TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
書きかけの作品があるのに性懲りもなく新しい作品を書いてしまいました……。ごめんなさい……。まあ読者少ないしええやろ、ガハハ。
~ 1 ~
「おい、支払えねえってんなら覚悟は出来てんだろうなぁ!?」
「ひ、ひえええ!!でも拙者、金なんてないでござる!ないもんは払えねえでござる!」
賭場に情けない男の悲鳴が響いた。彼は胸倉をつかまれていて、半分もち上げられながらガラの悪そうな男に詰め寄られている。周りの人間がそれを見て、(やれやれ、運のねえ奴だ……。)と言わんばかりに首を振った。
「だあほ!!ほら、ここんところによ~!書いてあるだろ!『日の沈む前にクレイド氏に金貨2枚を返済します』ってな!」
「か、書いてあるでござるかな~?拙者字なんて読めない……。」
「書いてあんだよボケがーッ!!」
「ひえ~!?暴力反対~!?」
そう言って男は壁に向かって叩きつけられる。彼はばったりと地面に倒れるが、叩きつけられた勢いに対してダメージをおったようには見えない。彼の腰元の刀がかしゃりと綺麗な音を立てた。
クレイドという男はさらに男に詰め寄り、間近で彼の顔を睨んだ。
「いいか、お前……舐めてんじゃねえぞ。払えねえってんなら、金山送りだ。手前、一生出れると思うなよ……。」
「ぼ……ざる。」
「は?何言ってんだお前。」
「暴力反対にござる~!!!」
「ぐへっ!?」
男は突然切れると、クレイドに向かって拳を振るった。クレイドはよろけるが、胸襟を引いて男は地面に彼を押し倒した。そして馬乗りになってボコボコに殴り始める。
「この!この!」
「ぐえっ!この、やめろ!『チンピラ侍』が!!」
「黙るでござ!」
「ぶっ!?」
クレイドがぴくぴくと痙攣をし始めると、ようやくその侍は殴るのを止めた。息を切らしていたが、借用書を見つけるとそれをひったくる様に掴んだ。
「ふんっ!こんなもん人を不幸にするだけでござる!こうだ!」
「あ、手前……。」
侍は借用書をびりびりに破いて捨てた。そして借金取りに向かって笑いかけた。
「はっはっは、これで借金はチャラにござる!ではまた!」
そう言ってガハハと笑いながら賭場を後にする。彼の後姿をぽかんと見つめながらクレイドが言った。
「……なんなんだアイツは。」
「兄ちゃん、この街は初めてかい?金を貸す相手は選ばねえと。ま、運がなかったと思って諦めなよ。」
クレイドに向かって一人の町人が優しく、哀れむように声をかけた。
「クソ、アンタ。アイツは何て名前だ?」
「アイツの名前なんて聞いたって碌なこたぁねえ。まあでも、聞こえたら逃げりゃいいんだから、多少は役に立つかね。……ソウジロウ。イチモンメ ソウジロウ。どうしようもねえチンピラ侍さ。」
~ 2 ~
ソウジロウは実のところ侍でもなんでもない。ただの農民の生まれだしそんなに大した名前も持っていない。ソウジロウはそれっぽく付けた、ただの偽名だ。頭が弱いくせに賭け好きで、その悪癖で幾度も身を滅ぼしてきた。ただし腕っぷしだけは強いので山賊だの、マフィアだの、借金取りだの、自分を追いかけてくるものを片っ端からぶちのめして逃げていたら、遂には国境も越えて、この西洋の街にまで来てしまった。
「くそ~、いくらでも賭けられるだけの金が欲しいでござる。」
彼は裏路地を歩きながらそのように言った。さっきギャンブルで借金をこさえたばかりなのに──それも踏み倒したが──彼の頭にあるのはまだギャンブルなのである。本当にどうしよもない男である。
「何か安定した仕事とかないでござるかな~?」
しかしソウジロウも金は欲しい。たらふくの飯と良い寝床と、何より好きに賭けても文句の言われない金が欲しかったのである。まあ面倒くさがりで大雑把な彼の言う『安定した仕事』とは、たっぷりの給金と簡単な仕事という夢物語みたいなものであったが。
彼の腕を見込んで何度か用心棒などをさせてみた奇特な人間もいたが、そもそもやることを覚えない。基本的に自分勝手な男なのですぐに揉め事を起こす。そんなこんなですぐに解雇されてきた。この街に来てまだ一週間ほどだが、すでに悪評が広がり始めているので、彼は疎まれ始めていた。
「うん?なんでござろう、この看板は?」
彼の目に見慣れぬものが映った。その看板は奇妙なものであった。盾の上に、交差した剣と杖が載せてある絵だ。その建物の中を覗いてみれば、鎧具足や西洋の刀剣、さらにハンマーや杖まで担いだ人物がひしめいている。
彼はそれを見て「もしや……戦?」と思い首を傾げた。
「君!もしかして初心者かい?」
「うん?」
突然、ソウジロウは後ろから声をかけられた。見るとそこには三人の人間がいた。腰に剣を差し兜を被った話しかけてきた男、手にナックルダスターをはめて腰には短杖をさした男、その後方に控える無口そうな神官服の女……その三方がいつの間にかソウジロウの後ろにいた。
「はっはっは、緊張しなくていいよ。良ければ一緒に入ろうか?」
「……うん?貴様らは軍人でござるか?」
