呪術の子 作:メインクーン
ツクヨミ「虎杖が生きてる事を隠してるな?ふざけやがって」
クリス「はいはい、そうですか」
あかね「映画制作メンバーが呪いで亡くなったかも」
クリス「遺体見つけたから弔うね」
呪いで亡くなった映画制作者達の骨を納め、あかねと共に弔ってからしばらく経った頃。
「あー……暇」
「暇なら呪霊でも祓いに行ったらどうなんだ、呪術師?」
ソファーの上でだらしなく寝転び、何気なしに呟いたクリスの一言を、傍で聞いていたツクヨミが呆れ顔で指摘する。
その言葉に嫌そうに眉を顰め、クリスは口を尖らせる。
「止めてよ、貴重な休みの日に仕事の事なんか考えたくない」
「そんな事を言ってる割には、ここ最近ずっと家に居るか出掛けているかのどちらかだった気もするが……本当に仕事してるのか?」
「してるよ、ちゃんと。スピネルを預かってから仕事は夜にやってる。常に術式反転を回し続けて毎日徹夜で活動してるから」
「…………」
いきなり告げられたまさかの事実に、ツクヨミは途端に勢いを失い目を丸くする。
「……最後に寝たのはいつか覚えているか?」
「最後に寝たの?うーん、そうだねぇ……1カ月、いや2カ月くらい前かな?うろ覚えだけど」
「そうか。それはご苦労様……いや本当に」
「止めて、そんな可哀想な人を見る目で僕を見ないで。お前にその目を向けられるの地味にショックだから」
文字通り不眠不休で働き続ける少女を前に、ツクヨミはとうとう何も言えなくなってしまった。
生意気でムカつく小娘ではあるが、流石に哀れすぎると思った。そして、日本の社畜ここに極まれりとも思った。
ただただ虚しい空気だけが残った。
「それにしても、兄さん達大丈夫かな?今週の撮影からかなりデリケートな内容に触れるとか言ってたけど……兄さんってポーカーフェイス気取ってる癖に心は繊細だから心配だよ」
虚しい空気感を払拭すべく、映画撮影に行った家族達の動向に話題を変える。
昨晩、今週から最悪な気分での撮影が始まるとアクアがぼやいており、それを耳にしたクリスは少しばかり不安に思っていた。更には『不知火フリル』『濡れ場』『姫川大輝』『ルビーとの……』などの単語も途切れ途切れに聞こえたので、尚更アクアの精神状態が気がかりだった。
そんな彼女の心配を、ツクヨミは平然と一蹴する。
「まぁ大丈夫だろう。お前がそこまで心配するほど、奴も柔な精神を持っていない。姉の方も同様だ」
全くの杞憂だなと、肩を竦めて馬鹿にしたようにフッと笑うツクヨミをジト目で睨み付けるクリス。
「……何か分かった風な口を利いてるけど、お前ひょっとして兄さんにもちょっかい出してる感じ?」
「そうだと言ったら?」
「……お前撮影終わったらマジで覚えておけよ」
「善処するよ」
更に鋭い眼差しを向けるクリスに対して、ツクヨミは余裕あり気に不敵に笑う。そんな彼女のふてぶてしい態度からくる表情は、日頃の鬱憤を返すためもあってか、実に清々しく晴れやかなものだった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
クリスがツクヨミ相手に事務所で茶番を繰り広げたり睨みを効かせたりして日々を過ごす中、アクアやルビーなどの映画出演者達はこの日も撮影現場に集っていた。
「はい、カットでーす!」
「一旦休憩に入りまーす!」
撮影スタッフ達の快活な声が現場に響き渡り、現場に漂っていた緊張感が霧散する。
この日の撮影は特に滞りなく順調に進める事が出来ていたので、主演で常に気を張っていたルビーは内心ほっと胸を撫で下ろした。
「ふぅー、やっと休憩かー。段々慣れてきたとはいえ、やっぱ撮影中は集中力も精神もゴリゴリ削られるよ」
「それでもリテイクの回数が日に日に少なくなっているのは良い事よ。どう、MEMちょもこれを機に役者の道に進んでみない?」
「いやいや、私は遠慮しておくよー。ライブと違ってこんなに精神削られるとは思わなかったしね。あ、でもちょっとした脇役くらいなら、機会があればまた出てみようかなー、なんてね」
「良いじゃない。脇役だろうと役は役、出れば立派な役者の1人よ」
