呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「この子がスピネル。可愛いでしょ!」

有馬&MEMちょ「修羅場すぎて泣きそう。帰りたい」

アクア&壱護「五条悟という不届き者について詳しく……」

ルビー「スピネル可愛いー!」

ミヤコ「育てるのは良いけど最後まで母親としての責任持ちなさい」

クリス「分かってるよお母さん」



弔い

スピネルと一緒に事務所に帰省した翌日。

 

この日もクリスは抱きかかえたスピネルにミルクを飲ませてあやしていた。

 

本当ならいつものように授乳しているところだが、流石にそれをすると後々の説明が面倒臭くなるので自制している。

 

とはいえ、苺プロは現在映画の撮影で事務所全体が慌ただしいので、誰もクリスとスピネルに構っている暇はない。

 

だったのだが……、

 

 

「お前ふざけるなよ」

 

 

現在苺プロに居候中のツクヨミが歩み寄ってきたかと思うと、いきなり怒気の籠もった低い声で話しかけてきた。

 

その表情は険しく、目は一切笑っていない。

 

 

「えっ、何が?」

 

「恍けるな。昨日の会話、隣室でしっかり聞いていたが何だあれは?虎杖悠仁が不慮の事故で亡くなった?だからその子を引き取って育てることにした?つまらん嘘を平然と口にするんじゃない」

 

「……あれー?おかしいな、悠仁君が生きてることはまだ公表してないんだけど。何でツクヨミが知ってるの?」

 

「あまり神の情報網を甘く見ない方が良い。こちらは色々な手段で常に君達を見ているのだ」

 

「神がストーカーとかキッショ。見た目幼女だからって限度があるからね」

 

「相変わらず失礼な奴だ。お前の姉も大概だが、お前はそれよりも酷いな。罰の1つでも当ててやっても良いんだぞ」

 

「はいはい、怖い怖い」

 

 

昨日の会話を聞いていたらしく、虎杖が実はまだ隠れて生きている事に対してご立腹のようだった。何故ツクヨミがそれを知っているのかは知らないが、クリスにとってはどうでもいい事である。

 

そんな感じでツクヨミの怒りを適当に流すクリスだったが、ツクヨミからの言及は止まらない。

 

 

「言ったはずだ、虎杖悠仁は今すぐ秘匿死刑にすべきだと。奴自身が底なしの善人なのは重々承知している。だが宿儺を取り込んだ以上、そんなものは奴を生かす言い訳にならない。何度も言うが、事が起こってからでは……」

 

「はいはい、それは前にも聞いたよ。まぁお前の言い分も分からなくはないけど、僕らがそれを聞いてはいそうですかって素直に応じると思う?というか、そんなに文句あるなら自分で直接倒しに行けばいいじゃん。クレーマーじゃあるまいし」

 

「よく言うよ、君か五条悟のどちらかが常に見張っている状況で。そんな安い口車に乗るほど私は単純ではない」

 

「何だ分かってるじゃん。流石は神様、自分と相手の実力差をよく理解してらっしゃる」

 

「……本当にいい加減にしろよお前」

 

 

又もやクリスに煽られ、額に青筋を浮かべるほど頭にキてるツクヨミ。だが、怒りで爆発しそうな神を前にしても最強故の余裕からか、クリスの飄々とした態度は変わらない。

 

やがてツクヨミもこれ以上何を言っても無駄と悟り、はぁと深い溜め息を吐いて肩を竦めた。

 

 

「やはり平行線か。分かった、そこまで言うなら私も手を引こう」

 

「あれ、以外とあっさりだね?もっとごねると思ってたのに」

 

「これ以上は時間の無駄だからね。とはいえまだ諦めたわけではない。それを決して忘れるな」

 

「あっそ」

 

 

多分これからも小言を言われるけど無視しておこう。そう思ったクリスはツクヨミからの忠告を適当に聞き流す。

 

だが、ふとある事を思い出してあっと声を上げた。

 

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ、ツクヨミって常に誰かをストーキングして監視してるじゃん?悠仁君の生存を知ってるくらいには」

 

「その言い方だと誤解を生むからやめてほしいが、まぁ有り体に言えばそうかもね。それが何か?」

 

「その神の情報網とやらを駆使して調べてほしい奴がいるんだよね。実は今、万っていう平安の呪詛師と複数の特級呪霊が手を組んで行動してるんだけど、どうにもそいつらの裏にブレーンがいるみたいでさ。ツクヨミはその黒幕について何か知らない?」

