TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
~ 15 ~
メイアンがむしゃむしゃと飯を食べ進めていく。その様は先ほどのドレスを着飾った少女とはまた違った実直な様子であった。彼女はソウジロウにちらと目を向けたが、料理を飲み込むと話し始めた。
「ううん、はあ。美味いなァ……たまにはァこういうところで食うのもいいかもしんねェな。……それで、ソウジロウ。お前に用があってあたしは来たんだよ。」
「メイアンもでござるか?」
「いや……俺は……メイアンの付き添いだ……。一人じゃあ……話が持たねえ……ていうからな……。」
ボトルがそのように補足した。メイアンが軽く口を開きかけたが、その後ソウジロウの腰に吊り下げられた影饅頭を見て薄く笑った。
「ソウジロウ、その剣の調子はどうだ?」
「ん、良いでござるよ。大満足でござる。」
「ン、そうか。もうしばらくしたら、メンテナンスとかも任せてくれよ。」
「わかったでござる……それで、用とは?」
「
「ほう。」
ソウジロウがそのように言った。彼にとって依頼とはギルドが回してくるものを達成するのが主であった。曰く、ダンジョンの中にのみ自生する薬草の研究がしたいとかで『薬草の採取』、奪われた装備品の回収をする『武具の回収』などである。まあもっぱらソウジロウはその辺を理解できていないので、受付嬢の手により魔物の討伐とその生態の研究のために、体の一部を持ち帰る任務を与えられていた。使い走りのような仕事であるが、しかしソウジロウの事を知れば彼女の英断といえるだろう。
「ダンジョンが今何層まで攻略されてるか知ってるか?」
「いや、知らないでござるな。」
「今三層だ。四層の階段も発見されたって話だが、まだそこは踏み入れられてない。……で、問題は三層さ。広い通路が一本、階段まで一直線にあって、交差するように細く狭い通路が多数ある。うろついてるのは主に『ポルターガイスト系』のモンスターたちだ。剣だの鎧だの杖だのが意思を持ってうろついているらしい。」
「そうなんでござるか。」
「そう聞いているな……。」
「で、何で一直線に階段まで行けるのかと思っただろ?広い通路にはァ、巨大な鎧を着込んだ重装騎士の霊たちがうろついてるらしんだよ。そんなとこ普通には通れねェ。だから自然、横の細道を攻略する必然性が出てくるらしいンだ。……遠目で見ただけらしいが、ボス格らしい巨人の霊も観たって噂だ。……それでソウジロウ、この巨大な鎧を着込んだ重装騎士の霊を一匹そのまま捕まえてこい!!」
「え、ええ!?生け捕りにござるかぁ?」
「そうだ!!やれ!!」
メイアンがそんな風に指図する。そんな彼女を嫌そうな目でソウジロウは見返した。しかし、メイアンには影饅頭をまけてもらった恩もある。あまり彼は強く出られないのであった。しかし、彼としても言わなければならないことがあった。
「しかし……言っちゃあ何でござるが、三層でござろう?拙者一人じゃあ絶対帰ってこれないでござるよ。」
「ン、そこは安心しろ!
