今回は、後編になります。
『これはつまらぬなぁ、つまらぬ。召喚者が倒れてしまった』
『察するに、召喚者と同じ不逞の輩の男達が仲間であろうか?』
『対峙しているのは、少女と女と少女の姿の悪魔か』
『指示は受けていないが、生きている間は召喚者の守護は契約だ。
つまらぬが、男達を援護しよう』
ギャル夫達の後ろ、倒れたいかない夫の側に現れた異形の悪魔にその場にいた皆が動きを止めた。
そこに現れたのは、中世の貴族のようなローブを着た男が首に巻いた大型のスカーフの上に六個ほどの別の方向を向いた様々な頭を乗せた姿の悪魔であった。
レベル16。ソロモン72柱、序列71位の【堕天使ダンタリオン】。
蝙蝠の羽の生えた貴族風服装に無数の男女の表情の頭部を持つ姿をしていて、右手に書物を持ち学術知識や他人の秘密を知る権能を持ち心を読み言葉巧みに相手を意のままに操る術を持つ悪魔である。
そいつは頭同士で相談すると、気乗りしない様子でギャル夫達を援護するために魔法を放ってきた。
『リーダーはあやつか。【ディア】』
「お、傷が治るっス。【一文字斬り】!」
『くうっ!』
「いかない夫の奴、やるじゃん。【突撃】!」
『チュ、チュウゥゥ』
自分たちの味方だと分かり、いち早くギャル夫達の方が動き出した。
傷が治ったギャル夫がルビーにスキルでダメージを与え、ギャラナイ夫の攻撃は堕天使に気を取られていたカソを倒してしまった。
ない世は慌てて、今度は女幽霊のポルターガイストを呼び出す。
「あ、カソちゃんが! ポルさん、お願い!」
『うふふ、まずそうな男。【九十九針】』
「い、痛てぇ! 誰が不味そうだ、誰が!」
女幽霊の九十九針が当たって、痛さより不味そうと言われた事に腹を立てて怒鳴るギャラナイ夫。
一方、レベル差があるギャル夫の正面にいるルビーの援護するべく、範囲魔法は巻き込む危険があるため補助魔法を放つ真緒と花子さん。
「ルビー、頑張って。霊活符、急々如律令!」
『鈍くなれ!【スクンダ】!』
『よおっし、これで!【毒串刺し】!』
「ぐげぇ、なんかすげぇ痛てぇっス! 何だこりゃ!」
味方全体に効果が及ぶ真緒のタルカジャの札と敵全体に効果が及ぶ花子さんのタルンダが放たれる。
攻撃力の上がったルビーのスキル攻撃が、2段階命中と回避率が下がり動きの鈍くなったギャル夫に命中した。
さらに、ルビーのスキルの効果により毒にも掛かったギャル夫は徐々に体力を削られる事になる。
もっと言えば、霊能アイテムの知識など禄にない“カジュアルサマナー”の彼らギャル夫達は、非合法の“元気の出る薬”は有れど傷薬などは持ち合わせていない。
以前は数本は強奪したものがあったが、“元気の出る薬”と混ぜて女性と寝た時に使用済みであった。
『愚かしい者達よ。蛮勇しか無いのか』
『どうする? 毒は消せぬしジリジリと負けるばかりだぞ』
『まだマグは続いている。主力はあの赤いマントの悪魔のようだ』
『ならば、【ジオ】』
『ぎゃん!』
倍近いレベル差のあるダンタリオンの電撃がルビーを撃った。
悲鳴を上げるルビーを見てチャンスだと思ったのかギャル夫がたたらを踏むルビーの頭を目掛け、鈍くなった体を無視して木刀を大きく振りかぶって攻撃を加えた。
「こいつさえ殺せば勝てるっス! 死ねっス、【一文字斬り】!」
『がっ! ……ごめん。マスター』
ギャル夫の一撃がルビーの頭部を捕らえ、その一撃を食らったルビーは消えて真緒の手元の札に還ってしまった。
それを見たギャラナイ夫は勝利を確信し笑みを浮かべ、女幽霊と花子さんは恐怖に後退った。
同じように勝ちを確信し、ギャル夫は後ろを振り向いてダンタリオンに声を掛けた。
