TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
~ 9 ~
ボトルはソウジロウを街の裏路地に連れて行った。勝手気ままに鼠や野良猫が走り回っている。
ある曲がり角を曲がると、小さな店の前で花壇に入った花に水をあげている小柄で陰気なオーラを纏った女がいた。何か考え事をしているようで、水が花壇からあふれているがそれに気づいている様子はない。ブツブツと絶望したように小声で何かを言って、鬱屈した話しかけづらい空気を纏っているため、水色の髪を束ねたであろう美しき美貌が台無しだ。
ボトルはその女に気安そうに話しかけた。
「……よう……
「あ……ボトルさん。ウヒヒ、ど、どうしたんですか本日は?」
「ああ……こいつはソウジロウ……。……お前の……武器に……興味があるそうだ……。」
「よろしくでござ!」
ソウジロウたちの軽快な声──若干一名の陰気極まる声もあったが──が響いた。彼女はそれを聞くとにへらと卑屈そうに笑った。
「あ……武器……?ホントですか?ウヘヘ、嬉しいな。ちょ、ちょっと待ってくださいね……。」
「ああ……。」
「ん?」
そう言うとその女は店の中に入っていく。ソウジロウは彼女が店主でも呼んでくるのかと思ったが……大声と共にドアが突然勢いよく開け放たれ、彼は唖然とした。
「さあさあさあ!!良う来なすった!!天下の名工!!カラフサ・メイアンとはァあたしのことよぉ!!」
そしてカツカツと足音を踏み鳴らして、自信満々に飛び出してきたのはバンダナを頭に巻き付けただけの先ほどの女であった。その証拠に水色の髪がバンダナの隙間から飛び出している。彼女は歌舞伎役者の如く大仰なポーズを恥ずかしげもなく披露して笑っていた。一瞬姉妹か何かかと思ったが、その裾は先ほど垂れ流されていた水で汚れている。その豹変にソウジロウは言葉を失っていた。
「は……?え……?なんでござる?」
「……こういう……奴なんだ……。でも……あまり言いすぎると……。」
「……。」
女はその様子を笑顔で見つめていたが、突然無言で扉を開けて店に戻った。そしてバンダナを外して店から再び出てくると、鬱屈したオーラを纏ってしゃべり始めた。
「ウフフ、自己紹介……失敗しちゃった……。お友達になれるかと思ったのに……。もう終わりね……。ウヒヒ。」
「……おい…メイアン……。」
「あ、わかりました……店にどうぞ。ウフフ、お茶淹れますね。ウフフ、汚くて臭くて狭い店ですけどどうぞ。」
そう言ってメイアンは店──工房の奥にソウジロウとボトルを招き入れた。
中に入ってみると、先ほどとはソウジロウは別の意味で驚いた。その店の中にはいくつかの武器類が置かれていたのであるが、そのどれもが中々の物なのだ。素人のソウジロウから見ても美しいと感じる華麗な刀剣……それとは真逆の無骨でごつごつとした実用性重視の戦槌……そのようなものが所せましと置かれていた。
先にテーブルに腰かけていたボトルが、驚いたような顔をしたソウジロウに向かって話しかけてきた。
「……どうだ……?……性格はともかく……腕は確かだろう?」
「こ、これあの女が作ったんでござるか?」
「……メイアンだ。……カラフサ・メイアン。……俺の名前はともかく……奴の名前は憶えろ。……拗ねると……武器の出来に……影響が出る。」
「あ、お茶が入りました。ウフフ、ドブみたいな粗茶ですけど……ウフフ。」
そう言ってメイアンが店の奥から茶を三つ持ってきたため、ソウジロウも店の一角に置かれているテーブルに腰かけた。彼女の言葉とは裏腹に普通の茶であった。しばらくボトルとメイアンは談笑をしていたので、それをソウジロウは黙って見つめていた。むしろ先ほどの豹変が不気味で声を出せなかったといった方が良いだろう。
しばらくすると、ボトルの方から話を切り出した。
「……それで……メイアン……こいつの武器の話だが……。」
「あ、ウフフ。お仕事の話ですね……それでしたらちょっとお待ちを……。」
メイアンは後ろを向いてバンダナをいそいそと巻き始めた。しばらく後ろを向いたままであったが、突然振り向くとその途端快活な声が響いた。
