TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~   作:庭鳥

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 第十話です。迷宮の三層をいよいよ本格的に探索していきます。今までの一、二層ではそうでもありませんでしたが、これからは迷宮に一定の方向性というかテーマが出てきたりします。三層では物に宿ったポルターガイスト系の敵が多かったりですね。ともかく始まります。



第十話 三層特別討伐隊② 悪しき霊達

 

 

 

 

~ 18 ~

 

 三層への階段を前にすると、フラスコは後ろを振り返り真面目な顔をして口を開いた。

 

「皆!これからはあらかじめ決めた通りに動いてくれ!激励は省略させてもらう!それでは、タイタニスト攻略の時にまた会おう!」

 

 彼はそのように短く、的確に言葉を吐いた。集団に引き寄せられて敵が集まってくると面倒になるためであろう。素早く、三階に行けば広がる必要があったのだ。彼は先だって三層の階段をするすると降りていく。それにボトルとアンプルが続いて降りていき、さらに他の荒々しい冒険者たちも続いていった。

 

 ほとんど最後尾のソウジロウ、ゴールド神父、トラフトの三人は遅れて三層に入ることになった。三層の階段を駆け下りると、二層とは少し様子が違っていた。苔むしたレンガの壁は、二層までの冷たい石造りの壁よりも濃厚にマナの香りを伝えてくる。さらに、成程、話に聞いていた通り二層からの階段の正面には遠目に四層に続く階段が見える。だがその正面の広い通路には、鎧と剣と盾を装備したであろう重装騎士……その装備に宿ったであろう霊がうじゃうじゃと徘徊していた。その高密度の鉄の塊の奥には確かに()()()()も見える。彼らのパーティも息をのんだ。

 

「す、すごいですねぇ。」

 

「ま、そうですね。……もたもたせずにさっさと細道に入りましょう。()()()()()()()どもに見つかると面倒です。」

 

 トラフトが感心したように、恐れたように声を出し、それをゴールド神父が咎めた。彼はさっさと事前に決められた右にある三番目の細道に一人で勝手に入っていく。ソウジロウとトラフトはそれを慌てて追いかける。ソウジロウがそんな中、ポツリと声を漏らした。

 

()()()()()()()?」

 

「……あの重装騎士のポルターガイストの名ですよ。何でそんな事も知らないんですか。」

 

「むっきーっ!?一々嫌味な奴でござるな!」

 

 そう言ってソウジロウは憤慨する。その様子に慌ててトラフトが声を出した。

 

「ゴ、ゴールド神父は物知りなんですね!でも言い方には気を付けた方が……い、いえっ気を付けてください!不和を招くような真似は私が許しません!」

 

「ふうん。貴方の言い分の方に理がありそうだ。今回は引き下がるとしましょう。」

 

 そう言ってゴールド神父はやれやれと言わんばかりに肩をすぼめた。ソウジロウはまだ何か言いたげであったが、トラフトの手前口を開くのを止めた。

 

 さて、ともかく彼らは細道に入った。そして少しづつゴーストナイトたちの数を減らし、タイタニス攻略に備える。それが作戦だ。そのため彼らは細道を通って、階段に続く広い通路に時折顔を出し、そこでゴーストナイトを撃破する。そのように動いていた。

 

 細道の中には体格の大きいゴーストナイトたちは入ってこないようであった。その中をソウジロウが先頭を松明を掲げながら進み、弓術士であるトラフトが中盤で前後を警戒し、後方でゴールド神父が進む。特に話しあったわけでは無かったがそういうことになった。

 

「ん、なにかいますよ!皆さん!」

 

「ン!?」

 

 トラフトの鋭い警告の声と共に接敵した。それは奇妙な光景であった。剣、槍、短剣、盾、杖がひとりでに浮いている。さらにそれぞれが害意を持っているかのようにソウジロウたちにその切っ先を向けてくるのである。ゆらりゆらりとそれ人間に操られるかのように、しかしひとりでに動いているのである。ゴールド神父の低く、冷静な声……いっそ冷徹であるかのような声が響いた。