「これで、俺らの勝ちっス! 女たちは俺たちのもんっス。
おい、そこのいかない夫が呼んだやつ。そっちの他の悪魔にも食らわしてやるっス!」
『それは無理な相談だ。愚か者よ』
「はあ? 何で従わないっスか!?」
『お前は我らの契約者ではない。さらに、時間切れだ』
「時間切れ?」
『契約者が死に、マグが途絶えた。故に、我らも帰るとしよう』
『理知のある契約者のいないつまらぬ時間であった』
『油断して敵から目を離す愚か者よ。さらばだ』
ギャル夫の問いに答えたダンタリオンの姿が歪んで消えていく。
足元に転がるいかない夫を眺め、全ての頭部が心底つまらない顔で消えていった。
「はあ? 何を言っているっスか、あの悪…」
「ギャル夫!」
「こういう事よ。風神符、氷神符、急々如律令!」
ギャラナイ夫の叫び声でギャル夫が振り向いた先には、複数枚の護符を掲げた真緒が突っ込んで来ていた。
ギャル夫とギャラナイ夫を巻き込んでマハザンの札とマハブフの札が炸裂した。
真緒の奥の手、魔法札の多重起動。
反動で術者もノックバックとダメージを負うが、その組み合わせによって1段階上の魔法の効果が見込める秘術だ。
これは、真緒が持つスキル【呪符作成】と【符術の心得】があって初めて使える技であった。
擬似的な【マハブフーラ】が生じて小型の氷雪の嵐が起こり、そこには重い傷を負い体が凍結し動けなくなったギャル夫とギャラナイ夫の姿があった。
「それで、誰が誰の物だって?」
「……よくも、カソちゃんを!」
真緒とない世の怒りの籠もった声が響き、目だけを動かして男達は二人を見た。
そこには、札とスマホを持った真緒とない世がいて同時に叫んだ。
「死んだら蘇生代は自分で払いなさい! 氷神符、急々如律令!」
「ポルさん!」
『【九十九針】よ』
凍結して動けないギャル夫とギャラナイ夫に、真緒のマハブフの札と女幽霊が放った瓦礫が叩き込まれた。
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事件のその後を語ろう。
男二人を倒した後、真緒の連絡で織莉子が準備させていた回収班のメンバーが到着し現場にいた全員が回収された。
未覚醒の下っ端の男達は、記憶処理をした上で警察に行く事になり余罪を追求される事となった。
また、真緒の父の郁夫と八幡神社の宮司をはねた車の無免許運転の若者もギャル夫の手下だった事が分かり、未覚醒なためにこちらも他の連中同様にされる事となった。
ギャル夫とギャラナイ夫はハンター資格と装備諸々全てを没収の上、本部管理の“異界鉱山”送りになりこちらも余罪を調査中である。
そして、今回の発端となったいかない夫はと言うと。
「一応、道返玉による蘇生は成功しましたが、マグネタイトの急激な枯渇によりもう異能者ではありません。
一般人と変わらず異能者でないなら本部に送るのも無理ですが、どうされますか?」
「そいつは既に成人していますし、家族を襲いに来るような下衆です。
うちの戸籍からも消して、我々の記憶を全部消してどこかに放り出して下さい。
費用は負担しますから」
「分かりました。
記憶処理後、北海道のジプス系列の水産会社の船で働いてもらいましょう」
カルテを持っていた協会の医師は、急遽退院してきた真緒の父の郁夫の答えにそう返答した。
その後、全てを忘れたいかない夫は、蘇生費用や記憶処理の費用を借金として背負って遠洋北洋漁業に従事する事になった。
そのいつ借りたかも記憶にない多額の借金を返済するために、いかない夫は20年近く船で働き続ける事になる。
