「人外ハンター協会、ですか?
そんな所、あるなんて聞いた事が無かったんですけど」
「つくづく、下っ端扱いされていたんだねぇ、ない世さん」
「しみじみと言わないで下さい、真緒さん!
一応、年上のお姉さんなんですからね!?」
(前と合わせたら、アラフォーも越えるボクにそんな事を言われても)
昼食を食べた真緒とない世の二人は、午後の日差しの中をまた住宅街を通り抜けて駅前の方まで来ていた。
二人で喋りながら迷いなく進む真緒に連れられて、ない世はとても見覚えのある建物の前に着いた。
その建物の看板には【さくらの町ハローワーク】と書かれていた。
「……あの、ここには何度も来たことがあるんですけど本当にここですか?」
「ちょっとした符丁があるんだよ。
だから、紹介者なしだと裏のお仕事は貰えないんだ」
二人で中に入ると、平日の昼間に若い女性が来たからか周囲の男性ばかりの視線が集まる。
もっともおっさん達の視線の多くは普通のブラウスとスカート姿のない世の胸や尻に集中しており、男だと思われているのか顔を見た後は真緒の方には見向きもされていない。
真緒が男装しているのもあるが、目算でも約5cmはない世の方が大きい。
自らのものを見て所詮は男は胸かと真緒は内心で思いつつ、求人の端末の前に着いて操作をし始めた。
「ない世さん、ここの登録は…しているのか。なら、この仕事を選んで」
「えーと、『八幡神社の人材募集、条件などは委細面談』?
何ですか、この求人は?」
「この表示、未覚醒の人には見えないようになっているんだ。
あと、八幡神社なのはここの協会の一番の出資者がそこだから」
「……なるほど」
「申込みはしたね。それじゃ、こっちに行くよ」
二人は一旦、入り口から出ると今度はその横にある地下への入り口を下って行く。
階段の下の地下1階の扉には、『人外ハンター協会さくらの町支部』というプレートが貼られていた。
「ここに入るには、上で登録の手続きと求人の申込みをしないと入れないんだよ。
セキュリティの問題らしいけど、まあ裏の世界のハロワだし間違ってはいないしね」
「……こんな場所があるなんて知りませんでした」
「ない世さん、入るよ」
真緒が金属製の扉を開けると、中には事務所と喫茶店が一緒になったかのような地下室が広がっていた。
入り口から見て右側には上のハロワと同じような作りの待合所と受付があり、反対側の方には軽食コーナーと薬局のような販売所が置かれている。
所謂、ファンタジー小説の『冒険者ギルド』のようなものだろう。
ぽかんとしているない世を引っ張って、真緒はガヤガヤとそれなりにいる人の間を通って空いている受付の一つに近づいて声を掛けた。
「御国さん、こんにちは」
「あら、伊月さん。お久しぶりですね、どうかされましたか?」
「うん、いろいろとやらないといけない手続きをしに来たよ。
そういえば、また所長居ないみたいだね?」
「日ノ本支部長は“視察”だそうですよ。
またパチンコにでも行っているんじゃないですか」
「縁故採用だからか、相変わらずだね」
真緒が声を掛けた髪をサイドテールにした胸の大きい少女の名は、【御国織莉子(みくにおりこ)】。
真緒が小学校を卒業した頃から、ここで受付嬢と事務員をしている女性である。
そのころからの付き合いもあるので、顔見知りの友人といった程度には個人的によくしている。
ただ、真緒がよく知る元ネタと似た名前と容姿であるから【未来予知】があるのではと踏んでいるが、それらしい兆候はありつつも彼女が座る受付席には【アナライズ】を含む干渉を弾く仕組みがあるので確信には至っていない。
真緒は手を引いてきたない世を彼女の前に立たせると、手元の端末を操作している織莉子に話しかける。
「この人、先日からうちの『(有)伊月印刷』で社員として働くことにした元ダークサマナーの生江ない世さん。
例の“カジュアル”の手口で騙されて働かされてこっち側に来たみたいだから、ここで登録とこっちの常識を教えてあげて欲しいんだ。
これ、朝方書いてもらった履歴書の写し」
「ああ、そういう事ですか。解りました。
それにしても……」
「何です?」
「真緒さん、中学を先月卒業したばかりですよね?
