TINNPIRA SAMURAI ~チンピラ侍、ダンジョンに潜る~ 作:庭鳥
この作品、ダンジョンに潜る話なのにそれ以外のとこばっかりですねぇと今までの話読んでいて思いました。お待たせいたしました。これから数話、がっつりダンジョンに潜ります。
~ 16 ~
ソウジロウは珍しく朝早くから起きていた。普段は日が上り切ってから目を覚まし、そのままダンジョンに突撃して夜に帰ってくるというような生活をしていたのだが、本日はそういうわけにはいかなかった。冒険者ギルドの中ではざわざわと人が集まっている。そんな中、ソウジロウは腰に下げた影饅頭……叩き斬ることを目的とした奇妙な直剣をなでてあくびをしていた。
その時、ビーッという笛の音が鳴り冒険者たちの視線が集まる。見ると受付嬢が普段よりも厳しそうな顔をして、面々の顔を見つめている。そんな中彼女は良く響く声を張り上げた。
「皆さん、お集まり頂き感謝します。本日行われる、第三層のシンボルモンスター討伐依頼について説明をさせていただきます。」
「おおーっ!」 「待ってたぜーッ!」 「……フン。」 「大丈夫かな?」
冒険者たちの面々がそれぞれ反応を示す。二十人ほど集まった彼らは、それぞれのパーティと共に小声で何かを話あっている。そんな中、ソウジロウと他の何人かのソロの冒険者は壁際に立っていた。
「事前に説明した通り、今回の依頼は討伐隊を組んでの行動となります。それぞれ勝手な行動は戦闘中以外どうか慎んでください。」
「はーい。」
どこからか元気のいい返事が聞こえた。受付嬢はその声に一瞬止まったが、すぐに思い直して話をつづけた。
「……今回お集まりいただいたのは二十一名です。それぞれ元のパーティがいらっしゃる方はそのままで構いません。しかし二人組、またはソロの冒険者さんは安全の確保と効率化のため、臨時にパーティを組ませていただきます。」
「そうなんでござるか。」
「そうなんです、ソウジロウさん。……そして方針としてはまず取り巻きの重装騎士のポルターガイストを減らしていき、最後に残った巨人の霊を討伐する……そのようになっています。……しかし、これ以上は現場に行く人間に話していただきましょうか。
「わかりました!」
そう言って一人の美丈夫が前に進み出た。ソウジロウと一度だけパーティを組んでくれた、金髪の髪をなびかせた青年である。そう言ってもソウジロウはその兜の下の素顔を初めて見た。彼の後ろに、パーティメンバーであるボトルとアンプルが控えて立っていた。
「今回、討伐隊の大まかな指揮をまかせていただいたフラスコです!本日はよろしく!予定としては細道にパーティごとに入っていって、それぞれ重装騎士を撃破!最後に一本道に残った巨人霊……それでは呼びにくいな!
「ほう。」 「ふーん。」
冒険者連中にざわざわとざわめきが広がる。フラスコがどうやら今回の指揮を執るらしい。成程、ギルド職員も三層ともなるとおいそれとついていくとも言えない。信頼のおける冒険者に討伐隊を任せることにしたというわけであろうか。彼のギルドからの信頼がどれだけ厚いかわかるというものだろう。
「……おそらく長丁場となる。昼食、水の確保が間に合っていないものは、すぐに申し出てくれ!多少多めに用意してきたんだ!……まあいなければ僕が全部食うけどね!」
「フッ。」 「んふふ。」
その場に多少の笑いが出た。真面目一辺倒ではリーダーは務まらない。彼自体も二十人もの人間を率いる術を身に着けているといえた。ソウジロウもまたそれに感心しながらも、腰元の食事……おにぎりと竹筒に入った水を確認した。深い階層に行けば、その日に帰ってこれないことも増える。糧食の準備は必須と言えた。さらに松明も腰に数本差し、背中には雑嚢を背負っている。ソウジロウはまだ平気であるが、大剣を担いだ剣士などは荷物だけで相当な重荷ともなるのだ。
「何か質問はあるだろうか?」
「……あります。」
一人の男が手をあげて前に進み出た。そのねばつくようであるのに、良く響く声を聴いた瞬間、ソウジロウは思わず呻いた。
(ゲッ!?)