「あはは、かなちゃんがそういうならもっと積極的に挑戦していこうかな?」
有馬とMEMちょが役者のあれこれについて語り合う様子を横目に、本日もアイを演じきったルビーは兄の元へ駆け寄る。
ニコニコと微笑みながら上機嫌で近付く彼女は、元々の容姿も相まって周囲の視線を自然と集めるもので、流石は今を代表するトップアイドルの1人といったところである。
「えへへー、お疲れお兄ちゃん!私今日も頑張ったよ!ギュッてしていい?」
「そうだな、とりあえず人前でそういう行動は控えてくれ。今日の撮影も後少しで終わるから、それまでの我慢だ」
「じゃあ家でなら思っきり甘えても良いって事だね。分かった、それなら家に帰るまでちゃんと我慢するね」
アクアの隣に立ち、早速抱擁による癒しを要求するルビーだったが、アクアの説得で大人しく引き下がる。
映画撮影前に互いの前世が判明して以来、2人の距離感は一気に縮まり、今ではこうして人目を憚らず頻繁にスキンシップを取る機会が多くなっていた。
アクアは周囲の目が気になってしまうためか、そんな妹の行動にどこか冷や冷やしているものの、中身が
そして最近は、普段から近過ぎる距離感で接するルビーの行動に拍車が掛かっており、もはや過剰とも言える程となっている。というのも、それは数日後に予定されたある撮影シーンが原因だった。
「いやー、それにしても楽しみだね、お兄ちゃんとの
「いや待て、何でそんなに乗り気なんだよお前は。仮にも俺達兄妹だろうが」
「もー、そんな冷たい事言わなくていいじゃーん」
「今でも思うが、絶対ヤバいだろこれは……」
数日後に差し迫ったある撮影。それは星野アイとカミキヒカルのキスシーン。それ即ち、ルビーとアクアがキスをするという事を意味する。
いくら撮影のため、映画の脚本を担当した人達が強引に埋め込んだエンタメ要素の1つだとしても、流石に血の繋がった兄妹とのキスは抵抗があった。
だが、アクアはそう思っていても周りの人達が意外にも乗り気なので、今更になって止める事もできない。その事実が余計にアクアが頭を抱える要因となっていた。
なお、妹のルビーはその程度では止まらない。むしろ実兄とのキスの撮影に目を輝かせ、今か今かとその日の到来を楽しみに待っている。
「……なぁ、本当に大丈夫なのか?」
「えっ、何が?」
「いや、何がってその……キスシーンだけど」
「私?私は大丈夫だよ。何なら今ここでキスの練習する?何度か練習した方が撮影本番もスムーズになると思うし」
「遠慮しておく。そもそも撮影以外で兄妹とキスはヤバいだろ」
「もー、このモラリスト」
ずっと昔にも聞いた事があるルビーの言葉を適当に受け流しながら、アクアは来る日の事を想像して諦念の意を示すように深い溜め息を吐いた。
──なお、この日から数日後、キスシーンの撮影前日の夜に2人は甘い口付けを交わす事となる。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
その日、クリスは自室に籠もり、スピネルを抱えたままベッドの上でぼうっと物思いに耽っていた。
その原因は昨日の夜の事──
『ふぅ、スピネルも寝たし、今日も朝まで呪霊祓いに行くか。あっ、でもその前に軽く何か摘まんでからにしよ……ん?』
スピネルを寝かしつけた後、いつものように徹夜で仕事に行く前に軽食を取ろうとした矢先だった。
『ねぇ……せん……私……好き?』
『ああ……当然……ちゃん』
『私も……好き』
リビングに入ろうとしたところで、その扉の向こう側から2人の話し声が微かに漏れ出ていた。
聞き間違えるはずがない、アクアとルビーの声である。
『兄さんと姉さん、こんな夜遅くに何話してるんだろ?明日も撮影あるのに。よし、ちょっとだけ覗いて……』
何やら込み入った話をしている2人の声を聞きつけ、気になったクリスは2人の様子を確かめようと、そっと扉を開けて覗き込む。
だが、そこで目にした光景は予想の斜め上を行くものだった。
『────えっ?』
扉の隙間から覗き込んだクリスは小さな声を漏らし、その場で固まってしまった。
