うちには妖精さんがいる   作:朝潮

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アイの巣かと思ったら蜘蛛の巣だった

 

 

 

「アイ。また顔にソースついてるぞ」

「えー?どこー?」

「ほら、取ってやるから待ってろ」

 

お兄さんはティッシュで私の頬を拭う。

その手つきが優しくて、によによと口端が上がってしまう。

そんな顔を見咎められたのか、お説教が飛んでくる。

 

「全く。アイドルは顔商売なんだから人前でご飯食べる時は気をつけろよ?」

「はーい」

「毎回返事だけは元気なんだよな」

 

大丈夫だよ。

だってお兄さんがいないなら、わざと汚す必要ないんだもん。

 

「ほら。また握り方が変になってる」

「あ、ホントだ。ね、サドルお兄さん。また教えてよ」

「まだ名前覚えてないのか」

「ペダルお兄さんだっけ?」

「最低でも自転車は関係してるみたいな覚え方するなよ。辿だから」

「そうそう、タドルお兄さんだ」

「いつになったら覚えてくれるんだ。もう3年の付き合いなんだからいい加減覚えてくれ」

 

どこまで行っても家政夫扱いなのか、としょげている。

そんなわけないじゃん。

私のファン一号の君の名前はすぐに覚えた。

覚えられなくても3年もあれば流石に覚える。

お兄さんの反応が可愛いのがいけないんだよ。

 

「ペン持つみたいにこう持って、ここの指で開け閉めするんだ」

 

実は、箸の握り方もちゃんと覚えてるんだ。

時々気が抜けて変な持ち方に戻っちゃうけど。

 

「わかんないからもっと教えてよ」

「しょうがない子だな……」

 

お兄さんは背中から私の手を包み込んで、箸を持たせてくれる。

体が触れ合うと、視界が白くチカチカと瞬いて世界が煌めく。

世界が鮮やかに見えるのはお兄さんが一緒の時だけ。

この人以外、この世界に価値なんてない。

 

こうしてみると、あの生き物とは血縁関係があるだけで親ではなかったんだ。

この世界に産んでくれて、捨ててくれた事だけには感謝している。

そのお陰で私は今ここにいる。

 

「アイ。ちゃんと聞いてるか?」

「ごめん、聞いてなかった。最初から言って?」

「はぁ……」

 

そう言いながらも、頭を撫でてくれる。

私は嬉しくなって、もっと甘えたくて。

テーブルの下で足をパタつかせる。

今は、ふたりきりの夕飯の時間。

嘘を利用してでも、あなたと、少しでも長くくっついていたい。

 

あなたの瞳に映るのは私だけがいい。

そのためなら、どんなズルでも平気でしてしまう。

私は嘘吐き。

 

 

 

 

「お兄さん、お風呂一緒に入る?」

「馬鹿言ってないでさっさと入りなさい」

「ねーそろそろいいんじゃなーい?」

 

お兄さんのお気に入りのポーズをとりながら、上目遣いでお願いする。

これが私の悩殺コンボ。このおねだりで負けたことは一度もないのだ!

 

「……1人で入って来れたらご褒美やるよ」

「ご褒美!」

 

お兄さんの言葉に私は飛び上がりすたたたっとお風呂へ向かう。

何だろう。頭なでなでしながら褒めてくれるのかな?

抱きしめて愛してるって囁いてもらうとか最高かも。

それとも、もっとエッチなことー!?

 

「タドル!あがった!」

「服を着なさい!!!」

 

久しぶりに本気で怒られた私はポタポタと水を滴らせながら脱衣所へ戻る。

わしゃわしゃと適当に水分を拭き取る。

うーん。そんなに魅力ない体してるかな?

鏡の前でおっぱいを寄せて上げてみる。これでも初めて会った時と比べたら結構成長したんだけど。

それとも、ロリコンだから小さいままの方が好きだったのかな?

 

「覗かれるのはあんなに嫌がってたのにどうしてそう見せたがりなんだ」

「覗かれるのと自分から見せるのは違うよ」

「一応言っとくけど、覗いたことも覗こうと思ったこともないからな」

「それよりご褒美はー?」

「はぁ……」

 

下着だけ身につけた状態で再びリビングへ。

文句は聞かないけど。今更ご褒美なしとは言わないよね?

そんな理由でおあずけされたら、さすがの私でも怒っちゃうよ。

 

「はい。ご褒美」

「えーこれがご褒美ー?」

「いらないなら返しなさい」

「いただきまーす」

 

私は突き出された棒アイスを口に咥える。

こんな子供騙しに引っかかるなんて。

そもそもアイスなら私はハーゲンなやつがいいのに。

 

「はいはい、拗ねない拗ねない」

 

ぶおーとドライヤーの暖かい風が頬を撫でる。

わしゃわしゃと髪を弄られながらすこしずつ噛み砕いていく。

もう私自分の髪の乾かし方も忘れちゃったな。

 

「はい、終わり。歯ブラシ持ってきてやるからそこにいるんだぞ」

「はーい」

 

それにしても。順調にダメ人間に調教されているような気がするけど、気のせいかな?

とか何とか考えつつ、甘えて歯を磨いてもらう私なのでした、まる。

 

 

 

一緒の布団で寝てくれるようになったのはいつからだっけ。

ベッドに入ると、お兄さんが抱き寄せてくれる。その腕の中で今日も幸せに浸る。

 

「いつもみたいになでなでしてよ」

「はいはい」

 

私はお兄さんの服を捲りあげて胸板に擦り付く。

 

ちゅっちゅっ……ぺろぺろ……カリカリ……

 

お兄さんの体には、至る所に既にキスマークや引っかき傷がついている。

内出血を作ったり、傷を舐めたり、爪を立てたり。今日も私はマーキングをする。

 

「私以外の人に触れちゃダメだし、触れられるのもダメだよ」

 

消えかかっていた場所に新しいキスマークをつける。

その隣に、噛んで歯形もつけちゃおう。

 

こんな体で、他の人とえっちなんてできないよね。

私の印だらけだもんね。私のものだもんね。

私が我慢している間に浮気なんて絶体させないから。

 

お兄さんは何でも許してくれる。

私のお願いなら何でも聞いてくれる。

でも、えっちなことはまだ禁止なんだー。

 

「お兄さん、わかってるよね?16歳になったら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セッ──、だからね」

「……わかってるよ」

 

でも、それも16歳までっていう約束。

逃げられると思わないでね。私のこと、こんなに夢中にさせておいて逃げるなんて許さないよ。

もう誕生日まで数ヶ月だよ。覚悟はできてるの?

お兄さんの体にちゅうちゅうと吸い付きながら微睡む。

これがきっと愛なんだ。これが愛じゃなかったら私は愛を知らないまま死ぬ。

 

「あ。お兄さんも私のおっぱい吸ってみる?」

「早く寝ろ」

 

だってこんなにも幸せだ。

ぎゅっと抱きしめて頭を撫でてくれる。

撫でられると、チカチカと世界が輝く。もう真っ暗な星には戻りたくない。

私とお兄さんの間に隙間なんかないくらいぴったりとくっついて、私は眠りについた。

 

 

 




~誰も興味ない名前の由来~

星 野  アイ
屑 原 タドル

一番初めに思いついた熟語を当てはめただけ。
なのに意外と意味通っててなかなか気に入ってる。
アイの住所を辿ったド屑なストーカーくんにピッタリの名前。
原とタは知らん。
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