その男が体を覆っていた深いローブを脱ぐと、中からは派手な衣装に身を包んだゴールド神父が現れた。因縁浅からぬソウジロウは、それを見て顔をしかめる。彼はソウジロウの方向を一瞬見たが「フンッ!」と鼻を鳴らすと、その質問をつづけた。
「まだ報酬の話をされていないようですが……。」
「確かに、これは失礼しました。何よりも先にまずは報酬、これは依頼の原則でもありましたね。今回の討伐の報酬は一律で金貨十枚とさせていただきます。その他に素材の買取や功績に応じてボーナスなども出ます。」
「そうですか。それだけ聞ければ……フフ、いえ、命を賭ける価値もあろうというものです。安心いたしました。」
「ほう、確かに。これで少なくともあとでもめる心配が消えた!ありがとう!ええと、貴方は……?」
フラスコが手を差し伸べながら彼に声をかける。ゴールド神父は一瞬、その手を見つめていたが、ゆっくりとその白い手袋に包まれた腕を伸ばして握り、殆ど放り投げる様に握手した。彼はぶっきらぼうにも、礼儀良くも聞こえる声を出した。ソウジロウが知恵者であれば、慇懃無礼な奴だと思ったことだろう。
「ゴールド……とお呼びください。新米冒険者となりました。皆さんに学ばせて頂こうと思います。」
そう言って彼は恭しく頭を下げる。だがソウジロウの目には彼の口端が吊り上がっているのが見えた。この男、やはり油断できないとソウジロウは思った。しかし他の冒険者たちはその恭しい礼に気をよくしたのか、何人かはほおを緩めている。恐らく、この男をただの気のいい後輩とでも思っているのだろう。
「そうかい!ゴールド君、本日はよろしく頼むよ!」
そう言ってフラスコはゴールド神父に笑顔を向けた。この男もまた、実力はあるのだが人を見る目がない男なのだ。人が良すぎるというのも考えものである。
~ 17 ~
ダンジョンの二層を大勢の冒険者たちが進んでいた。湿った空気が水滴に変わり、どこかにポタリと落ちる音が聞こえる。ソウジロウは隊列の後方を歩いていた。散発的な戦闘が起ってはいるが、それも前の方の冒険者が集団で殲滅している。二層程度の敵であれば、慣れた冒険者が徒党を組めばそれほど苦戦もしない。ソウジロウはゆっくりと歩いていた。普段の彼であればのんびりと「楽が出来て良いでござる。」くら言いそうであるが……彼は険しい顔をしていた。
「なぁ~んで拙者がお前と組まなきゃいけないんでござるかぁ!?」
「それはこちらのセリフです……ケッ!」
そう言ってゴールド神父は行儀悪く唾を吐いた。その一瞬前、周りの人間の視線をちらと確認している。ここに彼の注意深さ……というか外面の良さが現れている。彼とソウジロウは睨み合いながら、互いに武器に手をかけている。
「そりゃあ……お前ら二人とも……ソロだからな……。」
そう言って彼らの間にボトルが割って入る。彼はあきれ顔であったが、その目はゴールド神父に注がれている。ソウジロウから話を聞いていたためであろう。その視線を感じたのかゴールド神父は口を開いた。
「誰ですか、貴方は?」
「ボトルだ……よろしく……。今回の討伐隊のリーダーの……パーティメンバーでもあり……ソウジロウの友人でもある……。」
「これは丁寧にどうも。」
そう言ってゴールド神父は意外なほどに呆気なく頭を下げた。
(え、意外ッ!?こいつ絶対人に頭を下げないタイプだと思ってたのにでござる!?)
ソウジロウはそれを意外に思っていた。しかしゴールド神父の顔を見ると言うべきことを思い出したのか、口をとがらせて不満を口にした。
「それより……!拙者嫌でござる!こんな奴と一緒に戦ってたら、いつ背中から撃たれるか知らねえでござる。」
「そんな野蛮な事しませんが……例えば君が振り回した攻撃に私も巻き込まれる、なんてことが無ければですが。」
「んなにおう!?」
「おいおい、どうどうどう!」
ボトルがそのように宥める。そして一つ咳払いをしてから二人に向かって……いや殆どソウジロウに向かって言った。恐らく彼も内心ではゴールド神父を信用していないのだろう。
「まあ
ボトルはそのように言った。彼は討伐隊の監督のために後方に来ているだけであって、本来の配属はフラスコのパーティなのである。重装騎士霊の討伐が始まれば、そちらの方に回される。ソウジロウとゴールド神父の面倒を見ているわけにはいかないのだ。
「利用する……ふんッ!なるほど、良い言葉でござる!せいぜい利用してやるでござる!」
「それは……ふん。こちらのセリフです。せいぜい利用されてください。……社会の歯車のようにね。」
そう言って彼ら二人は殆ど武器も抜きかねない様子で睨み合う。そんな様子をあわあわと、弓を持って黒塗りの革防具に身を包んだ少女が見ていた。彼女の名はトラフト、このぎくしゃくしたメンツの中に放り込まれてしまった哀れな新米である。そんな彼女にボトルは小さく声をかけた。
「頑張れよ……彼らの……緩衝材になってやってくれ……。」
「む、無理ですよぅ!この人たち我が強そうだし……!」
「いや……多分君が……やらなきゃ全滅だぞ。」
「ふぇぇぇ!?」
そんな脅しなのか真面目な忠告なのかわからない言葉に、トラフトは悲鳴を上げた。実際、このメンツをどうにかまとめ上げる可能性があるのはこの少女だけなのである。無論、強いのだけが取り柄の阿保なチンピラサムライと、怪しい神父をまとめ上げることなど出来はしないであろうが。
これから数話、三層攻略の話を続けていこうと思います。この話はローグライクゲーム風味ですが、ゲーム的にはこの辺りの階層から難易度が上がって難しい敵が増えてきます。