 

「お前あれだけ神を侮辱しておいてよくもまぁ……いや、この際それは良いか。どうせ受け流されるのがオチだ」

 

 

散々馬鹿にした直後で、厚かましくも平然と質問してきたクリスの態度に、ツクヨミはいよいよ呆れ返った目を向けた。それでもクリスは一切態度を崩さず、真っ直ぐツクヨミを見つめる。

 

 

「で、どう?知ってるの?知らないの?」

 

「………………いや、知らんな。残念ながら君のご期待には応えられそうにない」

 

 

数秒の間の後に返ってきた答えは否だった。

 

 

「……ふーん、そう。まぁ良いか、知らないならそれで。あんまり期待してなかったし」

 

「一々鼻につく発言ばかりするな。そろそろ本気で罰を当てるぞ」

 

「じゃあ聞くけど、どんな罰があるの?」

 

「例えばそうだな……シャワーを浴びると何故か冷水しか出ない呪いとか、トイレに行ったらちょうど紙が切れてしまう呪い、食事中に必ず虫や鳥の糞が混入してくる呪いなどが……」

 

「OK、よーく分かった。僕達には言葉がある。話し合えばきっと分かり合えるよ」

 

 

具体的な天罰を知った瞬間、先程までの生意気な態度から一転してへりくだった態度でクリスは接し始めた。その豹変ぶりにツクヨミはジト目を向ける。

 

 

「その手の平返しは何だか釈然とせんが……まぁ良い。これで少しは私に対する態度も……」

 

「でも結局役に立たなかったから自称神にしてはやっぱ微妙だよね」

 

「…………今、お前にシャワーから冷水しか出ない呪いをかけた。しばらくの間、その身をもって味わうといい」

 

「あっ、神のくせに汚い!人の心とかないの!?」

 

「黙れ!お前にだけは言われたくないわ!」

 

 

その日の夜、早速シャワーを浴びたクリスだったが、彼女の時だけ本当に冷水しか出てこなかった。何だかんだストレスなので時間を巻き戻して呪いを解除しようとしたら、ツクヨミの呪いが魂に直接作用している事が分かり、解除に結構な時間がかかった事をここに明記する。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

翌日、黒川あかねから電話がかかってきた。

 

久しぶりの連絡に何用かと思って出たところ、ネットで炎上して誹謗中傷されている現状をとても心配しているとの事だった。

 

あかねは今から2年前に恋愛リアリティーショーで炎上の被害に遭い、あわや自殺寸前まで追い詰められた過去があるので、クリスの身を案じるのは至極当然の行動である。

 

だが、これっぽっちも非の無い出来事で炎上した程度では、クリスの精神がダメージを負うことはない。今も彼女への非難に明け暮れる熱心な輩はいるが、会った事もない相手からの悪口など随分優しいものだと感じてしまう。

 

それを教えた後、自分は本当に気にしていない事としっかり言葉にして伝えると、あかねが若干戸惑いつつもほっと一息ついたのが電話越しに耳に入ってきた。

 

 

『そっか、それなら安心……いや、正直まだ心配だけど確かに声は元気そうだし、アクア君や他の皆もいるから、これなら大丈夫そうだね』

 

「そりゃね。というか、会った事もない他人に僕の交友関係をとやかく言われる筋合いないし。ああいうのは無視すれば良いんだよ無視すれば」

 

『あはは……凄いねクリスちゃんは。私もそれくらいのメンタル持ってたら今ガチの時も苦労せずに済んだかも』

 

「でもあれがきっかけで大きく成長したんじゃない?経緯は最悪でも、それを糧にできるのは凄いでしょ」

 

『皆が助けてくれたお陰だよ。それが無かったら私の人生はあの時点で終わっていた』

 

 

ネットの炎上如きではぶれないクリスの強靭な精神を褒めるあかねと、今ガチの炎上騒動を振り返って当時のあかねの立ち直りを労うクリス。互いに敬意を持っているのが口調から読み取れる。

 

 

『ところでアクア君は?』

 

「兄さんは今撮影だよ。家にはいない」

 

 

今日はアクアもルビーも撮影なので、今は撮影現場にいる。付け加えると、他の皆も今は事務所を空けている。それを伝えると、あかねの雰囲気が途端に変化したのが電話越しから感じ取れた。

 

 

『そっか。じゃあちょっとクリスちゃんに聞きたい事があるんだけど良いかな?』

 