 

「ポルターガイストどもですねぇ……。何よりもまず杖のタイプの撃破からです。魔法を使ってきますよ。」

 

「スペルキャスターですかっ!」

 

 トラフトがそのように言いながら弓を引き絞る。そして矢を浮いている杖に向かって撃ち放った。新米と言えど、狙いは正確であった。あの細い物体によく精密に狙えるものであるが、その矢はまっすぐ杖に向かって進んで行く……だがその途中で盾のポルターガイストが前に躍り出て、矢をその身で弾き飛ばした。多少、その表面に傷はついたがまだまだ無事に見える。

 

「ふ、防がれましたぁ~っ。」

 

「ええい、拙者がぶち壊してやるでござる!」

 

 そう言ってソウジロウが松明を放り出し、影饅頭を引き抜いて駆けだす。その前に浮いた剣がまるで薙ぎ払うが如くその体を動かしたが、彼は大きく飛び上がるとそれを避けた。そしてすれ違いざまに影饅頭をその刀身に力任せに叩きつける。頑丈さが売りの影饅頭と、霊が宿っただけの数打ちの剣……剣のポルターガイストはバラバラの鉄片になり砕け散り、存在を保てずに消滅していった。

 

「ほう。」

 

「まずは一つ!」

 

 ゴールド神父が小さく感嘆の声をあげる中、浮かんだ槍が鋭い突きを繰り出してくる。ソウジロウはそれを軽く頭を振って避けると、素手で槍の中ほどを掴んだ。槍は一般的に刀よりも戦闘向きで強い、と言われている。その理由は射程の長さにこそあり、また懐に潜り込めばその利点は消える。強者の振るう槍にかかれば、近づくことなど出来もせずに穴だらけにされるのが落ちであるが、心なき悪霊共が振るう槍などこの程度と言えた。

 

「……!」

 

「ギギギ、ふぅん!!」

 

 ソウジロウはその槍を握って抑えていたが、膂力に任せて槍をへし折った。硬い木材で出来た手槍が、ぷらりと少しの木片を頼りに浮かんでいたが、そこにソウジロウは容赦なく影饅頭を振るい入れて完全に叩きおった。

 

「ソウジロウさん!そろそろ術が来ます!」

 

「むっ!急ぐでござる!」

 

 トラフトの叫びに、ソウジロウはそのように返した。さらに短剣が襲い掛かってくるが、彼は影饅頭を振り回して一旦それを弾き飛ばした。短剣は消滅はしないものの、遠くに吹っ飛んでいく。その隙にソウジロウは前に進み出る。彼も魔術の厄介さは多少理解していたのだ。

 

 だがその前にまたしても盾の悪霊が躍り出た。まるで嘲笑うかの如く、杖の悪霊の前に陣取ってゆらゆらと揺れている。ソウジロウは突進をしながら口を開いた。

 

「邪魔をするなでござる!」

 

「……。」

 

 ガキィン!という音と共にソウジロウの影饅頭が盾にめり込んだ。だが今までの手ごたえとは異なるものであった。盾の表面にへこみは出来ていたが砕けず、さらに吹き飛ぶこともなく受け止められていた。ソウジロウは目を丸くして驚いた。

 

(ぐっ!硬ぇでござる!こいつ!)

