呪術の子 作:メインクーン
虎杖「だから俺はスピネルの義兄だっての!」
片寄&カミキ「嘘つけ、父親としての責任取れ」
五条「今度デートに行こうよ」
クリス「良いですね、ご一緒させてください」
──翌日の朝。
「それじゃあ2人の送迎をお願いします、伊地知さん」
「ええ、分かりました。片寄さん、カミキさん、こちらへどうぞお乗りください。ご自宅までお送りいたします」
「「ありがとうございます、伊地知さん」」
「いえ、これも仕事の内なのでお気になさらず」
高専の空き部屋で一泊した片寄とカミキは、五条の呼び出しで来た伊地知の車に乗り、自宅まで送迎されていった。
次第に遠くなっていく車の影を眺めながら、虎杖は疲れ切った顔ではぁ……と深い溜め息を吐く。
「あー、やっと帰ってくれた……疲れたぁ」
「お疲れ様悠仁君、昨日は大変だったね」
スピネルの実の父親疑惑を掛けられ、誤解した片寄とカミキの説得に長時間苦労した虎杖を、クリスが心の籠っていない労いの言葉で慰める。
「悪ノリしまくった先輩に言われたくねー。誤解は何とか解けたけど、結局育てるなら責任持てよって言われるし。別に言われなくても分かってるけどさぁ……」
「まぁまぁ、それだけ育児っていうのは責任重大なんだよ」
昨日は結局、クリス自らの説明で虎杖に対する誤解はなくなった。とはいえ、術式を駆使して赤の他人の子に授乳する彼女のイカれ具合に、片寄とカミキは別の意味で驚愕していたが。
「にしても先輩、昨日カミキさんと2人で何話してたの?」
「んー、何の事かな?」
「いやさ、昨日寝る前にカミキさん連れて外出てたでしょ?少し気になって覗いてみたら色々話し込んでたから、何話してるんだろうって思って」
「おやおや、まさか悠仁君に覗きの趣味があったとは。人の会話をおいそれと盗み聞きしようとするのは感心しないね」
「えっ!?いや別にそういう趣味はないって!止めてくれよ先輩、もう誤解されるのは勘弁だから!」
クリスにあらぬレッテルを貼られ、虎杖は途端に慌てながら弁明し始めた。
そうしてお茶を濁すことに成功したクリスは、虎杖の弁明を聞き流しながら昨晩カミキと2人で話した内容を振り返る。
『──ねぇ、パパって本当は呪術の存在を既に知ってたでしょ?』
『……何の事ですか、クリスさん?』
『誤魔化さなくて良いよ、分かるから。だって嘘吐いてる時の僕と同じだったもん。人を騙すのが得意な目って言うのかな?とにかく、呪術の説明を聞いてる時のパパはそんな目をしてた』
就寝前、クリスは外へ呼び出したカミキにそう言ってじっと顔を覗き込んだ。
ドス黒い星を宿した綺麗な両目。クリスもカミキも、そんな瞳をお互いに見つめ合いながらしばらく動かない。
先に静寂を破ったのはカミキだった。
『……ふふっ、やはり君にはバレますか。アイの時と同じだ。彼女も僕の嘘をすぐに見抜いていた。当時誰にもバレなかった偽りの僕をね』
『…………』
『えぇ、その通りですよ。君の言う通り、呪術の存在自体は僕も結構前から知っていました。とはいえクリスさんが呪術師で、ゆらさんも呪術の事を知っていたと知ったのは今日が初めてですが』
誤魔化そうとしていた態度から一変、カミキは目をかっと見開きながらクリスとの距離を詰め、淡々と語り出す。
『2年前、芸能界のとある伝手から紹介を受けて会った事があります。金さえ払えば不可思議な力で依頼を必ず達成してくれる……そんなオカルトチックな存在の人にね』
『ふーん……それで?』
『受ける依頼の内容は様々だが、その殆どが公には言えないもの……所謂裏の仕事だと聞きました。要人の暗殺だったり違法取引の仲介だったり、まぁ色々です。先程君から聞いた説明通りなら、その人は呪詛師と呼ばれる存在だったのでしょう』
『ちなみに、その呪詛師の名前は?そもそも名乗ってた?』
『夏油傑……確かあの人はそう名乗ってました』
