7月の暑さの厳しくなった日の夕方、さくらの町のメシア教会の応接室で二人の面長の男が話していた。
「久しぶりだろ、できない夫。
金が無いから友人の誼で教会に住まわせて欲しいだろ、常識的に考えて」
「何が“友人のよしみ”で“常識”なんだ、やらない夫?
筋肉は見せようとしなくていいから、服を着てポーズは止めろ。
友人なら、やる夫とできる夫はどうしたんだ?」
「やる夫は、同時に複数の女性と付き合っているのがバレただろ。
一緒に仕事を組んでいたのも多かったからそれが原因だろ。
彼女らに連れて行かれて、たぶんそのまま共有の主夫にされるだろ」
「そういやあいつ、割りと家事や気遣いも出来て女性にもマメだったよなぁ。
確か夜も上手いらしくて、この中じゃ一番モテていたな。
それで、彼女らって誰だよ?」
「……“スト◯イクウィッチーズ”だろ」
「げ。
あそこって、各国の有能な女性異能者が集まった協会の大規模クランじゃないか。
女性が容姿・実力・頭脳と優秀すぎて、男側が恋愛対象として避ける様になった事でも有名な」
「マギウスの“特務六課”程ではないだろ、常識的に考えて。
とにかく、やる夫は向こうのクラン入りをしてチームを抜けただろ」
「できる夫の方はどうなんだ?」
「ハンター協会の病院に収監中だろ」
「あいつもレベル20を越える異能者だろう? 誰にやられた?」
「痴情のもつれで、ヤンデレた相棒だったピクシーの『金糸雀』に刺されただろ。
事件で助けた『七海麻美』って子と関係を持って、他の女性も巻き込んで酷い修羅場になっていただろ」
「……それでチームは解散したのか」
「そうだろ。
二人に支度金でチームの資産を分配したら、金が無くなっただろ。
それで、できない夫を頼るために来たら今回の助っ人依頼が来ただろ」
「古くから知っている子が助かったみたいだから、まあいいだろう。
余っている部屋を用意させるよ」
「それは感謝するだろ、常識的に考えて。
では、お礼に……」
「だから、服を脱いでポーズを取るな!
……たく、解散してよかったと思うぞ。
“尾朕舗堅崇斗炉負威”なんて名前のチームはな」
なお、しばらく後、半裸のマッチョが出没すると噂になり教会に近づく人が減った。
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「今回のことは、あの『原本』って年増に依頼されただけだよ。
あそこの異界を潰して、中にいる悪魔は好きにしていいって言われただけだ。
色々とあいつから買い物をして、その際に仕事を持ちかけられただけだ。
日本橋で手当たり次第にギャルにしただけなのが、そんなに悪いのかよ?
例え、地味な子であっても似合っていたじゃないか!」
「私は娘と夫を失ったばかりの被害者なのよ!?
『廃ホテルに放火して激しく燃えれば記事になる』って、あの『原本』って女に唆されただけなのよ!
はあ? 悪魔なんてどうなろうが知らないわよ!
……え、娘の事はどうなんだ?
ふん、いじめだろうがいなくなろうが知ったことではないわよ。
ほら! さっさと解放しなさいよ」
「……と言うのが、捕まえた連中のリーダーとここの異界を壊そうとしていた奴の証言だよ」
『そんなはた迷惑な理由で、わてらはめちゃくちゃにされたんやね』
『迷惑な話だわぁ』
有馬温泉の異界襲撃から数日が経った。
あの日、ハイになって暴れる筋肉男の後に入って来たハンター協会の一団によってカルトメンバーは回収されて運ばれていった。また、一団を引き連れていた刀を持った若い男によって投げつけられたデビルパライズを食らって、動けなくなった筋肉男も一緒に引きづられて回収されていった。
真緒とない世もまた、応急処置を施され一度戻ることになった。
そして現在、怪我なども治った真緒は聞かされた今回の裏事情をウシオンナを中心とした異界の彼女らに説明するために来ていた。
「ハンター協会も今回の件には本腰を入れ始めたみたいでね。
ここは仮にも協会がみんなのために管理していた異界で、それにこんな風に大っぴらに手を出されたんだよ?
