呪術の子 作:メインクーン
宿儺「小僧、お前は本当につまらんな」
真人「ボコボコにされて厄日だよ本当に」
クリス「ひゅーっとやってひょい」
順平「あれ、僕生きてる!?」
虎杖「じゅーんぺーい!」
七海「良かったですね、虎杖君」
虎杖と真人の因縁の戦いから1週間以上が経った本日、呪術高専にて。
「さぁやって参りました、京都姉妹校交流会当日!2人とも心の準備は良いかなぁー!?」
「イエェェェーイッ!!」
「い、いえーい……」
クリスの鼓舞に反応して、虎杖の大きな掛け声と気圧され気味な順平の縮こまった声が響く。
「ちょっと順平君、声が小さいよ!もっとお腹から声出していかないと!ほら、ほらっ!」
「ええっ!?そんないきなり言われても……」
「今のクリス先輩、ブラック企業にいるパワハラ上司みたい」
順平に対するクリスの言動を見て、虎杖が冷静なツッコミを入れる。
そのツッコミは華麗にスルーされた。
「いやー、皆盛り上がってるねぇ。悠仁も順平も楽しみにしてそうで良かったよ」
「そりゃそうだよ先生。だって数ヵ月ぶりに皆に会えるんだから。順平の事も紹介したいし、早く会いたいなぁ」
「僕も楽しみだな。虎杖君の同級生……どんな人達なんだろ」
盛り上がる3人の輪に五条も加わり、部屋の中は更に賑やかになる。
伏黒達との再会を待ち侘びる虎杖と、虎杖以外の同級生との顔合わせに若干の緊張を見せる順平。
1年生2人の何とも微笑ましい光景だが、そこへ五条が待ったを掛けた。
「えー、まさかそのまま行くつもり?ここまで引っ張って普通に登場って、ちょっと勿体ないと僕は思うよ」
「えっ、そうなの!?」
「死んでた仲間が実は隠れて生きてましたなんて展開、術師でもそうそうあるもんじゃない。だから悠仁もやろうよ、サプライズ」
「おお、サプライズ!良いかも……ん?ちょっと待って。俺
サプライズと聞いて結構乗り気の虎杖だったが、五条の言い方に少し違和感を感じて首を傾げた。
それだとまるで自分の他にサプライズを行う予定の人がいるような……そんな疑問を抱いた虎杖は目の前の目隠し男に尋ねた。
「俺の他にサプライズする人いんの?」
「僕だよ悠仁君!僕もサプライズ登場するんだ!」
「うわびっくりした……クリス先輩も?」
虎杖の質問にクリスが横から飛び出て答える。急な大声に虎杖はびっくりして少し仰け反った。
しかし後輩にビビられている事などお構いなく、クリスは満面の笑みを咲かせ、事情を説明する。
「正確には僕じゃなくて僕のママなんだけど。ほら、15年前に亡くなったママが色々あって、今奇跡的に僕の肉体の内にいるじゃん?丁度良い機会だし、悠仁君の生存と一緒にママの復活を報告しようと思って」
「えっ?でもクリス先輩の事情は高専の人なら全員が知ってるって五条先生から聞いた事あるよ?」
「サプライズの相手は高専の皆じゃなくて、僕の家族と友人だよ。事情が事情だから、高専関係者以外にはまだ伝えてなかったんだ」
「あー、なるほどね」
説明を聞いて納得する虎杖。だが、一緒に説明を聞いていた順平がその事に関しておずおずと尋ねた。
「あの、クリス先輩って母親のアイさんと物凄くそっくりでしたよね?ネットで調べましたけど瓜二つってレベルじゃなかったですよ。仮にアイさんが交代して出たとして、どうやってアイさんの復活を証明するんですか……?」
「あー、確かに……どうすんの先輩?」
「それについては問題ないよ。実は……」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
──数時間後。
交流会前の顔合わせという事で、東京校の生徒と京都校の生徒が一同に会していた。若干軋轢が生じている気がしないでもないが、それでも滞りなく話は進む。
