デビルサマナー 転生召喚符術師の日常   作:塵塚怪翁

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続きです。


第2話 ダークサマナー・生江ない世

 

「それじゃ、イクエさんでいいの?」

 

「…いえ、ナマエです。『生江ない世(なまえないよ)』です」

 

「じゃあ、何でこんな事したのか大家さんにもちゃんと説明してくれる?」

 

「…はい」

 

 

 取り押さえてから数時間後、真緒と被害者の男性を病院に送り諸々の処理を終えて戻って来た大家さんと共に彼女の部屋で話を聞いていた。

 向かいに正座で座るその彼女は、髪を後ろで大きなリボン纏め部屋着であるジャージ姿のままテーブルの上に真緒が置いたスマホをチラチラと見ながら話し始めた。

 

 

「生江さん。

 確か求職中だったとわしの方では聞いているんだが、何でこんな事をしたんだい?」

 

「…その私、去年大学を出た時に就職に失敗しまして、その時友人の一人に上手くすれば年収1000万は堅い仕事はどうだと誘われたんです。

 それで、スマホにあるアプリを入れて幽霊の彼女を使ってさまなー?を始めたんです」

 

「あー」

 

 

 その話は真緒にも聞き覚えがあった。

 

 何でも大学サークルや就活をしている学生、時には社会からドロップアウトした連中にこういう話を持ちかけて、COMPを渡す事で大勢の人を即席のサマナーにして戦力にしているという噂があった。ただ、COMPと言っても粗製乱造された物らしく、召喚は一体まで仲魔は三体までの質の低いものが主流らしいと聞いている。

 何よりも未覚醒でも悪魔の事を知らなくても容易に戦力にできる所から、こうした彼らを古くからの専門家の間では【カジュアルサマナー】と呼んでいる。

 

 車椅子の男が配っているという話がある事から真緒にはスティーブンの仕業ではと見当が付いているし、ジプスも『アナライズ』や『エネミーソナー』などを裏サイトで有料アプリとして販売している事からそういった組織の上の方の連中はもっと上質の悪魔召喚プログラムが入ったCOMPを持っているのは推察できる。

 

 つまりは、ここにいる彼女も“カジュアル・ダークサマナー”という事になる。

 

 

「…それでですね、しばらく前に仕事で失敗してしまって連絡が取れなくなって収入が途絶えているんです」

 

「連絡が?」

 

「…はい、仕事を紹介してくれた友人にも繋がらなくて」

 

「生江さん、仕事って何をしたんだい?」

 

「上からの指示で、あの幽霊で心霊現象を起こしてお金を貰っていたんです。

 借金の取り立て相手を脅かしたり、指定された人をノイローゼにさせるとかで。

 失敗したときも指定された人に向かわせたら彼女がいきなり消えて、『お前も逃げろ』と言われて慌てて逃げたのはいいのですけどそれからさっぱりなんです」

 

「それで?」

 

「貯蓄を切り詰めて仕事を探していたんですけど、にっちもさっちも行かなくて。

 ある時、閃いたんです。

 ここを幽霊の出る事故物件にすればお家賃も安くなるし、幽霊のためのマグ?とかも隣の男性に気持ち良くなって貰えばいいんじゃないかと。

 幸い、あの子もエッチな事が大好きでしたし」

 

「……はああ」

 

 

 本当に一山いくらな下っ端ダークサマナーな話を聞いて、大家さんは深くため息をついた。

 それにビクッと震えた彼女に、大家さんはこう切り出した。

 

 

「そういう事をされたんじゃ、とてもじゃないがもう部屋は貸せないよ。生江さん。

 事情が事情だし警察に突き出すとかはないが、即刻出て行ってくれ」

 

「ええ!? そんな、引越し先が決まるまで待って下さい!」

 

「いいや。今月の家賃はもういいからすぐに荷物を纏めてくれ。

 この部屋の家具は備え付けのものだから、着替えとかしか荷物はなかったはずだ」

 

「困ります、大家さん!」

 

「親御さんに連絡すればいいじゃないか。

 数年前にここに入る時に一緒に来た男性がお父さんだろう?」

 