それに今だに唯一捕まっていない“原本”とかいう女性が、どこからこれだけの物を仕入れてきたかが分かっていないみたい。
ああ、今回押しかけてきた連中のCOMPと仲魔だけでもかなりの大金になるんだよ?」
「それじゃあ、その女が裏で色々とやっていたって言うことなん?」
「そうなるね」
(それに今回の事でその原本と組んでいた『花村典子』という女性、そちらには関係ないけどボクと以前揉めた『します乃』の母親なんだよねぇ。
顔を見て思い出せたよ。容姿はともかく、性格はよく似ている親子だったなぁ)
真緒がお土産に持ってきた『まんだらメロン』と『うろこせんべい』に『鳥サブレ』を美味しそうに食べながら聞いていた彼女達だったが、周りを見てウシオンナもため息をついていた。
『出来れば、その居なくなったちゅう女も早く捕まえて欲しいわぁ。
変わらずにここに住んでもええちゅう話しやけど、ここも数が減ったしなぁ。
八尺様は相変わらず行方知れずやし、人面犬やターボばあちゃんを始めとした幾人かも消されてしもうたしなぁ。
今後のことを考えると、頭が痛いわぁ』
「ここまで関わったんですから、協力できることならしますよ?」
『それは、有り難い申し出やな。
頼みたいのはやな、もともとここの何人かは外に出て表向きの職場に出稼ぎに行っているんよ。
“テケテケ”や“サッちゃん”なんかは、人化の術を覚えてここの温泉街で風俗嬢をしとるし。
新しく表に出て働きたいという娘のために、白狐の講師も頼んでいるんよ』
【テケテケ】とは、下半身が欠損した姿で描写される女性の亡霊、もしくは妖怪の呼び名で、両腕を使い移動する際に「テケテケ」という音がするためにこの名で呼ばれるとされているカシマレイコの親戚の都市伝説の怪異である。
また、【サッちゃん】とはあの有名な童謡に歌われる彼女が、童謡の架空の4番でテケテケと同じく体を欠損させたという都市伝説から生まれた怪異である。
人化を覚えた彼女らは、その元々の容姿もあり店ではなかなかの人気であるそうだ。
なお、人化の術を教えた白狐であるが、岡山県の伝説に謳われる“阿久良の白狐”の1体でありその年季からその術はかなりの精度を誇り教え方も堂に入ったものらしい。
『阿久良の白狐』とはその昔、岡山県倉敷市の瑜伽山を根城にしていたと伝わる妖鬼『阿久良王』が、坂上田村麻呂に退治されたその死の間際にこれまでの悪事を悔い、罪滅ぼしとして地元の瑜伽大権現の神使となり人々を助けたいと改心し、七十五匹の白狐になって瑜伽大権現のお使いとして人々を助けるようになったという由緒のある白狐である。
もっともその由緒も地元限定のものなため、現在では他の稲荷神と変わらない生活を送っているようでその白狐も、協会の要請でこういう真面目に働きたいという悪魔のために人化術の講師をして稼いでいるようだ。
「へー、そんな事もしているんですか」
『そんでな、うちらの中から一人、真緒はんの所に丁稚奉公させよかと思うとるんや。
何しろ、この被害やろ?