五条とクリスが来るまでは。
「はーい、皆おまたー!」
「ごめんねー!遅刻しちゃって!」
大きな箱を乗せた台車を押しながら、背後の建物から小走りで駆け寄る特級達。
颯爽と現れた2人を前に、その場にいる者達は十人十色の顔色を見せる。
「チッ、五条悟……」
「うわ、星野クリス……」
「わぁ、五条悟……!!」
「来たな、マイシスター!」
「やはり今年も参加するか、星野クリスは」
「しゃけ」
「ねえ伏黒、前々から思ってたけどやっぱあの2人デキてるでしょ?」
「知らねぇ、俺に聞くな」
露骨に顔を顰める者、眉一つ動かさず無表情の者、喜色を露わにする者。中には仲睦まじくやって来た2人の関係を邪推する者まで。
そんな一同を軽く見渡し、2人は身振り手振りを加えて仰々しく話し始める。
「やぁやぁ皆さんお揃いで。僕、出張で暫く海外に行ってましてね。まずは京都校の皆にお土産を。あ、歌姫の分は無いよ」
「いらねぇよ!」
しれっと仲間外れにされた歌姫を揶揄いつつ、出張先で購入したというとある部族の御守りを渡して回る五条。
続けてクリスも語り出す。
「続いてはこの僕!えー、実は今回の交流戦でとあるスペシャルゲストに来て頂いております。こちらです、どうぞ!」
「えっと……皆さん初めまして、黒川あかねと申します。今日はクリスちゃんに招待されて、交流会を観戦しに来ました。よろしくお願いします」
「クリスの姉でB小町の星野ルビーです。私も今日はクリスに誘われて観に来ました。えっとまぁ、よろしくお願いします」
「はい、というわけで!若き天才大女優の黒川あかねちゃんと、今を時めくアイドルグループ『B小町』の星野ルビーに来てもらいました!皆、拍手ぅー!」
「「「「「…………」」」」」
半ば強引に話を進める進行役に戸惑いつつも、クリスの後ろから出てきた2人は皆の前で深々とお辞儀し、丁寧に挨拶する。
呪術師ではまず見ない、七海並みの礼儀正しい態度。そんな健気な様子に全員がほっこりしそうになるも、喧しい進行役の喧しい声で大体が渋い顔を見せた。
ちなみに、歌姫は傍若無人な五条との落差で感動の余り涙を浮かべ、東堂は高田ちゃんに並ぶ現役のトップアイドルを前にして、菩薩の如き笑みと共に感涙していた。
歌姫はまだ良いとしてお前は何なんだ東堂。そういう小言の1つでも言いたくなる京都校一同であった。
「高田ちゃんとB小町の特別ライブ……3日限りの夢の共演……これが
本当にどうした、今すぐ精神科か脳外科行って診察してもらえ。お前もう訳分かんねぇよ、前々からだけど。
より一層東堂に対し絶句する一同だった。
「……で、クリス先輩、その2人は良いとして後ろにいるもう1人は?もしかしてつい最近来たって噂の転校生?」
「そう、真希ちゃん良く知ってるね!この子は吉野順平君、色々あって1週間前にここへ編入した新米だよ。ちなみに呪術師歴は半月」
「よ、よろしくお願いします!」
たどたどしくも大きな声で東京校の生徒達に挨拶する順平。だが、若干翳りが見える立ち居振る舞い、有体に言えば弱そうな見た目が祟ったのか、真希の目付きが鋭くなる。
「ふーん……ぱっと見弱っちいけど大丈夫なのか?すぐ死にそうな面してるけど」
「こーら真希ちゃん、初対面の子に対してそんな態度取ってたら萎縮しちゃうよ。後輩なんだからもっと優しくしないとね」
真希が発する威圧にクリスがすかさず諫めようと間に入るが、それでも真希は構わず順平に対して厳しい言葉を言い放つ。
「この程度で引っ込むような弱ぇ奴はこの先やっていけねぇよ。おいお前、呪術師になるってんなら、それ相応の覚悟はあるんだろうな?」
