デビルサマナー 転生召喚符術師の日常   作:塵塚怪翁

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続きです。


第3部
第22話 家伝の調薬と薬事情


 

「やるめさん。

 女神になったといっても教養は必要ですわ。

 ですので、マスターとしての命令ですわ。課題を手伝って下さいな」

 

『それ、教養云々は関係ないじゃない。……何が苦手なの?』

 

「数学を手伝って下さいな。数字は昔から苦手なのですわ」

 

『はいはい』

 

 

 前回の事件からしばらく経って7月も下旬に入り、各学校は夏休みに入った。

 

 中卒で家業の符術師になった真緒や大学を卒業済みのない世と違い、希流子は高校最初の夏休みとあって8月は存分に遊ぶべく7月中に課題を処理しようと躍起になってるようだった。

 そして、真緒はと言うと。

 

 

『ギィ~ギィ~(離せ~)』

 

『結べたよ、マスター』

 

「ありがとう、ルビー。

 ティコは万が一のためにそこで待機していてね?」

 

『ワン』

 

「さて、と。“治験”を始めるよ」

 

 

 地面に深く打ち付けた杭に、縄で頑丈に結んで拘束した先日捕まえてきた幽鬼ガキを前に宣言していた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 さて、何も理由もなしに真緒も、朝っぱらから中庭でこんな事をしているのではない。

 

 父の郁夫はいつものように護符の作成に、ない世は真緒の亡き母が残した裁縫道具と古いアイロンを使った家事の修行をこの家に代々住んでいる座敷わらしの有定から受けている途中であった。

 何気にこの数ヶ月、サマナーとしてはもとより家の家人といても使えるようにと、そのうち良縁の男性を見つけて本格的に家人にしようと考えていた郁夫の指示もあり、有定は張り切って彼が生前の頃の感覚でスパルタに鍛えていた。

 

 家の中から時々聞こえるない世の泣き声はとりあえず横に置き、裏庭で助手として召喚したルビーとティコたちと家伝の書の【家伝注釈本草綱目】を片手に持ち、横に置いた台の上には真緒自身が調薬した各種の薬が置いてあった。

 

 この家の中庭には家庭菜園とは名ばかりの小さな薬草畑があるのだが、ここ数代は薬草師としての能力を持つ者が居なかったので荒れ放題になっていた。

 真緒が小学生の時分から徐々に手入れをして再生させて、つい先日、やっと薬草が採れたので先祖の薬研などの道具を奥の倉庫から引っ張り出してさっそく調薬をしてみたのだ。

 

 その薬草畑を感慨深く真緒が見つめているのを、ルビーは不思議に思って尋ねた。

 

 

『その畑に何か思い入れでもあるの、マスター?』

 

「ここの畑はね、明治の頃にこの家がお寺を畳んで拝み屋になった時に使わなくなったらしいんだ。

 それ以来、放置されていたのをボクが何とかここまで再生させたんだよ」

 

『大変だったの?』

 

『ギイィ?(へー?)』

 

「小学生の頃だったなぁ。

 父さんからここの畑の事を聞いて、ボクが何とかしようと思ったんだ。

 薬が作れたら儲かるんじゃないかって思って。

 でもね、いつの間にかそこには薬草が悪魔化して棲み着いていたんだ」

 

『うわ』

 

『ギャッ(ひえっ)』

 

「それでティコを仲魔に出来た日に、父さんと一緒に【妖樹マンドレイク】になっていた薬草を倒したんだ。ね、ティコ?」

 

『ワン!』

 

 

 そう言って真緒は、近寄ってきて尻尾を振りながらお座りをしているティコの頭を撫でた。

 

 話を聞いていたルビーと拘束されているガキは、マンドレイクを一般的な頭に花の咲いた子どものような容姿の姿を思い浮かべていたが、真緒はティコと同じくらいの大きさのビオ◯ンテを思い浮かべていた。

 

 撫で終えた真緒は、台の上の紫の粉が入った瓶のアイテムを持ち上げた。そして、ルビーに声をかけるとそれをガキに放り投げた。

 

 

「ルビー、ガキから離れて。それ」

 

『ギーーッ!(やめろーーっ)』

 

『あ、肌が紫っぽくなった』

 

「デビルポイズンが効いたみたいだね。毒状態になってる」

 

 

 アナライズでも状態を確認すると、真緒は薬を包んだ薬包紙の一つと水筒を持ってガキに近づきルビーに声を掛けた。

 

