うちには妖精さんがいる   作:朝潮

2 / 5

星野アイは、自分を刺したストーカー相手に微笑むハイパーメンタルの持ち主である。




妖精さんじゃなかった

 

 

 

「こんばんは。えっと……初めまして、だよね?」

 

私は笑顔だった。だって、こんな楽しい事他にない。

録画された、妖精さんが隠れる姿を見て。

私はすぐにクローゼットを開けた。早く会いたくて。

 

吊るされた服を退けて、段ボールを超えて。

クローゼットの奥の奥。端の方に隠れるようにして座っていた人影。

こんな空間ができてたんだ。荷物はここに何でも入れてたのが失敗だったかな。

 

見た事のない人だった。顔は、何というか。普通な感じ。

通りすがりに会っても一切目に止まらないような。特徴のない男の子。

 

「ねえ、あなたの名前は?」

「……」

「どうして喋ってくれないのかなー。私、寂しいなぁ」

 

真っ青な顔で口をぱくぱく開閉させる男の子。

私は笑顔で、怯える彼の手を握る。

とても冷たい手に、体温を分け与える様に優しく指を絡める。

彼は震えていたけど。それでも逃げようとはしなかった。

もし逃げようとしても絶対逃がしてあげないけど。

 

「とりあえず、狭いしここ出よっか」

 

手を引いて、クローゼットから出る。

明るい場所で、改めて彼を見てみる。意外と優しそうな顔だ。

歳は20歳くらい?目も髪も黒で、黒ずくめの服を着ている。

特徴がないのが特徴、といったパッと見、どこにでもいる普通の男の人。

ストーカーの人って、ざ・犯罪者!って感じの見た目なのかと思ってた。

 

「私の名前は星野アイ。って、知ってるかな?」

「はい……」

「じゃあ、自己紹介はいらないかな。それで、お兄さんの名前は?」

 

その瞳の輝きは過去一番。

生まれて初めて、両目に映る一番星が瞬いた。

 

「……あ……う……お、オレは……」

「大丈夫」

 

彼は、震えながら私を見つめる。

その瞳には、はっきりと恐怖が浮かんでる。

私はもう一度震える手を包み込んで、彼の目を見て優しく笑いかける。

 

「警察に行くつもりはないよ。だから安心して、あなたのこと教えて欲しいな。お話できる?」

「……はい……ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください、なんでもします……」

「大丈夫、大丈夫。落ち着いて?」

 

何度も謝って、許しを請おうとする。

そんな彼を抱きしめて、背中をさする。

まるで子供を相手にしているみたい。

私の方が背が低いのに、なんだか立場が逆転しちゃったみたい。

 

「オレは屑原辿っていいます……」

 

私は、彼が落ち着くまでずっとそうしていた。

それから、やっとまともに話ができるようになった彼に色々と質問をしてみた。

まず、この部屋に来た経緯を聞いてみると。どうやら私が鍵を落としたのが切っ掛けらしい。

 

私を街中で見かけて一目惚れしたお兄さんはストーカーを初める。

気付かなかったけど、一時期は私の外出中ずっと追いかけていたらしい。

 

そして、ある日鍵を落とした私はそのままレッスンに向かった。

ストーキングで私の家と予定を把握できたお兄さんは、合鍵を作った後、鍵を家の中に置いた。

確かに、何ヶ月か前に家に鍵を落としていたことがあったようななかったような。

鍵がないと思ったら空いていて。家の中に落ちていたから閉め忘れていたのかと思ってたけど。

 

それから、私の家に不法侵入するようになって。

物を動かしたりして存在をアピールしていたらしい。

無頓着な私はこの時点では全く気づいていなかった。

それから、食器を洗ったり、掃除をしたり、洗濯をしたり。

ついにはエスカレートしてご飯を作り始めたとの話だ。

最近は私が独り言を言ってたご飯の感想が聞きたくてクローゼットに隠れていたのだとか。

最近は手紙を貰って、同棲気分でいたらしい。ふぅん……

 

どうやらこの人が妖精さんの正体で、ご飯を作っていた本人で違いないようだ。

話では何度もすれ違ったことがあるらしいけど。やっぱり顔に覚えがない。

どこにでもいるような平凡顔の彼はどうも印象に残りにくい。

 

「サドルお兄さん?だっけ」

「辿です」

「そっかそっか。私ね。タドルお兄さんの行動次第で許してあげようと思うんだ」

 

全て聞き終えた私は笑顔のまま、彼に伝える。

すると、緊張した様子のお兄さん。そんなに怖いかな?

でも安心して。私は最初から警察に突き出す気なんてないから。

 

「今日から、私が帰ってきたらおかえりって言う事。ご飯は一緒に食べること。そして、着替えとお風呂は覗かない事」

 

私が条件を突きつけると、お兄さんは呆然とした表情で固まった。

わからなかったのかな?言うこと聞いてくれないなら、ちょっと怒らなきゃだ。

 

「それって」

「そう。今日から私とここに、出来るだけ一緒に住むってことだよ」

「な、何で……」

「理由とか聞いてどうするの?私は、そうするなら許してあげるって言ってるんだよ?」

 

去年まで小学生だった女の子の家に忍び込むなんて普通じゃない。

そう。きっと、普通じゃないほど()()()()()()()のだ。

ロリコンの変態さんでも。きっとこの人は、世界で一番、私を愛している人。

それだけの愛を持って愛されたのなら、愛の何たるかがひとかけらでもわかるかな?

 

「これまで通りストーカーをしながら一緒に住んで許してもらうか、お巡りさんに行くか。ふたつにひとつだよ」

 

それに。無料で家事をやってくれて、美味しいご飯を作ってくれる。

そんな便利な家政夫、今更手放すわけがないでしょ?

 

 

 





(*ᴗ*)ニガサナイヨ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。