TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
第十一話です。あまり関係ありませんが、三層特別討伐隊ってなんか言いづらくて嫌ですね。攻略隊にするべきか……別に攻略してるわけではないし……どことなくソードでアートな物語と被るし……討伐隊でいいか!という安直な考えでこのタイトルのまま行きます。
~ 19 ~
「『ストーンブラスト』……。」
「うううん!ほりゃあああでござ!」
その掛け声とともにソウジロウは影饅頭を振るい、飛んできた高速の石弾を弾き返した。その石塊がぶち当たった杖型と盾形の悪霊が同時に消滅する。ソウジロウはそのまま前に駆け出し、刀型の悪霊に向かって影饅頭を振るった。鉄片が舞い散り、その悪霊が悲鳴を上げる暇もなく消滅していく。
だが間髪入れずに彼の前に斧型のポルターガイストが現れ、後隙を突くように彼に攻撃を仕掛ける。彼はそれを見て軸足を固定すると、叫んだ。
「うおおおおおおおああああ!!」
「「……!」」
彼は足を中心に回転し、斧型二つの柄の根本、その両方を同時に攻撃した。衝撃に耐えきれず二つの悪霊は折れて消滅した……。こうして本日
「ソウジロウさん!お疲れ様です!」
「おお、ありがとうでござる。」
弓士トラフトの言葉を受け取ったソウジロウは、そのように嬉しそうに返答した。彼らは細道に入ってから数度の戦闘を繰り返していた。最初の一回こそ連携なども拙かったが、四度目ともなれば慣れてくる。今回の戦闘のように、ソウジロウ自身もポルターガイストの相手が慣れてきて、彼が武器を振るうだけで終わる戦闘も増えていた。
探索はなかなか順調と言えた……だが。ソウジロウはちらりとゴールド神父の方に視線を向けた。彼は口笛でも吹きそうなほど余裕そうにすました顔をしていた。だがその胸中にあるものが決して良き方向に伸びるものだけでないことをソウジロウは知っていた。彼は珍しく、人間に対して警戒をしていた。まさしく以前の手痛い一撃を意識していたのである。そんな中、ゴールド神父がどこか芝居がかったように鼻から抜ける声を出した。
「……良い戦闘でした。まさしく、ええまさしく。迷宮での戦いかくあるべしといった様子で、ええ!相手に攻撃もさせずにそのまま撃破する。これ以上に安全な戦い方などそうそうありませんからね。」
「あ、ありがとうでござる。」
そう言ってソウジロウはゴールド神父の方にも礼を言う。しかしそれはどこかぎこちなさが隠しきれてはいない。既にダンジョンの先に向けて歩き始めたゴールド神父の背中を見ながら彼は内心で思った。
(くっ!こいつどこまで信用していいものか……いや、思い出すでござるソウジロウ。信用なんかしちゃだめでござる。ボトル殿はそう言っていた……。こいつは信用ならない人間でござる……。これでいい。協力はする。しかし警戒を怠ってはいけないでござる。」
そう心の中で思いながら……いや後半は口に出てしまっていた。ソウジロウという男に腹芸が難しい所以である。良くも悪くも……いや大抵は悪い方に……彼は正直者なのである。少なくとも彼らは表面上今のところ穏やかに過ごしていた。無論、彼らの中が良くなったわけではない。迷宮という存在が彼らの関係がそうさせるのである。古来より敵同士が手を組むの理由など一つと決まっている。すなわち共通の敵の存在こそが彼らをかろうじてつなぎとめているのである。
~ 20 ~
彼らは細道から大通りに目を向けていた。その視線の先では一人の冒険者が、ゴーストナイトの群れの内、三体ほどの気を引いて細道に誘い込んでいくのが見えた。どうやら上手い事囲まれることなく誘導出来たようである。それをじっと見ていたゴールド神父がゆっくりと口を開いた。
「さて、我々もそろそろ本業に取り掛かるとしましょうか。……と、その前に。」
「……ん、なんでござる?」
ゴールド神父はソウジロウの事をじっと見つめた。その視線の意味にソウジロウは気づかず、またトラフトがどこか嬉しそうにねばつくような視線を二人に交互に向けている。ゴールド神父は眉をひそめながら再び口を開いた。
「ゴーストナイトの事どこまで知ってますか?」
「全然知らないでござる。」
「……君は?」
「わ、私は少しなら知ってますが……じ、自信はないですね。」
「よろしい。先に奴らの説明をしておきましょう。」
そう言ってゴールド神父は一つ咳払いをする。そしてゆったりとした神父服の内側に手を突っ込むと、その中から一冊の本を取り出した。表紙には『魔物図鑑④』と書いてある。彼はそれのページをめくりながら口を開いた。
「ちょっとお待ちくださいね……ゴーストナイトは一体の霊に見えますが、実際には複数の霊体の集合体です。鎧を操る霊がいて、武器を操る霊がいて、盾を操る霊がまとまって、騎士の姿を形作っているんです。まあだからどうというわけではありませんがね。普通に強敵です。……このページです。」