相手を射殺さんばかりの目付きで睨み付け、試すように順平へ問い詰める。
その圧に一瞬押されそうになる順平だったが、負けじと佇まいを正してはっきり言った。
「は、はい!自慢にはなりませんが、1度死にかけた事だってあります。最低限の覚悟は出来ているつもりです」
「あっそう。まぁ、あんま期待しないで見ておくよ……精々死なねぇように食らい付け」
「……はい!」
順平の真っ直ぐな瞳と言葉に何を思ったのか、真希は彼に対する高圧的な態度を引っ込めると、視線を外して再び京都校の生徒達と向かい合う。
去年の真希を知るクラスメイトと先輩一同は、1年前に比べて随分丸くなった彼女を見て和やかな気持ちになった。
「いやぁ、新しい1年が入って随分賑やかになってきたね!賑やかなのは良い事だよ。順平も皆とこれから切磋琢磨して頑張ってー!」
順平の自己紹介が一通り終わった途端、一歩引いて見ていた五条が再び会話の輪に入ってきた。
少し大きい、謎の箱が置かれた台車を押して。
その隣へ並び立つように、クリスも自身が押してきた台車の傍に寄り、中身の見えない謎の箱にちらりと視線を向ける。
──運ばれてきた謎の箱は2つ。
「というわけで、そんな君達に更なる朗報をプレゼント!それがこちらです!ドンッ!」
その掛け声と同時に、2つの箱の蓋が勢いよく開かれ、そこから2人の男女がこれまた勢いよく立ち上がる。
拳を掲げ、片足を上げてバランス良く立ったまま、ウインクを添えて決めポーズ。
2カ月前に死んだはずの虎杖悠仁と、
「故人の虎杖悠仁君と星野アイさんでぇーす!!」
「「はい!おっぱっぴー!!」」
────空気が凍った。
周りの反応など気にも留めず、息をぴったり揃えて声高らかに叫ぶ2人とは裏腹に、彼らと深い仲にある者達は動きを止め、呼吸する事も忘れ、ただ何とも言えない引き攣った表情を見せる。
「「「「…………」」」」
暫しの沈黙。
「……あれ?」
「ねぇ悠仁君」
「何すかアイさん」
「何というかさ……私達、引かれてない?」
「……これ、ミスっちゃった感じ?」
先程までの賑やかな場から一転して静まり返った地獄のような雰囲気に、能天気な虎杖達も流石に事態の異常さに気付く。
「ちょ、ちょっとどうしようクリス!?ねぇ待って、ルビーが物凄い顔してこっち見てるんだけど!?私あんなにドン引きしたルビー見た事ないよ!」
「こっちも何かすっごい微妙なんだけど!?伏黒も釘崎も全っ然嬉しそうじゃない!あっ、京都の人らは……お土産に夢中だぁああああ!?」
何と哀れな事だろうか。皆を驚かせるため意気揚々と飛び出したにも関わらず、2人が期待していたものとは全く正反対のリアクションが返ってきた。
これが五条の口車にまんまと乗せられてしまった者達の末路である。そもそも性格が悪い五条が考えたサプライズなど、大抵碌なものではない事は分かりきっていた。あのルビーが母と再会できた喜びよりもドン引きが勝っている時点でお察しの通りだ。
クリスは普段から五条と一緒にいるため、長年の経験からこうなる事は何となく察知していたが、面白さの方が勝ったため敢えて口にしなかった。こちらも五条に負けず劣らず性格が悪い。
兎にも角にも、サプライズは皆の顰蹙を買うという微妙な結果になってしまった。
それでも、サプライズを受けた人達の順応は案外早い。
「……おい虎杖」
「はい、何でしょう」
「何か言う事あるだろ」
「……生きてる事、黙っててすみませんでした」
釘崎がポーズを取ったまま固まっている虎杖に謝罪を要求する一方、ルビーは箱の中で微動だにしない母親に歩み寄り、1つ質問を投げ掛ける。
「……ねぇママ」
「な、何かなルビー?」
「本当に……本当にママなの?」
