呪術の子   作:メインクーン

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前回:
クリス「皆連携上手くできてるね!その調子だよ、頑張って!」

一同「舐めんなコラ」

東堂「ブラザー、俺達の力を見せてやるぞ!」

虎杖「黒閃ッ!!」

一同「……ん?ぎょえぇぇぇぇぇ!?森が……!?」



侵入者

────バチンッ!!

 

 

誰かに頬を叩かれたような音と共に、目の前の画面が全て暗転する。

 

 

「……えっ?」

 

「何……今の?」

 

「一体何があったの?」

 

 

高専の教師達と一緒に団体戦を観戦していたルビー達は、突然の事態に開いた口が塞がらなかった。

 

更に壁に掛けていた札が一斉に燃えるなど、立て続けに不可解な異変が起こる。この札は会場内に放った呪霊と連動しているため、誰かが祓えば自動的に燃える仕組みとなっている。

 

用意された呪霊を何者かが全て祓った事になるが、画面が消える直前まで生徒達は一ヵ所に集って争っていた。ちまちまと呪霊を探し回って祓う余裕などない。

 

つまり、これが意味するのは……

 

 

「外部の人間……侵入者の仕業か」

 

「だとしても天元様の結界が反応してないのは変だよ」

 

「外部だろうと内部だろうと不測の事態には変わるまい」

 

 

何が目的かは知らないが、邪な考えを持つ者が高専に入り込んでくるのは非常に不味い。最悪の場合、生徒達の中から死人が出てくる可能性があるからだ。

 

それでも生徒の中には規格外の力を持ったクリスが存在する。だから一安心……と言いたいところだが、残念ながらそうもいかない。

 

 

「悟、クリスの首に付けた呪具は外せるか?」

 

「無理ですよ、あれはそう簡単に外せる作りになってません。何せ僕が手間暇かけて用意したんですから。今持ってるこの鍵で解錠する必要があります」

 

「じゃあクリスちゃんは術式使えない状態で皆を守りながら侵入者の相手を……!?」

 

「それでもクリスがやられる可能性は限りなく低い……だが相手によっては万が一もある。急いで行った方がいいのは変わらないな」

 

 

そこから教師達の行動は早かった。すぐにこれからの行動を決め、それぞれの役割を分担していく。

 

 

「俺は天元様の様子を見てくる。悟は楽巌寺学長と歌姫の3人で学生の保護に向かえ。冥冥はここで待機して学生の位置を特定、何か異変があればすぐに報告してくれ」

 

「ほーい、分かりました。ほらお爺ちゃん、歌姫、早く行くよー」

 

「委細承知、賞与期待してますよ」

 

 

こうして生徒の保護を頼まれた五条が、楽巌寺と歌姫を引き連れて颯爽と部屋を出て行った。

 

 

「あの、夜蛾校長……私達はどうすれば?」

 

「君達はここで冥冥と共に待機してくれ。少なくともここにいれば大丈夫だ。冥冥、この子達を頼んだぞ」

 

「賞与の上乗せ、忘れないでくださいね」

 

 

そう言って夜蛾も部屋を出て行き、室内にはルビー、あかね、アイ、冥冥の4人だけが残った。

 

冥冥は悠々と椅子に腰掛け、携帯を手にしながら与えられた仕事をしっかり熟しているが、待機を命じられた3人の表情は暗い。突然の非常事態に漠然とした不安と言葉にできない恐怖が募る。

 

 

「クリス……お願いだから死なないで」

 

 

ルビーが弱々しく零した言葉が、シンと静まり返った部屋の中で嫌に響き渡る。大切な妹が危険に晒されて徐々に不安が膨れ上がっていく。

 

 

「大丈夫、クリスならきっと大丈夫だよ。絶対何とかなるから……ね?」

 

「ママ……」

 

 

それでもアイはクリスの無事を信じ、不安に苛まれるルビーの背中をそっと擦りながら優しく微笑む。

 