「あの方は児童福祉施設の院長先生なんです。

 私、両親が10年前の事件に巻き込まれて行方不明になったので」

 

「ああ、そうなのか。

 でも、うちもこれ以上あんたに居られると迷惑なんだよ。判っているのかい?」

 

「ああ、そんな」

 

 

 ない世と大家さんがそんな話をしている横で、真緒は彼女のアナライズを進めていた。

 真緒の見鬼によるアナライズはどういう仕組みか、時間を掛けて見る事により解析が進むとステータスやスキルなども見れるものであった。

 

 

(この人、【アドバイス】に【コーチング】に【食いしばり】とスキルが5レベルにしてはなかなか揃っているんだよね。

 ただ、運が【1】しかないのは小さい子ども以外で初めて見たな。

 普通の人でも3~4はあるのに。まあ、これくらいは誤差かな。よし)

 

「ちょっといいですか、生江さん」

 

「はい、何でしょう?」

 

 

 大家さんと出て行け待ってくれと話していた彼女に、カバンから書類をテーブルの上に出して真緒は話しかけた。

 

 

「生江さんにうってつけの仕事があるんです。

 なので、この雇用契約書にサインをしてうちで働いて貰うなら住居も紹介しますよ」

 

「ええっと、どんな仕事でしょう?」

 

「ボクの家、北の山の麓にある元はお寺の広い屋敷なんですよ。

 だから、住み込みで家政婦をお願いしたいんです。

 父は今入院中だし、ボクも仕事があるので家事まで手が回らなくて」

 

「あそこのお屋敷の人だったのか。

 けれどいいのかい、お嬢ちゃん。こんな事をしていたんだよ?」

 

「大丈夫ですよ。これでも長いこと父に教わってきた専門家ですから」

 

 

 ジーッと契約書の内容を見ていたない世は、真緒に尋ねた。

 

 

「……あの、この内容は本当ですか?」

 

「賃金は県の最低賃金になるけど、食と住は家で持つから。

 仕事の内容も普段は家政婦さんをしてもらって、時々サマナーもして貰うくらいだから」

 

「……そ、それじゃあ、お願いします」

 

 

 密かに裏切り防止用の呪的契約が仕込んである契約書にサインをするない世を見て、素質のある人材ゲットと考えてにっこりと笑って真緒はない世に握手をした。

 

 

「うん。これからよろしく。

 これでいいですよね、大家さん」

 

「ああ。わしの方はかまわんよ。

 それじゃ、整理の方を始めてくれ。生江さん」

 

「……はい」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから時間が経ち、夕暮れ時。

 

 乗って来たママチャリを押しながら家に向かって歩く真緒の隣を、キャスター付きのトランクをガラガラとさせながらない世は歩きながら彼女と話していた。

 

 

「それしか荷物がないんですか? 生江さん」

 

「奨学金の返済もありましたから。

 お金に変えれるものは大体処分したらこうなったんです。

 あと、ない世でいいですよ?」

 

「じゃあ、ボクの方も真緒でOKです。ない世さん」

 

「それじゃ、真緒さんで。本当に助かりました」

 

「その辺はボクも理解してやっていますから。

 あと、しばらくはボクの許可なしでは召喚アプリの使用は禁止ですよ。

 こっち側の常識とかも覚えてもらわないといけないですし」

 

「……本当ならもう怖いのでそれは消したいんでけど」

 

「駄目だよ。今、消したら悪魔に襲われますよ?

