呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「僕の領域、1秒で100年分の時間が過ぎていくんだ。人間なら即死、特級呪霊も10秒あれば老衰で死ぬよ」

虎杖「何それ怖い」

漏瑚「サッカーボールにされてしまった……」

メロンパン「言わんこっちゃない」

万「あの女気に食わないから邪魔しに行くわ」



再会の挨拶

堪忍袋の緒が切れた漏瑚が領域展開で対抗するも、クリスにあっさり領域勝負で押し負けて頭だけの状態となり、完膚なきまでに敗北した。

 

こうして相手に実力の差を分からせたクリスは、サッカーボールの様に漏瑚の頭を蹴り転がしながら尋問する。

 

 

「君、命令されて動くタイプじゃないよね?それでもたった1人で僕を殺しに来た。つまり君自身にとってもそれだけのメリットがある……まぁそこら辺は想像つくけど。どちらにせよ、相手は誰?」

 

「……い、言うものか!貴様にくれてやる情報など何も──うぐっ!?」

 

「この期に及んで意固地にならないでくれるかな。状況分かってる?質問は既に拷問に変わってるんだよ」

 

「せ、先輩容赦ねぇ……」

 

 

意固地になって頑なに情報を明かさない漏瑚に対し、クリスは更に足に力を込めて漏瑚を踏み付ける。

 

そんな情け容赦ないクリスの姿に、虎杖は若干引いた表情で2人のやり取りを見ていた。

 

 

「早く言っちゃいなよ、祓うよ?手元狂ってうっかり()っちゃうかもしれないよ?どのみち祓うけど」

 

「というか、呪霊って会話できんだね。普通すぎてスルーしてたわ」

 

 

気怠そうに漏瑚から情報を聞き出そうとするクリスに、呪霊と会話が成立していることに今更気付いた虎杖。

 

と、ゆったりした時間が流れているその時だった。

 

 

「「──ッ!?」」

 

 

突如、クリスと虎杖の目の前に、空から尖った木の幹が降って地面に突き刺さった。

 

ドスッと鈍い音を立てて突き刺さったそれは、一瞬で周囲の地面に美しい花畑を作り上げる。その花から匂う花の香りはどこか安心感を覚え、徐々に戦意を削がれてしまう。

 

虎杖と一緒にクリスも「綺麗なお花だねー」「ほっこりするー」などと呑気な感想を述べるが、すぐに頬を叩いて正気に戻った。

 

 

(呪術だよね、これ……?戦意が削がれるなぁ)

 

 

この時クリスが見せた一瞬の隙。ほんの1秒にも満たない僅かな時間を、仕掛けた相手は見逃さない。

 

 

「えっ……うおっ!?」

 

「悠仁君!?」

 

 

虎杖は突然背後から生えてきた植物のツタに気付かず、足を拘束されて宙に吊り上げられた。

 

それにクリスが気を取られて目を逸らした隙に、これらを仕掛けた呪霊の花御は、漏瑚の頭を抱えてその場から全力で離れる。

 

 

「先輩、俺は大丈夫!そいつ追って……ごめんやっぱ嘘!ヘルプ!」

 

 

宙ぶらりんになっただけなら問題ないと思う虎杖だったが、その先で攻撃しようと待ち構える植物型のモンスターを見て、青褪めた顔で助けを求めた。

 

しかし、その間に花御は生い茂る森の中へ隠れようとしている。これを逃せば追跡は不可能。

 

どちらかを選択するか。凝縮された時間の中でクリスが選択したのは両方だった。

 

 

「……面白いことしてくれるじゃん。悠仁君をダシにして、その隙に逃げ切るつもりかな?けど残念、させないよ」

 

 

既に術式は回復している。何故なら物理的に脳を破壊した後に反転術式で治すことで、術式の回復にかかる時間を大幅に短縮したから。

 

更に術式反転で肉体の時を巻き戻すことで、反転術式だけでは修復しきれなかった脳の後遺症まで完全に無かったことにする。

 

こうして準備を整えたクリスは、背を向けて逃げる花御、虎杖を拘束しているツタ、待ち構える植物型モンスター、それぞれに狙いを定めて術式を発動する。

 

 

「──『鋲』」

 

「うぐっ……!?」

 

 

3方向に向けて放たれた不可視の刺突攻撃。ツタとモンスターは一瞬で蜂の巣にされ、呪霊と同様に塵芥となって消えた。

 

そして、花御は森の中に隠れる後一歩のところでクリスが放った『鋲』に背中と両足を貫かれ、漏瑚を抱えたままその場に倒れ伏した。

 

術式はまだ使えないと踏んで助けに入っただけに、その衝撃は大きい。

 

 

(馬鹿な、あり得ない!彼女は領域を解除したばかり……術式は焼き切れて使えないはずでは!?)