『──ッ!?』
カミキの口からその名が出た瞬間、クリスは驚愕し目を見開いた。
だがそれも一瞬のことで、すぐに冷静になって話の続きに耳を傾ける。
『それから彼と少しお話をしてすぐに理解しました。この世には人智を超えた不思議な力があって、彼はそれを自分の意思で自在に操れる特別な人なのだと』
『何でそう思ったの?』
『勘です。ですが、彼の周りに漂う目に見えない圧を確かに感じました。そして間違いなく、あれはオカルト話の一言で片付けて良いものではない』
それが呪術という目に見えない力の存在を認識したきっかけだと、カミキはそう締め括ってクリスの方を見た。
『それで、僕をどうしますか?確か呪詛師は相当重い処罰が下されると言ってましたね。彼がどの程度の呪詛師かは知りませんが、関わった僕にも何らかの処罰が下るのでは?』
『いや、そうでもないよ。さっき五条先生が言ってた通り、パパは呪術を扱えない非術師だからね。処罰の対象はあくまで呪詛師本人であって、非術師はそこまで咎められないんだよ』
『そうなんですか?意外ですね、最低でも禁固刑は覚悟してましたが』
『まぁ、こっちも色々と事情があるからね』
そう言いながら、クリスは今から13年前にあった星漿体の天内理子護衛任務での出来事を思い返した。
当時最強のイケイケコンビだった五条と夏油の力及ばず、天内理子は呪詛師の手によって暗殺されてしまった。その呪詛師に暗殺の依頼を出した盤星教『時の器の会』は非術師のみで構成された、天元を崇め奉る宗教団体。
頭を撃ち抜かれて冷たくなった天内に対し、教徒全員で称賛の拍手を送るという、この世の醜悪を見せ付けた腐れ外道の集まりだったが、それでも彼らに重い処罰が下ることはなく、精々が組織の解体程度だった。
盤星教でさえその程度だったのだ。いくら夏油傑と会って話した事があるとはいえ、その程度でカミキがどうこうされる事はない。そもそも夏油は既に亡くなっているため、そのようなカミングアウトをされても今更な話である。
それでもクリスは個人的にどうしても確かめたいことがあった。
『でも1つだけ聞かせて。パパは夏油さんに何か依頼した?他人には言えない、後ろめたい内容の依頼を』
『してませんよ。あの時はただ話をしてそのまま帰りましたから。あの人と下手に関わると命の保証は無い気がしたので、その直感に従って行動しました。まぁ仮に裏の仕事を本当に依頼したとして、その質問に素直に答える人は居ないと思いますが』
『ううん、そんな事ないよ。正直に答えてくれてありがとう』
カミキの目を見て話を聞いたが、彼の目や言葉に嘘偽りは一切見受けられなかった。中にいるアイも『今のヒカルの言葉に嘘は無かったよ』と太鼓判を押している。
『でも今後は自ら呪詛師と関わりに行こうとしないでよ。たまたま話の通じる相手だったから良かったけど、人によっては問答無用で殺されてもおかしくないし』
『えぇ、そうですね。肝に銘じておきます』
こうして2人だけの秘密の会話は、クリスからの警告で幕を閉じた。
「まさか夏油さんと会っていたとはね……」
「ん?クリス先輩今何か言った?」
「いや、何でも?悠仁君の覗き趣味を五条先生にも知らせようって思っただけ」
「だからごめんって先輩!盗み聞きしようとしたのは謝るから、それだけはマジで止めて!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
それから1週間が過ぎたある日。
この日、クリスは任務を五条と一緒に任務をサボって街中を練り歩いていた。そう、宿儺に対抗心を燃やした五条と約束したデートである。
スピネルの面倒を今日だけ映画鑑賞中の虎杖に任せ、楽しくお喋りしながら仲良く並んで歩く。
とはいえ、2人で出掛ける事自体は初めてではない上に、この2人のやる事といえば大抵の場合……、
「いやー、美味しいですねこのパフェ!」