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「有定、留守の間苦労をかけたな」
「それが私とこの家との契約ですから、お気になさらず。
お帰りなさいませ、郁夫さま」
「真緒、留守の間は本当に苦労をかけたな。すまなかった」
「やめてよ、お父さん。アレはもういなくなったんだから」
「そうだな。もう二度とアレはここには来んだろう」
事件からすぐ後、入院していた郁夫が慌てて退院して戻って来た。
そして、諸々の後始末をするとようやく家に落ち着いて暮らせるようになった。
「……えと、初めまして。生江ない世と言います。
娘さんの真緒さんにはよくしてもらっています」
「こうして顔を合わせるのは二度目だったね。
娘のよき友人としても付き合ってやって欲しい。よろしく」
「友達がいないような言い方はやめてね。お父さん」
「何を言う。
中学の頃はいじめグループと正面からやり合って、まともな友人は希流子ちゃん以外いなかったろうに。
向こうの親御さんたちとの話し合いで知っているんだぞ?」
「うぐっ」
言葉に詰まった真緒から、郁夫は隣に座る悪魔娘の二人を見た。
「それと、娘と契約してくれたルビーくんと花子さんかな?
君たちも友人や仲魔として娘を助けてやって欲しい。よろしく頼むよ」
『任せて下さい。今度はやられるような事はないように強くなります!』
『せっかく出来た人間の友達だもの、もちろんだよ』
「よし。
それじゃあ、わしの退院も一緒に記念して寿司をとることにしようか。
後でティコにも、高級ドッグフード缶を開けてやろう」
「……お寿司なんていつぐらいだろう?」
『わっ。初めてだから楽しみ』
『うんうん。久しぶり』
「はいはい、ちょっと待っててね。
もしもし、がってん寿司さんですか? 松の8人前をお願いします」
受話器を持ちながらわいとわいと楽しげに話す家族や友人たちを見て真緒は、現世ではこの幸せを守ってみせると新たに誓い微笑むのだった。
後書きと設定解説
・敵対者
名前:木下ギャル夫(きのしたぎゃるお)
性別:男性
識別:異能者・18歳
職業:高卒フリーター
ステータス:レベル11
耐性:破魔無効
スキル:一文字斬り(敵単体・中威力の物理攻撃)
物理鋭化(物理攻撃の威力が上昇する)
COMP操作
装備:赤樫の木刀(霊装)
ケブラージャケット(霊装)
ドルフィンヘルム(精神無効付与)
COMP(百太郎、アナライズ、マッパー)
詳細:
主人公と同じ地元出身でギャル男ファッションの男
心霊スポットに乗り込んで悪霊に殺されかけて覚醒
高校卒業後、家出してハンターとして日銭を稼いている
将来は俺TUEEE金持ちハーレム異能者が夢
「~ッス」「チョリ~ス」が口癖のギャル男口調
容姿は2chやる夫派生の「ギャル夫」
【堕天使ダンタリオン】
レベル16 耐性:物理弱点・火炎耐性・氷結耐性・電撃耐性
衝撃耐性・破魔耐性・呪殺無効
スキル:ザン(敵単体・小威力の衝撃属性攻撃)
アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
ジオ(敵単体・小威力の電撃属性攻撃)
タルカジャ(味方単体・攻撃力を1段階上昇する)
タルンダ(敵単体・攻撃力をⅠ段階低下する)
ディア(味方単体・HP小回復)
詳細:
ソロモン72柱、序列71位の堕天使
蝙蝠の羽の生えた貴族風服装に無数の男女の表情を持つ姿
右手に書物を持ち学術知識や他人の秘密を知る権能を持つ
心を読み言葉巧みに相手を意のままに操るという
これにて、第1部終了となります。
次回は、ネタが浮かび次第早めに。
読んで下さった方がいるならありがとうございます。