 

「ルビー。こいつの顔を押さえて口を開けさせて」

 

『分かった。ほら、暴れるなって』

 

『アゲェーーッ!』

 

 

 ルビーがガキの口をこじ開けて、そこに真緒が薬包紙を開いて粉薬と水筒から水を流し込んだ。

 

 

「薬を入れて水を入れて、と。……ルビー、離していいよ」

 

『うん、分かったよ』

 

『ギゲゲ……ギゲ?(アガガ……あれ?)』

 

「毒は消えた、と。ディスポイズンは成功だね」

 

 

 アナライズでガキの状態を確認すると、真緒は台の上にある次のアイテムを持ち上げた。

 

 

「次は、デビルパライズで麻痺治療をしてみようか?」

 

『ねえ、マスター。何種類くらいあるの?』

 

「状態異常にするアイテムが、毒と麻痺しかなかったからこれで終わりだよ。

 本にある調薬可能な薬なら、他に傷薬と魅了と封技に石化、消沈に爆弾に病気だね」

 

『消沈に爆弾?』

 

「この二つは、滅多に使う相手はいないけどね。

 『消沈』は徐々にMPが減る精神系の異常で、『爆弾』はその状態で殴られると周りを巻き込んで爆発して死ぬ肉体系の異常だよ」

 

 

 なお、真緒が語る【消沈】や【爆弾】の効果は『真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY』ものであり、他の作品での効果とはまた違うものである。

 

 

『へー。……ん? 悪魔に病気?』

 

「それは、主に疫病をばら撒く伝承のある悪魔が起こす病気の治療に使うものだよ。

 普通の病気ならディスポイズンで治療できるけど、特殊な病気だとこれが必要になるから。

 これは、海外から祭神様が持ってきた調合法みたい。

 もっとも日本だと、疫病をばら撒く祟り神を祀って鎮めるのが一般的だったけどね」

 

 

 なお、この『疫病』とは、『真・女神転生4』と『真4 FINAL』にのみ採用されているバッドステータスの【COLD(風邪)】のような悪魔がもたらす病気のことであり、一般的な病気とは違うものである。

 例えるなら、怪談話で悪霊に取り憑かれて起こる病院では原因不明とされるような病気の事である。

 

 

『そうなんだ。

 ……それで終わったら、コレはどうするの?』

 

『ギゲ?』

 

 

 ルビーがペシペシとガキの頭を叩きながら聞いてくるのを、真緒はニッコリと笑って答えた。

 

 

「まあ、こうして付き合って貰ったんだし、お礼にちゃんと送るよ。

 いつもならハマの術で終わりだけど、略式だけど“施餓鬼”でね。

 それじゃ、もう少しだけ付き合ってね。ガキくん」

 

『アギィーーッ!(やめてくれーーっ!)』

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで、薬の方は上手くいきましたの?」

 

「効果の方はね。

 でも、結局は自家消費分を作るので精一杯だけど」

 

 

 昼になって、希流子が真緒の家に遊びに来た。

 

 ガキも含めて午前中の治験の片付けを終えてから真緒は、希流子が家から持ってきたものと真緒の家にお中元で送られてきた大量のそうめんを昼食として居間で食べていた。

 

 どうも真緒の家以上に地元の神社である希流子の家には、食べきれない量のそうめんが来ていたらしい。すでに食べ飽きていた父の郁夫は近くの行きつけの食堂に逃げ、同じく食べ飽きていた仲魔たちもそれぞれ引っ込んでいるので真緒と希流子にない世の3人で食べているところであった。

 

 生姜にミョウガに刻んだ葱とわさびを付け合せで用意して食べていた彼女らであったが、このそうめんを茹でるのを主に担当したない世が食べる合間に聞いてきた。

 

 

「……え? でも、傷薬とか作れるようになったんですよね?」

 

「いろいろと問題があるんだ。

 作れるのもボクだけだし、薬の道具や保存の容器も時代劇のものみたいだし。

 何より長期間保存できる瓶詰めの水薬って、買った方が安全なんだよね」

 

「…ズルズル。そういうものなんですの?」

 

「ボクの薬だと漢方薬の粉薬みたいなもので、戦闘中には危なくて使えないよ。

 市販品の傷薬みたいに、傷に直接かけても効果はないし。

 飲まないと効果は無いみたいだし、うちで栽培している以外の配合物は買ってこないといけないしね」

 