彼は一つのページを指し示した。そこには挿絵付きでゴーストナイトの情報が様々書かれている。中々精巧な図鑑であった。
「強靭にして力も強く、体力も多いです。まあ魔法は基本的に使わないのが救いですがね。他に何かありますか?」
ゴールド神父がそのように二人に声をかける。トラフトは彼の手元の図鑑を見て、興味深げに息を吐いた。
「魔物図鑑ですか。良いものをお持ちだ。……でも高かったでしょう。」
「良いものを手に入れるのに金に糸目は付けません。それが必要な物なら猶更です。」
そう言って彼は得意げに笑った。その目はソウジロウを完全にとらえている。その視線は嘲るようで、どうやらソウジロウを揶揄っているらしい。だがソウジロウは取り合わず、代わりに一つだけ息を吐いた。
「……フンッ。」
「なんです、ソウジロウ君?」
ゴールド神父がソウジロウを睨みつけた。だがソウジロウもまたそっぽを向いて苦々し気に吐き捨てるように言った。
「金持ちの理屈にござる。貧乏人がケチで買わないと思うのか。どうしようもないから、必要な物すら選ぶしかない。それが全てでござる。
「……。」
「ケッ!なんでござる!」
ゴールド神父はソウジロウの言葉を聞くと珍しく嫌味も言わずに押し黙った。だがしかしその視線が木の洞のように暗いものになったので、ソウジロウとトラフトは共に驚いた。だがソウジロウは(気圧されるものでござるか!)と内心で思って耐えていた。しばらくの沈黙の後、ゴールド神父はどこかぶっきらぼうな様子で口を開いた。
「私は……
「……。」
それは自分に言い聞かせるようであった。不可解な間が辺りを支配した。トラフトが恐る恐るその沈黙を破るまで辺りでは誰もしゃべらなかった。
「ご、ゴールド神父?」
「……しゃべりすぎました。ともかく、これからゴーストナイトの討伐を始めましょう。」
ゴールド神父はそのように強引に話を打ち切った。そして背中を向けて大通りの方に向かう。そうなれば最早二人もそれに従うほかない。彼の発言の意味を確かめる時間などはなかった。
~ 21 ~
彼らは大通りに目を再び向けた。冒険者たちがすでにゴーストナイトの討伐を始めているであろうが、未だ数えきれぬほどの数がいた。その全てを相手取るのは極めて難しいだろう。そのための討伐作戦であるのだ。ゴールド神父が小さく周りを憚りながら声を出した。
「良いですか。あのうちの一体か二体……多くても三体までをつり出します。そうしたら細道で相手取ります。奴らは強い。私も魔法をバンバン使いますから、お二人もどうかそのつもりで全力でお願いします。」
「わかりましたが……つり出すのは誰が?」
「そうですね……。」
ちらりと視線を向けられたソウジロウがやる気を出すように息を出す。だがそれを見てゴールド神父は眉をひそめた。そしてトラフトの方に向き直ってから言った。
「トラフト君に頼みましょうか。弓で攻撃しておびき出してください。」
「了解しましたぁ!」
トラフトがそのように元気そうに声を出す。肩透かしを食らったソウジロウは微妙な表情をしていたが、しかしすぐに気にしない様子に戻った。彼は最近このような術を覚え始めていた。あるいは怒りすら忘れっぽいだけかもしれないが。ともかく、トラフトが弓に矢をつがえた。そして十分に引き絞ると狙いを定めて一発撃った。さらにそれだけでない。神速で矢をつがえ、瞬きの間に二射目を放っている。
達人の技は間隔が短くなり続け、いずれ完全に同時に存在することすら可能であるという。それは眉唾なものであるが、トラフトの技もなかなかのものであった。その矢は弧を描いて飛んでいき、ゴーストナイトの重そうな甲冑の胸元辺りに同時にヒットした。彼らは射手であるトラフトの存在をみとめると、その鈍重そうな見た目とは裏腹に素早く走り寄ってくる。トラフトが慌てて、だが周りを刺激しないよう小声で器用に叫んだ。
「わわ、当たりましたが来ますよぉ!」
「上出来です。……細道に来たら、ソウジロウ君。君が前にでて一体を止めてください。一体は私が仕留めます。」
「わかったでござる。」
ソウジロウはそのように言って影饅頭を構えた。細道の中の曲がり角に走り寄る影が揺らめいた。がしゃがしゃと寄ってきた鎧具足達に向かってソウジロウはまず足払いを仕掛けた。
「そおっ!」
「「……!」」
一体がつんのめって派手な音を立てて転ぶが、もう一体は素早い動きで上空に逃げた。さらにその手の剣でソウジロウを狙ってきている。彼の額に汗が浮かぶが、どうにかその一体を蹴り飛ばすことで難を逃れた。その見た目とは裏腹にとても素早いらしい。さらにソウジロウの蹴りも盾で完全に防がれている。そのため派手に吹き飛ぶこともなく、着地して再び刃をソウジロウに向けていた。ソウジロウは思わず乾いた唇をなめながら心の内でぼやいた。
(成程……こりゃあ強敵でござる!)