なんか仕事に手慣れた年上の人と話している気分にいつもなるんですが」
「大きなお世話だよ。
ボクは家の事情が事情だからしっかりせざるを得なかっただけだよ。
ボクの事はいいから、彼女の方をお願いします!」
ない世を受付の前の椅子に座らせると、真緒は声を掛けてこの場を離れることにした。
「それじゃ、ない世さん。
ここで登録しておけば、登録証が貰えてもうダークサマナーに間違えられなくなるよ。
あと、こちら側の常識については彼女に聞いておいて下さいね?」
「真緒さんはどこに行くんですか?」
「作った御札を納品するのとCOMPの検査をしてもらって来ますから大丈夫。
それじゃ、また後で」
「あ、真緒さん!」
「んんっ、生江さん。こっちの話を聞いて下さいね?」
「……あ、はい」
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協会の事務室を出ると、真緒はさらに地下へと階段を降りて目的の場所に行く。
一番下まで降りると、木製の高級そうな扉に『BAR妙蓮寺』とプレートの貼られたその場所についた。
ゆっくりと扉を開き真緒が中に入ると、バーのカウンターにいた男性がこちらに振り向いた。
「あら~、真緒ちゃんじゃない☆ よく来たわね。お札かしら?」
「こんにちは、ぺぺさん。ご注文の護符一揃いお持ちしました」
「ありがとね。さっそく拝見させてもらうわ☆」
真緒の出した護符類を検分している派手な容姿のオネエの男性は【ペペロンチーノ】と言う。
数年前にここの協会が出来た頃に来て、以来ここでBARを開いている店主である。
また、伊月家で作っている独特の護符も定期的に買っており、それが真緒の家の収入にもなっている。
真緒個人としては、護符やアイテムの売買相手以上の付き合いは危険だと思っている相手だ。
「火と氷と風と電撃の“属性札”に、“身代わり札”と。はい、確かに。
助かるわ~☆ このお札、地味に役に立つのよねぇ~」
「ありがとうございます」
ペペロンチーノが褒めているこのお札は、伊月家が家伝として伝えている【神符】である。
これらにはそれぞれの役目がある。
火のお札こと【火除神符】。
一度だけ、火炎属性の攻撃のダメージを半分にして火傷を防ぐ。
氷のお札こと【明王神符】。
一度だけ、氷結属性の攻撃のダメージを半分にして凍結を防ぐ。
電撃のお札こと【天命神符】。
一度だけ、電撃属性の攻撃のダメージを半分にして感電を防ぐ。
風のお札こと【天狗神符】。
一度だけ、衝撃属性の攻撃のダメージを半分にして石化中の即死を防ぐ。
身代わり札こと【聖明神符】。
一度だけ、呪殺と破魔属性の攻撃のダメージを半分にして即死を防ぐ。
お値段、火と風が400マッカ、氷と電撃が500マッカ、身代わり札が600マッカである。
「あの、それで質問なんですが?」
「あら、何かしら?」
「【観音神符】や【呪符】は買って頂けませんか?」
「それなんだけどねぇ。
呪符の方は同じ効果のマジックストーンがあるし、値段も一緒なら手に入りやすい石の方が売れるのよ。
あと、その観音札の方だけど、効果が地味過ぎていまいち買い手がいないの。
身代わり札だって、テトラジャの石やホムンクルスがほぼ手に入らないから需要がある訳だし」
【観音神符】は、一度だけ自分への攻撃がクリティカルだった場合、それを通常の成功に変更する効果がある。
ちなみに、お値段は一枚1000マッカ。
また【呪符】とは、家伝の方法で伊月家で作っているマジックストーンと同じ効果を持つ護符の事である。
困り顔の彼に諦めた真緒は精算をお願いした。
「解りました。あと、出来ればマッカでなく日本円を多めでお願いします。
社員が増えたので」
「あら、そうなの?
えーと、今の為替相場が1マッカ=200円だから……はい、これね」
「はい、確かに。あと、奥の“彼女”います?」
「あら、式神使いの貴女が彼女に何の用なの?」
「うちで新しく働く人がこんなCOMPを手に入れたもので」
ない世が使っていたCOMPを真緒は彼に見せた。
それを手に取って調べていた彼は、真緒に問いただした。
「真緒ちゃん、これって最近話題の手口の奴?」
「はい、実は……」
真緒が話すない世の事情を聞いて、彼は納得したようだ。
おもむろに内線の電話を持つと奥の彼女に話しかける。
「どうも関西を中心にCOMPをばら撒いている組織があるみたいなのよねぇ。
10年前の騒動で、メシア教もガイア教も大人しくなったから変なのが湧いたのかしら?
ちょっと待ってね、……もしもし、起きてる? お客様だから通すわよ?」
『…………』
内線を置き、彼は真緒に奥に行っても大丈夫だと告げた。
「寝ているかと思ったけど、起きていたみたいね。奥へどうぞ☆」
「ぺぺさん、ありがとう。それじゃ」
そう言うと真緒はBARの奥のVIP室が並ぶエリアへと進んで行った。
後書きと設定解説
・関係者
名前:御国織莉子(みくにおりこ)
性別:女性
識別:異能者・18歳
職業:人外ハンター協会事務員
詳細:
人外ハンター協会事務員と受付嬢をしている美少女
失脚した地元出身の国会議員の一人娘で優等生だった
借金返済のために中卒後すぐに協会に就職した
名前:ペペロンチーノ
性別:男性
識別:導師・30代
職業:BAR妙蓮寺の店主
詳細:
ペペロンチーノという名を名乗るBARの店主
身長180cm越える長身の派手な服装のオネェ
彼の店はハンター協会の建物内の地下にある
霊能関係の機密を有する依頼はここで扱う
個室は仕事上での密談目的などによく利用される
修験道を使うらしいが彼の詳細は不明
次回は早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。