デビルサマナー 転生召喚符術師の日常   作:塵塚怪翁

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第25話 天使の血杯

 

『これだけか? マガツヒが足らん! もっとニンゲンを連れて来い!』

 

『覚醒した者が少なく、この周辺には我々よりも強い者すら居ます!』

 

『誰でもいい! 手分けして、ニンゲン共を集めて来い!

 妙な結界が張られていてこれ以上異界が広がらないのは、どうなっているんだ?!』

 

『ここに何らかの異教の施設がある様でそれが邪魔をしています!』

 

『破壊しろ! これでは地脈からマグを吸い上げられん!

 そもそも、ここが教会ですらないのはどういう事だ!』

 

『不明です! ここは北米や欧州ですらありません!』

 

『強いが間抜けな異能者のお陰で、私が来れただけか!

 これでは他の大天使はおろか、エンジェルですらもう数が揃わんぞ!』

 

 

 荘厳な中世の教会のような佇まいを見せる異界の中心で、今回ボスとして喚び出された【大天使ハニエル】は動き回る配下の天使を見ながら自分を喚び出した杯をその手に持ち歯噛みしていた。

 

 この船に持ち込まれたアイテムである【天使の血杯】とは、もともとアイテムに組み込まれた契約術式に則って周辺を神のためと嘯く天使達の為の支配領域とする事を目的としてかつてのメシア教過激派の手によって鋳造されたアイテムであった。

 

 今回このような悪魔合体の施設の業魔殿が存在する船上で起動した事により、業魔殿を守る防御用の結界や非常時に起動する装置によってその及ぶ範囲が船室のあるエリアだけに封じ込まれ、常なら可能な周囲半径1kmを『神の国』と彼らが呼ぶ異界の領域に変える事が出来ないでいた。

 

 

『私はやり直さなければならない。

 そうでなくては、私がいる意味が無くなってしまう。

 間違っていなかったと、主に証明しなくてはならないのだ』

 

 

 この部屋の周囲の壁に並ぶ虚ろな顔で賛美歌を小声で歌い続ける捕まえたニンゲン達をグルリと見て、自分が出てくる切っ掛けになったマグネタイトの元になったレオタードのような服を着込んだ女性から視線を逸らし、自分に言い聞かせるように呟くハニエル。

 

 ハニエルとは、権天使と力天使の序列、金星、12月、天蠍宮と双魚宮を支配し、愛と美を司る「神の栄光」「神を見るもの」という意味の名を持つ7大天使の一人である。

 

 しかし、10年前の戦いでザ・ヒーローに叩き潰され、ロウヒーローによってその行いをやんわりとだが否定された。

 

 それらはハニエルにとって、「そんな名前なのに神様のことをちゃんと見ていなかったのか?」と“主の右に立つ彼”に言われたに等しい。

 つまり、『神を見る者=ハニエル』という自分の名を否定された事にも等しく自分の存在意義すら危ぶまれる事態であり、他の過激派思考の高位分霊を派遣した天使達もこの事が原因で現世に干渉する事はおろか、天界において自己の保存に躍起になっていた為に大人しくしているのが実情であった。

 

 

『埒が明かぬ。仕方がない、我が身を削るか』

 

 

 そう言うとハニエルは頼りにならない最下級のエンジェル達でなく、自己のマグネタイトを使ってアークエンジェルやパワー、プリンシバリティを数体喚び出すとそれらを解き放ちニンゲンを集めるように指示を出した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 真緒たちが荷物を手に入れ一応の武器や防具を身に付けて船室を出ると、そこは船内の廊下ではなくどこかの古い教会の廊下のようになっていた。

 

 

「…え、異界にもうなっていますわ? ジプスの組織なのに早すぎません?」

 

「旅行先がここだから安全だと思って、護符の持ち合わせがあまり無いんだよなぁ。

 何とか実力が上の人と合流できればいいのだけど」

 

「真緒さん、窓の外が変ですよ?」

 

 

 窓の外は昼間ではあるが、少し離れた場所に高層ビルほどの十字架に両手を広げた人物が彫られた像が見える一面のどこまでも続く白い地平が広がる風景が見えた。しかも、一旦出ると元の来た扉は消えて真緒たちは前に進むしかなくなっていた。

 彼女たちはしばらくそれを見上げていたが、真緒が皆に声を掛けた。

 

 

「とにかく脱出しよう。

 こんな場所に異界を作る悪魔の事だから、ボクたちの実力だと倒せないよ」

 

「そうですわね。悔しいですが、逃げる事にいたしましょう」

 

「真緒さん、どうしましょう?」

 

「できる限り、敵とは会わないように動こう。

 ない世さんのCOMPにはマッパーとエネミーソナーがあるから、敵の少ない方を教えて。

 希流子のCOMPは奇襲を防ぐアプリがあったよね。周囲に気をつけて」

 

「分かりましたわ」

 

「はい、OKです」

 

「ボクは、と。おいで、ティコ」

 

『クゥン』

 

「ティコ、敵の居ない方に先導してね。お願い」

 

『ワン』

 

「それじゃ、先に進もう」

 

 

 そう決めると、真緒たちは真緒の仲魔のティコを先頭に静かに移動を始めた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから、1時間後。

 

 

「霊活符、急々如律令!