 

「……!」

 

 さらにその盾はその身を振ってソウジロウに叩きつけを食らわしてくる。彼が腕でその一撃を受け止めると、びりびりと腕が痺れた。彼はお返しと言わんばかりに盾の表面を殴り返し、さらに続けて影饅頭を両手に持ち替えて殴り続け始めた。

 

「このっ!このっ!」

 

「……。」

 

 盾の表面に傷やヒビが増えていくが、その間に杖がソウジロウたちに向けられる。ついにどこか機械的な詠唱が響いた。まさしく魔術の神髄といえる。短く、洗練された詠唱……心持たぬ物体に宿った悪霊と言えどもその威力は十分であった。

 

「『シープカウント』……。」

 

「ござる!?」

 

 カチリ、そのような音と共にソウジロウの脳内に強烈なイメージが流れ込んでくる。羊が牧場で一匹、眠りこけるイメージ……それを感じ取った瞬間、ソウジロウは強烈で抗いがたいほどの眠気を感じた。ぐらりと視界が揺れて、手元が定まらなくなる。

 

「こ、これは……ござ……?」

 

「わ、私の方にも……。」

 

 さらに後ろにもいたトラフトもぐらりと視界が定まらなくなる。なんと恐ろしい攻撃か。熟練した戦士にも、弓術士にも難しい御業。それを容易く魔術は可能にする。……範囲(グループ)攻撃、という技術である。ゴールド神父も目を細めてあくびを一つしていたが、カッと目を見開くと自分の唇に血が出る程歯を立てながら、ステッキを構えた。

 

「『マスケティブラスト』!」

 

「……!」

 

 轟音と共に辺りの空気が吸い寄せられるような一瞬の間の後、構えられたステッキから魔力で形作られた弾丸が飛び出した。ブラスト系の魔術の真髄、それは徹底的に物理攻撃にこだわったところにある。魔術でありながら、物質を形作って投射することにこだわった。曰く、人類のもっとも古き遠距離武器は投石であったという。まさしく、古き良きを体現した魔術系統であるといえる。

 

 ガァアン!!という激しい音が響いた。鉄と鉄が反発しあう強烈な音である。だがその強烈な一撃はひび割れた盾の悪霊には十分であったようで、そのどてっぱらに風穴を開けた。宿るものを失った盾のポルターガイストが半透明になり消滅していく。ゴールド神父は、さらにトラフトの方に近づくとその頭をステッキでぽかりと叩いた。

 

「い、痛いですよぉ!」

 

「『シープカウント』は強烈な眠気を植え付けるシープ系の初期魔術です。眠り状態に移行するまで時間はかかりますが、複数を対象に撃てます。ただし眠りはダメージを受ければ吹き飛びますので、知っていれば対処は容易です。……わかったらさっさと杖の悪霊を始末してください。」

 

「は、はい!」

 

 トラフトは矢をバシバシと飛ばし、守る者がいなくなった杖の悪霊を破壊した。盾の悪霊がいなくなれば、もろい杖など相手にもならなかった。その前の方ではソウジロウは大いびきをかいて眠りこけている。

 

 それをまるで睨むようにゴールド神父は見ていたが、壁に刺さったままであった短剣の悪霊を見ると、そこにステッキを二、三度振るって破壊した。これで全ての悪霊は退治された。戦闘はとりあえず終了といえる。彼はそれからソウジロウの方に歩み寄ると、蹴りを頭に入れて叩き起こした。

 

「フゴッ!?」

 

「……もう一度説明するのも面倒ですからねぇ、トラフトさんから聞いてくださいね。とりあえずさっさと起きなさい。」

 

「うん?羊が……ううん夢でござったか。」

 

 そう言いながらソウジロウは起き上がった。魔術のなんと恐ろしい事か。あの鬼人のごとき強き男、ソウジロウをいとも容易く無力化した。阿保な彼にはまだ伝わり切らぬが、この辺りに迷宮の恐ろしさが潜んでいると言えよう。いつぞや受付嬢に忠告されたように、強いだけでは迷宮の探索など出来ようはずもないのだ。

 

「あ、でも宝箱がありますよぅ!」

 

 そう言ってトラフトが嬉しそうに叫ぶ。その視線の先には確かに箱のようなものがあった。迷宮にはどういうわけか、このように宝物が入った箱が時々設置されている。それは冒険者たちの貧しい懐を温めてくれるものであるが、大抵罠ともに置かれている。それでいて時々は素晴らしい武具なども収められているのだから、余計に手におえない。即ち、人間の欲望に根差した魔物とも言えた。しかしともかく、殆どの冒険者には喜ばれる代物であることは間違いない。