「さあさあさあ!!あたしに武器を作って欲しいたァ見る目があるねェ!!お客サンも運が良い!!必ず満足させるから……。」
「な、なあ!さっきからそれ何なんでござるか!?」
「おいっ!」
ボトルの警告の声もむなしく、ソウジロウは我慢できなくなってその疑問を口にした。その途端、メイアンの笑顔がぴしりと固まる。わなわなと震えながら青ざめた顔になっていく。
「な、何って何の話をしてんだい!?あたしは天下の……名工……カラフサ・メイアンで……ウヒヒ、わ、私は……カラフサ・メイアンで……。」
彼女の陰気すぎる性格と、偉そうで快活な性格、その二つが奇妙に混ざり合い始めていた。ボトルはそれを見て慌てた様子で彼女に声をかける。
「お、おい……メイアン!しっかりしろ!」
「ハッ!?変な事言うねェ!!あたしはあたし!!それだけでい!!」
「そ、そうにござるか。」
ソウジロウは珍しく押し切られた。彼もいかれた奴ではあるが、メイアンも変な奴の一言では片付けられない程変な奴であった。彼女は勢いを取り戻したのか、腕利きの職人らしい偉そうで頑固な態度をとると、急にテーブルの上に足を乗せて来た。そしてそのまま欠伸を一つして、先ほどのどもった様子など感じさせずに話してきた。
「ふぁああ、うん。武器が欲しいンだろう。依頼者の要望は受け付けるぜ。その分値も張るけどな。」
「むっ!金なんてそんなにないでござるよ!」
「まあぼったくる気なんてねえがね。命を預ける武器を作らせるんだ。武器と鎧の職人にはけちけちしねぇ方が良いぜ?」
メイアンはニヤニヤと笑いながら言った。ソウジロウは普段なら言い返すところであったが、相手が女であるというのと、なによりこの豹変が恐ろしく感じていた。そのためチンピラサムライとしては珍しく従うしかないのが現状であった。
「……どんな武器が……欲しいんだ?……見ての通り……結構……依頼者の……要望には応えてくれるだろう。」
「むう。」
ボトルが助け船を出した。周りを見渡すと、本当に色々な武器があった。見栄えに重きを置いた装飾が多数刻まれた剣、実直で面白みのない盾、斧、ハンマー、槍……そして刀もあった。ソウジロウは自然とそこに目を奪われていた。
メイアンは笑いながらソウジロウに声をかけた。
「刀が欲しいのか?」
「ござっ!?」
「お前……腰に下げてるのは竹光だな?刀は質屋にでも売っちまったのか?」
「う、うう……。」
「おいおい!図星かい!まあァ、刀は高ェぞ?」
「うーん、そうでござるか……。拙者、とにかく武器を壊す故、頑丈な武器が欲しいんでござる。まずは刀じゃなくてもそれが欲しいでござる。」
「そうか、うん。良し!店の裏に来い!!」
メイアンはそう言ってテーブルを蹴って立ち上がった。慌ててボトルとソウジロウは飛んできたテーブルを避けた。彼女の後について、店の奥の工房らしい場所を通り抜けて裏庭に出た。そこには巻き藁とか、古びてところどころが傷つきへこんだ鎧などがあった。
そこにたくさんの種類の武器を抱えたメイアンがやってきた。槍、斧、ハンマー、直剣、様々ある。
「欲しいのは長物か?」
「まあそうにござるな。刀程度の長さは欲しいでござる。」
「じゃあこいつを振ってみろ。」
そう言って投げ渡されたのは両刃の直剣であった。以前ソウジロウが振るって破壊してしまったフラスコの剣にも似ている。ちなみに彼はその件について謝罪も賠償もしていないし考えたこともない。(非常事態だったため仕方ない部分はあるが……。)
「ふんっ!!」
フォッ、そのような風を切る音が鳴った。それを見ていたメイアンは鼻を鳴らしながらその剣をひったくった。
「うん軽いな。剣がお前の力を持て余してやがる。次はこれ振ってみろ。」
そう言って渡されたのは長柄のメイスであった。先についた棘の生えた鉄球が獲物の恐怖を刺激する。しかし彼はそれも軽々と振るった。
「ほいっ!」
「まだ軽いか!成程、頑丈な武器を所望する程度にゃあァ、力自慢みてえだな!!次はコイツだ!!」
「……おいおい。」
ボトルがそのように呻く。なぜなら渡されたのはとてもではないが振るえそうにない大槌だったのである。大男でも持つのがやっと程度であろう。そのような人間大の塊だ。