 

「術式は使えないはずなのにどうしてって思ってるよね?」

 

「──ッ!?」

 

「残念でした、術式は既に回復してるよ。タネは明かさないけど」

 

 

地面に這い蹲る花御の背後から、クリスがゆっくりと歩み寄りながら鋭く睨み付ける。

 

そのプレッシャーを感じた花御は不味いと思って逃げる手立てを考えるも、中々良い方法が思い浮かばない。

 

 

「まさかもう1人伏兵が潜んでいたとは。仲間を助けるためにやって来たみたいけど、呪霊同士って案外情が深いんだね。初めて知ったよ」

 

「くっ……!」

 

「そんな警戒しなくても良いじゃん。ちょーっと君にもお話を聞かせてもらうだけだからさ」

 

 

じわじわと距離を詰めてくるクリスに、花御は尻もちをついた体勢になってクリスを睨み返す。

 

 

「……先輩のセリフが完全にラスボスのアレで怖いんだけど」

 

 

間一髪で助かった虎杖が更にドン引きした目でクリスを見やるが、本人は一切気にしない。

 

 

(不味い、このままでは祓われてしまう。かといって漏瑚を見捨てることなど……!)

 

 

まさに絶体絶命。逃げも隠れもできない状況で、せめて漏瑚だけでも何とか逃がそうと考えた花御は、自身の術式を発動させようとした。

 

と、その時だった。

 

 

「させないわよっ!」

 

「──ッ!?」

 

 

突如、上空から女性の声が聞こえたかと思うと、大量の槍が雨の様に降ってきた。

 

それに気付いたクリスが咄嗟に虎杖を引っ張って後ろに飛ぶと、先程立っていた場所に槍の雨が容赦なく降り注ぐ。

 

 

「い、一体何が起こって……はっ?」

 

 

やがて雨が降った場所には大きく深い穴が出来上がっており、穴を覗き込んだ虎杖はその威力を想像して顔を青褪める。

 

 

「この攻撃、そしてさっきの声……まさか今のは!?」

 

 

先程の声と攻撃に見覚えがあるクリスは、驚愕に目を見開きながら空を見上げた。

 

するとそこにいたのは、背中から虫の様な羽を生やして滞空する1人の女性。

 

 

「久しぶりね、星野クリス。2年ぶりかしら」

 

「やっぱりお前だったか、万。高千穂で戦って以来だね」

 

 

高千穂で死闘を繰り広げた万が、薄ら笑いを浮かべながらクリスを見下ろしていた。

 

実に2年ぶりとなる再会だった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

漏瑚の救出に来た特級呪霊の花御。

 

彼女もまた呪霊としての高みに存在し、並大抵の術師を蹂躙できる実力を持っている。

 

だが、クリス達の前に現れた呪詛師の万はそれ以上の化け物である。漏瑚の殺気で怖気づいていた虎杖は、万を見た瞬間に死んだ自分の姿を幻視した。

 

 

(な、何だこの女!?体の震えが止まらねぇ……後ろにいる2人もとんでもない化け物なのに、あいつらが比較にならないレベルの化け物だ……!)

 

 

冷や汗が止まらず、呼吸も乱れる。どれだけ冷静さを保とうと意識しても、身体が本能的に恐怖を感じて逃げろと警告を出している。

 

だが、足が思うように動かない。先程の万の攻撃も相まって、虎杖は今までにない恐怖を体感した。

 

一方でクリスも、相手が万ということもあって気を引き締め、警戒を高める。

 

 

「久しぶりだね万。まさかとは思うけど、そこの火山頭に情報を提供した呪詛師ってお前かな?」

 

「さぁ、どうだか?私かもしれないし、そうじゃないかもしれないわよ?というか、今そんなのどうでも良くない?」

 

「そうだね、確かにどうでも良いね。今ここでお前達全員殺せばそれで済む話だ」

 

 