「……呪術関連だね。僕が答えられる範囲でなら良いよ。で、何が聞きたい?」

 

 

プライベートの話から仕事に関する話に変わり、クリスの意識が一瞬で切り替わる。態々電話してきたという事は、恐らく本当の用件はこちらなのだろうと彼女は察する。

 

 

『つい最近都内のファミレスで全焼する事故があったの覚えてる?』

 

「あー、あれね。連日ニュースになってたから覚えてるよ。結構ヤバかったよね。確かガス管の経年劣化が原因だったっけ?」

 

 

数週間前に起こった某ファミレス店での火災事故。店内にいた人達が全員死亡したとの事でかなり大きなニュースとなり、連日報道されていたのは記憶に新しい。

 

その後様々な調査が行われたが、結局それは不幸が重なって起きた事故として処理された。

 

だが、あかねの推測は違う。

 

 

『それなんだけど、あの火災の本当の原因はガス管じゃなくて呪いなんじゃないかって私は考えているの』

 

「……へぇ、なるほど。ちなみに何でそう思ったの?」

 

 

興味深そうに尋ねるクリスに、あかねは自分かそのように考えた理由を説明した。

 

もし本当にガス管の経年劣化によるガス漏れが原因なら、1人も助からなかったのはいくらなんでもおかしい事。

 

全焼する程の激しい火災なら、その前に火災報知器が探知して危険を知らせる上に、そもそも誰かが気付いて声を上げるはず。それがないという事は、気付く間もなく全員亡くなったという事。

 

これらの点から可能性として考えられるのは、ガス管から漏れたガスによる大規模なガス爆発が起こった事。これなら全員死亡も納得できるが、警察の調査で爆発の痕跡は一切無かった事が判明している。

 

となると、他に考えられる原因は呪い。あくまで推測の域を出ないが、人智を超えた目に見えない力が実在する以上、有り得ない話ではない。

 

 

『だから私、クリスちゃんに聞いて確かめてみようと思って。何か有益な情報を掴んでいるかもしれないから』

 

「……一応言うけど、現場から残穢は見られなかったそうだよ。勿論、こっちも最初は呪霊の可能性を考えた。けどそれらしい痕跡は一切見当たらなかったし、そもそもそんな事ができる知能があるなら、最初から人の多い場所で事を起こそうとは考えないと思う」

 

『それは……クリスちゃんがいるから?』

 

「そうだね。付け加えると、僕と五条先生がいるからだよ。まぁ、呪霊の行動に合理性を求めるのもどうかと思うけど、高度な知能を持った呪霊ならある程度理性に従って行動する傾向が強いし」

 

 

クリスの言う通り、例の火災事故は初め呪霊か呪詛師の仕業かもしれないと思われていた。そのため呪術界も術師と補助監督数名を派遣して現場を調査したのだが、それらしい証拠は一切見つからなかった。

 

余程残穢を消すのが上手い者による犯行の可能性もあるが、そもそもそんな事ができる存在が街中で白昼堂々と事を起こすとは考えにくい。下手すれば自身に繋がる重要な証拠を残してしまうリスクが高いからだ。

 

そして何より、現代最強の2人が常に目を光らせているのに、その2人に態々喧嘩を売るような自殺行為をするとは思えない。

 

だからこそ、腑に落ちない点は多く見られるが、呪術界は例の火災を不運が重なって起きた事故と判断し、現場を警察へ引き渡した。その後の警察の調査結果はニュースで報道された通りである。

 

 

「そんなわけで、あれはマジでただの事故の可能性が高いって結論に至ったの」

 

『うーん……でも何かしっくり来ないなぁ。事故にしてはやっぱり無理があるし』

 

「とは言っても、それらしい証拠は全然無いからね」

 

『ねぇ、仮に火災の原因が呪霊か呪詛師だったとして、その犯人が特に何も考えず衝動的にやったとしたらどう?どんなに頭の切れる人でも感情的になる事はあるし』

 

「仮にそうだとしても、そんな奴が全ての証拠を徹底的に消すなんて冷静な行動を?何か矛盾してない?それにもう1度言うけど、僕や五条先生がいるのにリスクある行動を取れるのかな?万とかミゲルみたいに真正面から僕らとやり合える実力があるなら話は別だけど」

 

『犯人がクリスちゃんと五条悟の実力を見くびっていた可能性は?』

 

「だったら態々証拠なんか消さずに堂々と待ち構えてるでしょ。それか襲ってくるか。というか、そんな奴らは僕達が軒並み返り討ちにしてやったし」

 