「……えっ!?あっ、あー……」
てっきり叱られると思って見構えてたので、その質問にアイはちょっと面食らった。
当たり前だが、いきなり目の前に死んだはずの母親が意気揚々と登場して、素直に生き返って良かったねとはならない。いくら連れて来たのがクリスで、目の前に立つ存在が幼き頃に見た圧倒的なオーラを放っていて、内心ほぼ確信を抱いていたとしてもだ。
期待と疑念を孕んだ目。故に、アイは反射的に嘘を吐こうとした。
生前常に魅せていた嘘の自分を。本当の自分を覆い隠し、完璧で究極のアイドルとして、人々が焦がれて求め続けた偶像を。
大丈夫、さっきはびっくりして取り乱しちゃったけど、この程度ならまだ何とかなる。皆が求める私を……。
そう思って口を開きかけ────
『クリス、ルビー、アクア…………愛してる』
『この言葉は絶対嘘じゃない』
直前でぐっと思い留まって顔を見上げると、ルビーの瞳を真っ直ぐ見据えて言った。
「ルビー……ただいま」
「ママ……ッ!!」
「いやぁ、嘘に言い慣れてるとこういう時困っちゃうね。上手く言葉にできないや」
途端に何だか気恥ずかしくなって、困ったようにあははと笑う。
らしくないなと思った。死に際に遺した『愛してる』のように、今度も心の底からの言葉を愛する子供に伝えようとしたが、残念ながら上手くいかなかった。
思えばニノと仲直りしようとした時も、クリスの助けがなかったら間違いなく失敗していた。大切な人の前では嘘を吐かないように頑張ろうと決めても、高々一度や二度本心を口にした程度で、本当の自分を上手に曝け出せる訳がなかった。
それでも困ったような笑顔を浮かべるアイに、不安を抱かせる昏い翳りは見られなかった。むしろ憑き物が落ちて吹っ切れたのか、清々しささえ感じられる。
これで良い、今はこれで。これからもっともっと本当の自分を魅せていって、たくさん愛してたくさん愛されるんだ。既に死んだ身なのに、死んだ今になって自信を持ってそう言える。
だって、こんな自分でも愛してくれる人が既にいるから。汚い自分をこれでもかと見せつけてぶつけたのに、それでも愛する我が子の1人はとびきり無償の愛を私に返してくれた。
大丈夫、私はもう独りじゃない。
だからこそ、再会の喜びを分かち合うその前に、まずはこれを伝えておこう。
「とりあえずまぁ……生き返った事、黙っててすみませんでした」
「もうっ……ママの馬鹿ぁ……!!」
誠心誠意を込めた謝罪の言葉。
それを受け取ったルビーは涙ぐみながら、勢いよくアイの胸に飛び込んで力一杯抱き締めた。
・肉体を伴うアイ復活までの流れ
99徹目のクリス「ママの復活をサプライズで姉さん達に伝えたい……どうしよ?」
深夜残業中の五条「学長に頼んでみればいけるんじゃね?」
クリス「それだ!へい学長、ママそっくりの呪骸作って下さいよ!クオリティ高めのやつ!報酬は弾みますよ」
同じく残業中の夜蛾「それは良いが……肝心の星野アイの魂はどうやって移動させる?出来るのか?」
審判で呼ばれた冥冥「お困りのようだね。憂憂でも貸そうか?高く付くけど」
クリス「それだぁー!!」
かくして、星野アイは夜蛾学長お手製の呪骸と憂憂の術式により、クリスの肉体を離れ復活を果たした。
とはいえ傀儡操術を利用している関係上、アイが単独で活動するために必要な呪力は夜蛾から供給されるため、完全な復活を果たしたわけではない。パンダのように完全に自立させる選択肢もあったが、そうすると上層部の爺共が喚き散らし、夜蛾とアイに対して何をしでかすか分からないので止めた。
今回はあくまで一時的な復活なので、交流戦が終わり次第、憂憂の術式で再びクリスの肉体の中へ戻る予定である。