そうして肩を寄せ合う2人を横目に、あかねも心の中で合掌しクリスの無事を祈った。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

場所は変わって、森の中。虎杖達は突如自分達を襲ってきた謎の呪霊と対峙していた。

 

 

「クリス先輩……それに皆まで」

 

「人の心配をしている場合ですか?これから殺されるかもしれないのに随分と呑気ですね、宿儺の器」

 

「何だとてめぇ……!」

 

 

以前対峙した覚えがある特級呪霊『花御』に煽られ、険しい表情で一歩前に踏み出す虎杖。

 

いきなり襲撃されたと思ったら、応戦しようとしたクリスが真っ先に何者かに一瞬で連れ去られ、更に他の皆まで花御の術式で遥か彼方に吹っ飛ばされてしまった。煽られてつい腹が立ってしまうのも無理はなかった。

 

だが、隣にいた東堂はそんな虎杖を手で制して止める。

 

 

「落ち着けブラザー!大切なシスターと離れ離れにされ、俺達3人の友情に横槍を入れられた苛立ちはよーく理解できる。だが案ずるな、クリスはそう簡単にやられる柔な女ではない。あいつの実力を信じろ。他の奴らだってそうだ、必ず無事に帰ってくるさ」

 

「……そうだな。ありがとう東堂、少し冷静になれた」

 

「ふっ、礼には及ばんさ」

 

(私は一体何を見せられているのでしょう……?)

 

 

所々理解の追いつかない東堂の言動と、それを何故か普通に受け入れている虎杖とのやり取りを見て、花御は内心理解に苦しんだ。

 

そんな事などお構いなしに、東堂は花御を指差して言った。

 

 

「さあブラザー、俺達は俺達にできる事を全力でやろう!まずはあの特級呪霊を祓うぞ!」

 

「ああ、そうだな!」

 

(まずは2人……だが油断はしない。他の奴らと違い、あの2人だけ私の攻撃を掻い潜ってこの場に残った。半端な攻撃では簡単に対処されるとみて良いでしょうが……さて、どう来る?)

 

 

臨戦態勢に入った2人をいつでも迎え撃てるように、花御は術式を発動させた。

 

まずは相手の出方を探り、どんな攻撃をしてくるのか確かめる。そのため身体の周りに大量の樹木を張り巡らせ、出来るだけ防御を固める。

 

防御に関して一家言ある花御の基本的な戦闘スタイルである。

 

しかし────

 

 

「ほう、植物を鎧の様に纏って更に防御を固めるか。特級の肉体強度も鑑みれば、それを破って有効打を与えるのは容易ではないだろう……だが!呪霊よ、お前には1つ大きな誤算がある!」

 

「誤算?」

 

「1つ!それはブラザーの実力を甘く見ていること!そしてもう1つは……」

 

「1つだけではありませんでした?」

 

 

花御の冷静なツッコみにもお構いなく、東堂は高々と両手を掲げると、パンッと思いきり手を叩いた。

 

 

「お前如きに俺達3人の絆は引き裂けないという事だ!!」

 

「なっ……!?」

 

 

花御は驚愕した。

 

東堂が手を叩いた瞬間、拳を構えた虎杖がいきなり目の前に現れ、静かにこちらを睨んでいたのだから。

 

 

(宿儺の器、いつの間に!?だが焦る必要はない、このために防御を固めたのですから。まずは攻撃を受け流し、間髪入れず反撃を……!)

