うちには妖精さんがいる
「社長〜最近ありがとね」
「あ?何がだ?」
「最近うちの家事やってくれてるでしょ〜」
「どう言う事だ?」
「いや〜ご在知の通り初めての一人暮らしで色々手が回らないくてさ。助かってるよ」
「俺は知らねぇぞ。ミヤコがやってんじゃねえか?」
「そっかー」
「親代わりとはいえ、黙って女の部屋に入るほど俺も落ちぶれちゃいねぇよ」
何かおかしいと思い始めたのはこのあたりから。
親に捨てられた私は、これまで孤児院で生活していた。
社長から中学生アイドルにスカウトされ、引き取られた私は事務所契約の際にマンションを一室契約してもらった。
親代わりの社長は当然鍵を持ってるし、部屋の鍵を持っているのが社長以外に思い浮かばなかった。
「私じゃないわよ。社長がやってるんじゃない?」
「ふーん」
「気持ち悪かったら私から言っておくから」
「んー、大丈夫。助かってるから」
この人は社長の奥さん。
社長より1回りも2回りも若い美人さん。美容に結構こだわってるっぽい?
うちのメンバーが社長の若い子贔屓に引いてる事は伝えた方がいいのかな。
ともかく。
社長の奥さんも違うとなると、いよいよわからなくなった。
じゃあ、誰がうちの家事をやってくれてるんだろう?
妖精さん?座敷童?ちょっと気になってきた。
あの人意外と面倒見いいのね、なんて言葉を背中に事務所を出る。
───家に帰ると、机の上にラップに包まれた料理が並んでいる。
ちょっと前から、家に帰ると微妙に物の配置が変わってる事があった。
最初は泥棒でも入ったかなと思ったけど、盗られた物とかはなくて。
気のせいかなぁと放置してたら、段々存在を主張し始めてきた。
最近では、帰ったらご飯ができてたり、食器や洗濯物が洗われてたり、掃除がしてあったり。
流石に黙ってられなくなって、社長に確認してみたけどやっぱり違うみたいだし。
うーん、やっぱり誰かいるのかな?
妖精さんなら嬉しいんだけど。
私はいつもの調子で、食事の用意された机につく。
「今日は生姜焼きだ!」
腹ペコだった私は、早速ラップを剥いて箸を用意する。
電子レンジもあるけど、時間待つのめんどくさいんだよねー。
それに、冷めててもすっごく美味しいし。
「いただきまーす!」
うんうん。今日もおいしー!
誰が用意したにせよ、ご飯は悪くないもんね。
せっかくだから食べてあげなくちゃかわいそうだよ。
黙々と箸を進めていると、段々とからくなってくる。
ご飯と食べる前提の料理。味付けがちょっと濃い。
いつもは飲み物で流してるけど。
……今日は、挑戦してみようかな。
震える箸で、白米を摘んでみる。
口の中へ入れると、冷や汗が流れる。
どうしても噛んだり飲み込んだりができない。
「ペッ」
ゴミ箱を引き寄せ、直接口の中の米を吐き出す。
今日も妖精さんがゴミ出しをしてくれている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
また無駄な事をしてしまった。お米が食べられるわけないのに。
妖精さんは、毎回ご飯を残す私をどう思ってるんだろう。
それなのに用意してあるのは、やっぱり食べて欲しいって事なのかな。
挑戦する度に吐いちゃうけど。
私は、妖精さんに手紙を書いてみることにした。
適当な裏紙にスラスラとペンを走らせる。
いつもご飯ありがとう
私はお米が苦手だから食べられないんだ、
もう少し薄味にしてくれると嬉しいな
そんな感じの手紙を書き終えテーブルの上に置いておく。
返事が来たら面白いんだけどな。
お米以外を綺麗に食べ終えた私は、食器をまとめて放置した。
こうして放置しているとあら不思議。明日帰ってきた時には綺麗に洗われているのだ。
次に帰ってきた時、手紙は無くなっていた。返事は返ってこなかった。
ちょっと残念。ただ、その日から食事にお米が並ぶことはなくなった。
どうやら手紙は読んでいるらしい。
そんな生活が何だか楽しくなってきて。
今日もまた手紙を書いてみる。
今日もご飯ありがとう!
明日はハンバーグがいいな
あと、お風呂は覗かないでね
妖精さんがいるかもと思ったら気になり出したお風呂のことも書いておいた。
えっちな子なら聞いてくれないかもだけど。
やっと楽しくなってきたのに、そんな事で家に帰りたくなくなるのはいやだ。
やっぱり返事は返ってこなかったけど、ご飯のリクエストは聞いてくれた。
お風呂の件は、わからない。まあ最初から視線を感じるなんて事はなかったし。
*
それから数日。
相変わらず掃除していないのに部屋は綺麗に保たれている。
洗濯していないのに着替えが洗われて棚に仕舞ってあるし、
食材も買ってないのに毎日食べたい料理が作られている。
ああ。妖精さんのいる生活、なんて楽なんだろう。
もうこの快適な生活から抜け出せなくなってきている。
それと同時に。妖精さんの正体が気になって気になって仕方がない。
妖精さん以外の可能性も色々考えてみた。
例えば、昔この家に住んでいた人の雇っていたメイドさんの幽霊とか。
私の大ファンがストーカーして家まで入ってきてるとか。
実は私は夢遊病で、寝てる間に全部1人でやってたとか。
このまま黙ってお世話されていたいけど。そろそろ好奇心が抑えきれない。
今日は、妖精さんの正体を暴くつもりだ。
実は出かける前に部屋の中にカメラを仕掛けて出かけて来ている。
私はただ、自分の部屋を撮影してるだけで悪いことは何もしてない。
上手くいけば、妖精さんの正体がカメラに映っているはず!
期待と不安が入り混じった不思議な気持ちのまま帰宅すると、いつも通り机の上にご飯が用意されていた。
今日はご飯より先に、カメラの確認へと急ぐ。
目立たないように隠していたカメラは、録画中のままでしっかりと残っていた。
録画を止めて、再生ボタンを押し早送りで録画の様子を確認する。
私がカメラの位置を調整する事数分。しっかり隠れているのを確認した後、部屋を出ていく。
誰もいない、何も変わった様子のない私の部屋。
しばらく同じ風景が続き、不意にドアが開いた。
「あっ!」
慌てて早送りを止める。
入って来たのは、全身黒の服の男の人だった。
一時停止して拡大してみても、あまり画質の良いカメラじゃないから顔まではわからない。
妖精さんは男の人だったんだ。でも、なんとなくそんな気はしてた。
もしかして、顔も知らないお父さん?……でも、大学生くらいに見える。
早送りに戻して動画の確認を再開する。
黒の男の子は、画角から見切れたり見切れなかったりしながら食器を洗い、掃除機をかけて、机を拭いて、料理を作っていた。
いつの間にか綺麗になってるから、魔法みたいだなって思ってたけど。
毎日、私のためにこんな感じで掃除してくれてたんだ。嬉しいな。
男の子は、全ての家事が終わったのか少し休憩をしてから、クローゼットの中に入っていった。
数分流してもなかなか出てこない。そこから何の進展もなく、変わらない画面が続き。
───そして、私が帰ってきて録画を止めた。