をボールの様にコロコロ転がして弄ぶ。

 

 

「さて、悠仁君に見せるもの見せたし、今から尋問タイムと行こうか。まずは君に情報を提供した協力者について教えてもらおうかな?」

 

(これが呪術師最強……俺よりずっと小柄でニコニコしてる先輩だけど、今なら分かる。生き物としての格の違いに)

 

 

漏瑚を踏み付けながら非情な眼差しで睨むクリスを見て、隣に立つ虎杖は改めて彼女が現代最強と呼ばれる所以を理解した。

 

特級呪霊ですら相手にならない圧倒的な力。この日の衝撃を虎杖はしっかりと脳裏に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、クリス達のやり取りを少し離れた山の頂上から静かに観察する集団がいた。

 

 

「……あーあ、言わんこっちゃない。だからあれほど警告したのに。で、どうする?助ける?私は高専関係者に顔を見られるわけにはいかないから、ここで帰らせてもらうけど」

 

「勿論助けますよ。私達こそ本物の人間ですから」

 

「なら君は助けに行くとして……そっちはどうするんだい、万?」

 

「私は興味ないからパス……と言いたいところだけど、あの女の思い通りに事が運ぶのは気に入らないわ。それに、宿儺にも挨拶しておきたいし」

 

「じゃあ、決まりだね」

 

 

 




クリスの領域展開、遂にお披露目。3度目の正直。


※領域展開『無常迅速』

生得領域内:夜が訪れた精神と時の部屋みたいな空間。果てしなく何も無い暗闇の空間が広がっている。中心にロンドンのビッグ・ベンの様な巨大な時計塔が立っており、時計の針が高速で回り続けている。

効果:極限まで時間が加速した世界がどこまでも広がり続けている領域。外界での1秒がこの領域内では100年に相当する。そのため、人間がこの領域に侵入すると1秒と経たずに老衰で即死する。
 なお、半永久的な寿命を持つ呪霊の場合、肉体維持に必要な呪力の消費速度が100年分速くなるので、特級呪霊でも10秒あれば何もせずとも呪力が全部尽きて結果的に老衰で死ぬ。
はっきり言ってクソゲー。理不尽の極み。モデルは『トリコ』に登場した鹿王スカイディアの能力。

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