『…………』

 

 

あかねから示唆された可能性の矛盾を次から次へと指摘した結果、あかねは押し黙ってしまった。言わんとしてる事は分かるが、考えられる動機と実際の行動がちぐはぐすぎる。

 

そもそも、どうしてあかねがそこまで例の火災事故を事件扱いするのか。クリスはそこが気になった。

 

 

「ねぇあかねちゃん、どうしてあの事故をそこまで事件扱いにしたがるの?もしかして何かあった?」

 

『実は……』

 

 

クリスに聞かれ、あかねは淡々と語った。映画制作の関係者数名が突如として音信不通になり、制作メンバーから除名された事を。

 

行方不明となったメンバーの1人にあかねのメイク担当者がおり、その人が姿を消す直前に仲の良いメンバーとファミレスに行くと言っていた。そして、その翌日から連絡が付かなくなったので、もしかしたら例の火災によって亡くなったのではないかと思い、少しずつ情報を集めて独自に調査したという。

 

 

「なるほどね。自分と面識ある人が急に居なくなったら、そりゃあ不安になる。しかも映画制作メンバーの一員……兄さんと姉さんには言えないね、これは」

 

『それで色々と調べていく内に、あの火災は事故じゃなくて呪いのせいじゃないかと思って……その、どうしても放っておけなくて』

 

「まぁそれは別に良いんだけどね?あかねちゃんはさ、もし火災事故の真相が推測通りだったとして、それを知ってどうするの?犯人を見つけて報復する感じ?手伝おうか?」

 

 

もしあかねの目的が復讐の類であるならば、クリスは彼女を放っておけなくなる。

 

別に復讐を止めたいわけではない。むしろクリスは復讐肯定派だ。何故なら彼女自身もそのような行為に一切の躊躇がないから。

 

やると決めたら徹底的に。それが復讐する時のクリスのモットーですらある。

 

だが、あかねの目的は復讐ではない。

 

 

『ううん、そんなんじゃないよ。ただ、呪いの犠牲になってしまったかもしれない彼女達を、ちゃんとお墓に埋葬して弔ってあげようって話』

 

 

目的は至極単純。ただ呪いの犠牲になった者達への弔い、それだけだった。

 

 

「それだけ?」

 

『うん、それだけの事』

 

「そっか……うん、分かった。じゃあちょっとだけ待っててね、今から確かめに行ってくるから」

 

『えっ、何を?』

 

「決まってるじゃん、件の火災事故で亡くなった人達の身元確認にだよ。ただ、事故と処理されてから遺体は警察が預かったみたいだからね。少し時間はかかると思うけど、回収出来次第すぐに調べるよ」

 

『ええっ!?』

 

 

あかねの話を聞いて、クリスは今すぐ身元不明のままの遺体を調べようと決めた。呪術師として築き上げたクリスの伝手があれば、遺体の独自調査も可能である。

 

当然、唐突すぎてあかねは驚愕した。

 

 

『クリスちゃんそれ大丈夫なの!?いや、そもそも回収できたとしてどうやって調べるつもりなの?』

 

「そりゃあ勿論、僕の術式反転で遺体の時間を巻き戻すに決まってるじゃん。とっくに死んでるから生き返る事はないけど、遺体を綺麗な状態にまで巻き戻すくらいは出来るからね。後は顔写真と照合すれば一発だよ」

 

『常々思うけど、クリスちゃんの術式って本当に何でもありだよね……』

 

「ふふ、賞賛として受け取っておくよ」

 

 

いつもながらに現実離れした事をやってのけるクリスに、あかねは驚きを通り越して溜め息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その後、クリスが色々と動いて回収した遺体を調査した結果、あかねの推測通り、行方不明中だった元映画制作メンバー4名が犠牲者の一員であると判明した。

 

クリスはこの事を公表しようかどうか悩んだが、下手に知らせてもただ混乱を招くだけだと判断して秘密裏に遺体を火葬し、その後都内の納骨堂に遺骨を納めた。

 

そして後日、唯一事情を知るあかねと一緒に4人を弔った。

 

 

 




クリス「あれ、そう言えば高い知能を持つ特級呪霊の癖に、やけに僕の実力を舐め腐って返り討ちにされた奴がいたような……」

あかね「クリスちゃん、しばらく見ない内に何処か雰囲気が変わったような……?」


※4月に入って忙しくなったので更新頻度は劇的に遅くなります。

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