 

「ふむ……討伐任務中ですが禁止はされていなかったですし、開けて良いんじゃないですか?」

 

「そ、それじゃあ開けちゃいますよ!あんまり活躍できない分、こういうことは任せてください!」

 

 そう言いながらトラフトは張り切って宝箱に縋りつき、かちゃかちゃと器具を動かし始める。その後ろで立ち上がったソウジロウが眠そうに目を擦っていた。そしてどこに呟くでもなく、ポツリとこぼした。

 

「でも、拙者には『杖』よりも『盾』のポルターガイストの方が強かったように感じたでござる。」

 

「まあ、奴らは固いですからねぇ。戦士から見れば苦手意識もあるでしょう。でも我々魔術師からすれば、攻撃は痛くないし、魔術はよく通りますし、逆にカモですよ。」

 

「そうでござるか……。」

 

「ま、相性ってやつですね。」

 

 それだけ言ってゴールド神父は口を閉ざした。彼らも仲の良い方ではない。沈黙の中、器具を動かす音だけが響いていた。そんな中、再びゴールド神父がにやりと笑って口を開いた。

 

「しかし君の剛力は思った以上でした。ですがそれ以上に、簡単な魔術にも対応できない低能っぷりも予想以上でしたがね。」

 

「褒めてるんだか、けなしてるんだか、どっちにござるか……!?」

 

「勿論、けなしています。」

 

 その言葉を聞くとソウジロウが「ムッキーッ!?」と猿叫しながら憤慨する。今はダンジョンの中なので抑えているようであるが、今にも武器を抜きかねない様子だ。それを見てゴールド神父がせせら笑っている。

 

 そんな時、ようやく宝箱を開け終わったトラフトが戻ってきた。

 

「あーっ!目を離したらすぐに喧嘩するんですから!もうっ!これあげますから仲良くしてください!」

 

「……なんです、これ?」

 

「綺麗な指輪でしょう!」

 

 そう言ってトラフトは指輪を二つ差し出してきた。どうやら宝箱の中身だったらしい。迷宮の中ではしばし、このような装飾品も見つかる。例えば魔法のこめられたステータスアップの指輪であったり、冒険に持ち込む価値はないただの装飾品であったりする。これはどうやら後者らしい。魔法の気配のないただの美しい指輪である。

 

「これを……拙者たちに?」

 

「そうです!この迷宮だけでも仲直りにしるしとして!」

 

 トラフトはそう言いながら二人に向かって笑いかける。果たして、その視線がねばつくようなものであったことに二人は気づいたのかどうか……。しかし、二人はほぼ同時に答えた。

 

「「……え、嫌です(ござる)けど。」」

 

「えぇ~!?な、なんで!?」

 

「いや、普通に男とペアルックとか嫌ですし。」

 

「それに指輪というのがさらに重いでござるな。」

 

「そこだけは同意ですね。」

 

 そう言いながら二人はブツブツと文句を言いながら気味悪げに歩き始めた。ゴールド神父が何かに気づいたのか、ソウジロウに向かって指輪を放り投げた。

 

「私の分は君にあげますよ。誰ぞ適当な女人にでもあげなさい。」

 

「あ、そうでござるか。」

 

 そう言ってソウジロウは汚らしい雑嚢の中に指輪を放り込んだ。仮にも価値の高き宝石であろうに彼は全くその辺を気にしない。その様子を見ていた、トラフトはぐぬぬと手を握りしめ、歯をギリギリと言わていた。

 

(くっ……あの二人()()()と思ったんですが……まあいいです!……このくらい許されますよね!妄想くらいしなくちゃあ、ダンジョンなんか正気で潜れっこありません!)

 

 彼女はそんな風に考えていた。是非や善悪はともかく、彼女もまた企むものであった。

 

 

 

 

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