何故なら、アクアとルビーが互いにキスを交わしていたから。
それを見た瞬間、クリスは無量空処を食らった時のように頭が真っ白になり、一瞬思考が停止した。それでもすぐに意識を取り戻し、そっと扉を閉めてその場から静かに立ち去る。
『に、兄さんと姉さんがキスしてた……えっ?2人ってそういう関係だった感じ?兄妹なのに?いやでも、確か映画で濡れ場の撮影があるって聞いたから、多分その練習かも……いやいや、それにしてはかなりお熱いキスだったし、どう見ても練習の範疇を超えていたような……』
先程目撃してしまった光景を前に、ぶつぶつと独り言を呟きながら歩き回る。それだけクリスにとっては衝撃的なものだった。
『と、とりあえず仕事行こう……』
数分歩き回って頭を抱えた末に出した答えは『後でじっくり考える』だった。
──そのような事が昨晩あり、その後徹夜でひたすら呪霊を祓い続けたクリスは、家に帰って昨日見たアクアとルビーのキスを思い出しては悶々としていた。
「兄さんと姉さん、僕の知らないところであんなディープな関係になってたなんて……僕ですらキスなんてした事ないのに。血の繋がった兄妹なのに、かなり進んでるなぁ……」
撮影のための練習という可能性は未だに残っている。むしろそちらの方が有力だ。
だが、それでも昨日見た2人のキスはその可能性すら払拭してしまいそうな程の情熱を感じた。そのためクリスは、これ以上考えるのを止めて事実をありのまま受け入れる事にした。
「うん、その方が良い。これ以上考えてもしょうがないね、あれは。まぁ今考えるとその傾向はあったかも。ここ最近2人の距離感が急激に近くなっていたし。僕もその場のノリと勢いで囃し立てていたけど、にしてもあそこまでガチとは思わなかったよ」
いやー困った困ったと肩を竦めて溜め息を吐くクリス。何でもないかのように振舞っているが、件の光景は確実に脳裏にこびり付いて離れなかった。
「この際兄妹同士でキスしていた事は置いておこう。僕も兄さんと姉さんの事は愛してるし、その証明があの2人にとってはキスだった。それだけの事だから……それよりも」
言い訳をするようにまた独り言を呟きながらクリスは想像する。
もし自分がいつかキスするような事になったら、誰とどんな風にするのだろうと。
「もし、僕がいつかそうするとしたら……」
透き通るような蒼い瞳に、見る人を魅了する端正な顔立ち。雪のように真っ白な髪に、筋肉質でがっちりとした丈夫な肉体。普段は飄々として軽薄なのに、いざという時は真剣な顔で戦いに身を投じる程の頼り甲斐を見せてくれる。
真っ先に思い浮かんだのは、自身に戦いを、呪術を長年教えてくれた
「────ッ!?」
その瞬間、クリスは自分でもよく分からない感情の波が押し寄せてくるのを感じた。
それと同時に頬が朱色に染まり、体温も内から徐々に高まっていく。
「あ、あれー?おかしいな、五条先生の顔を思い浮かべただけなのに、何でこんなに動揺しているんだろ?うーん……?」
クリスはこの感情の波を動揺していると判断するが、それにしては想定外の心地良さを覚えていたのも確かだった。
故に困惑する。
「はぁ、一体どうしちゃったんだろ……動いてないのに暑いよ」
未だに身体中が暑く、クーラーが効いているはずなのに汗が止まらない。心臓の鼓動も心做しか速く感じる。
しばらく経ってその症状は治まり、またいつもの忙しい日常に戻ったが、この日を境にクリスの心境に少しずつ変化が訪れるのであった。
中で全て見ていたアイ「兄妹同士でディープなキスとか、うちの子ヤバ〜!でもキャワ〜!」
→「クリスにも遂に春が……いや、今更か?」
宿儺と虎杖の出生と関係が明らかになったせいで、本作での星野家と虎杖家の関係がいよいよ洒落にならないものになってきましたね。
ちなみにスピネルの血縁ですが、これについても後々語る予定です。とはいえ勘のいい方々は既に気付いているかもしれませんが。
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