呪術の子 作:メインクーン
東堂「俺達の絆は誰にも引き裂けない!」
虎杖「黒閃ッ!」
花御「本気を出す必要がありますね」
万「お前の手足捥ぎ取って帰るわ!」
クリス「結局こうなるのかよ!クソッタレーッ!」
呪霊と呪詛師による高専襲撃から一夜明けた翌日。
高専敷地内のとある建物の一室に、関係者含めた教師達が緊急会議を開いていた。その中にはクリスも出席している。本来生徒は立ち入り禁止なのだが、彼女だけは特例で会議への参加が認められていた。
補助監督の伊地知が司会進行を務め、会議は恙なく進められる。主な議題は昨日の襲撃で高専が受けた被害状況の件だったが、内容は酷いの一言に尽きた。
まず、犠牲者が出た。
幸い生徒の中に該当する者はいなかったが、死者数は呪術師・補助監督併せて10人を優に超える。たった数十分でこんなにもあっさりと死者が出る辺り、呪術界が如何に厳しい職場環境なのかが推し量れる。
続いて、何者かによって天元が管理する忌庫に侵入され、そこに保管されていた特級呪物が大量に持ち去られてしまった。
数多の危険な呪物が眠っている忌庫は、天元が直々に管理しているため侵入は不可能に近い。天元の許可も得ず、どのようにしてそこへ侵入できたかは未だに謎のままだ。
とはいえ、今回の犠牲者の状態と過去の報告書を照らし合わせた結果、七海と虎杖が交戦した継ぎ接ぎ呪霊の仕業である事が判明した。順平がこの呪霊に弄ばれた末に殺されかけているので、後輩好きなクリスとしては不機嫌そうに眉をひそめるばかりである。
なお、今回の襲撃事件の詳細には箝口令が敷かれる事となった。特級呪物が持ち去られた事実を呪詛師界隈に勘付かれたくないからだ。特級呪物『呪胎九相図』の一部と『両面宿儺の指』6本が盗まれたとあっては、情報統制しないわけにはいかないので妥当な判断と言える。
これで変に調子づいて呪詛師の活動が活発になったら面倒な事態に繋がるうえ、一般人にまで被害が拡大したら洒落にならない。防げるリスクは未然に防ぐのが一番である。
しかし、これでもまだ安心とは言い切れない。盗まれた呪物の行方もそうだが、複数の特級呪霊と手を組む呪詛師達の今後の動向や彼らの目的が未だに不透明なまま。
加えて、呪霊と手を組んだ万の実力も要警戒だ。最近になって、万が宿儺と1000年前から知り合いだったという衝撃の事実が発覚して以来、彼女は単なる強い呪詛師から現代日本の社会秩序を脅かす特級呪詛師として認定された。
そんな彼女の成長速度は目を見張るほどで、2年前に高千穂で戦った時とは比較にならない。現に昨日はクリスと交戦し、彼女の両腕と左足を捥ぎ取った。クリスが術式を使えなかった状況を考慮しても、彼女相手にそれを実行できてしまう万の実力は紛れもなく本物である。
「「「…………」」」
冷たい沈黙が続く。
報告書を読み終え、一通り情報を整理した後の全員の表情は暗く、山積みの問題がより重く肩に伸し掛かってくる。
そんな中でも歌姫はできるだけ前向きに物事を考えるようにした。
「……とにかく、今は学生達の無事を喜びましょう。一番重傷だったクリスちゃんも完治してるし、他の子達も軽傷で済んだ」
「だが交流会は中止だな。こうなってしまった以上、呪詛師達が付け入る隙を与えるわけにはいかない」
「ふむ、そうじゃの」
事態を重く受け止めた夜蛾と楽厳寺が交流会の中止を決断する。確かにそれは生徒の命を預かる教員として正しい判断だが、肝心の生徒が納得できるかどうかは別である。
現にすかさずクリスから不満の声が上がった。
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。それはないですって夜蛾校長。せっかくの交流会をこんな中途半端な形で終わらせたくないです。続けましょう!」
「いや、そうは言っても犠牲者が出ているわけだし……」
「いーやーだ!いーやーでーすぅー!終わりになんてさせません!このまま続けますぅー!」
「う、うーむ……」
クリスからの怒涛のブーイングに、夜蛾は困ったように眉を下げる。クリスとはとても長い付き合いであるが故に、彼女の我が儘に対してあまり強く出られない時があるのだ。
先程の静けさから一転して一気に騒がしくなった室内で、五条は2人のやり取りを見てケラケラ笑っていた。
「学長、可愛い生徒の頼みですよー?少しくらい叶えてやったらどうですか?」
「悟まで……はぁ、分かった。交流会は予定通り進めよう」
「よしっ!」