 

「黒閃ッ!!」

 

「ガハッ……!?」

 

 

そして、覚醒した虎杖の黒閃が鳩尾に突き刺さった。

 

黒い火花が飛び散り、重い衝撃が花御の全身を襲う。樹木の鎧は黒閃一発で全て引き剥がされてしまい、決して無視できないダメージが肉体に残った。

 

花御はここでようやく己の誤算を自覚する。

 

 

「……なるほど、確かにこれは私のミスでした。まさか宿儺の器が術師としてここまで成長していたとは。どうやら私も本気を出さないといけないようですね」

 

 

花御は先程の一撃で虎杖の実力に対する評価を改め、術式を遺憾なく発揮する事を決めた。

 

 

「……さぁ、ここからが本番だ。準備は良いかブラザー?」

 

「おう!!」

 

 

虎杖と東堂のコンビネーションが冴え渡る。特級呪霊と戦う2人に不安や恐怖は一切なかった。

 

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

一方その頃、クリスは広大な森の中で皆と離れた場所にいた。

 

 

「……まさかここでお前と会う事になるなんてね。これで3度目かな、万?」

 

「ええそうね。かれこれ2ヵ月ぶりかしら?」

 

 

漏瑚に急襲された日以来の再会……口は笑っていても互いの目が鋭く相手を睨み付ける。

 

高専に侵入した花御による奇襲、それに対処しようとしたタイミングで万に横槍を入れられ、あえなく皆と離れ離れになってしまった。今も遠くから巨大な樹木が次々と生え変わる様子が見え、衝撃音と揺れが地面から足裏へと伝わってきている。

 

これ程の規模の戦闘となると、あの場に残された人達の事が心配になる。だが、攻守サポート全てに優れた東堂と黒閃を撃ち込んで覚醒した虎杖なら何とかなるだろうと信じ、改めて万に向き直った。

 

 

「……で、目的は?他にも来てる奴いるでしょ?数と配置と役割はどうなってるのかな?」

 

「正直に言うわけないでしょ。でも私はあんたの足止め役だからそのつもりで」

 

「まぁそうだろうね」

 

 

何だかんだ自身の役割を明かしてくれた相手に、クリスはすぐに納得して頷いた。ここ最近更に実力を伸ばしている万以外、現代最強と並ぶクリスを相手に時間稼ぎは不可能だからだ。

 

しかし逆を言えば、クリスでも迂闊に気を抜けない相手であるという事。ほんの少しの油断が命取りになる可能性がある……それが現在の万の評価だ。

 

そんな相手だからこそ、今のクリスは状況とタイミングが悪かった。

 

 

(……首輪のせいで術式が使えない。外そうにも鍵は五条先生が持ってるし、さっき降ろされた帳のせいで鍵の受け取りもできない。先生がその内壊してくれるだろうけど……あれ、これって結構ヤバい?)

 

 

高千穂での戦いを振り返る。あの時はミゲルの黒縄のせいで思うように術式を行使できなかった。その隙を突かれて万に散々痛め付けられたが、どうにか耐えて勝利した。

 

あれから2年が経ち、あの頃よりも強くなったが、それでも術式無しで万の相手は流石にしんどい。下手すると本当に死にかねない……呪力強化と展延の出力を最大にして、ひたすら回避に徹するのがセオリーか?

 

これからの立ち回りを頭の中で必死に考える。珍しくクリスに緊張が奔る。

 

そんな中、不意に万が笑みを零して言った。

 

 

「ああ、安心して頂戴。今日はあんたを殺す気なんてないから」

 

「……何故?」

 

「別に深い理由はないわ。術式が使えない今の内に殺しても意味がないってだけ。全力のあんたを殺したいのよ、私は」

 

「……驚いた、お前にそんな武士道精神があるなんてね。一体どういう風の吹き回しなんだい?」

 

「宿儺よ」

 

 

それから万は語った。

 

きっかけは2ヵ月前に宿儺と再会した時、宿儺が自分の目の前で他の女(クリス)に愛の言葉を囁いたからだと。

 

愛しの宿儺に愛を教えるのは自分で、宿儺からの愛を受け取るのも自分でありたい。でも肝心の宿儺は忌々しい女狐に現を抜かしてこちらに目を向けてくれない。たとえあの時の愛の囁きがその場しのぎの虚言だったとしても、自分以外の者へ向けられた言葉に変わりはない。