あの駄馬を追い出した報酬も払ったら、うちら素寒貧やねん。
いくらマグが有れば生きていける悪魔かて、娯楽や嗜好品は欲しいやん?』
「うーん。そういう事なら、……メリーさんにお願いできます?」
『……モフハグ。えっ、ワタシぃ!?』
自分には関係ないと思って両手で持って鳩サブレを食べていたメリーさんが、自分が指名されたと聞いてビックリして真緒の方を見た。
それに、離れた場所で土産を食べている今だに金髪・褐色肌のカシマレイコや、金髪・美肌化のままのクチサケの方を見てから真緒はメリーさんを見て答えた。
「ボクの今の仲魔の構成的に、欲しいのは前衛なんだよね。
後衛で攻撃役のボクと阻害役の花子さん、警戒役のティコ、前衛はルビーだけなんだ。
能力的にも、物理耐性があって状態異常に強い前衛はすごく魅力的なんだ。
レベル的にはあの二人でも契約できるけど、逸話的に戦い方がある程度バレるんだよね」
『……そうなのぅ?』
「一般的に有名な逸話で、あの二人は問いかけをして切りかかってくるとされているでしょう?
でも、今のメリーさんだとネットでの扱いのお陰で、逆に能力がアナライズされるまで分かりにくいという利点もあるんだよ?」
『そんな事を言われたのは初めてだわぁ。
強くなって、前のワタシに近づきたいのはやまやまだけどぉ。
契約の条件は、戦う以外には何をすればいいのぅ?
おっぱいうp? 安価スレ立てて実行? IDの数字の二乗の回数の腹筋?
それとも、釣りスレに全力で釣られればいいのぅ?』
大昔のネットに毒されたような発言のメリーさんに、真緒は苦笑して答えた。
「……そんな事はしなくていいから、ね?
ボクの指示に従って戦ってもらうのが主な仕事だけど、それだけじゃないよ。
花子さんやルビーみたいに、友達になって欲しいんだ」
『……え?』
「だって、一緒に戦う仲魔なら信頼や信用の出来る相手の方がいいじゃない。
ボクはCOMPで無理やり脅して契約させるようなやり方は嫌いだし。
ね、めりーさん。ボクと契約して仲魔になってよ?」
『メリーはん。こんな事を悪魔に言う術者なんて、今どきそうそう居やしまへんで?
今の世の中、みんな、叩きのめしてCOMPで無理やり契約が主流の世の中なんやで』
そう言う真緒の横からウシオンナに言われて、メリーさんも決めたようだ。
『……そうね、では。コホン。
ワタシは、怪異メリーさん。コンゴトモヨロシク』
「はい、これからよろしくね。メリーさん」
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場面は変わり、中国地方の某所にて。
とある施設の執務室で、二人の人物が顔を合わせていた。
一人は直陸不動で立っている『原本黒実』と名乗っていたダークサマナーの女と、もう一人は高級そうなスーツを着た本物の兎の頭部をした男性が彼女の前の高級な樫製のデスクに座っていた。
原本が提出した諸々の報告書を読み終わると、彼は彼女に問いかけた。
「それでは君が手掛けていた大口の顧客に成り得るはずだった彼らは、間違いなく全て潰されてしまったんだね?」
「はい。
所詮は、力を得ただけのチンピラの集まりでしたからしょうがないとも言えます。
廉価品COMPの短期の売り上げとしては、それなりになったとも言えます」
「短期としてはそれでいいとしてもだね?
長期的に廉価品COMPを買い続けてくれる顧客を見つけてくれないと困るんだが」
「あの、ラプラスさま……」
コツコツと不愉快げに白い手袋の指で机を叩いていた兎頭の男性に、原本は呼びかけた。
「…何だね?」
「上の方は何の指示も出されていないんでしょうか?」
「……変わらず、『事態を静観し、組織の維持に努めよ』の一点張りだ。
平崎市で葛葉キョウジに、天海市ではジプスと葛葉の支援を受けたスプーキーズと呼ばれるグループに計画を潰されてから、上は慎重になっているんだ。
中枢に送り込んだ者達も、軒並み潰されたらしいからな。
君だとて、ウカウカはしていられないぞ?」
「申し訳ありません、ラプラスさま」
「原本くん。
君が地上げグループを率いていた頃に失敗して追われていたのを助けたのは、何も親切心からではないのだよ?
