TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
~ 14 ~
下級冒険者の食事は貧相である。薄いスープとパン、それと何かのおかずを一品程。貯金も考えるとそれが精いっぱいというところである。ソウジロウもそこは例外ではない。大喰らいの彼と言えども慎みを覚えていて、他の冒険者よりも食うが依頼の金とそもそもの討伐数が多いのでどうにかやっていけている。彼はギャンブルが絡まなければ実は財布のひもは固い方なのだ。
彼はテーブルの一角に料理を広げていた。今日は野菜を煮込んだシチューに、コスパが良く冒険者たちに人気のパン、さらに迷宮でとれたという『謎の肉』がメインだ。決して肉の内容は明かされなかったが、しかし安い。彼は常よりも多少豪華な料理に舌鼓をうっていた。
「うーん、うまいでござる。」
彼はむしゃむしゃと大盛りの料理を飲み込んでいく。良い飯を食うことは浪費と笑われるかもしれない。武器防具、装備の充実にこそ冒険者は金を使うべきだと。だが痩せて力が出ずに死ぬのも愚かしく、金を貯めたまま満足せずに死ぬのもまた愚かしい。ダンジョンの中ではどこに金をかけようと、死の危険は常に付きまとうのだ。ならば今を満足に生きることも、ある種のリスクマネジメントといえるだろう。ソウジロウはそんな事微塵も考えていないが。
そんな場所にカツカツという控えめな足音と共に、背の低い男がぬっと顔を出した。だがその肉体はよく鍛えられていて、癖なのかその目は注意深く辺りを見回している。ソウジロウの知り合いの冒険者、ボトルである。
「ソウジロウ……来たぞ。」
「おお、ボトル殿!待ってたでござるよ!」
「旨そうだな……俺も……ご相伴にあずかろう……。」
そう言ってボトルもあれこれと何かを注文する。ウエイターが持ってきたサービスの水をごくごくと飲みながら、彼はいつものぶつ切りで話し始めた。
「それで……用とは何だ?」
「そうでござるな~、魔術について聞きたいことがあるんでござる。」
「魔術か……。構わん……俺も……お前に……用があったからな。食いながら……話そう……。」
「ほうでござるか。実はこんなことがあったんでござる。」
ソウジロウは先日の賭場での顛末を話始めた。その間に料理が届き、ボトルも静かに音を立てずに飯を食い始める。しかしその目は真剣そうにソウジロウを見ているものだから、どこか獲物を飲み込む蛇のようでもあった。頷くなどばかりしていた彼であったが、ソウジロウの話が終わると、料理をごくりと飲み込んでようやく話し始めた。
「成程……魔術師としては……興味深いケースだ……。ゴールド神父……ねぇ?」
「魔術がイカサマのトリックだと思うでござるか?」
「可能性はあるだろう……だが言い訳のようだが……前提として……俺はギャンブルを一切しない。イカサマが出来そうな……器用な魔術なんて使えないし……そもそも性分じゃない。そういう視点の意見だと……思ってくれ。」
「わかったでござる。」
「順を追って……説明しよう……。ゴールド神父が使ったという……『マスケティブラスト』。これは……間違いなく魔術……奴は神父にして魔術士であることは……間違いないだろう……。そして……俺の得意魔術『ストーンブラスト』の……上位呪文でもある……。きわめて高速……かつ高威力……。その分……マナの消費も……大きいがな。」
「うーん、それに関しての対策も聞きたいでござるけど、まあ後で!で、それでイカサマは出来るでござるか?」
「
「例えばどんなのでござる?」
「ツボの中の……サイコロに……干渉するのは……難しい……。そして他のギャンブルでも……ゴールド神父は……連勝をしていたらしいな。例えば『
「どういうことでござる?」
ソウジロウが頭に手を当てて考え始めた。考えるのが嫌いで、頭も悪い彼にとっては珍しい光景であった。しかし彼は自分の命を賭けにだしてしまった。それが成立しているのか不成立なのかはっきりとはしていなかったが、彼にとっては必死になるのに十分であった。
「実際とは違う……サイコロの目を……周囲の人間に……認識させるんだ……。これなら……ポーカーだろうが……丁半だろうが……勝てるぞ。」
「でも賭場には魔力計があるんでござるよ。……はっ!?まさか魔力計の針の方を改ざんして……!?拙者天才かも……。」