2年前の高千穂での戦いでは、ハイになったクリスが一方的に万を叩きのめして圧勝したが、惜しくも仕留め損ねて取り逃がしてしまった。

 

だから今度こそ確実に息の根を止めるという強い意志で、クリスは攻撃態勢に移行する。

 

だが、その行動に万が待ったを掛けた。

 

 

「まぁ落ち着きなさい。その前に挨拶させて頂戴」

 

「挨拶?誰に?」

 

「そりゃあ勿論、宿儺によ……ねぇ、そこで聞いてるんでしょ宿儺!黙ってないで出てきたらどう?あなたの正妻がここにいるわよ!」

 

 

怪訝な顔を浮かべるクリスを横目に、万は虎杖に、正確には中にいる宿儺に対して満面の笑みを浮かべ、熱烈なラブコールを挨拶代わりに送る。ついでにウインクも送る。

 

その想いが届いたのかどうか定かではないが、数秒経って虎杖の頬から口が出現する。

 

 

「……おい小僧、今すぐ俺と変われ」

 

「はっ、何だよいきなり?駄目に決まってるだろ、お前は信用できんからな」

 

「別に何かするつもりはない。そこの女と少し話をするだけだ。いいからさっさと変われ」

 

「駄目つったら駄目だ。お前は邪悪だ、何をするか分かったもんじゃない。それにお前のせいで1度死んだからな」

 

 

どうやら1000年ぶりに再会した知人ということもあり、少しだけ万と会話する気になってくれたようだ。

 

とはいえ、宿儺が原因で1度死亡した虎杖が、その要求を素直に飲むかどうかは別である。

 

 

「なら変わってる間は誰も傷付けんし殺さん縛りを結ぼう。変わる時間も1分丁度だ。それなら良いだろ」

 

「いいや、絶対に駄目だ。信用できねぇ」

 

「……はぁー、うっざ」

 

 

宿儺的にかなり譲歩した条件の縛りを持ち掛けても、虎杖は頑なに変わることを拒否する。

 

その頑固ぶりに宿儺は呆れて溜め息を吐いたが、そこへ助け舟が入る。

 

 

「……悠仁君、宿儺と変わってあげて」

 

「えっ、何言ってんすかクリス先輩!?こいつは絶対に何かしてくるに決まってる!危ないって!」

 

 

クリスからの助け舟に虎杖は驚愕した。まさか味方からも変わることを要求されるとは思わなかっただけに、その衝撃は大きい。

 

流石に反論する虎杖だったが、クリスは自信に満ちた頼れる表情で虎杖を見る。

 

 

「大丈夫。縛りがある以上、宿儺も下手なことは出来ないから。それに何かあっても僕なら対処できるしね。だから安心して宿儺と変わってあげて」

 

「でも……」

 

「大丈夫、僕最強だから」

 

「…………1分だけだ。良いな宿儺?」

 

「分かったからさっさとしろ」

 

 

クリスの説得により、渋々宿儺に肉体の主導権を譲ることにした虎杖。

 

縛りを結んで虎杖の意識が沈むと、代わりに宿儺が表に出てきた。その証拠に、顔には独特の紋様が浮かび上がり、表情も柔和なものから威圧感を放つ険しいものへと変化する。

 

その変貌ぶりと圧倒的なプレッシャーに、様子を見ていた漏瑚と花御が思わず息を呑む中、宿儺はふっと不敵な笑みを浮かべて万と対面する。

 

 

「久しぶりだな万、かれこれ1000年ぶりか。まさかお前もこの時代に復活していたとはな。正直驚いたぞ」

 

「そっちこそ久しぶりね宿儺。あなたと再会できる日をどれだけ待ち望んでいたか……再会を祝して私と婚姻の契りでも結ぶ?」

 

「そういう笑えん冗談は止めろ。1000年経ってもお前は相変わらずだな」

 

 

不敵な笑みで再会の挨拶を交わす両者だったが、万の余計な一言で宿儺は途端に顔を顰めた。

 

それでも何だかんだ親し気に話す2人の様子に、クリスは気になって尋ねた。

 

 

「ねぇ、やっぱ宿儺と万って昔からの知り合いだったの?話の内容からして2人とも平安の術師だったっぽいけど」

 

「まぁ知り合いと言えば知り合いだな。毎日こいつに付き纏われてたから、鬱陶しすぎてその度に追い払っていたが」

 