五条の後押しが効いたのか、渋々ながらも夜蛾は交流会の続行を許可した。それを聞いたクリスが小さく拳を握りしめて喜びを露わにしている。
重苦しい会議の中で唯一ほっこりする場面であった。
という事があり、クリス達は現在────
「プレイボール!!」
「よっしゃ来いやー!」
「いっけー!かっ飛ばせー!」
「何としても抑えろー!」
皆で野球を楽しんでいる。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ルーティーンが嫌いな五条の勝手な判断で、例年通りの個人戦から急遽くじ引きで野球をする事になった。最初は全員戸惑いを見せていたが、いざ始めるとかなり盛り上がっており、各々が野球を楽しんでいるのが分かる。
特に野球観戦が趣味の歌姫はこの試合に相当気合をいれているようで、今も京都校の生徒達に大声で檄を飛ばしている。プレイする生徒より熱くなっているため、そのノリについていけない者にとってはただただ困惑するだけであった。
そして今、試合は0対0のまま回が進んで中盤に差し掛かろうとしていた。
「ふっふっふ、さぁ来い葵君。今度はホームラン決めてやる!」
「そうはさせんぞシスター、打てるものなら打ってみろ!」
バッターボックスに立つクリス。バットを構え、常にホームランを見据えて相手に鋭い視線を向ける。
対するピッチャー東堂、クリスからの挑戦状に真正面から勝負を仕掛けた。
結果────
「アウトォーッ!!」
「ああああー!もう少しだったのにー!」
「ふっ、今回も俺の勝ちだったな」
「次こそ絶対にぶっ飛ばす!」
高校生とは思えない剛速球で飛んできたストレートを、タイミングを見極めて豪快にバットを振り抜き打ち返す。
だが、しっかりミートしていなかったのか飛距離はあまり伸びず、外野を守っていた西宮にキャッチされフライアウトになった。
「惜しいー!」
「どんまいクリス!次頑張ろ!」
「今度こそ行けるよクリスちゃん!」
応援席ではアイ、ルビー、あかねが拍手しながら皆に声援を送る。大物アイドルや有名女優からの黄色い声は一部の者にとって凄まじい原動力だった。
「うおっしゃああああああっ!!」
「は、速っ!?えっ、何今のボール?とんでもない速さで曲がったんだけど……いやいや、打てんのあれ?」
次のバッターボックスに入った釘崎が呆然とした様子で東堂を凝視する。明らかにプロ顔負けの速度で放たれた球がストライクゾーンギリギリの角度で曲がって来たのだから、到底打てるはずもなかった。
それを見た虎杖がぽつりと呟く。
「……東堂の奴、何かやけに張り切ってね?いつもよりテンション高いような気がする」
「いつもテンション高いけどな。多分、現役のアイドルと女優に応援されて舞い上がってるんだと思う。あの人重度のアイドルオタクってクリス先輩から聞いたし」
「ああ!どうりで俺も今日は何か元気出るなーって思ったら!言われてみれば確かにな!」
「はぁ……」
納得して意気揚々と虎杖は声を上げる。彼もまた自室の壁にグラビアアイドルのポスターを貼るような男。東堂とベクトルは違えど、芸能人に会えば気分が高揚するミーハーのきらいがある。
そんな彼のテンションについていけない伏黒は小さく溜め息を漏らした。
────それからも試合は順調に進んだ。
ルビー達の黄色い声援(勘違い)で覚醒した東堂がホームランを放ち、京都校が1点リードしている状況だった。
「おらぁああああああっ!!」
「何だと!?」
怪物と化した東堂の魔球を的確に捉え、今度こそ綺麗に打ち返したクリス。
凄まじいスピードで打ち出されたボールは低い弾道で守備の頭上を抜き、そのままフェンスに直撃して跳ね返った。
「うわーっ!惜しい!もう少しで入ったのに!」
「でも流石先輩ね、もう既に3塁を回ってるわ。ランニングホームラン行くでしょこれ」
虎杖がホームランまで後少しの打球を見て悔しそうに頭を抱える横で、凄まじい足の速さでベースを駆け抜けるクリスの姿に、釘崎が思わず感嘆の声を漏らす。
「あの人、呪力強化無しでも虎杖の次に足速いからな」
「へぇー、どのくらい?」
「50m走で4.5秒って自慢してた」
「いやおかしくない?人間辞めてるわよそれ……ちなみに虎杖はどうなの?」
「50m走で3秒くらい」
「速すぎでしょ、車かよ」
伏黒の話を聞いて、相変わらず規格外の身体してんなと虎杖に対して内心ドン引きする釘崎であった。
そんな話をしている間にクリスが3塁ベースを蹴ってホームベースに突っ込んだ。目一杯両手を伸ばし、ヘッドスライディングでホームベースをタッチする。