「いや……そうか……。魔力計で……対策しているのだったな……。そして……魔力計は……マナの観察に特化した……傑作魔道具だ……。魔力計の針の改竄……多分……これは出来るが……だが解除したときに……マナの流れが計測され……やはり針が振れる……。そも懐に……隠した魔道具に影響を……与えるのは難しいのではないか……?」
「ずっと認識改変してるとか、最初から最後までずっと!」
「それで……マナが持てば……それこそ大したもんだ……。いや、そもそも賭場で……注目されてるのに……認識改変……?何十人もの人間に同時に……?無理があるか……。」
「えー、じゃあ結局何なんでござる?」
「少なくとも……教科書に載ってような……お手本の魔術じゃあ無理だ……。何かオリジナルの術なら……別だがな。」
「神術のほうはどうでござるか?」
「それこそ……考察するだけ無駄だ。俺が……今まで……神術について……見てきた感想だが……
「成程ォ。」
「まあ……詠唱がなかった時点で……可能性は低いがな……。」
ボトルはそこまで言うと、水を一息に飲んだ。それを終えるといいたいことは言ったとばかりに、彼はふうと息を吐いた。ソウジロウは頭を抱えていた。魔術に詳しい知り合いに聞いたはいいが、結論としてはわからないとなってしまったのだ。それを察してかボトルは彼に向かって声をかける。
「すまんな……どうも……あまり役に立てなかったようで……。」
「ああ、いや。いいんでござる。有益な話でござった……。でもうーん、なんなんでござるかな?」
「確かに……話を聞くだけでは……その神父は怪しい……。だがもしかしたら……ただのバカツキ……本当にただの幸運という可能性もあるからな……。」
「うーん拙者の感は怪しいと叫んでるんでござるけどなー。」
「……ふむ。まあ……他には……『マスケティブラスト』の……対策とかか……。ああ、だが。」
ボトルの声が途中で途切れた。二人が座ったテーブルにカツカツと近づいてくる足音が再びあった。華美な服装を纏った水色の髪の貴婦人である。胸元にひかる、慎ましやかな宝石付きのネックレスがその女性の貞淑さを象徴しているようであった。
「お、お待たせしました~。ウ、ウヘヘ。」
ソウジロウは一瞬誰かわからなかったが、その異様に猫背な姿と卑屈な笑いを見てハッと思い立った。
「おお、メイアン殿じゃないでござるか!」
「そ、そうです~、どうもソウジロウさん。メイアンです~たはは……うう、冒険者ギルドの中一人で歩いてくるの怖かった……。」
「バンダナ……つければいいだろう……?」
「今日……ずっと鍛冶仕事してたんで……
「名工モード、でござる?」
「名工モードです、ソウジロウさん。」
さも当然というような返しをしてメイアンは二人の席に着いた。そして二人の料理を見て腹を鳴らした。彼女はうつむきながら赤面し、鯉のように口をパクパクと開けた。
「別に冒険者ギルドじゃあ腹の音なんて目立たないでござるよ。」
「その通り……お前も……何か食うといい……。」
「そ、そうですね!……うーん、今日はがっつり……これとこれとこれと……。」
そして彼女が注文を付けようとしたとき、びしりと固まった。ウエイターとは初対面、彼女はコミュ障が極まっていて知らない人間とはまともに話せないのだ。あわあわと手を振るが、全くその意思は伝わらず、ウエイターは困ったような顔をした。
「おい……メイアン……?」
「せ、拙者たちが代わりに頼んであげるでござるか?」
「は、は、ふは、ひえええ、う、うわああああああ!」
彼女は着飾ったドレスのポケットから、無骨なバンダナを取り出すと止める間もなくそれを付けてしまった。
「ハッハッハァ!!天下の名工、カラフサ・メイアン参上!一流の食うもんはァ一流じゃなきゃいけねェ!これとこれとこれェ、頼むぜ姉ちゃん!」
そこに現れたのは職人気質のメイアン、作業者がつけるようなバンダナと綺麗な服がミスマッチ……だが堂々と振舞う彼女には不思議と様になっていた。冒険者ギルドの面々が驚く中、顔見知りのソウジロウとボトルだけが「またか。」という顔で水を飲んでいた。
割と行き当たりばったりで書いてるので、入れ物三銃士の中で一番適当に名前を付けたボトル君が良いポジションに収まってます。まあ変な名前の登場人物は他にも多いですが。