メイアンはそのようなことを言うとよろよろと机に突っ伏した。そのままぐったりとした様子でバンダナを外すと、くしゃくしゃに潰れた水色の髪が出て来た。彼女は顔をあげて、元の陰気なオーラを纏ったまま声を出した。
「あ~、ウヘヘ。名工モード使い過ぎですね……。疲れて勝手に終わっちゃいました……もう終わりですね、何もかも。エヘヘ。」
「そういう仕組みなんでござるか……。」
「ええ、あ、ともかく話を戻すと、近々その巨人の霊の討伐隊が組まれるそうです。それに参加して、影饅頭の宣伝をして、ついでに騎士の霊も捕まえてきてください。それが私の依頼です。」
「ふうむ……それはいいでござるが……なんで拙者なんでござる?」
「エヘヘ、それはですね、安く受けてください。知り合い価格で。」
「は!?何言ってるんでござ!!」
「ひえっ!?で、でも影饅頭安く売ってあげたじゃないですか!そ、それに、貴方の評判悪くって思ったより宣伝になってませんし……。」
メイアンがそのように切り返した。ソウジロウに完全にビビりながらもそのように気丈に言い返している。ただしのその手にはバンダナがしっかり握られており、いざとなれば名工モードに入って言い負かす気だったのだろう。ソウジロウはそれを見て苦い顔をした。
「こ、こいつ……この状態でも結構知り合いには強く出るタイプなんでござるなぁ!!」
「う、受けてくれますか?」
「うーん、実際世話になったでござるし……仕様がないでござるなー!受けるでござ!」
「や、やったー!」
そう言ってメイアンはにこやかにほほ笑む。しかし笑顔になれていないのか、どこか強張った笑顔になるのは彼女の性分だろう。話をずっと聞いていたボトルが口を開いた。
「しかし……ポルターガイストなんて……何に使うんだ?」
「ええ、知り合いの死霊術師に頼んで使役しようかと。装備に宿ってもらえば、良い実演にもなりますし、そ、それに接客も任せられるかな、と……。」
「悪霊の店員でござるか……。」
幽霊の類の苦手なソウジロウがそのように言った。ボトルはそれを見て軽く笑っていたが、ふと思い出したように声を出した。
「そうだ……俺も……討伐には参加する……何か質問が……あれば今のうちに聞いておくがいい……。当日は……忙しいだろうからな……。」
「うーん質問……あ、そうだ!結局、『マスケティブラスト』の対策聞いてないでござる!」
「ああ……じゃあ……まずは『マスケティブラスト』の説明から……。あれはブラスト系の魔術の中級に記される魔術だ……。『ストーンブラスト』が初級で……『マスケティブラスト』が中級……と言っても……マナ消費の面から考えると……『ストーンブラスト』が一番優秀だ……。」
「ボトルさん、『ストーンブラスト』好きですからねぇ。」
メイアンが食事を再び口に入れながら言った。ボトルはそのからかい交じりの言葉を華麗にスルーして話をつづけた。
「話を戻そうか……『マスケティブラスト』は……高威力、高速、長射程……そしてマナの消費が中級の癖に……多いのが特徴だ……。実は俺も使えるが……うん、ダンジョンの中じゃあ……マナの管理も重要だから……あまり使わないな。」
「その対策が聞きたいんでござる。」
「焦るな……。うーんだが……対策……魔法や神術で防いだりとか……魔術も短いが詠唱が必要だから……『沈黙』の魔法とか神術も有効だな……。」
「そんなん出来ないでござるよーッ!?」
「うーんそうだな……。一番簡単なのは……迷宮で俺が学んだスペルキャスターへの対処は……そもそも
ボトルがろくろをまわして話始める。彼の視線は右上に動き、昔を懐かしんでいる様子である。フラスコがベテランを自称していたように、彼もまたベテランの冒険者なのである。その経験は、時に単純な力以上に効力を発揮する。知っているというのは何よりも強い、それはまさしくこの魔境たる世界で人類が発展してきていることからもわかることだろう。
「魔法使いは……たとえ魔法剣士などでもだ……魔法の使用のためにあまり重装を用いない……マナの取り込みに邪魔になるからだ……。だからどうしても……本職の騎士などの……近接職には劣る……。
「組み付く……成程、それなら得意でござる。」
ソウジロウがそんな事を言ってにひにひと笑う。彼の頭の中では引き倒されたあのむかつく神父をボコボコにする妄想でもしているのだろう。だがそれを見ていたボトルが珍しく鋭い声を発したのでソウジロウは驚いた。
「だが油断するな……!魔物ならともかく……人間の魔術師なら……その辺の対策もしているはずだ……。対処が分かれば……その
「お、おお……わかったにござる。」
ソウジロウもその気迫に押されて声を抑えた。その後は料理の追加注文をして、珍しく酒も頼んだ。彼らはエールを味わいながら明日を思う。死ぬかもしれない、どんなに屈強な冒険者たちでも胸の中に、その不安を抱いたまま眠らねばならない。そうであれば、不安を和らげる酒が人気となるのは必然であったろう。彼らの心の内にも、当然その感情はあったはずである。
ともかく、こうして晩餐会は過ぎていった。