「でしょー?僕が最近見つけたイチオシの苺パフェなんだ」
決まってスイーツ巡りである。
元々甘党で甘い物をよく食べる五条に、彼の食の好みにすっかり馴染んだクリスなので、気になるスイーツを求めて街中を回るのが定着しているのだ。
2人とも常日頃から術式を発動したままでの生活を送っているので、効率的なエネルギー補給という観点から見ても合理的な選択である。
そんな2人は今、都内にオープンしたばかりのスイーツ店で苺パフェをシェアして食べていた。
「それにしても、複数の特級呪霊が平安時代の呪詛師と手を組んで行動するなんて初めてだよ。やれやれ、一体何を企んでいるのやら」
「2年前に戦った万ですけど、あいつ高千穂で戦った時よりも随分強くなってました。2年前の僕なら、状況次第では負けていたかもしれません」
2年前の万と今の彼女を比較して、クリスは結構真面目な顔でそう言った。
それを聞いた五条が「へぇ……」と少し意外そうに呟き、じっとクリスの瞳を見つめる。サングラスの隙間から僅かに見える透き通るような蒼い瞳が、キラリと光を反射して美しく輝く。
「クリスにそこまで言わしめるなんて相当だね。他の皆にも警戒を促さないといけないし、協力してる呪詛師や呪霊がその3人だけとは限らない」
「ですね。彼女の性格を考えると、とても謀略策略が得意だとは思えませんし。ほぼ確実に裏にブレーンがいると僕は踏んでます。可能性としては、万や宿儺と同じ平安時代の術師とか」
可能性としてあり得ないラインではない。そもそも平安時代は呪術全盛の時代。凶悪な呪霊や呪詛師がそこら中を跋扈していた混沌の時代だった。
そんな弱肉強食の世界で宿儺や万は生き抜いてきた。しかも宿儺と万は知人で、一緒にご飯を食べる程の仲との事。つまり万は当時から呪詛師側。
平安を代表する凶悪な呪詛師が、果たして現代の呪詛師の指示に大人しく従うだろうか。そう考えると、やはり平安時代の呪詛師がもう何人か復活していても不思議ではないだろう。
「平安か……それについても疑問が多いんだよね。そもそもどうして平安時代の術師達が今になって復活し始めたのか。呪術全盛の時代を今の日本で再現するつもりだったりしてね」
「止めてくださいよ縁起でもない。そんな事になったら日本は終わりですよ。まぁ、仮にそうだとしても僕達がさせませんけどね」
「だね。だって僕達最強だし」
彼らの目的が何かは分からないが、たとえ何を企んでいたとしても思い通りにはさせない。
お互いが自他共に認める最強だからこそ、どんな奴が相手でも関係なくぶっ飛ばせばいいと考えていた。
実際、五条悟と星野クリスの現代最強コンビに喧嘩を売るのは自殺行為に等しいので、彼らを嵌めたり追い詰めたりする行為は絶対に避けなければならない。
もしこの2人が呪詛師になったら、その瞬間に日本どころか世界の終わりが確定する。今の日本の平和があるのは、2人の善性と気まぐれのお陰と言っても過言ではないのだ。
だからこそ……、
「さ、暗い話はここまでにして、そろそろ次の店に行こうか」
「ご馳走様でしたー。じゃあ次は僕のオススメ紹介しますね。この大通りを右に曲がって裏路地を進んだ先にある喫茶店なんですけど、そこのフルーツロールケーキがマジで美味しくて!」
「ロールケーキかぁ……思えば当分食べてないな。最近は手軽に糖分摂取できる饅頭ばかり食べてたから」
「だったら尚更食べに行かないと。こういう時に饅頭以外の物を食べた方がお得ですよ、お得!」
「よーし、それじゃあ案内よろしくー!」
「はーい!一緒に行きましょう、五条先生」
案内を任されたクリスは笑顔で返事をすると、上機嫌で五条の手を引いて喫茶店へと向かう。
──その2人の後を追いながら、こっそりとカメラを構える不届き者が1人。