ソウジロウが一体と対峙している中、ゴールド神父は倒れ伏したゴーストナイト一体を足蹴にした。抵抗し、すさまじい力で激しく暴れ回ろうとするゴーストナイトをゴールド神父は必死で押さえつけながら、ステッキに手をかざした。するとステッキはひとりでにゴーストナイトの方に狙いを定めた。以前もステッキだけが一人で歩いていたように、それ自体にも魔法が込められているようであった。ゴールド神父は声を張り上げた。
「『マスケティブラスト』!……『マスケティブラストォ』!
一度目の銃声で鎧はビクビクと悲鳴でも上げるが如く痙攣し、二度目で完全に動かなくなった。……しかし連続での詠唱はマナの消費もさることながら、心身ともに削られるものである。ゴールド神父は肩で息をしながら、汗を拭った。今後の戦闘の事も考えると、もうこれ以上魔術を使わせるべきではないだろう。後ろで見ていたトラフトとはそう考えながら矢を引き絞った。ソウジロウの援護をするためである。
「ソウジロウさん!撃ちます!」
「応ッ!!でござる!!」
撃ち込まれた矢は、またもや正確な盾さばきでゴーストナイトの体からは逸れていくがその隙にソウジロウは影饅頭を振り抜いて近づいた。迎撃しようと上段から剣が振り下ろされてくる……!
「ええいっ!!」
「……!」
だがソウジロウはいきなり速度を上げて、ゴーストナイトの胸元に突っ込むと、影饅頭を持っていない左手でその剣を振るう腕……その甲冑部分を吹き飛ばした!……貴族同士の戦いでは、死合を避けるため針のような直剣、レイピアを使っての決闘が時々起こる。その時に左手には攻撃を弾く用の小さな盾を持つ場合があるという。ソウジロウは知らないうちに、攻撃を空いた手で弾き飛ばすそのような技術を身に着けていた。このような技術は
「
「……。」
ソウジロウが万力の力をこめて影饅頭を振るう。だが……だがその一撃はゴーストナイトの鎧で受け止められた。ソウジロウは目を見開く。さらに後方ではゴールド神父もこれを見て驚いていた。ソウジロウの馬鹿力は相当である。さらに彼の持つ直剣『影饅頭』は貴重な金属ミスリルも混ぜ込まれており、やたらと頑丈である。まさか防がれるなど思っても見ていなかった。彼とてソウジロウのことなど大嫌いであるが、こんなところで死んでもらっては彼が困る。
そしてなぜこんなことになっているのか。ここにポルターガイストという魔物の恐ろしさがある。彼らは迷宮にさまよう悪霊が、敗れた冒険者の装備やうち捨てられた装備に乗り移った存在である。
「ぶへっ!」
ソウジロウの腹にシールドバッシュがめり込んだ。だが彼は足に力をこめて耐えた。このまま吹き飛ばされて追撃をもらうのは不味かった。この近距離、相手のでか物が剣を迂闊に振り回せないこの距離でなければならなかった。ぎろり、彼の目がゴーストナイトを睨んだ。ゴーストナイトは反対にせせら笑うように、鬱陶しがるように盾を振り回しながらソウジロウを追い立てようとする。ソウジロウは伏せて、後方に一瞬だけ下がって、そのようにしながら攻撃をうまくいなし続けた。彼はその間、思考をしていた。
(攻撃は効きづらい……。無理矢理、攻撃回数を重ねて倒すでござるか?……こっちが先にいかれるかもしれないでござるな。いや、それより魔法で倒してもらえば……魔法で倒して、もらう?ゴールドに?)