外野の西宮が野球初心者だった事もあり、送球が遅れてホームまで帰る余裕があった。
こうしてクリスは東堂から1点を取り返した。
「よっしゃー!これで同点!どうだぁあああああ!」
「……流石だな、シスターよ。星野ルビーの声援を受けたこの俺から点を取るとはな。だが、取られたなら取り返せば良いだけの事!まだまだ終わらんぞ!」
「えっ、私東堂さんを応援した覚えないんだけど……えっ?」
「あ、あはは……」
「あははー!やっぱり葵君って個性的で面白いね!」
東堂の存在しない記憶による思い出の捏造に、ルビーが無量空処を受けたように困惑して動きを止める。
隣のあかねも今の状況に対して理解が追い付かず、ただ苦笑いするしかできなかった。反対にアイはクリスから色々聞いて知っているのか、東堂の独特な価値観を面白いと言って元気に笑っていた。
その後はというと……
「おらぁ!!」
「な、なにぃ!?」
「入ったぁー!ホームランだ!虎杖の奴、やりやがった!」
「東堂からホームラン奪うとはな。やるじゃねぇか」
「よっしゃー!ナイス虎杖!」
「悠仁君ナイスゥー!!」
「明太子!」
虎杖が逆転サヨナラホームランを放ち、2対1で東京校が勝利した。
「フッ、流石だなブラザー……完敗だぜ」
最後の最後でホームランを打たれた東堂も嬉しそうに笑って虎杖を褒め称える。ただし一瞬背筋が凍るような絶妙な気持ち悪さを孕んだ笑みだったので、味方からはドン引きされていた。
こうして野球大会は終了し、東京校が2年連続で交流会を制する事となった。
そして交流会の締めは勿論……
「みんなー!準備はいいかなー?」
「交流会、最後まで盛り上がっていこー!」
「それじゃあ一曲目!いっくよー!」
「「「あなたのアイドル~!サインはB!」」」
アイ、ルビー、クリスの親子3名による新旧B小町特別野外ライブで夜の会場を盛り上げる。
娘達と一緒にステージで歌いたいというアイの強い要望から始まったこのライブ。話を聞いたクリスは勿論、ルビーも大喜びで行う事になった。ライブ会場の用意は五条が用意しており、突貫ながらかなり本格的なものとなっている。
そうしてB小町の衣装に身を包んだ3人が、瞳の星を煌めかせながら甘美な歌声を観客に届ける。
「「「「「うぉおおおおおおおおっ!!」」」」」
アイドルオタクの東堂を筆頭に、虎杖、五条、パンダ、三輪がペンライトを振り回しながら雄叫びを上げる。悪ノリが好きな狗巻も声を出さない代わりに全力でペンライトを振り回す。その後ろであかねもペンライトを握り締め、可愛らしく振っている。
「うっせーぞてめぇら、もう少し静かに聞け」
「何言ってんの真希先輩!こういうのはノリだよノリ!もっと盛り上がらねーと!!」
「ブラザーの言う通り!ライブ中は己が心のままに声を上げるのだ!」
「ほらほら!皆ももっと盛り上がっていこーぜ!イエェェーイッ!!」
「真希!お前もペンライト持ってぶん回すんだよ!」
余りの騒がしさに真希が愚痴を言うが、すかさず騒がしい4人が真希を取り囲んで更にワイワイ騒ぎ出す。
真希の表情が一段とうんざりしたものに変化した。
「うるせぇ……」
「ほんと、何でこいつらまだこんなに元気なの?」
「でも最後は楽しい交流会になって良かったよ。僕こういう体験なかったから新鮮だな」
「これが東堂の言ってたライブ……というものか?わ、分からん……」
「加茂君そういうタイプじゃないもんね」
「ほらほら!メカ丸も一緒に応援しよ!」
「えっ?いや俺は……」
「三輪もまだまだ元気そうね」
他の生徒も疲れてノリについていけなかったり熱気に飲まれて戸惑ったりと様々な反応を示している。
そんな人達すらライブ独特の熱気が包み込み、ステージ上の3人の輝きは更に増して見る者全てを惹き付ける。
「これは私が一番好きな曲!届いてください!『推しに願いを』!!」
「「「「イエェェェェェーイ!!」」」」
3人の眩しい笑顔が夜空を照らす野外ライブとなった。
ルビー「みんなー!今日は私達の歌を聴いてくれてありがとー!これからもたくさんライブするから見に来てね!」
クリス「ちなみに次のB小町のライブはいつ?」
ルビー「次のライブは10月31日だよ。渋谷の代々木公園で今日みたいな野外ライブがあるの。ハロウィン限定の特別衣装でね!お兄ちゃんも来てくれるみたいだし、ママとクリスもどう?」
アイ「行く行く!絶対見に行くよ!」
クリス「ハロウィンライブ楽しみだね!」