 ティコ、【ファイアブレス】!」

 

『ワン!』

 

「【デスバウンド】ですわ!」

 

「カハク、お願い」「燃えちゃえ、【マハラギ】!」

 

『『ギャアアッ! 大天使様、お許しをぉ!』』

 

「終わりましたわ。思ったより怪我が酷いですし、やるめさんお願いしますわ」

 

『ちょっと待っててね。【メディア】』

 

 

 途中で遭遇した天使達を倒しまたは隠れてやり過ごして、時々、希流子の仲魔の女神ハトホルとなったやるめの回復魔法で怪我を癒やしつつ、真緒たちは敵反応の少ない入り口だと思われる方向へと移動しながら進んでいた。

 そうして、しばらく移動していたその時だった。

 

 

『グルルル、ワンッ!』

 

「…! 真緒、ない世さん、止まってくださいな!」

 

「何!? ……え?」

 

「……………イーンバスタァァッーーー!!!」

 

 

 何かに気づいたティコと希流子に止められ真緒とない世が足を止めると、目の前の壁を貫き廊下を横切るようにしてピンク色のごん太の光線が通り過ぎて行った。巻き込まれたら彼女たちではタダでは済まない威力だったのを示すように、直径2mはある縁が燻っている穴が空いていた。

 

 あまりの事態に真緒たちが呆然としていると、向かって左側の真緒たちが向かっていた方向から声がして大勢の人が走って来る音が聞こえた。

 

 

「よくも、天使如きがせっかくの楽しみを邪魔をして!」

 

「これで兄様に振り向いて貰う予定なのに! たたっ斬る!」

 

「よし! ボスへの直通路が開いたよ! 吶喊!!」

 

「「「おおおおおーーっ!!」」」

 

「……これはいったい?」

 

 

 ない世が呟くその前を左から右に、マギウスのエースである高町なのはを先頭に大勢のトップ層の女性達がエステを邪魔され怒りのアマゾネスと化してドドドと走り抜けていく。

 真緒たちがをそれを見送っていると、最後尾を走っていた遠坂桜が真緒たちに気づいた。

 

 

「…伊月さん? 無事なようで良かったわ。それで、ここで何を?」

 

「あ、遠坂さん。出口を探しているんですけど」

 

「それなら、ここを通った方が近道ですよ。

 何しろ異界の入り口からボスの部屋まで、この道は貫通しているみたいですから。

 この威力で、破魔属性だから人間には非殺傷とかすごいですよね」

 

「まあ、あの有名な高町さんですからね」

 

「…真緒さん、この方は?」

 

「ほら、お昼ごはんの時に話したボクたちの町に用がある遠坂桜さん。

 だから、これが終わったら案内するつもりだったんだけどね」

 

『この異教徒共がぁ!』

 

「「うわぁぁぁぁっ!」」

 

 

 遠坂桜と真緒にない世が問いかけていた時、出口の方向で天使達の声と人々の悲鳴が聞こえてきた。そちらの方を振り向き、真緒たちと遠坂桜は一斉に走り出した。

 

 

「遠坂さん、出口の方を押さえている人達は大丈夫ですか?」

 

「出口を押さえている人たちはそんなに強い人は多くないはずです。

 ほとんどの強い人達はボスの方に殴り込みに行くか、他で天使を倒して回っていますから」

 

「見えてきましたわ!」

 

 

 入り口らしい大きな扉がある広間では、異界内の他の場所から来た天使の群れとイベント参加者や警備員などの雑多な人達が争っていた。

 

 天使側は、天使達を率いる中世の甲冑を身につけたレベル19【天使パワー】とレベル12の【天使の群れ】が二つ。人間側は、真緒たちと同じくらいのレベル10前後の異能者が十数人である。

 それを見て取った真緒は皆に声を掛けた。

 

 

「遠坂さんは入り口の人達をお願いします!

 ボクたちは周りのエンジェルを倒すよ!

 ティコは交代! ルビー、花子さん、来て!」

 

『ワン!』『まっかせて!』『任せて下さい!』

 

「カハクはもうMPがないから、リリムお願い」

 

『うふ~』

 

「それじゃ行きますわよ!」

 

 

 走り込んで来た真緒たちを気づいて、異能者側の一人が叫ぶ。

 

 

「増援か、助かる!」

 

「遠坂さん、入り口の確保はお願いします!」

 

「分かったわ!」

 

「助けが来たぞ! ほら、気張るぞ!」

 

 

 真緒たちの声に天使パワーも気が付き、配下の天使達に指令を出した。

 

 

『エンジェル共、片方は入り口の奴らを潰せ!

 もう片方はオレとそっちだ!

 大天使様の応援に行くんだ、さっさと片付けろ!』

 

『『ははっ!』』

 

 

 遠坂桜が入り口方面に走り寄るのと同時に、真緒たちもこちらに来る天使の群れと天使パワーに向かって走り始めた。




後書きと設定解説


・アイテム

【天使の血杯】
メシア教が封印していた金色の古代の酒杯の形をした聖遺物級アイテム
かつて過激派で教義に狂ったメシアンの異能者が作り出した狂気の産物
置いておくと天使を狂ったように無数に吐き出すように召喚し始める
最後には高位の天使と軍勢を呼び出して周囲の地を神の園に変えていく
解除不能な仕掛けで破壊すると天界への穴が開くので北米の封印施設にあった

※神の国=DSJの旧ロウエンドの一枚絵


次回は、リアル次第ですが早めに。
読んで下さった方がいるならありがとうございます。
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