ソウジロウは目の前に迫ってきた盾を蹴りで受け止めて、左に受け流すと大声で叫んだ。気合、それは時に戦力差を覆す最強の戦術になる。
「否ッ!あんな奴に
ソウジロウは影饅頭を両手で構えた。これでは最早パリィは使えない。ゴーストナイトも同じことを考えたのか、鎧の首より上の部分、本来なら兜があるであろう辺りを漂う白く薄い靄がほくそ笑むような表情を取った。ゴーストナイトが剣を構えた。恐らく鎧で一撃を受け止めてから、返しにソウジロウの鎧も着ていない肉体を引き裂く腹積もりなのであろう。一瞬の静寂が辺りを支配する。その直後、すさまじい速度でソウジロウの一撃が動いた。
「うらあああぁっ!!」
「…………。………!!……!?」
激しい金属音の後、ゴーストナイトが狼狽するように身じろいだ。その
「いやはや……最近拙者いいところないんじゃないかと思ってたでござるけど……『
チャキン、そのような金属音が鳴り、ソウジロウは歓喜に打ち震えた。(拙者今、めちゃくちゃサムライっぽいでござる!)。彼は内心でそのように考えていた。そして盾で殴り掛かってくるゴーストナイトに向かって獰猛に笑いながら、再び影饅頭の暗い刀身を鞘から少しだけのぞかせた。
「さて盾だけのお前なんて、まさしく牙を抜かれた蛇でござる。……覚悟は良いでござるなぁ~ッ!!」
ソウジロウが嬉しそうにそのように叫ぶ。ゴーストナイトは必死に抵抗するが、最早その攻撃に対した意味はない。どんなに鎧が強固であろうが、ソウジロウの幾重もの攻撃の前にはついに膝を折ることになった。彼は消滅していく鎧を見て内心で(勿体ないでござるなぁ。)とか思っていたが勝負はついた。
彼がまた格好をつけながら鞘に刀身を戻している中、水を差すように拍手の音が響いた。ソウジロウはその音の主が誰かは分かっていたが、面倒そうに振り向く。やはりゴールド神父が怪しげな笑顔のまま祝福するように手を叩いていた。
「素晴らしいですね、ソウジロウ君!あんなゴーストナイトを一人で倒してしまうとは……!」
「厳密にはトラフトの加勢もあったでござるけどな。」
ソウジロウがそのように仏頂面でフォローを入れると、トラフトが後ろ手に照れたようににへにへと笑う。しかしゴールド神父は相も変わらず笑顔のままであった。彼の考えていることはソウジロウには全く分からなかった。しかし二人が何かを言おうとする前に、トラフトが先に声を出した。恐らく不穏な気配を察知したのだろう。
「で、でもやっぱりすごいですよ!ええ……あ!あれ見てください!籠手の部分がドロップしてますよぉ!」
「籠手?」
ソウジロウが目を向けると、確かにさっきのゴーストナイトがいた辺りに籠手が落ちていた。モンスタードロップという奴である。大抵の場合、魔物の消滅と共に素材は消えるが、稀に素材がマナとして分解されずに残る場合がある。恐らく先に倒された方のゴーストナイトがつけていた籠手であるだろう。高貴なる鎧でなかったのは残念であるが、中々の収穫物であるといえた。
ソウジロウがそれを拾い上げて、埃を払いながら二人に向かって振り返った。
「こういうのってどういう扱いになるんでござる?」
「普通はパーティごとに取り決めがあるのですが……臨時パーティですからね、我々は。しかし、もしトラフトさんがよろしければソウジロウ君に……。」
「私は異存在りませんよー!」
トラフトがそのように元気よく返答する。だが逆にソウジロウは首をひねった。
「なんででござる?拙者は嬉しいでござるけど……。」
「わからないんですか?何の防具も着けていないと、後衛の方が不安だって意味ですよ。」
そのようにゴールド神父は言ってため息をついた。ソウジロウは何かを言いたげであったが、まあその通りかと思い直すと両手に籠手を着け始めた。ただの両手を守るだけの防具、だがその少しが戦いでは明確な勝敗を決することが多々ある。そうであればこれは明確な戦力アップであるといえる。
ソウジロウは籠手を着けた手を軽く動かしてみた。金属製ではあるが軽量で動かしやすいようになっていた。彼はそれを着けて二人の方を……主にトラフトの方を振り返った。
「どうでござるか?」
「ソウジロウさん、格好いいですよ!」
「拙者ハ 強クナッタデ ゴザル!!」
そう言いながら二人ははしゃぎまわっている。それを見ながらゴールド神父は心の底からあきれ返ったように小さくため息をついた。
(まったく、まだ本番はこれからだというのに……。呑気なものですねぇ。)
彼の耳には、迷宮に巨大な霊の怨嗟の声がずっと響くような気がしていてならなかった。
ソウジロウ君、主人公なのにどことなく見せ場が少ないです。ゴールド神父、割と有能。トラフト、そういえば三人パーティにしなきゃいけないじゃんと思い直してその辺から生えてきたキャラなのに、割とキャラが立ってます。モブなのに。
ボ、ボトルの時もそうだっただろ!ノ、ノリと勢いで書いてるからこんなことになるんだろうがぁーッ!と自省する日々です。