君にサマナーの素質があり、目的のために友人でも平気で切り捨てられる所も買っているからこそ、こうして使っている事を忘れないで欲しい」
「はい、分かりました。
引き続き、顧客に成り得るような相手を探してみせます!」
「期待を裏切らないで欲しい。行っていいぞ」
「失礼します」
頭を下げて彼女が部屋を出ていくと、コツコツと彼はまた机を鳴らし始め書類の資料を見始めた。
「まったく、フィネガンが倒されてからキャロルJもマヨーネも組織を抜けて、ユダやウラベにシド・デイビスに至っては行方不明ときた。
組織の上も何を考えているのやら、こんな事では『コヴェナント』もろくに集める事も出来ないというのに。
メシア教が大人しくなった今がチャンスなのだ。
上が動かないというなら、私だけでも大いなる存在の降臨に近づいてやる!」
後書きと設定解説
・仲魔
名前:メリーさん
性別:女性
識別:怪異メリーさん
職業:真緒の仲魔
ステータス:レベル12
耐性:物理耐性・火炎弱点・呪殺無効・状態異常無効
スキル:ムド(敵単体・低確率で即死付与)
暗殺拳(敵単体・中威力の物理攻撃。
クリティカル率が高い)
私、メリーさん(真・夢幻の具足)
(あらゆる障害物を無視して移動できる。
相手の背後には立つ場所が必要)
詳細:
都市伝説「メリーさんの電話」で有名な怪異
主人公が依頼の仕事先で見つけて契約した
昔は高レベルだったがネットのせいで凋落した
残忍な性格から方向音痴でドジっ子の性格になった
黒の長髪と赤眼のゴシックドレスを着た少女人形
容姿はローゼンメイデンの「水銀燈」
・関係者
名前:美筆やらない夫(びふでやらないお)
性別:男性
識別:異能者・28歳
職業:トレーナー/人外ハンター協会ハンター
ステータス:レベル26
耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:マッスルパンチ(敵単体・中威力の物理攻撃)
メガトンブレス(敵全体・大威力の物理攻撃。
命中率が低い)
マッスルチャージ(スマイルチャージ)
(自身・ニヤリ状態にする)
二段の剛力(ステータス・力が10増加する)
二段の恵体(ステータス・体が10増加する)
不屈の闘志(自分のHPが0になると、
一度だけHP全快で復活する)
装備:呪殺無効のピアス
ブラックブーメラン(水着型の防具霊装)
詳細:
ボディビルダーのトレーナーもしている協会ハンター
大根顔で180cmを越える身長のマッチョな大男
悪魔も悪人も自慢の筋肉で粉砕する信条の童貞
できない夫の元チームメイトで同じ髪がない友人
他の仲間がリタイアした為に現在はフリー
容姿は2chやる夫派生の「やらない夫」
【ニヤリ状態】
与えるダメージが約3倍、クリティカル率大幅上昇、
バッドステータス・破魔・呪殺以外のスキル命中率が必中、
回避率が上昇し敵の攻撃を8割程度回避することができる、
敵からの弱点・クリティカル攻撃が無効になる
ニヤリはターン経過や、ストックに戻る、BSになることで消滅
・敵対者
名前:花村典子(はなむらのりこ)
性別:女性
種別:異能者・38歳
職業:フリーライター
ステータス:レベル2
耐性:破魔無効
スキル:COMP使い
ムド(敵単体・低確率で即死付与)
財力・根回し・脅し
装備:COMP(エネミーソナー、百太郎)
詳細:
表向きはゴシップ専門のフリーライター
己の欲の為に目的と手段は選ばずに行動するのが信条
夫と離婚した際に慰謝料と養育費名目で大金を入手
娘は余計な荷物が無くなって清々したのが感想
組織とは仕事上の協力関係にあった
※“尾朕舗堅崇斗炉負威”=「おちんぽカタストロフィ」
チームメンバーの反対を筋肉で押し切り、やらない夫が命名した。
これにて、第2部終了となります。
次回は、ネタが浮かび次第早めに。
読んで下さった方がいるならありがとうございます。