「この度は誠に申し訳ありませんでした!!!」
大事な話があると家に呼び出した社長とその奥さん。
目的は、妊娠してしまったことの報告と謝罪。そして両親への挨拶。
お兄さんが結婚してくれるかはまだわかんないけど。まずは顔見せからだよね。
「何の言い訳にはならないと思いますが最初の一度以降避妊には気を遣っておりまして……」
「それからゴムありで毎日シてるけどね〜」
「お前はもう黙ってなさい」
「え〜何で〜?」
酷いなあ、ちょっと小粋な冗談で和ませようと思っただけなのに。
「ははは、終わりだ……」
そんな私を見た社長は何もない空間を見上げて空笑いを始めた。
社長の奥さんは凍ったみたいに固まってるし。
ちょっとおもしろー。
「ところで、私の両親に挨拶は済んだ事だし。次はお兄さんの両親に挨拶に行きたいなって思ってるんだけど」
「もうお前の神経がわかんねえよ」
「アイ、すまない。君を親に合わせる事はできない」
「まさか、もう亡くなって……」
「昔ストーカーしてた時の示談金を払ってもらった代わりに親からは勘当されてて。連絡先も知らないんだ」
「お前の神経もわからねぇ!今言うことかそれ!?」
お腹の底から、目の前が真っ暗になるくらいどす黒い感情が湧き上がる。
ストーカー?あはは、何それ。聞いてないけど?
「私以外の女が好きだったの?」
「今はアイ一筋だから」
「話逸らさないで」
「もうやめてくれ……」
お兄さんに私よりも先に好きな女がいたなんて許せない。
どこのどいつか突き止めて。近寄る女は全員……
わたしは、お兄さんの肩に噛み付いた。
ぐりぐりと歯型をつける。これは私のだって証拠をつけないと。
うっかりしてた。外から見てもわかる所にも証がないといけないよね。
「ああ、安心してください。いつもの事なんで……」
お兄さんはそんな私の頭をそっと撫でてくれる。
ああ。やっぱりお兄さんは私のことをわかってくれている。
そうだよ。私はお兄さんを傷つけてるわけじゃない。この痛みは愛なの。
私以外の女を見たことは一生許さないけど。今だけは誤魔化されてあげる。
ちゅぽっ……
お兄さんの首筋にはくっきりと私の歯形がついている。
血が出るくらいに噛んだつもりだったけど、失敗しちゃった。
だって血の味がしない。いつも通りの、汗の味。
「満足した?」
「一旦は」
そんな裏切りを、そんな浮気を。一生許すわけにはいかない。
お兄さんは、毎日私の機嫌をとらなきゃなんだよ。
一日中私の事を考えて、私の為に掃除をして、私の食べるご飯を作る。
夜には一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、えっちして。
私が満足したら、その日は許してあげる。出来なかったら、満足するまでえっちするの。
「これからお兄さんが見ていいのは、私と私たちの子供だけだから」
「わかってるよ」
よそ見して良い例外は家族だけ。
私は今度こそ愛のある家族を作るの。
いっぱいえっちして、いっぱい家族をつくろうね。
「アイ。まさか産む気なのか……」
「もちろん*」
愛されること、そして愛すること。それが私の夢。
愛されることはお兄さんのおかげでわかった気がする。
「佐藤社長。私をスカウトしてくれた時に話した事覚えてる?」
「当然だ」
「この人といたら、いつか言えそうな気がするの。心からの、愛してるって言葉を」
「つってもよ……」
アイドルと、私だけの愛を見つける事。
どっちも大切だけど、どちらかを選ぶなら愛。
アイドルは仕事。愛は人生だから。
「アイさん。その歳で子供を産むなんて大変なことなのよ。言うのは簡単だけど。お金もかかるし、時間も。育児は毎日休みなし。それにあなたはまだ若いから骨盤も開ききってない。お産で死ぬかもしれないのよ」
「わかってるよ。でも、せっかく私の下に来てくれたんだから産んであげたい」
「でもな。このことがバレたらアイドル生命即終了。監督責任を問われて事務所も終わり。全員仲良く地獄行きだぞ」
「あ、社長。私アイドル辞めるから」
「ええええええええ」
私の言葉に、社長だけでなくお兄さんも驚いていた。あれ、言ってなかったっけ。
「このままアイドル続けてたらいつか隠しきれなくなる時が来る。でも、どうしても産みたいんだ。誰にも愛される前にさよならなんて、可哀想だもんね」
まだ膨らんでもいないお腹を撫でる。
この中に小さな命がいるなんて不思議な気持ち。
私は、絶対にこの子達を幸せにする。あの生物を反面教師にして。
「これでも感謝してるんだよ。できるだけ社長には迷惑をかけないようにするから。安心して。星野アイはもう2度と表舞台には立たない。子供のことも隠し通すから」
「……勝手に決めつけてんじゃねえよ」
怒ってる?
社長がこんなに怒るところを見るのは初めてかもしれない。
名前間違えた時はいつも怒られてるけど。
「アイ。俺はお前を見つけ出した事が人生最大の幸運だと思っている。B小町がここまで成長したのはお前のおかげだ」
「うん」
「お前は苺プロ最強で無敵の嘘吐きだ。子供の1人や2人くらい隠し通してみせろ」
「じゃあ……」
「アイドルアイの活動は、病気療養のため一時休止。その間の運営は俺に任せとけ。一年後、今度こそ日本を獲るぞ」
「いいの?」
アイドルはやってて楽しいし、他の働き方なんて知らない。
できれば、子供を産んでからも続けたかった。
「私、まだアイドルしてていいの?」
「馬鹿か。まだ契約は終わってねーぞ。こっちが逃すかよ」
「佐藤社長!」
「斉藤だ、この生き急ぎアイドルが」
*
「それにしてもどうして……何もこんな冴えない子相手じゃなくても」
は?何この
何か文句あるわけ?
「そんな事言ったら社長も冴えないおじさんじゃん」
「お前らな……」
流れ弾に当たった社長はプルプル震えていた。
社長も社長で星野アイの狂信者の1人なんだよなあ。
星野アイに人生オールイン!