ソウジロウも膂力自慢と言えど、その見た目は普通の東洋人といった風体である。流石に無理だろうと思ってボトルは呆れかえっていた。だがソウジロウがその柄に手をかけた瞬間、彼は目をむくことになった。
「ほりゃあ!!」
「え?」
掛け声とともに彼は
~ 10 ~
店に戻ってしばらくするとメイアンが現れた。ただしバンダナは外され、最初の陰気なオーラを身にまとっている。
「エ、エヘヘ。お待たせしました……。」
「あ!戻ってるでござる!」
「エヘヘ、あのままいると疲れちゃうので、ええ、はい。少々ご勘弁を……。」
メイアンは何か書類のような物を手に取って、羽ペンを取りながら話始める。
「ソウジロウさんの要求は頑丈、ある程度の長さのもの。これが大体の要望と見て良いですね。」
「そうにござる。」
「……だが……あるのか?……俺が連れてきておいてなんだが……想定以上の……パワーだったが……。」
「エヘヘ、
そう言って彼女は卑屈そうに笑う。そうして腰に彼女が吊るしていた武器をテーブルの上に乗せて来た。それは鞘にはまったただの直剣に見えた。だが彼女がすらりとその刀身を見せてみると、驚いた。この剣には刃がなかった。刃のような部分があるにはあるのだが、その部分も潰れていてまるで模造刀のようだ。丸く太いその直剣は太ったレイピアのような……ほとんど鉄棒のような直剣が鈍く暗い奇妙な光沢を発していた。そして持ってみると直剣としてはずしりと重い。肉厚で分厚い刀身がそうさせるのだろう。扱いやすさが売りの直剣としては奇妙な物にも見えた。
「こ、これは?直剣でござる、のか?」
「エヘヘ、この剣は初めから
「おお、すげーでござる!!」
ソウジロウは多分よく分かっていないまま喜んでいる。しかしその言葉を聞いていたボトルが眉をひそめた。彼はある一点が気にかかっているようであった。
「ミスリル……そりゃあ……頑丈だろうが……ソウジロウは払えないだろう……。どうなんだ?メイアン?」
「エヘヘ、そうですね。微量ですが、ミスリルは高価です。私もおいそれとこれを渡すわけにはいきません。」
「ならば……。」
「でも払えるだけでいいんです。その代わり、お願いがあります。」
「お願いにござるか?」
ソウジロウはメイアンの言葉に首を傾げた。彼女は躊躇しているようであったが、覚悟を決めたように息を吸うと一気に話し始めた。
「良いですか、出来るだけ生き残って活躍してください。そしてその武器が名工メイアンの手によるものだと喧伝して欲しいのです。……それが武器職人にとっての何よりの名誉でもあり、宣伝にもなります。わ、私の生活ももっと楽になるかもしれないし……。」
「ほう?」
「……つまり……自慢すればいいのだ……。その武器の良さを……それが自然と……メイアンの利にもなるということだ。」
「そういうことです!貴方の力ならできると思うんです、エ、エヘヘ。」
「そんなもんお安い御用でござる!」
それを聞くとメイアンは卑屈そうににへらと笑う。彼女は書類を出してきてサインを求めたが、ソウジロウは字が書けないのでボトルが代筆した。ソウジロウは珍しく、(コイツ居てくれて良かったにござるなぁ……。)とかを思っていた。
ソウジロウの貯金の十割が吹き飛び、明日もまたダンジョンに出ねば飯も食えない宿にも泊まれないという状態になったが、ともかく武器は手に入れた!となれば次なる問題は仲間集め……ではなく。
「……せっかく宣伝するなら……なにかわかりやすい名前でも……あった方がいいのではないか?」
「え、エヘヘ。武器の名前はお客様に決めていただく方針なので……。」
「うーん、黒光りしてる棒でござるからチ○ポとかでどうでござるか!!」
「……どんな……センスだ。」
赤面するメイアンを気遣い、ボトルがたしなめた。結局その剣の名前はソウジロウのチンピラセンスがいかんなく発揮され『影饅頭』に決まった。ボトルは何かを言いたげであったが、まあチ○ポよりはましかと思い特に口は挟まなかった。
キャラを立てよう、と思うと変な奴ばかりが出てきます。この街、段々修羅の国みたいになってきてるけど大丈夫かな……。