「え?いや違うけど……。」
「む、ならここは何でござる?戦の詰め所ではないのか?」
「い、いや違うよ。ここは冒険者ギルドって言ってね……。」
「フラスコ……。」
「ああ、分かったよ。先に入ろう。依頼がなくなるといけない。」
フラスコと呼ばれた兜の男は口元だけにっこりと笑いながら、ソウジロウの背中を押してその建物の中に入っていく。彼は頭の中に?を浮かべながらも、することもないので大人しく従っていた。或いは彼の小さな頭では、状況を処理できなかっただけかもしれないが……。
その建物の中は存外綺麗な物であった。しかしそれとは対照的にガラが悪く、汗のにおいのする屈強な男たちが多くいた。彼らがソウジロウたちを物珍し気な顔で眺めるたびに、ソウジロウが睨み返すため彼らはなかなか前に進めなかった。
「き、君!そんなに緊張しなくていいんだよ!」
「緊張なんかしてないでござる。……でもあの野郎、こっちを睨んできやがったでござる。ぶちのめしてくるでござ……。」
「け、けんかっ早いなぁ!もう!」
列に並んでいると、彼らは遂に先頭に出た。カウンターの裏には綺麗な受付嬢が、華美な服を纏って色香を振りまいているが、意外にもソウジロウはそれに対して反応しなかった。彼の女性に向ける欲求は、もしかしたら丸ごとギャンブルに吸い取られてしまったのかもしれない。
「フラスコさん、どうもこんにちは。その方は?」
「ああ、どうも初心者みたいなんだ。ギルドの前で恥ずかしがってたから連れて来たんだよ。」
「そうなんですか!ありがとうございます!それではフラスコさんたちのパーティには依頼の方をお隣の窓口で紹介させていただきます。貴方はこちらに。」
「わかったでござ。」
適当な侍口調でソウジロウは返答した。フラスコとその仲間たちが手を振りながら隣の窓口に歩いていくので、それに対して手を振り返す。彼はまだいまいち状況が呑み込めていなかった。しかし、辺りに漂う戦場の空気、そして武器を手にした人々……それが無意識のうちにか居心地よく感じて、対して抵抗することもなくこの場所に歩んできてしまっていた。
「で、ええと……ここはなんなんでござる?」
「ええ、ここは冒険者ギルド『テレスト支部』でございます。主に近場のダンジョンに関する仕事を取り扱っております。」
受付嬢が真面目な様子にそのように答えた。この冒険者ギルド、という場所の説明自体をソウジロウは求めたのだが、この場所の特色を説明されてしまった彼はさらに目を白黒させた。
「……???」
「ええと、そうですね。貴方のお名前からお聞かせください。」
「ソウジロウでござる。」
「ソウジロウさん、ですね。東洋の生まれですか?珍しいお名前ですね。それでは貴方の得意な分野もお願いします。」
「得意な分野……敵を直接ぶちのめすことは得意でござる。」
「近接格闘が主……と。成程、魔術や加護などは使用できますか?」
「できないでござる。」
「わかりました……。それではソウジロウさん、こちらにお手を乗せてください。」
「……???」
ソウジロウが言われるがままに白く清潔な台の上に手を乗せた。その途端、何もない白一面だったその表面には青く光る紋章が浮かび上がり、一瞬その中にソウジロウは吸い込まれるような感覚がした。
「う、うおおっ!?」
「はい、ソウジロウさん。マナの登録が完了しました。手を離してもらっても結構ですよ。」
「は、はいでござ。」
彼はおとなしく手を離し、珍しく怯えたような顔をした。彼は妖怪は平気だが、幽霊は苦手だという面倒な性分をしていた。なぜなら触れられなければ幽霊は倒せないからだ。そのため実体のない存在というのが極めて苦手であった。
「これで全ての登録が完了しました。これからは依頼の紹介もさせていただきます。」
「依頼……つまり何をする仕事があるんでござるか?」
そろそろソウジロウにも状況が飲み込め始めていた。ここは仕事の斡旋場のようである。
「そうですね、実際の内容は多岐に渡ります。素材の収集、護衛、壊滅したパーティの救出……。」
「拙者複雑な内容は覚えきれねーでござる。」
「ま、まあ害敵を倒す仕事が主ですかね。」
「敵を倒す……仕事?」
「そうです。」
「それだけでいいんでござるか!?」
「え、ええ。」
ソウジロウが突然叫んだので受付嬢は若干引いた。それにも気づかずにソウジロウは嬉しそうに目を輝かせる。
(なんと……。そんな簡単な仕事があるとは!拙者どうにも人の顔を覚えられねえから、護衛の仕事もまともにこなせないんでござる。なんでも斬っていいとは、なんと拙者にぴったりの仕事か!)
なんでも斬っていいとは言われていないのだが、彼はそのように確信していた。基本的に彼の頭は阿保なのである。賭け事による爆発的な金額の増減に頭の中がやられてしまっている病人なのである。
「そうですね……フラスコさん!」
「うん!わかってますよ!ソウジロウさん、良ければ今回は私たちと一緒に迷宮に潜らないかい?我々、結構ベテランだよ!」
「ほうか、ならついていくでござる。」
ソウジロウは特によく考えずにそう答えた。