「それじゃ、護符以外に何か稼げるものを作ると言っていたのは諦めるんですか?」

 

 

 ない世にそう聞かれた真緒は箸を置くと、自室の作業机からいくつか試作品らしいものを持ってきてテーブルに置いた。

 

 

「そんな事はないよ。

 例えばこれ、薬草を煎じてお茶みたいにした『薬草茶』。

 すごい苦いけどこれを飲むと、1時間位掛けてMPが回復する効果があるよ」

 

「え? それ、すごいじゃないですか?」

 

「市販のチャクラドロップを飲めばすぐに回復できる量と同じだけどね」

 

「うーん。それだと戦闘に使うのは難しいですわね」

 

「そうだね。

 ボク自身には、護符を作る際に魔力を込めて消費するMPの回復にちょうどいいんだけどね。

 後は、……これかな?」

 

 

 真緒は、ハンター協会で市販されている【マッスルドリンコ】とラベルがされている栄養ドリンクを置いた。

 

 『マッスルドリンコ』。

 

 それは異能者や悪魔の間で、依存性はないのに中毒者が出るほどに愛飲されている有名な栄養ドリンク剤であった。

 効果としては、神経系や肉体の新陳代謝を活性化しHPを急激に小回復させるドリンク剤なのだが、HPが満タンの状態で飲むと高揚(Hi)状態になったり、副作用として稀に毒・麻痺・幸福・満腹などなどの状態異常になる少し危険な飲み物である。

 また類似商品として、副作用ありでMPが小回復する【メンタルドリンコ】も販売されている。

 

 

「マッスルドリンコ、ですか?

 飲むと、副作用でムキムキになるという噂の」

 

「そんな副作用はありませんよ、ない世さん。

 家伝の書にソーマと薬草を混ぜた別の効果もある回復薬のレシピがあって、一番安く手に入る回復薬のこれで試してみたいんだ」

 

「どんな効果ですの?」

 

 

 希流子の問いに、声を潜めて答える真緒。

 

 

「ソーマと混ぜたものも、“男性用の強壮薬”。

 使用した人の最大HPの上限が一時的に増えて、その分回復できるんだ。

 ただ、マッスルドリンコって本人の体力の上限以上になると高揚する副作用があるから、媚薬効果も望めるみたい」

 

「「……わぁ」」

 

 

 赤い顔で、揃って声を上げる希流子とない世。

 その二人の反応を見て、その話題を止めて真緒はそれらをしまい込んだ。

 

 

「まあ、そんな薬の試飲なんて頼める人も居ないから試せないのは仕方がないね。

 それより、目の前のこれを何とかしよう?

 この山のそうめん、休憩してもう少しは入るんじゃないかな?」

 

「「……頑張りましょうか」」

 

 

 こうして、話すのを止めた三人は眼の前の茹でたそうめんを食べ終える作業に戻った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 この真緒が試しに作った薬であるが、この後、父の郁夫を経由して郁夫の友人で八幡神社神主の岩崎亀吉の手に渡る事になる。

 

 今の亀吉の後妻であり希流子の実母でもある【岩崎沙果奈(いわさきさかな)】は32歳のスタイルの良い美人妻で、夜の方もお盛んであった。

 覚醒者ではあったがもう既に67歳となる彼にはまだ現役ではあるが辛いものがあり、常々補助できるものを探していた。

 

 そこへ郁夫から齎されたこの薬は彼を助け、後に希流子とは15歳差の妹が出来ることになる。

 

 その結果と推薦もあり【ハッスルドリンコ】と名付けられたその薬品はジプスに受け入れられ、真緒の作ったレシピは高額で買い取られた。

 

 これらの経緯を知った真緒と希流子は、お互いに複雑な表情で苦い笑みを浮かべたそうな。

 

 どっとはらい。




後書きと設定解説


・アイテム

【ハッスルドリンコ】

30分間、使用者の最大HP+50%されて、その分HPが回復する効果がある
女性でも使用可能だが、主に体力的に男性側の強壮薬とされている
ハンター協会やジプスでの製薬部門でかなりの売り上げを及ぼす商品となった
値段は場所によって、100~200マッカで販売されている
なお、レシピ制作者は非公開とされている


次回は、ネタが浮かび次第早めに。
読んで下さった方がいるならありがとうございます。
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