 あと、ちゃんとした所でこのCOMPは見て貰いますから」

 

「何かウィルスでも入っているんですか、あれ」

 

「そうじゃなくて、今のままだと召喚できないんだよ。

 このCOMPの中の幽霊は瀕死のままだからそういう場所で見てもらう必要がるんですよ」

 

「なるほど。生き返らすための金貨もありませんし、そうですね」

 

「あ、見えてきたよ」

 

 

 駅前を過ぎ昭和に造成された住宅地の中を通って町を北へ北へと外れの方に歩くと、元は集落だった古びた木造建築の多い地域に入ってきた。その中を縫うように狭くなった坂道を歩いていくと、私有地により入山禁止とされている『星見山』の麓に真緒の実家が見えてきた。

 

 武家屋敷のような白い漆喰の塀で囲まれたその屋敷は、元寺と言うにはこじんまりとしたものでリフォームの済んでいる母屋と左の奥には中庭とその向こうに離れがあり、屋敷の右手には車庫と家庭菜園が広がる築100年以上を数える伊月家の屋敷であった。

 

 

「ただいまー」

 

「やあ、おかえりなさい。お嬢様」

 

「お嬢様は止めてくださいよ、有定さん」

 

 

 真緒が門を抜け玄関を開けると、戦前の書生風の姿をした少年が現れた。

 有定と呼ばれたその少年は、真緒の隣りにいる不思議そうに彼を見つめるない世に視線を動かした。

 

 

「お嬢、そちらの方は?」

 

「仕事先で見つけた人だよ、生江ない世さん。

 ここで住み込みで働いてもらうから、有定さん教えてあげてね」

 

「……あの真緒さん、この人って……」

 

 

 ニコニコと薄く笑う彼を手を向けて真緒はない世に紹介した。

 

 

「この人は『有定さん』。

 この家の当主に江戸の頃から代々仕えている悪魔の人だよ。

 今は父さんと契約しているんだけど、入院中だから家のことを見てもらっているんだ」

 

「よろしく、ない世さん。

 これから色々と教えることがあるので、とりあえず客間に案内します。

 お嬢、夕御飯は出来ていますので風呂を先にどうぞ」

 

「うん、分かった。

 それじゃ、ない世さんをよろしく」

 

「……ええと、それじゃお願いします」

 

「それじゃ、こっちに来て下さい」

 

 

 自室の方に行く真緒を見送ると、トランクを持ったない世を案内し2階の元は倉庫だったリフォームされた客間へと彼は階段を昇って行った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 一夜明けて、翌日。

 

 午前中に真緒は日課の護符の作成と注文の確認、ない世は屋敷内の案内と箒を使った内と外の掃除や水道と電気は来ているが今だに薪の風呂と竈の説明に絶望しつつ過ごしていた。

 真緒はお昼ごはんの冷凍のピラフを食べつつ、既に疲れてモソモソと食べているない世に告げた。

 

 

「それじゃ出かけるから準備して、ない世さん」

 

「どこに行くんですか、真緒さん」

 

「どこって、“人外ハンター協会”ですよ」




後書きと設定解説


・関係者

名前:生江ない世(なまえないよ)
性別:女性
識別:異能者・23歳
職業:無職
ステータス:レベル5
耐性:破魔無効・魅了耐性(装備)
スキル:COMP使い
    民俗学(アナライズの解析率が上昇する)
    アドバイス
     (敵にクリティカルを与える確率が上昇する)
    コーチング
     (敵からクリティカルを受ける確率が低下する)
    食いしばり
     (HPが0になった際、自動的にHP1で復帰する)
装備:COMP(廉価品。アナライズ、マッパー)
   紫水晶のアミュレット(魅了耐性)
詳細:
 主人公に負けた無職だったダークサマナー
 整った顔立ちだがスタイルも凡庸でリボン以外特徴のない容姿
 元々、大卒時に就職に失敗し悪友の手引でこの道へ来た
 数度目の仕事で見事に失敗して友人は逃げ途方に暮れていた
 容姿は2chやる夫派生の「生江ない世」

名前:有定久(ありさだひさし)
性別:男性
識別:怪異ザシキワラシ
職業:伊月家の屋敷悪魔
ステータス:レベル4
耐性:氷結耐性・衝撃弱点
スキル:パトラ(味方単体・軽度の状態異常回復)
    メディア(味方全体・HP小回復)
    ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
詳細:
 高祖父の頃から家の当主に使えている妖怪
 通常は主人公の父と契約し使い魔をしている
 黒の戦前の書生の服装をした無害そうな少年の姿
 家事や料理などを小器用に熟している


次回は早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。
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