 

ふざけるな、宿儺の隣に立っていいのはお前じゃない、この私だ。今すぐそこを退け、絶対に殺す。

 

それほど強烈な嫉妬と憎悪が万の中で蠢いていた。

 

 

「だったら尚更、何で今ここで殺そうとしないの?絶好のチャンスだと思うけど」

 

「確かにそうね……でも違うの。私はね、宿儺の前では誠実でありたいの。彼に本当の愛を教えるのに嘘は要らない。あんたの事は今すぐ殺したいけど、こんな騙し討ちみたいな形で彼の隣に立ったら、私の愛は愛じゃなくなる。だから今日だけはあんたを殺すのはナシよ」

 

 

クリスは一瞬目を見開いた。とても万の口から出たとは思えない清廉な言葉の数々に。だが、愛する大切な者へ抱くその想いは、クリスには非常に強く共感できるものだった。

 

 

「なるほど、大切な人の前では誠実に、か……。その気持ちはよく分かるよ。そこだけは僕達同じだ」

 

「ふふ、そうかもね……でも、このまま何の成果も無く大人しく帰るってのも味気ないでしょ?」

 

「……ん?」

 

「それにこのまま話しただけで帰ったとして、あいつら絶対何か余計なこと言ってくるだろうから、それはそれでムカつくし……」

 

「まさか……」

 

 

先程まで真剣に愛を語っていた状況から一変し、急に不穏な空気を感じ取ったクリス。

 

やっぱりこの場から離れようかと思ったが、時すでに遅し。

 

 

「とりあえずあんたの手足を2,3本捥ぎ取って、それを仕事の成果として持ち帰らせてもらうわ!覚悟は良いかしら!?」

 

「さっき殺さないって言わなかった!?」

 

「殺しはしないけど、傷付けないとは言ってないじゃない!というか、あんた手足捥ぎ取られた程度じゃ死なないでしょ!」

 

「ざっけんなこのヤロー!怪我を治すのもタダじゃないんだよ!」

 

「どうせ術式が回復したら全て無かった事になるから良いでしょうが!何なら反転術式だけでも十分でしょ!良いじゃないそれで!」

 

「全然良くないよ!?どこが良いんだどこが!」

 

「あーもう、ごちゃごちゃうっさいわねぇ!いい加減歯ぁ食い縛れやゴラァ!!」

 

「結局こうなるのかよ!クソッタレーッ!!」

 

 

凄まじい形相で殴りかかってきた万に対し、クリスも若干ヤケクソ気味に拳を突き出して応戦し始めた。

 

多彩な攻撃に対し、呪力強化、領域展延、反転術式を同時に使いこなして何とか危機を回避する。

 

しかし、呪力強化や呪力操作等の基礎を鍛え直し、術式の練度も練り上げ、以前よりも飛躍的に戦闘力が上昇した万の相手は流石に限界があった。

 

その後、五条悟が帳を破った事で万含めた呪詛師と呪霊は一斉に退散したが、クリスは季節外れの涼しい格好で校舎へ戻る羽目になってしまった。

 

 

 




呪霊襲撃の話ももう少し書こうと思ったけど、あまり長いと前話みたいに冗長な内容になりそうだったので1話で終わらせる事にしました。


※おまけ 呪霊達の退散後

五条「あれ、その恰好どうしたのクリス!?」

クリス「手足捥ぎ取られました」

五条「手足を!?クリス相手にそんな事できる奴いんの!?」

クリス「ほら、高千穂で戦った事がある女の呪詛師の……」

五条「ああ、報告で聞いた万とかいう……そいつがクリスの手足を?」

クリス「ええ、まぁ。色々あってこうなりました」

五条「とりあえず着替え持ってくるね。半袖シャツになってるし、下も左だけ裸足になってる。それにパンツ見えかけてるし」

クリス「いやーん、先生のえっちぃ」

五条「ははっ、そんなの今更でしょ」
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