「でも機嫌が良い日は一緒にご飯食べたりして親睦を深めたわよねー。そしてそんな日々を繰り返す内に私達の距離は縮まって、遂には結婚の約束を誓い合った……」

 

「誓い合ってないし、終始お前からの一方通行だっだろ。存在しない思い出を語って、有りもしない事実を捏造するんじゃない」

 

「……何か、宿儺も色々と大変だったんだね。その気持ち、僕には凄くよく分かるよ」

 

 

悲報、呪いの王がまさかのストーカーの被害者だった件について。

 

クリスもアイの隠し子バレ以降、厄介ファンや週刊誌の記者に日々ストーカーされる生活を送るようになったので、こればかりは宿儺にシンパシーを感じた。

 

嫌なシンパシーである。

 

 

「ふふ、まぁ良いわ。恋愛というのは一筋縄ではいかないものだから。でもね宿儺、これだけは覚えて頂戴。あなたに愛を教えるのはこの私だって事を」

 

「いや、反応に困るんだが……」

 

「今はまだ茨の道だけど、いつか必ずあなたを振り向かせてみせるから。そしてあなたと結婚して、必ず正妻の座に就いてみせる。だからそれまで待っててね♪」

 

「やっぱ小僧と変わらなければ良かったかもしれん」

 

 

まだ1分経っていないにもかかわらず、虎杖と変わったことを若干後悔し始めている宿儺。傷付けない縛りを結んでいる以上、鬱陶しいので斬り伏せるということも出来ない。

 

だが、そんな鬱陶しい万に対して何か良い意趣返しを思い付いたのか、宿儺はあっと声を上げると同時にニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「クク、ケヒヒッ……おい万、残念だがお前の愛には応えられそうにない」

 

「……どういう事かしら?」

 

「こういう事だ」

 

「えっ……?」

 

 

そして、いきなり隣に立つクリスの肩を抱いて万に見せつける。

 

その行動に空気が凍った。万もクリスも目を点にして宿儺を見る。

 

 

「……はっ?」

 

「悪いな万、どうやらお前は俺に夢中のようだが、生憎と俺の興味は今こいつに向いていてな。というわけで、心苦しいが潔く諦めて別の相手を探してくれ」

 

「えっ、急にどうしたの宿儺?ちょっと何言ってるか分かんないんだけど……?」

 

 

別に宿儺は何も間違ったことは言っていない。クリスに興味があるのは事実で、日々彼女の実力や術式について考察を深めているからだ。

 

だが、それは決して恋愛的な意味ではなく、いずれ来る戦いに備えてクリスという最上級の御馳走を美味しく頂くための下拵えに過ぎない。

 

とはいえ、この状況で先程の意味深な発言を万がどのように受け取るだろうか。宿儺はそれを分かった上でわざと言った。

 

当然、万は激昂した。ただしクリスに対して。

 

 

ざっけんじゃないわよこの女狐が!!以前私の顔に傷を付けた上に、今度は私の宿儺まで誑かして奪おうって言うの!?」

 

「えぇ、そこで僕に怒りをぶつけられても困るんだけど……というか宿儺、今の絶対わざとだよね?」

 

「ん?何の話だクリス?」

 

「し、下の名前で呼んだ!?しかも何よ、その色気たっぷりな声は!?ねぇ宿儺、目を覚ましなさい!そんなぽっと出の女と1000年前から親睦を深めてきた私、どっちが良い女かなんて自明でしょ!?」

 

「さぁな?少なくともしつこく付き纏ってくる女よりはマシかもしれんぞ」

 

「いやぁああああああああああーっ!?」

 

「……よし、これで少しすっきりしたな」

 

「いや、だからって僕を巻き込まないでよ……」

 

 

満月の夜、光り輝く星々が見える山の麓で、1人の女性の大絶叫が辺り一帯に木霊した。

 

 

「……なぁ花御、儂らはどうしたら良いんじゃ?」

 

「この隙に逃げましょう。星野クリスの意識があちらに向いている今の内に」

 

 

なお、3人のやり取りを黙って見ていた漏瑚と花御は、この混乱を利用してそっと森の中に隠れ、見事クリスの追跡から逃れることに成功した。

 

 

 




強者に対しては茶目っ気たっぷりの宿儺概念、あると思います。原作でも強者に対しては割とフランクだったし。

なお、万は目の前が真っ暗になった!
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