「あそこにいるのは星野クリス……その隣にいる男は知らんが彼氏か?何にせよ、これは良いネタが手に入ったな。今日は運が良い。記事にすれば飛ぶように売れるぞ……!」
追跡していたのは週刊誌の記者。今日も今日とて面白いネタがないか探していたところ、偶然星野クリスと五条悟がデートしている様子を目撃し、何枚も写真を撮っていた。
そしてたった今、五条と手を繋いで歩くクリスの姿もしっかりカメラに収め、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。はっきり言ってモラルの欠片もない。
「噂によると彼女は無所属だと聞くし、苺プロにわざわざ話を通す必要はなさそうだな。というか、仮に苺プロに訴えられても慰謝料の額はたかが知れてるし、記事に載せたもん勝ちだ」
──だからこそ、2人の正体を知らない者ほど、対応と言葉にはより一層気を付けなければならない。
スイーツ巡りのデートに行った日から、更に1週間が経った7月末のある日。
早朝、いつものようにスピネルに授乳していると、そこへ虎杖が走ってやって来た。
「クリス先輩!大変だよー!今すぐSNS見て!ツイッターでもユーチューブでも良いからさ!」
「悠仁、ちょっと煩いよー。朝からそんなに慌ててどうしたのさ?」
「悠仁君、今スピネルのご飯タイムだからあんまり大きな声出しちゃ駄目だよ」
クリスの隣で朝食を食べている五条が口を尖らせ、クリスも少し静かにするよう虎杖に注意する。
しかしそれどころではないのか、虎杖は酷く取り乱した様子で声を荒げる。
「2人ともそんな呑気なこと言ってる場合じゃないって!とにかくツイッター見てツイッター!五条先生も無関係じゃないし!」
「えっ、僕が?どういう事?」
「とりあえず開いてみますね」
虎杖の言葉に首を傾げつつ、スマホを取り出してツイッターを開く。
すると画面に映っていたのは……、
『速報!星野クリス、超イケメンの一般男性と熱愛デート!?お互いに手を繋いでラブラブな模様!』
太文字でそのように記載された題名と共に、楽しそうに笑うクリスとサングラスを掛けた五条悟のツーショット写真が掲載された、週刊芸能実話のネット記事。
絶世の美男美女が手を繋いで歩いている様子はとても絵になっているが、勝手に記事にされた五条とクリスは驚愕に目を見開く。
「「……はっ、何これ?」」
「クリス先輩と五条先生の写真がネット記事になってるんだって!それで今めっちゃSNSでバズってヤバいことになってる!」
そう言われてよく見ると、記事には数十万を超えるいいねとリツイートが付いており、更には『星野クリス』や『熱愛デート』がトレンドのトップを飾っていた。
五条悟についても数多くの言及がされ、コメントは大いに盛り上がっている。
だがその一方で、クリスや五条に対する誹謗中傷のコメントも数多くあり、コメント欄での論争は大勢の人を巻き込みながら白熱していた。
とはいえ、クリスの場合は本人の知らないところで勝手にアイドル扱いされた結果で、五条に至っては完全なとばっちりなので、どちらにとっても理不尽極まりない大炎上である。
「えぇー……マジで?」
「ねぇ、これ僕も巻き込まれた感じ?」
「多分そうだと思う」
突然の炎上騒ぎに戸惑って尋ねる2人に、虎杖は神妙な面持ちで頷いた。
この国の秩序を守っている現代最強の2人にいきなり誹謗中傷の嵐!どうなる日本!?
クリス&五条「何か炎上してて草」
アイ「いや2人とも何でそんな冷静なのーっ!?」
高専関係者「何やってんだあの2人は……」
アクア達「クリスが炎上してる、だと……!?おい、これは一体どういう事だ!?」
メロンパン「面白い事になってて草」
真人「人間キショすぎて草」
宿儺「下らん……それに雑魚の分際で
空港にいる夏油「舐めやがって、猿共が……」
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